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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第4章 ニクジン編
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第105話「覚悟」

 千祝が武器を取りに走っている間、その時間を稼ぐための葉山の戦いぶりを修は観察し続けた。


 伊部鉄郎と葉山は師弟であり、その戦闘スタイルは似通っている。後の先を狙うのを主眼としており、そしてだからといって後手に回ることなく刀を振るい続けている。敵が攻撃した瞬間の隙を突くのが流儀といっても、心理的に後手に回る事は動きを鈍らせてしまうし、単に受け身に回る事も相手に主導権を握らせてしまうだけなのだ。


 二人の戦いを観察するうちに、彼らが常に間合いを小刻みに調整しながら戦っている事に修は気が付いた。


 もちろん、修とて武芸者の端くれであり、間合いの取り方は並みの剣術家では太刀打ちできない程上手い。しかし、二人のそれは修のレベルを遥かに超えている。これが、先程の戦いで修と千祝が伊部鉄郎に敗北した原因なのだろう。


 修と千祝は縮地により一気に間合いを詰める奥義を習得しており、これは達人の伊部鉄郎にも真似する事は出来ない。しかし、縮地程一気に長距離を移動出来なくとも、細かく自らの位置を変えることは出来る。


 縮地のタイミングを感じ取り、それに合わせて小移動する事により、修と千祝の攻撃を防いだのだろう。伊部鉄郎ほどの達人にとっては、二人の縮地による突進は、間合いの詰め方が雑だったと言っても過言ではないのだ。


 その様に自らの戦いを省みながら葉山の戦いぶりを見ると、やはり間合いの調整が上手い。この若さにして達人の領域に足を踏み入れるのは、並大抵の事でなかろう。そして、修はある事に思い至った。


 葉山は、刀同士の戦いで、しかもその太刀筋を良く知る師匠相手だからこそ、その力量を万全に発揮しているのだろう。


 修や千祝より強い道場破りの青山を完全に封殺した葉山だが、その実力は刀対刀でしか発揮できないとも言っている。だからこそあらゆる武器を修行する太刀花道場に出稽古に来たのだ。


 逆を言えば刀同士の戦い方は、何所に出しても恥ずかしくない程のレベルに達していると言う事なのだ。しかも師の太刀筋の癖は熟知しているだろう。


 となれば、千祝が武器を取って戻って来た後の戦い方も、何か考慮しなければならない。もしも千祝が刀だけでなく槍や薙刀を持って来たとして、それをもって修と千祝が戦いを挑んだとする。


 伊部鉄郎はあらゆる戦いを経験した真の達人であり、当然刀以外の間合いにも対応できるため、下手に挑めば簡単に返り討ちにされ、武器を奪い取られてしまうかもしれない。その様な事態になったらもう手遅れだ。刀以外の間合いに葉山は対応出来ず、あっという間に敗北するだろう。


 また、修と千祝の連携技は達人の領域に迫るものだが、葉山はこれに合わせて戦う事は出来ないだろう。声も出さず、目配せもせずに緊密な連携を出来るのは、修と千祝だけの事であり、二人の間には他の誰も入り込むことは出来ない。ただ、二人の師匠である太刀花則武だけは、邪魔にならないように共に戦う事が出来たのだ。


 下手に三人がかりで戦おうとしても、かえって葉山のペースを崩してしまい。形成を悪化させてしまうかもしれない。


 ならばどうするか。


 葉山の戦いにより生じるかもしれない、ほんの少しの隙――それは隙とも呼べない程の刹那のものかも知れないが、その機会に一挙に切り込むしかないだろう。


 そして、その時にはこの短時間の観察で得た情報を元に、これまで以上の精度で間合いを調整し、必殺の一撃を叩き込むしかないだろう。


 それが出来なければ、外つ者と化して無尽蔵の体力を得た伊部鉄郎に比べ、いくら鍛えているとはいえ人間の域に留まる葉山は体力を消耗し、最終的には敗北する事になる。


 覚悟を決め伊部鉄郎に向き直った修の後ろから、千祝の足音が響いてきた。


 決着の時が迫っている。

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