第1章リスタート
エピソード0
西暦2024年
第3次世界大戦
千葉県・成田市
「緊急事態発生!緊急事態発生!敵地上部隊約1000が基地内に進入!食料庫を爆破された!敵の武装は各種自動小銃、ロケットランチャー、グレネードランチャーを確認。警衛隊は大至急ポイント2へ向かえ!それ以外の隊員は各持ち場にて即応態勢を取れ!これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!」
駐屯地に響き渡る大音響のアナウンス。
一気に周りが喧騒に包まれ、皆一様に行動を開始する。遠くに89式5.56mm小銃を抱えた警衛隊員が駆け出して行くのが見えた。
「第1、第2防衛ラインはどうなってんだ!」
「突破されたんだろ!今は敵の迎撃だ!」
敵の急襲のせいか、平常心を保てなくなっている者も出ている様だ。皆一様に叫びながらそれぞれの持ち場に向かってゆく。
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ポイント2
「目標確認!戦闘車両の後ろだ!」
「制圧しろ!」
その掛け声を合図に激しい銃撃戦が始まった。
双方色々なものに身を隠しながら銃弾を交わし合い、
大声を出しながら銃をただひたすらに撃ち続ける。
ダダダダン!ダダン!
タカタカタカタカタカ。
ダダンダン!ダダン!ダダン!
リズミカルな音を響かせつつ、死の狂想曲はかなでられ、1人、また1人と敵も味方も倒れてゆく。
ある者は断末魔の叫びを上げながら。
ある者は銃を撃とうと顔を出したその瞬間に。
またある者は遮蔽物が薄く貫通してしまった銃弾に。
やがて自衛隊側が劣勢になった。敵軍兵士も20人以上は撃たれたはずだが、応援が来たのかさっきよりも数が増えている。
「押しきられるぞ!即応部隊が来るまで何としてでも持ちこたえろ!」
「隊長!弾薬の残りがもぅっああああああ!」
正面から飛んで来たロケットランチャーの破片に腹を貫ぬかれ、右腕を吹き飛ばされた隊員は最後まで言葉を言えなかったらしい。不幸か幸いか頭が吹っ飛ばなかったおかげで、地面に倒れた隊員は荒い息をしていた。
「くっそおおおおおおおおおお!」
それを見てヤケになったのか、他の自衛隊員1人が銃弾撒き散らしながら捨て身の特攻を開始する。その攻撃は開始数秒で止んでしまったが成果はあったらしく、車両の影から撃とうとしていた敵の兵士2人を無力化したようだ。
「くっそう!もうダメだ!退避!退避ー!」
ようやく出した隊長の退避命令に皆一様に頭を下げながら後退する。敵の殲滅は出来なかったが、素手に即応部隊が近くに来ているはずである。ならば彼らと協力して…
隊長の判断は正しかったがだが犠牲も産んでしまった。無残に敗走する兵士を敵の兵士が見逃すはずもなく。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダン!
5.56mm機関銃が敗走する自衛隊員を屍に変えてゆく。周囲では罵声や怒声、それを上回る銃声が鳴り響き、無慈悲に世界を鮮やかな紅に染めあげて行った。
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西暦2025年4月29日。
1人だけの16歳の誕生日。
最悪な誕生日だ。
ケーキも無ければ誕生日プレゼントもない。
おめでとうと声をかけてくれる友達も、そしてなにより家族もいない。
皆死んじまった。
西暦2019年〜2014年の6年間続いた大戦争。
通称、第3次世界大戦。
人類史上、最悪の犠牲を出したと言われるその戦争はアジアを発端に世界中に引火した。大国から小国まで
自身と領土を守るために戦いだし、挙句の果て過去最大の死者・負傷者10億5000万人というとんでもない数字を叩き出す。
使われたのは銃を始めとして、ミサイル、化学兵器、生物兵器そして…核兵器。
争いは人類の本質だろうか。大勢死ぬと分かっていながら、人類はもう一度核の引き金を引いてしまった。
結果として大都市は一瞬で砂となり、大気は汚染され放射能が地上を支配。
そして世界の総人口の7分の1がこの戦争で死に、俺の友達も家族も自衛隊駐屯地が落ちたあの日、出て来た敵の兵士に殺害された。
「そして、運良く発見されなかった俺はただ1人生き残りましたとさ……。」
そこまで俺は過去を振り返り、自重気味に台詞をこぼす。
1人で迎える誕生日というものはこんなにも精神的苦痛を受けるものなのかと感じる。7年前、まだ学校というものがあった頃にクラスの女子が1人で誕生日マジあり得ないとか言っていたが、今なら何となくその気持ちがわかる気がする。あの女子もおそらく今はもうこの世に居ないのだろう。
「けど…今日でこの現実ともオサラバだ。」
俺は再度、だが今度は微かな希望をこめて独り言を放った。
2024年6月16日に人類史上最大の第3次世界大戦は一旦停戦。理由はどの国もリスクに見合わないほどに犠牲者が続出したからである。そして世界の7分の1の人間が死んだのだから事後処理もとんでもなく膨大だ。
日本政府の発表では、今回の戦争で600万人の子供が両親を失い孤児となったらしい。
無論、親戚など親族が1人でも生きている場合は引き取らなければならないという法案が直ちに可決され、本当の孤児は100万人まで減った。
だが、残った100万人の孤児も一部は施設に預けられたがそれは年少者優先で全員とまではいかない。何もかも失い、親も頼れる親戚もいない彼らは自分たちで生計を立てなければならなくなった。皮肉にも大量の死者・行方不明者のおかげで仕事はたくさんあり、85%は就職できたそうだ。だが、哀れにもあぶれてしまった者がいる。残った15%である。
そして、その内13%は自ら命を絶った。生きる理由を失った彼らは社会からも見放され、もはやこれまでと観念したのだろう。路地裏や人気のない場所では彼らの死体が今も積み上がっている。
でも、そんな社会から見放された負け組みの中にも必死に光を求め続けた者達がいた。そう。最後の2%である。
人口にして約2万人。来る日も来る日も街角で給料の安い日雇いの仕事をこなし続け、理不尽な現実に抗い続けていた者たち。
そしてその努力が報われたのか、最後まで生き残り続けた者たちには一筋の光が差した。
多人数参加型フルダイブオンラインRPG。簡単に言えば脳に直接電気信号を送り込み、まるでゲームの世界に入ったかのように感じさせるいうなればVRMMOである。元は某国が軍事目的で開発したものだが、先の大戦でこの技術が露見し、地球連合裁判所は先送りになった大戦の決着を血を流さないためにもこの技術に委ねるべきであると判断。
結果、先の大戦で孤児になり、今なお仕事がない子供を利用することとなった。そして…
「現在に至る。」
俺は自分の頭の中をあっちこっち走りながら状況を整理した。2025年4月30日の正午より世界初フルダイブ型MMORPG「アルテイルオンライン」の正式サービスが開始され、ログインしたが最後、ゲーム内で死のうがPKしようが俺が現実へログアウトすることはできない。
俺たちはただひたすらに所属国の兵士として、領土を広げるだけ。いわば代理戦争人であり、現実世界には生涯帰れない。にもかかわらず募集数2万人は全員集まったらしい。ある者は身の安全を、またある者は復讐を。それぞれの思いを胸に皆名簿にサインをしたのだろう。サイン用紙を持っていた黒スーツの男の「後悔、しませんね?」という言葉が鮮明に蘇る。
俺はそこまで思考を回すと目が重くなるのを感じた。
だいぶ夜ふかしをしてしまったらしく、周囲は真っ暗である。
「寝るか」
明日からは別世界。名残惜しいながらも俺は人生最後の現実での夜に幕を降ろした。
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そして…
2025年4月30日
11時59分57秒
11時59分58秒
11時59分59秒
12時00分00秒。
カプセル型の機械に入れられた俺たちは一斉に意識を消失させ
新たな現実を
リスタートした。
どうもTKCパート2です(^^)
今回より、このアルテイルオンライン書いていきます(^^)1章は序章みたいな感じなので次回の第2章から面白くなります!
P.S
1話目寝ぼけながら描いたので所々訂正しますです(;_;)