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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第3章 ワイラ編
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第77話「瀬戸大将(重要文化財)」

 「オペレーション・ヨシテル」の実行のための準備として、修と千祝(ちい)は大久保をはじめとする抜刀隊の隊員達を引き連れ、本館へと向かった。


 修達が今までいた新館は、本館と通路で繋がっているため外に出る必要はない。


 一旦逃亡したワイラは、もうそろそろ傷が完全に癒えていると予想されるため、襲撃に気をつけながらの移動である。もし、途中で敵に遭遇した場合、下級の()(もの)が相手ならそのまま殲滅するし、ワイラが現れたならば修と千祝が相手をして引き付け、抜刀隊の隊員達が名刀を回収することにしている。


 四周に警戒しながら修達は通路を進んだ。


「ここまでは何もなしか……」


 ひとまず一行は、本館のエントランス部分まで到着した。ここまで抵抗なしに無事に来れたのは喜ぶべきことであるが、これは行き先にワイラが待ち構えている可能性が高いという事だ。外に出た形跡はない。


 広い休憩所辺りに潜伏してくれていたら対処が楽なのであるが、展示物で視界や行動が制限される展示室にいる可能性は十分ある。


「嫌な気配がしますね。多分この先に外つ者が待ち構えているわね」


「ああ、ワイラがいるかどうかまでは分からないが、何かいるのは間違いなさそうだ」


 本館の展示室の前に差し掛かった千祝と修は、感じ取った気配から、この先に敵が待ち構えていることを予想した。


 なお、本来はこの程度の事はわざわざ口にしなくても阿吽の呼吸で理解し合えるのであるが、今は抜刀隊の隊員達が同行しているため、注意を促すために言葉にしたのだ。


 突入した最初の部屋は彫刻の展示室であった。仏像や神像が展示されており、もしもこれらの展示物が外つ者と化して襲い掛かってきたらかなりの脅威であったであろう。


 幸い、何も起きなかった。


 次は漆工、その次は金工の展示室であったが、これまた何も起きなかった。まあ漆塗りの箱などは外つ者になりようがないであろうと、修はそんな事を考えた。


 次は陶磁器の部屋であるが、これもどうせ茶碗などは襲って来ようがないから問題なかろうと、修と千祝は高を括っていた。しかし、


「あ、あれは何だ……?」


 陶磁器の展示室に侵入した修達を、異様な存在が待ち構えていた。


 それは、各種の陶磁器を拡大させ、組み合わせることにより人型を形成しており、修達に気が付くとカチャカチャと音を立てながら近づいて来た。友好的な雰囲気は見受けられない。それが十体ほど控えている。


「百鬼夜行の付喪神の中に、古い瀬戸物が妖怪と化した「瀬戸大将」というものがいます。多分あれはワイラの邪気や異界化の影響で展示品の陶磁器が外つ者になったものかと」


「マジですか!」


 冷静に解説する大久保の予測に、修が驚きの声を上げる。確かに科学博物館の戦いでは忠犬ハチ公の剥製が核となって外つ者になっていたため、無機物であっても大久保の解説の様な事も起こるかもしれない。


「なので、奴らを「セトタイショウ」と呼称することにしましょう」


「いや、呼び名は良いんですが、あれ、やばくないですか?」


「? やばいとは?」


「奴らの体を見てください、皆ここの銘品ばかりですよ」


 大久保はあまり茶器に詳しくないので分からなかったが、茶道部であり先日にこの博物館の展示を見学した修と千祝は、彼らの体を構成する陶磁器に気が付いていた。


「頭は「馬蝗絆」、胴は「柴庵」、腰は「油滴天目」、その他もいずれ劣らぬ名品ぞろい、重要文化財やそれに準じる物ばかりですよ」


「それがどうしました? こちらは命がかかっているんですよ? 普通に戦うしかないでしょう」


 少し前までは、重要文化財でもある博物館の建物を傷つけることを恐れていた大久保であったが、これまでの戦いでもう腹をくくっているようだ。頼もしいことである。


「修ちゃん。諦めましょう」


「そうするしかないか……」


「もし、壊れてしまっても(かすがい)とかでくっつければいいのよ。馬蝗絆もそうやって直っているんだし」


「そういう問題かなぁ?」


 馬蝗絆は確かに鎹で修復されているのだが、もちろん積極的に割られたわけではない。とは言え、無理矢理納得して戦うより他に手段はない。


「じゃあやりますよ? 目標正面の敵、「セトタイショウ」、撃て!」


「撃て!」


 大久保の号令の下、抜刀隊の面々が復唱してサブマシンガンの引き金を引いた。


 銃口から飛び出す銃弾は、セトタイショウ達の瀬戸物の体を打ち砕き、次々に打ち倒していく。


 倒れていくセトタイショウの中で一体だけ、そのまま接近してくるものがいる。どうやらこの個体だけ(ナイト)級で、倒れた(ソルジャー)級よりも耐久力が高いらしい。


 馬級のセトタイショウが修に向かって拳(色絵月梅図茶壷:重要文化財)を振るった。


「ちっくしょう!」


 しかし、その拳が修に届くことは無かった。修は嘆きの声を上げながらも武芸者としての本能で、正確な斬撃をセトタイショウの攻撃よりも素早く放ち、一撃で馬級のセトタイショウを葬り去ったからだ。


「戦いとは虚しいものだ……」


 いつになくブルーな気分になる修であった。これまで、外つ者を切り捨てた時も、不良を軽くひねった時も、道場破りを比較的卑怯な手段で葬り去った時もこんな気分にはならなかった。おそらく、戦いと文化的なものを、無意識のうちに分けて捉えていたためであろう。


「修ちゃん。ほら見て、無事みたいよ」


 気を落としている修に、千祝が指をさしながら声をかけてきた。指し示す方向をみると、そこには展示用のケース中に傷一つなく保管されている数々の陶磁器の姿であった。


「どうやら展示品そのものに取りついたんじゃなくて、媒介にして外つ者を生み出していただけみたいだな」


 思い返せば、セトタイショウのそれぞれの体のパーツは、同じ茶器がいくつも使われていたため、冷静に考えればそれは茶器そのものではないと判断することが出来たかもしれない。


「よーし。茶器は無事だったことだし、気を取り直して次にいきましょう。いよいよ次は刀の部屋ですよ」


 セトタイショウの脅威を退けた修達は、いよいよ目的地である刀の展示室に意気揚々と向かうのであった。

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