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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第3章 ワイラ編
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第78話「見切り発車」

 刀が展示されている部屋に到達した修達は、早速刀を回収し始めた。展示ケースの鍵は持ってきていないためガラスを叩き割って取り出していく。


 あまり褒められた行為ではないが、これも緊急避難という事なので罪悪感を押し殺して実行していく。


「手際いいですね?」


 展示ケースのガラスは、展示のための見やすさもさることながら、盗難予防のためかなり丈夫に作られている。修と千祝(ちい)はかなり苦戦しながら割っていくが、武芸の腕では二人に劣る抜刀隊の警官達はより容易(たやす)くガラスを処理していく。


「ああこれはですね、我々警官は強盗の手口を対策のために学んでいますが、これを応用したのです」


 大久保が国宝の童子切安綱を手にしながら、修の疑問に回答した。


 対()(もの)の腕前では修達に劣る隊員達であるが、やはり警官としては優秀なプロであるため、総合的にはまだ未成年で経験の浅い修達に勝っているのかもしれない。


「みんな、回収が終わったようですね。良いですか? ここで手に入った刀のほとんどは、柄が付いていない刀身のみの物です。斬り合いは出来ないので、自分と千祝がワイラを釘付けにしますから、隙をついて襲い掛かってください」


 この国立博物館に展示されている刀は、国宝や重要文化財に指定されている様な天下に名高い名刀である。そのため、刃とその刀身が帯びた聖なる気は外つ者の邪気を断ち切る弱点となり得る。


 しかし、博物館に展示されている刀は刀身の全体を見せるため、柄を外して茎がむき出しになっているのがほとんどだ。柄が無くては持ちにくく、精妙な技は使えないし、逆に手を傷つけてしまうかもしれない。


 なので、ワイラと互角の戦いを演じることが出来る修と千祝が当初の間は戦い、動きを鈍らせたところで名刀群で止めを刺すのが事前に話し合った作戦である。


 刀身のみの刀は持ちにくく、力が入りにくいのだが、これを弱点とする外つ者の体に対しては容易に切り裂き、突き刺るため、可能であるとの判断がされた。


 作戦に必要な刀を手に入れた修達は、ワイラと交戦を開始するべく探索を開始した。展示室を更に進み、アイヌや琉球の美術品等、いくつもの展示室を通り過ぎていった。


「いたぞ、あそこだ!」


 近代の美術をテーマとした展示室に到着した時、ついにワイラを発見した。幸い手下の外つ者はおらず単独で待ち構えていた。先ほど倒したセトタイショウを生み出すのに力を使い果たしていたのかもしれない。


 残念ながら修と千祝が苦労して与えた傷は完全に回復してしまっている。


「では……行きます!」


 作戦通り、修と千祝が先行した。二人で襲いかかれば致命傷には至らないものの、その場に拘束することが可能なのは前回の交戦時に証明済みだ。


 二人の振るう刀と、ワイラが備える多数の足にそれぞれ生えた巨大な鉤爪が交錯し、激しい火花を散らす。交錯する刀と鉤爪はその速度を次第に増していき。ついには抜刀隊の警官達にはとらえきれないほどの速度に到達する。


 この状況は拙いと修と千祝は激しく戦いながら思った。


 ワイラの動きはついさっきの交戦時と比較して、確実に良くなっている。


 封印から解けて時間が経過したために本来の力を取り戻しつつあるのか、はたまた深手から回復したことによる超回復的なものによるのかは分からない。ただ、修達の作戦はワイラの力がここまで強くない事を前提としてたてられている。


 これではワイラの動きを完全に封じられるとは言い難いし、止めを刺す役目をもつ抜刀隊の隊員達がワイラの隙をつける可能性も低くなってしまう。


 その懸念はすぐに現実のものとなった。


「行けるか? よし! 行くぞ!」


「ま……まだだ!」


 ワイラの実力を把握しきれていない抜刀隊の警官達は、見切り発車的に突撃を開始してしまった。確かに外から見ている限り、ワイラは修と千祝との交戦でその場から動けなくなっている。しかし、ワイラにはまだ余裕があり、拘束しているわけではない。


 修は制止のために慌てて叫ぶが、最早止めることは出来ない。


 名刀を手にした警官達はワイラの側面や背後から殺到した。もしも首尾よく刀がワイラに届けば、ワイラの息の根を止めることが出来るだろう。


 しかし、懸念の通りそう都合よくはいかなかった。


 ワイラには修と千祝との交戦のために使用している鉤爪以外にも、多数の腕と鉤爪が生えている。それらの使用していない鉤爪は前面の修と千祝に使用するには不向きなだけで、側面や後方を攻撃するのに適している。


 ワイラの四周から突撃した大久保達抜刀隊は、それぞれワイラの鉤爪に攻撃を阻まれ、逆に反撃を受けて吹き飛ばされてしまった。


 もし、この作戦をワイラが強化される前に行っていれば、ワイラは修と千祝を相手するのに精一杯だったため、こうも上手く抜刀隊に対処することは出来なかったことだろう。


「大丈夫ですか!」


 ワイラとの戦いを続けながら目を逸らさずに、抜刀隊の無事について確認した。何とか無事なようであるが、すぐに戦うのは無理なようだ。


 そして、無事であったとしてもこれでは対処のしようがない。


 ワイラを倒すためには抜刀隊の隊員達の協力が必要なのだが、彼らにはワイラの動きに対応するだけの腕前が無いのだ。修と千祝がワイラの動きが鈍るまで深手を負わせることができればいいのだが、現状それは難しいだろう。


「何かいい手段はないの?」


 千祝の悲痛な叫びを耳にしながら、修も必死に方策を考える。


 何か簡単な手段で、例えば一回攻撃するだけでワイラの動きを止めるようなやり方は無いものだろうか。


 ヤトノカミと戦った時は神に捧げる儀式に近い動きをすることで神剣の力を解放することが出来た。ダイダラボッチの時は大砲で体を吹き飛ばした。


「千祝! 確かヤトノカミと戦った時、爆弾で吹き飛んだ境内の石が体に食い込んで、ヤトノカミの動きが鈍ったって言ってたよな?」


「そうだけど……そうか!」


 修の問いかけで、千祝は何かに気付いたようだ。


 二人は思いついたのだ。外つ者の弱点をついて動きを止めることが出来る、この国立博物館の特性を最大限に発揮した方法を。


「私、取ってくる!」


「ああ、ここは俺に任せておけ! 少しなら耐えられる!」


 千祝は、修とまだ戦える状態でない抜刀隊の隊員達を残し、何かを求めて展示室を走り去った。

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