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当世退魔抜刀伝  作者: 大澤伝兵衛
第4章 ニクジン編
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第98話「太刀花家の戦い②」

 楽しそうに笑う伊部鉄郎を見て、修と千祝は驚きを隠せなかった。伊部鉄郎はすでに死んでおり、その体を動かしているのは()(もの)のはずである。そして、これまで高位の、何らかの知性を持つ外つ者と遭遇した事はあるが、とても意思疎通が出来る相手ではなかったのだ。


「どうした? 儂が喋っているのがそんなに珍しいか? 確かにモノを言う外つ者など聞いたことはあるまい。儂とて長きにわたる外つ者の戦いで、そんなのは見たことが無いからな」


「ではあなたは外つ者に取り憑かれているのではないのですか?」


「さあなぁ。儂にも良くは分からぬが、外つ者そのものでは無いと言っておこうか」


 伊部鉄郎は何処かはぐらかす様に、視線を逸らしながら言った。


「なんだ? 儂が外つ者で無ければ戦えんか? さっきは外つ者と思い込んでいたから、見るなり話しもせずに襲い掛かってきおったからな」


「いえ? あなたが人間であっても、普通に切りかかりましたよ? 話した所でそう簡単に改心するとか、説得するとか出来ませんし。だったらさっさと切り伏せた方が良いじゃないですか。一応倒した後に息が有ったら、情報収集しようかくらいは思ってましたが」


 千祝の年頃の女子とも思えぬ物騒な発言が飛び出してきたので、慣れているというより同じ思考をする修は平然としているが、そこまで降り切れていない葉山は顔が引きつっている。


「ふふふ。流石は太刀花家と鬼越の倅どもよ。儂とて若い頃はそこまで割り切ってはいなかったぞ。実に頼もしい」


 伊部鉄郎は自分に対して蛮行に及ぼうとした修達に対して、実に楽しそうに評価を述べた。そして、葉山に向き直ると表情を険しくした。


「それに引き換え、我が不肖の弟子は、なんだその有様は? そこの二人と一緒に切りつけ、突き刺し、勝利を奪い取ろうとは思わんのか? ただ見ているだけなどとは嘆かわしい」


「しかし、先生」


「黙れ。儂は今鬼越と太刀花の若き武芸者と話している。お前が口を挟む余地など無い」


 自分から話題を振ったのにも関わらず、理不尽な事を口にした。


 復活したばかりで、精神が安定していないのではないかと修と千祝は思い、そこに付け込む隙があるのではと考えた。


「さて、話を戻そう。お前たちは今は若く、優れた肉体を持っているが、それを永遠のものにしたくはないか?」


「断る」


「もう少し話しぐらい聞いたらどうだ?」


「どうせ、自分の味方になれば、永遠の若さとか命とかそういうのが手に入ると言いたいんだろう? 死んだはずのあなたがこうして動いていて、しかも年老いて亡くなったのにしては肉体が充実し過ぎています。何をやったかは知りませんが、どうせ外つ者と絡む事でしょうし、断る以外の選択肢はありません」


「はあっはぁ。実に察しが良いな。そうだ。その通りだ。では、誘いを断られた儂がどうするのか、それも分かっているのだろう?」


「力尽くで連れてい……くのだろっ」


 修は言葉を全て吐き出す前に、即座に攻撃に移った。


 修の体はその場から姿を消したかのように見え、稲妻の如く伊部鉄郎に迫る。かつての強敵が得意としており、命がけで身につけた奥義である「縮地」である。


 また、縮地によって一気に間合いを詰めると、左手に持ち替えた手槍を勢いよく片手で突き出す。元新選組であり、抜刀隊の初代隊員であった斎藤一の幽霊から習った必殺の一撃である。


 修と千祝は最近、二つの奥義を組み合わせた稽古を入念に実施しており、実戦に十分耐えうる練度を誇っている。上位の外つ者だったとしても、高速移動と全身のばねと体重を込めて繰り出されるこの一撃を食らえば、ただで済むとは思えない。


 加えて、この攻撃を行ったのは修だけではない。千祝も全く同じ、縮地からの左片手一本突きを少しタイミングをずらして敢行している。


 相手に対応の暇を与えないため、複数人で連続で攻撃していく連携技であり、かつて新選組がこの様な集団技で猛威を振るっていた。斎藤一が抜刀隊に参加していた縁もあり、抜刀隊にこれらの技が伝わっていたため、抜刀隊隊員の息子である修とその幼馴染である千祝は習得しているのだ。


 この様な集団技は、連携が悪かったり、一方が攻撃を躊躇ってしまったりすると、一方だけが敵に迎撃されてしまったり、悪くすると同士討ちを発生させてしまう。だが、修と千祝の連携は完璧であり、全く言葉をかけることも目配せすることもなく、あたかもテレパシーで通話しているかのように戦う事が出来る。


 さて、二つの奥義を組み合わせた必殺剣を、二発同時に受けた伊部鉄郎はどうなったか。


 結論から言えば、倒れたのは修と千祝の方だった。縮地の勢いそのままに、伊部鉄郎の遥か後方まで吹っ飛び、そのまま崩れ落ちた。血は流れていない。修達を連れていくと言っていた通り、生かしておくために峯打ちをしたのだろう。


「ふむ。機動力、攻撃力ともに申し分ないが、精度がいまいちと言ったところか。阿呆の外つ者どもならなすすべもなく食らうだろうが、誰を相手にしていると思っているのだ? お前たちの師の太刀花則武に勝る武芸者であるこの儂を切るには稽古が足りなかったな」


 伊部鉄郎が修める心身新陰流は、(まろばし)を特に重視しており極意にしている。つまり、相手の攻撃に反応して最適の行動をとって反撃することが可能なのだ。


 この、後の先を究めた様な武芸者を相手にするためには、激しい攻防に持ち込んで反応でき無くしたり、剣技のレベル自体を上げてカウンター攻撃を上回る一撃を繰り出したり、フェイントをかけたりと色々ある。しかし、修達は伊部鉄郎に比べたら、その武芸はまだまだひよっこと言ってもいいし、縮地からの左片手一本突きは意図が見え見えであり、対処は容易であった。


「お前はやらんのか?」


 伊部鉄郎はちらりと元弟子である葉山の方を見た。返答は無い。


 少しだけ間を置くと、表情を変えることなく修達に向き直り、歩みを進めた。

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