夢現の旅人~現代の神話~
注)挿絵機能を使用していますが、不得手かつ雑な為、『普通』未満だと見られたものじゃない。と言う方は挿絵非表示の設定を願います。
焼け野原。
巻き上がる炎と煙、朽ちた兵器とむき出しの土で構成されたそこは、そう呼ぶしかない場所だった。
そんな中に向かって歩いてくる人影があった。
白い髪に真紅の瞳。
巫女装束の上から月の紋が描かれた鎧と小手をつけ、腰に諸刃の十拳の剣を差した女性。
戦場に出るかのような彼女の様相は、焼け野原に似合う反面、あまりにも時代錯誤でもあった。
荒野の…炎と朽ちた兵器の中心。
彼女が迷い無く歩を進める先にも、一人の男性の人影があった。
まるで待ち合わせでもしているかのように呑気に立つその影は、女性の姿を認めると気さくに片手をあげる。
「やぁ、待ってたよ。」
「みたいだな、本当にずいぶんと待たせたらしい。」
背景の惨劇を感じさせない軽い挨拶。
にも拘らず、二人はそこから言葉を交わせなくなった。
何を、どう、何から、何処まで。
全てを言いたくて、何も言いたくなくて。
言うこと聞くことがぐちゃぐちゃになって、二人は話せずにいた。
「真…約束は…覚えてるな?」
「あはは…稔が覚えててくれた方が意外だよ。」
「当たり前だ、お前一人が崇めてただけだとでも思ってたのか?私は…」
言いながら、女性…稔は目を伏せた。
結局、先までの言いたくても言いたくない言葉に続いてしまいそうになったから。
「…そろそろ…良いかな?」
強い光の瞬きと共に、男性…真は何かに耐えるように目を閉じる。
稔は小さく頷くと、腰の剣に手をかけた。
一瞬、その手が止まる。
だが、剣から聞こえる声に応えるように、稔は剣を抜き放った。
銀色の刃を覆うように、青い光が揺らめく剣。
学も感受性も何もなくても、『生きている』と思わせるようなその剣を見て、真は嬉しそうに微笑む。
「…皆、そこまでしてくれたんだ。」
「ああ、文字通りの地上最強の剣だよ。お前の伝承を越えた剣に届くかは知らないがな。」
「これでも誰にも負けないつもりで頑張ってたんだよ?稔にはずっと負けっぱなしだったけど。」
「今度もそうなる。」
断ち切るように稔が告げると、真は足を肩幅に開く。
火薬や油が燃えている荒れ地と思えないほどに、空気が恐ろしく冷たかった。
稔は真っ直ぐに真を見据え…
「お前は私が絶対に…殺してやる。」
覚悟を改めるようにそう告げた。
夢現の旅人~現代の神話~
始まりは何処だったのか。
姫野真と白兎稔が出会った時か、二人が夢現同化の域に達した時か、それぞれに別れた時か、それとも…
戦争が…起きた日か。
一応はあったことすら『皆ろくに覚えていない』その戦争は、大国同士の睨み合いから始まった。
武器を揃え、きっかけさえあればいつ起きてもおかしくなかったそれの発端は、平和を願った一人の修導女だった。
『地上人々すべからく、傷付く事を神は望まない。慈しみを忘れず神の悲しみを誘うこと無いように…』
武器も護衛もなく各地に出向き、慈善活動に精を出してきた彼女に癒された人々は多く、その影響は大きく…
一人しかいないが故に、先に向かう国は一つしか選べなかった。
その『先』に選ばれた…まるで自国の方が危険だと称されたかのようなその国は、彼女を殺した挙げ句…
『神など居ない、故に我等が滅ぶことなどない』と公言した。
戦争の為に準備した全てを台無しにしない為の、民を非戦に導く彼女が邪魔であるとのただの『計算』。
計算通り、相手国は開戦を宣言した。
迫る戦闘機、迎撃に並べられるミサイル、我が国を罵倒したものどもを平和を尊ぶ女性を殺めたものどもを…『殺せ』という、世界中の声。
その日落ちた『赤い雷』が、それら全てを消し飛ばした。
戦闘機は弾の一撃も撃てずに爆散し、備えたミサイルは全てその場で自国を焼き払った。
両国とも、何が起きたのか分からなかった。
分からないまま、次が起きた。
準備してあった、待機中の戦車が戦闘機が基地が次から次へと火炎と煙に変わっていった。
両国とも、際限無く、そればかりか、理解できないままに救援を要請された他国も、次から次へと兵器を失っていった。
開始こそ謳われた戦争は、『戦争による犠牲者』を一人も出すことなく、抱えた兵器の痕跡ごと完全に消えてなくなった。
原因が分からないまま、誰もが調べた、どうにか止めようとした。
誰かが、人の姿をした稲妻を見た。
誰かが、神の怒りだと言った。
誰かが、それを否定して力を揃えた。
誰かは、揃えた力ごと消し飛ばされた。
誰かが、修導女を殺した国へ火器を手に乗り込んだ。
誰かは、手にした火器と共に破壊された。
誰もが、兵器に関わると焼かれていった。
誰もが…神の怒りに触れたのだと怯え泣き叫んだ。
誰もが…神に救いを願った。
森の中で振るっていた木刀を止めた稔は、背後に来ていた気配に振り返る。
そこには、青年と少女の姿があった。
氷野大和と船祈水葉。
かつて稔と真が修行時に何度か交流のあった巫女と巫覡だった。
「何の用だ?」
「神の怒りの赤い雷…その元凶…姫野真の倒滅作戦、それに…呼びに来ました。」
事務的に淡々と語る大和。
と言うよりは、無理矢理に色々を押し殺していた。
少し見れば当然気づけるその態度を察していながら、稔は冷めた目で二人を見ていた。
「断る。」
稔の返答は迷いのない拒絶だった。
予想こそしていたものの、大和は歯噛みして…
「貴女だって…貴女だってこれでいい筈がないと思っているでしょう!!」
踏み出しながら叫んだ。
大和も、真の事を多少なり知っている。その怒り…悲しみや願いに沿う気持ちが何も無い訳ではなかった。
それでも、世界中で人が死に、悲劇に叫び、苦しんでいる今、それを続けさせる訳にはいかない。
だからこその叫び。
だが…熱の入った大和に対して稔が向ける視線は冷めたままだった。
「私は…少し、真に力を貸したいとすら思ったよ。」
「稔さん…」
「分からないか?止めに行ったシスターが神が居ないと殺されて、爆撃殺し合いを止めようと兵器を撃つ前に破壊してたら災害呼ばわりされて恨まれ対策されて、それすら破られたら…『神様助けて』だぞ?」
拳を固めた稔は、音が聞こえそうな程に歯を食いしばり…
「何様だっ!!!」
近場の岩に拳を叩きつけた。
まるでガラスにそうするように拳は押し込まれ、岩はひび割れた。
災厄となっている真を決して責める気になれない理由をそのまま告げられた大和は表情を曇らせる。姫野真が人を傷付けることを目的にする訳がない。
そんなことは一度会った事があるものなら誰もが知っていることだった。
まして、兵器を生産し他者を蹂躙することで得しようと考える者を兵器を潰して止めているだけの真。
遊牧民等の荒事と関わらない人には危害など何もなかった。
「ですが…それでも、止めた方がいいとは思っているでしょう?だからこそ、貴女も少し力を貸したいと思った…逆に言えば、貸さずにいる。」
だが、大和はそれでも話を続けた。
現状が正しいと思うのであれば、真の味方をして闘えばいいだけの話なのだ。
稔とて双璧を成すだけの神域の剣士、それが出来ないはずがない。
「そうだな…さすがに便乗しようとまでは思わない。」
「でしたら」
「だが、真を殺してまで守る価値があるとは思えない。」
言いきった稔に対して、今度こそ大和は何も言えなくなった。
「自分達で殺しあおうとしてた奴等を止めて怨まれている真を、よりにもよって私が…殺さなきゃならない理由は一体なんなんだ?言ってみろ。」
「それは…」
無二の相棒である真を殺して、いい加減で身勝手な愚者を守る理由。
そんなもの、稔にあるはずがなかった。
「弱く…なりましたね。」
それまで黙っていた水葉が唐突に口を開いた。
今しがた、岩に拳が突き刺さると言う現実離れした力を目の当たりにしたばかりなのに、水葉には何の躊躇いもなかった。
稔が人並みはずれた力を手に入れた原点は、『誰よりも強くなる』という願い。
明らかに、逆鱗に触れるとでも言うべき事柄だった。
さっきまで話していた筈の大和の方が水葉を見て凍りつく。
「何だと?」
「弱くなったんじゃないのなら、私が勝手に何もかも強いのだと思い込んでいたみたいです。こういう弱い所もあったんですね。」
「何が言いたい?」
並の人間なら敵に回せばそれだけで息もできなくなる稔。
その威圧感を前に半ば強制のように身体に力が入る水葉。しかし、それでも引かなかった。
「結末…わかっているんでしょう?世界中が怯えて諦めるまで繰り返すか、真さんが死ぬかしかないって。私達だってそうです、真さんを選ぶなら今斬ればいいじゃないですか。」
「お前っ!!」
斬ればいいとまで言われ、稔は木刀を振るった。
触れても居ない水葉の髪が僅かに斬れて散る。
届けば死ぬ。なのに、水葉は歩を進めて稔に近づいた。
「稔さんこそ言ってみてくださいよ。一体何人死ねば、何処まで焼ければ、祈りのような気持ちで戦う真さんに何人殺させたら気がすむんですか?」
真が何とか止めたい、世界中の人々の争い。殺傷兵器の使用。
人がそれらをやめれば済む話、ただそれだけの話なのだ、そんな事真を知っている皆が分かっている。
けれど、武器すら持たない女性を私欲で殺すような人々が、自分達が怯えている時にやめるはずがない。
つまり、真に無制限に殺戮を続けさせることになる。
目を閉じ、木刀を降ろす稔。
それを見て、水葉は踵を返した。
「行きましょう、大和さん。」
「水葉さん…」
「どうせ、迷ったまま行っても仕方ありませんし。」
立ち去ろうとする水葉。
大和はそれに続いて静かにその場を後にする。
姫野真と戦いに。
「ま、待て!!!」
弾かれたように手を伸ばす稔。
腰から振り返った水葉は、柔らかく微笑んで…
「失敗しちゃったら…お願いしますね。」
まるで看取られる死者のように見える寂しげな笑みに動けなくなった稔は、力無く崩れ落ちた。
石造りの冷たい牢屋、明らかに普通ではないその一室に、一人の男がいた。
龍磨常餓。
かつて稔が打ち倒した凶悪犯罪者である。
制圧するように薄い布団が置かれた台の中央で壁を背に座っている常餓。
その前にある外の見えない重い鉄の扉。それが、ゆっくりと開かれた。
扉の半分ほどしかない背丈のスーツを着た少女が静かに入ってくる。
「…あん?どこの小学生だ?」
「琴代…貴様が殺し損ねた忍者だ。」
服装と雰囲気からただの子供でない事を察した上でからかった常餓。
それに気づいた上で、琴代は突っ込みを我慢して名乗る。
「あれから…6年?お前幾つ何だ?」
「…19。」
「…へぇ。」
「っ!ええい同情するな!!いっそ笑え!!!」
全国級の大罪人である常餓に冷めた目で見られた、小学生に間違われた琴代は場所も相手も関係なしに叫ぶ。
一度咳払いした琴代は、引き摺るようにして持ってきていた袋を開けた。
中身は、常餓がかつて稔に折られた大剣だった。
「ヒュー…こいつをどうした?」
「それなりにいい素材らしいな、お前の折れた大剣以外にこの分量は見つからなかった。」
「ってえ事はわざわざ打ち直したのか?ご苦労なこった。」
琴代は両手でそれを持ち、常餓に差し出す。
一撃で車を叩き斬る金属塊。
当然重量もそれなりなのだが、琴代はそれを持ち上げていた。
「へぇ…やるじゃねぇか。」
片手でそれを掴んだ常餓は、一瞬だけ顔をしかめ、大剣を持ち上げる。
「振れるか?」
「おいおい…馬鹿にしてんのかっ!!!」
予告無く、常餓は琴代目掛けて大剣を振り降ろした。
風切り音と共に石畳の床に突き刺さった一撃は、触れてもいない距離の石畳を裂いていた。
その先、特に動揺も見せずに下がってその一撃を回避した琴代は、石畳の傷を見て小さく頷く。
そんな余裕のある琴代を見て、常餓は舌打ちを漏らした。
「…ちっ、見た目以外は別人みてぇだな。こっちは流石に元通りって訳にはいかねぇし。」
「今の私なら暗殺なら貴様も殺せる、合格にしておくから悪乗りはここまでにして話を聞け。」
「わーったよ。」
元々ただ事でないのは察していた為琴代の言葉にうなずいた常餓は、突き刺さった剣を手放すと座り直した。
「神の赤雷…貴様も知っているな?」
「おぉ、何でも食らったら人も機械も内側から焼け死ぬんだろ?」
「その元凶、姫野真の殺害に手を貸せ。」
端的に要件を告げた琴代。だが、常餓の方が理解ができていなかった。
「…あ?そいつ個人が使ってる新兵器なのか?」
「彼個人が使っている真威『六芒魔法』による個人技の一つ、バーンライトニング。それが赤雷の正体だ。」
「…は?」
続いて真威に魔法。
次から次へと飛び出る正体不明の非現実に戸惑う常餓。
瞬間、琴代の姿が消えた。
常餓は、左手を横に突き出す。殆ど条件反射のような動作だった。
「…流石に背後にゃ行かせるかよ。」
「ち…死ぬ気で使っても数秒もたないか。」
常餓の左手に阻まれるようにして、琴代は寄り添うような位置に接近していた。
元の距離に戻りながら、琴代は説明に入る。
「…強い意思は力を持つ。今消えたのは私が創った分身だ。見た目だけで残像みたいにすぐ消えるがな。」
「あ?」
「端的に言うと、願い事は叶うんだよ。使用者の意思力…真威が強く、鮮明ならな。今ほどの幻想じゃなければお前も模造刀でこの大剣を折られただろう?あれもそうだ。」
そこまで聞いて、常餓は大剣を見る。
修復された…模造刀によって折られた大剣。
ただでさえ鉄ではない特殊合金だというのに、当時それを行った稔は、中学生の少女だった。
「…たしかにあり得ねぇがあったな。」
「あぁ。だが、普通は大したことはない。ポルターガイストがいい例だ、死人の怨念でくだらない音と物損が限界だ、三輪車にジェットエンジン積めないように知ってて鍛えてもそんな非現実起こせないんだよ。」
「じゃあ何か?戦闘機対三輪車か?文字通り天と地の差だな。」
茶化して言う常餓。
だが、琴代から否定の言葉はなかった。
ニヤニヤとした笑みを浮かべていた常餓だったが、何一つ言わない琴代を真顔で見る。
「一体何の勝算があって言ってんだ?正義の味方様の意地って奴か?」
「…意地と言われて否定はできない、殆どむざむざ死にに行くようなものだ。」
「処刑が面倒でとうとう自殺しろってか…」
肩を竦める常餓を前に、琴代は静かに首を横に降った。
「銃メーカーの建物が一つ消し炭になった。」
「…あ?」
「奴の破壊する兵器のカテゴリーが増えて、被害も連れだって増加している。下手をすれば文明を棄てるか死ぬかを選べという状況にさえなりかねない。…まぁ、女と力があればいいなら文明捨てて田舎に引き篭もった方が楽かもしれないがな。」
意地で戦うと言う点に頷きつつも、戦おうとしている訳。
それは、放って置いた所で全て滅びかねないから。
戦うか全滅かなら、勝算云々関係なく戦わざるを得ない。
「で、稔嬢ちゃんは?まさかお前みてえに怖じ気付いているわけねぇよな?」
「私だって怖じ気付いているわけじゃない。むしろ、彼女が怖がっている。」
「…あん?」
琴代の発言に、常餓は目を細めた。
白兎稔、常餓から見てすら最強の女。その彼女が怖がっている。
常餓の記憶にある稔の強さは、何も剣だけの話ではない。銃にも大剣にも出血を伴う深い傷にも、恐怖も緊張も見せず強く涼しげに立つ稔の姿がいまだに残っている。
彼女が怖がる姿は常餓には想像できなかった。
「姫野真は…白兎稔と同じ時を過ごし、肩を並べて鍛えてきた男性なんだ。」
重々しく告げる琴代の言葉を聞いて、常餓の目がつり上がる。
「彼女が怖がっているのは…姫野真を殺すことだ。」
「ほぉ…あの嬢ちゃんの男…そうかそうか。」
肩を震わせて笑う常餓。
理由がわからずに困惑する琴代に向かって、常餓は仰向けの左手を見せる。
「良いぜ、三輪車一台貸してやるよ。報酬はなんだ?」
「…何が望みだ?」
命懸け…ほぼ確実に死ぬだろう戦闘に出るに当たって当然の要求に、しかし顔をしかめる琴代。
暴虐の限りを尽くしてきた常餓が、釈放等と言い出すのを危惧したもので…
だが、意外にも常餓は聞き返されて目を見開くと、今度は考えるように腕を組んだ。
「んー…なら、そうだな。女を寄越せ。1日でいい、自分からかしずくような奴を。」
「…は?」
常餓から出たのは、考えて出るにはあまりに安い要求だった。
確かに下劣ではあるが、そもそも世界の命運をかけた死闘の対価なのだ、高いはずがなかった。それに、そもそも釈放を警戒していたのだ。
「死刑囚のままでいいのか?関係組織と人員が国中に散ってるから生かされてるだけだと言うのに。」
「そっちは出たけりゃ自分でやらぁ。」
獰猛な、獣のごとき笑みで告げる常餓から、その偽りないことを感じ取った琴代の頬を冷や汗が伝う。
だが、そんな雰囲気はすぐに霧散して、代わりに困ったように肩を落とした。
「だが、稔嬢ちゃんと殺りあって、力付くじゃどーにも手に入らない物ってのに面白味を感じてな。暴恐で好き放題してきたのに尽くさせるってのをちょっと味わいたくなったのよ。世界平和の一端を担った相手への報奨なら真面目にやるやつもいるんじゃねぇの?」
驚いた琴代。
だが、稔の名前が挙がったことに、情報として聞いている彼女と常餓の話を思い返す。
白兎稔を殺さず欲しくなったが断られた…と。
大罪人の目にさえ輝く稔の姿を思い返した琴代は、小さく微笑んだ。
「『尽くさせる』の上からがとれない辺りは貴様らしいな。良いだろう、成功報酬で私が引き受けよう。」
女性を食い物のように言う常餓を好んでいる人間など相当奇特なものしかいないだろう事を悟っている琴代は、自身でも払える報酬だと仕事と割り切って承諾の意を示す。
が…
「…へぇ。」
無表情近い、怒りすらない呆れ混じりの目になった常餓。
じろじろと目だけ動かして琴代を見ながら、少ししてまるで興味なさげに視線を外す。
「っ!あぁ悪かったな!だが里の他の女性は既婚だから悪いし他人を金で捕まえるわけにもいかないだろうが!!見た目のことなら熊が服着てるような貴様に言われたくない!!」
「あーハイハイ、嬢ちゃんも一人前のクノイチだしなー…」
「棒読みするな!!!」
『仕事』と言うことで無理をしたつもりのところをさんざんにからかわれ叫ぶ琴代。
それを片手間にあしらいつつ、常餓はあの姿を思い出す。
傷を抱え、武器を砕かれ、友が景品になるとまで言い出した中ぶれることすらない姿を見せた白兎稔を。
容姿で欲した訳ではない。あれは、あの姿は生命にない輝きを湛えていた。
もし同じものを持つとしたら人間に収まらない。歴史に残るような英雄か…
(女神様…か。あの嬢ちゃんが殺したくない程惜しい男…神の赤雷、姫野真…)
自分が欲した稔は、想像以上だった。ならば、稔が惜しむ男はどんな代物なのか…
実を言えば報酬はおまけに過ぎず、常餓の興味はそこだった。
兵器工場ならやってくる。
その為に片田舎に作られた工場。
今となっては稼働させておくだけでも危険なそこに、彼らは集まっていた。
氷野大和、船木水葉、桜並焔、琴代、神凪柊香、三笠剣人、龍磨常餓。
神前武闘に出た、話のついた面々が。
「しっかし巫女ちゃん二人は大丈夫なのか?相手はあの真だぜ?」
「問題ない…と言うか、彼が現実にいて戦える人間なんてもの何処から探す気ですか。」
「そりゃそうか。」
お気楽な口調で喋ってみた焔だったが、全く緊張のとれない柊香の返しに肩を竦める。
兵器郡を壊滅させる人間。
そんなものとの殺し合いに自信がある人間などいるはずが無かった。
「くくっ…通夜みてぇだなおい、田舎で震えてれば助かるんだろ?引きこもったらどうだ?」
そんな中、一人楽しげに笑い声を漏らす常餓。
完全に枠違いの彼を一同は睨んだが、白兎稔と戦った男と言う点で既に真っ向からモノ言う気になる程の者はそうおらず…
「やかましい!真が片付いたら次はお前だからな!!」
一人いつも通りのテンションの焔が、常餓を指差して強気に答えた。
焔の怖いもの知らずの様子に楽しさと怒りを半々に覚えた常餓は、睨み返しながら獰猛な笑みを見せる。
「あ?なんなら準備運動でも良いんだぜコゾウ。」
「その手があったか!いいぜ、やるか?」
話しながら構える焔と常餓。
だが、そんな焔の頭を槍の柄で軽く叩いて止める大和。
「落ち着かないのはわかりますが、無駄に消耗」
大和の言葉が消えた。
正確には、眼前の施設が粉微塵になった雷撃の音でかき消された。
たった一撃で、施設全体が燃え崩れ始めた。
「神の赤雷…通電箇所を発火燃焼させる雷…」
「コンセント内の電線、建造物の鉄筋、電子機器類、水道、燃料に火薬…施設や兵器なんか一撃で全損するのも無理ないな、相性最悪だぜ。」
超常的な非現実を前に歯を食いしばる琴代。
落ち着くためか状況を並べる焔だったが、一通りを聞いてかえって他の一同にも緊張が走る。
じゃりっ…と、わざとらしいほどの足音が響いた。
炎の中…瓦礫の中から、まるで何もなかったかのように歩み出る人影があった。
「久し振り、元気?」
人影…姫野真の挨拶は、あまりに軽い一言から始まった。
「お前…っ!どれだけの被害を撒き散らしてそんな呑気なことを!!」
「挑発に乗るな死ぬ気か!!!」
薙刀を手に一人駆け出そうとする柊香の服を琴代が掴んで止めた。
その様子に、真は俯いて苦笑を漏らす。
「まぁ、そうだよね…自業自得だし。」
完全に悪鬼羅刹のように警戒されている事に対して、真は寂しげだった。
そんな彼の様子が、世界を恐怖に陥れた殺戮者のそれと重ならずに戸惑う一同。
「わかってるなら俯いてんな!一番手は俺が貰う!!!」
「「「はぁ!?」」」
そんな中、焔が一人で歩いて前に出た。
拳を鳴らしながら進む焔に多数の叫びが重なる。
明らかな一対一の宣言。
作戦もなにもないそれに、真の方が驚いたように目を丸くした。
「おうボウズ、派手に散ってこい。万一勝てたら琴代ちゃんがやらせてくれるってよ。」
そんな中、楽しげに焔をけしかけて笑う常餓。
いきなり品の無い景品扱いされた琴代が思わず常餓を睨む。
「はあっ!?人を無制限に景品」
「クーリングオフで。」
「っざけるなどいつもこいつも!!」
だが、騒ぐでもなく心底どうでもよさそうに断る焔。
文句すら言い切れないまま弄られた琴代が憤りを抱えてあちこち視線を動かす中、結局焔は止められずに真の前に立つ。
「えっと、ルールはどうする?」
「死んだら負け。」
遠慮気味にルールを要求する真を前に、姫野真の抹消を目的にきた焔は迷うことなく殺し合いを宣言した。
視線を焔から外して困ったような表情を見せる真。
「あー…」
「だから嫌そうにすんなよ!お前のせいだろうが!!」
あくまでもハイテンションのまま告げて構える焔。
そんな彼を前に真も肩幅に足を開く。
「い…くぜっ!!」
様子見しても何もならない。
そう思った焔は駆け出し、踏み込みから左拳を真の右脇腹に叩き込み…
拳は、びくともせずに止まった。
神域の力を扱える身体。力に満ちたそれは既に並の…並以上の衝撃など通ることもなくなっていた。
さすがにここの面々が武器を用いて渾身の一撃を叩き込めば無傷ではすまないだろうが、拳ほどの面を叩きつけても、撫でるのと殆ど変わらなかった。
「えっと…ルール…」
「っ…うるせぇっ!!」
困った様子で微笑む真に対して、焔は回し蹴りを放つ。
顔面めがけて放たれたそれは、たてられた真の左腕によって制止するように止められる。
「…わかった、じゃあちょっと痛いよ。」
はねのけるように腕を動かした真は、焔が構えると同時に掌底を打ち込んだ。
両腕を交差させて受けた焔は…
車に跳ねられたように吹っ飛ぶと、見ていた全員を素通りして地面で何度か跳ねて動かなくなった。
「あー大丈夫…だよね?加減はしたけど…」
申し訳なさそうに呟く真。
生きてはいるだろうが、動く様子のない焔。
一撃、それも肝心の魔法剣すら出さないままかつ加減して、まるでトラックか何かに撥ねられたように吹っ飛んで動かなくなる人並みを外れた格闘の達人。
一同は言葉を失って…
「よぉ、お前が噂の稔嬢ちゃんのお気に入りの姫野真か。」
一人、意にも介さず大剣を手に歩き出すものがいた。
「えっと…犯罪者の?どうして…って、聞くまでもないか。」
「龍磨常餓だ、お前に犯罪者で呼ばれるのは中々イラッと来たぜ。」
「あはは確かに、ごめん。」
常餓を前に笑顔で謝罪する真。
そんな真の『正常だと言う異常』に、常餓は眉をひそめた。
「お前…何のつもりなんだ?訳がわからねえ。」
「何って…」
「俺らを殺すのが望みじゃねぇなら、行きと同じく消えちまえばいいじゃねえか。」
常餓の指摘に、真は表情を隠すように俯いた。
直後、大剣が振りおろされた。
真っ直ぐに無言で。
容赦も情けもない喧嘩上等の奇襲。
真はそれを片手で横に払った。
「ちょっとね。悪いんだけどどうしても頼みたいことがあって。」
「…何事もなかったかのように答えんじゃねぇよ。大体お前の頼みを聞くと思ってんのか?」
ろくに見もしないまま大剣をそらして答えた真を前に渋い顔をする常餓。
「…うん、知ってる。だから…ごめん。」
謝罪と共に踏み込んだ真は、そのまま右拳を常餓の胸元に叩き込んだ。
打撃というよりは接触させてから押し出すようにつき出した真。
押し飛ばされるような形で後方へ飛ばされた常餓は、着地して…前のめりに倒れた。
「ごめん、とりあえず倒すよ。」
申し訳なさそうに、真は駆け出した。
真っ先に剣人が居合い抜きをあわせにかかる。が、真はそれを片手でつかんだ。
「く…」
「はあっ!」
刀を掴んでいる反対、真の左から脇腹を狙い薙刀をつき出す柊香。
真はそれも左手でつかんで止め…
手放して、後方に回転しながら飛んだ。
背後から首を狙いに来ていた琴代が空振りと同時に後頭部を蹴られて倒れる。
「ちなみに…」
軽やかに着地した真は…
一瞬の間もなく柊香の眼前に踏み込んでいた。
「歩法位なら僕も使える。」
「っ!?あ、は、離せ!!」
袴の結び目を片手で捕まれた柊香が漏らす抗議の声。真はそれに頷くと、刀を振りかぶっていた剣人目掛けて彼女を投げた。
無造作…ノーモーションで投げられた味方。
既に振り下ろしかけていた刀を止めるのが精一杯だった剣人は、人間砲丸と化した柊香を直撃して揃って倒れた。
「はあぁっ!!」
直後、大和が槍を用いて全力で横薙ぎの一閃を放つ。
回避できるタイミングではなく、武具もない真は、その一撃もつかんでとめた。
「…さすが大和さん。」
「かすり傷でよく言いますね。」
笑顔で誉める真に顔をしかめる大和。
彼が手にした槍の先端は、真の手袋を貫き掌から血が滲んできていた。
到底致命と言えないかすり傷。
だが、嘘じゃないとばかりに首を横に振った。
「自分の血…いつ以来か忘れました。誇っていいと思いますよ。」
「は…は…それは光栄ですね。」
今となっては兵器郡を相手にしている姫野真。
その口で発する内容としてはあまりにも次元の違う台詞に、槍を手にしている大和の体に震えが走る。
勝てるわけが無い。
初めから分かっていたことだったが、それでも…
「ミズハノメ様!!タケミカヅチ様!!一度だけ…私に神域の力を!!!」
最後の一人、ここまで何も関わってなかった水葉の声と共に、雷雨が真に降り注いだ。
雷雨。
雷と雨ではなく、雷の雨。
開始からずっと、降雨の祈りを捧げ雲を呼び備え、水葉がその全てを注いで準備した一撃。
そばにいた大和は、水葉の声を聞いた瞬間槍を手放し目元を腕で覆い、全力で飛び退いていた。
轟音と雷光の連続で、周囲からは音が失われた。
閉じていてすら視界がおかしい…否、水葉自身の消耗のせいか。
いずれにしてもゆっくり治る視界の中、水葉はそれを見た。
地に膝をついている真。
更に視界が治る。
真は、槍を地面に突き立てていた。
「…アース、だっけ?まぁ気休め程度にはなったのかな。」
「ぁ…」
呟きながら立ち上がった真は無傷だった。
水葉ほどの消耗は無い大和は、既にそれに気づいていた。
到底それだけで凌げる代物ではなかったが、それでも自身の武器が切り札を凌ぐ一端を担ってしまったことに、大和は項垂れた。
「水葉さん…すみません…っ!!」
「あ!待っ…」
止める間もなく地を蹴る大和。そのまま、真に拳を振り抜いて…
掌で捕まれ、大和は横に転がされた。
立ち上がる間もなく無造作に投げられた槍が、大和の左足を貫いた。
「っ…ぅ、あぐ…」
痛みに悶えたくなるものの、大和の足を貫いた槍は深々と地面に突き刺さり抜けなくなっていた。
「さて…後は…」
「終わった気になってんじゃねえ。」
全部終わったとばかりに仕上げに入ろうとした真の耳に、低い声が届く。
常餓が立ち上がっていた。
「…胸の骨、折れた筈だけど?」
「うるせぇ…っ!」
胸部に拳の痕が刻まれ、口の端から血を吐いている常餓。
下手をすれば折れた骨が内臓を傷つけてすらいるかもしれない、そんな状況で真の指摘を無視するように大剣を振りかぶる常餓。
「抜けよ。」
「え?」
「あの嬢ちゃんが惚れ込んだ剣、見せてみやがれ。」
この期に及んで魔法剣を…更なる力を望む常餓。
正気を疑うように常餓を見た真は、倒れた一同と成り行きを見守るようにしている水葉を見回したあと、小さくうなずく。
「どうせ使う必要はあるし…うん、わかった。」
言いながら、真は柔らかい笑みのまま指先で陣を描き…
「ライズ、シデンノタチ。」
紫色の雷を迸らせる太刀を創り出した。
本当になにもない場から太刀を取り出した真を見て、口笛をならす常餓。
「目の当たりにするとやっぱいかれてんのがよくわかるな、ま、そんなもん承知の上だが…なぁっ!!」
言いながら大剣を振り抜く常餓。
両手持ちでの渾身の一撃。
骨の折れた胸に走る痛みを殺す形相で振るわれたそれを、シデンノタチで受けた真は…
押される形で後退した。
「…へぇ。」
「にやついてんじゃねぇぞ!!」
振り切った大剣を切り返す常餓。
まるで身体が持つ限りと言わんばかりに何度も何度も…
真の姿が消えた。
否、常餓だけが見失っただけだった。
「シデンノタチの加護は動作加速…一撃で押し勝ってもね。」
真後ろから聞こえてきた声に振り返る間も無いまま、常餓の意識は途絶えた。
マテリアルダスト。
魔法剣の開放により、剣の属性の力を浴びせる魔法。
それにより、先の雷雨を思わせるような強力無比な雷撃が常餓の身体をうち貫いたのだ。
「さて…と。」
「真さん…貴方は…」
倒れる常餓を見送って、真は一人無傷の水葉を見る。
水葉は泣いていた。
叫ぶことなく、しかしボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「…ごめん、見た通りなんだ。」
ゆっくりと歩み寄る真。
その姿が涙でぼやける中、水葉はそれでも真から視線を外さず…
突き飛ばされた。
真にしては乱暴な扱いに、敵対しているにも拘らず予想していなかった水葉は尻餅をついて、その痛みも気にならない動揺を抱えたまま、真を見上げる。
「侵すよ。」
悲しげな真に短く告げられた宣告に驚いたのも一瞬で、水葉は諦めるように瞳を閉じた。
翌日。
それなりの重傷者もいたものの、気絶させられただけの者もいたため、人を呼んで全員病院に運ばれるのは簡単に済んだ。
「全員重軽傷…神の赤雷に挑んだ結果としては善戦だったんじゃないか?」
見舞いに来て、琴代に渡されたレポートを適当に突き返した稔は、冷めた目で素っ気なくそう告げた。
「お前…っ…」
心無い言葉に叫びかけた琴代は、それもできずに口を閉ざした。
「分かったからゆっくり休め。」
機械的に告げて歩き出した稔は、琴代が何も言えないままに水葉の病室に消える。
「心無いって…馬鹿か私は…当たり前じゃないか…」
一番我慢しているのは誰か、やるだけはやって無事帰しても貰えた自分達と違って、姫野真を殺す気でいた自分達と違って、一番心を表に出さずに止めているのは誰か…
無力のまま勝手に挑んで敗退した事を稔のせいにしたがっている自分に怒り、琴代は握った拳を壁に叩きつけた。
病室に入ってきた稔を見て、ベッドに座って体だけ起こしていた水葉は力の無い笑みを向ける。
「…こんにちは、稔さん。」
「あぁ、元気そうだな。」
「それは…まぁ。私は大して怪我させられてませんから。」
冷めた声で話す稔を前に、笑顔を見せる水葉は、少し言いづらそうに続ける。
「処女は貰われちゃいましたけどね。真さん上手でしたから、大したことは無いです。」
「『剣』で貫かれてか?」
「ぁ…分かっちゃうんですね。」
何の動揺も見せない稔の言葉に驚いた水葉は、諦めたように目を閉じた。
真から口にするに当たって、あまりにも信じられない言葉。
それを聞いて目を閉じた水葉が次に聞いたのは…
「ああぁぁぁぁっ!!!」
絶叫だった。
声の主に目を向けると、大和が動いていた。
地面に刺さった槍をそのままに無理矢理足だけを動かし貫通させて。
まともに立ち上がれる状態じゃない。それでも、大和はよろよろと立ち上がった。
「させ…ません…」
「無茶しますね、止血しないと危ないですよ?ひょっとして水葉さんの…」
「そういう…話じゃありません!何で…よりにもよって何故貴方が他人の『宝物』を!巫女の純潔の意味を知らないわけがないでしょう!!」
必死で叫ぶ大和。
それは、俗な意味の心配ではなく、真の行為としてあってはならないという思いから来るものだった。
だが、それを聞いて真は小さく頷く。
「それが目的です。侵食の侵す、水葉の清きを汚すことそのものが目的なんです。この…呪われた闇の剣で。」
言いつつ陣から剣を抜く真。
その手には濁った黒い細剣が握られていた。
「真さん…貴方は…」
「手紙…なんですよね?私は。」
「水葉さん?っ…まさか貴女!?」
悟ったような水葉の言葉に、思わず彼女を見る大和。
足の傷の酷さのせいでその動きだけで倒れた彼が見たのは、涙を湛えたまま微笑む水葉の姿だった。
「最初から…そのつもりで?」
「それじゃただの変態さんじゃないですか。ただ…真さんが、稔さんを呼びたがってるとは思ってましたから、負けたらきっと殺される…『前の真さんとは違う』って示すつもりだって思ってました。宝物を壊すなんて殺さなくて済む所を考える辺りは、やっぱり真さんなんだなって思いますけど。」
覚悟の上でここに来た。
死んだ後を稔に託したのも全部そのつもりだったから。
今になって思い知る水葉の一連の行為の意味に、大和は自身の浅さを思い、目を閉じた。
(真君は僕達を殺す気がなくて…稔さんはそれじゃ真君と戦う気になれなくて…それらを…水葉さんは知って…手紙になる…と…)
大和にもう割り入る余地はなかった。
余裕がないなりにせめてと視線を外した上で目を閉じ…ダメージのせいかそのまま意識を手放した。
細剣を手に歩み寄る真。
逃げられない事を知ってか水葉は真を見ながら待ち…
「あの…良いですか?」
「何?」
「汚せれば何でもいいなら…普通にはダメですか?」
諦めたような水葉の、それでも祈るような呟き。
「やっぱり…剣は怖いですし…どうせなら…」
たどたどしく言葉を紡ぐ水葉を前に驚きを隠せずに目を見開いて固まる真。
少しして小さく口を噛み締めた真は…
「…ごめん。」
本当に、心の底から申し訳なさそうに目を閉じて、小さな声で絞り出すようにそう言った。
少しの間をおいて、片腕で目元を覆う水葉。
「いえ、馬鹿言いました。稔さんを願ってるからこうなってるのに…」
「本当にごめん…どうせ奪うくせに…でも…僕…」
「気にしないでください…無理言ってごめんなさい。」
自分よりも傷付いていそうな真の声に精一杯明るい口調で返した水葉は、全身から力を抜いた。
一連の出来事と、身体を貫く剣の痛みをかみ締めるように目を閉じている水葉。
稔はそんな彼女の被る布団をはぐると、上着をまくり、そのお腹に手を当てる。
そっと柔らかく、何より…集中して。
水葉のお腹の奥から、杭のように打ち込まれた淀んだ力を感じ取った稔は、そのまま手を握り込む。
目を開いた水葉は、震えるほど力を込めた稔の拳をそっと両手で包みこんだ。
「稔さんのせいじゃないです。」
「そんな…そんなわけがあるかっ!!」
激昂。
加減も何もない叫び。
皆が戦うと決めた時にも覚悟しきれずついていかず、結果手紙代わりにされた挙句に宝物…真威に関わる処女を破られ呪いまで残された水葉。
それを、事前に『分かってた』等と言われて平気な顔が出来るわけがなかった。
震える稔を自身に近づくよう手招きする水葉。
招かれるままに近づいた稔の頭を、水葉は自分の胸元に抱き寄せてゆっくりと撫でた。
「大丈夫です…大丈夫ですから…」
叩かれる位のつもりでいた稔は、抱き寄せて頭を撫でられて限界だった。
「っ…馬鹿野郎…」
「乙女でなくても女の子ですよ?」
「馬鹿女…」
「稔さん、時々ホントに可愛いですね。」
泣きながらしがみつく稔の頭を、水葉はゆっくりと撫でた。
ひとしきり泣いた稔は、立ち直ると水葉に改めて頭を下げた。
「…すまない。」
「今回は仕方ないですよ、真さんの前で泣いている余裕はないでしょうし。」
水葉にフォローされて稔は再び顔を曇らせる。
「堂々巡りになっちゃいますから。私の事は気にせず頑張ってください。」
「できるか…」
「気にされた方が惨めです。」
あくまで優しい水葉の言葉を聞いていられず、稔は病室の扉に手をかける。
「じゃあな。」
「あ…」
短く声をかけて部屋を出ていく稔。
去り際の別れの言葉に、『最期』を感じた水葉は、何かを言おうとして、それも間に合わず、扉が閉まった。
「よぉ、しけた顔してんな。」
「…えぇまぁ。真を殺さなければならなくなったので。」
神社で向かい合う稔とスサノオ。
浮かない表情の稔をいつもの調子でからかうスサノオだったが、稔の重い口調にそれもできなくなる。
「ちなみにお前…勝算あんのか?」
「無くはないです。」
自身に満ちた…とは、到底言えない稔の返答。だが、迷いもなかった。
「なんだそりゃ…お前相変わらず真には腰低いんだな。」
「そういう問題ですか…神の赤雷とか呼ばれるあいつの力が冗談で済む代物じゃないことは私が一番よく知っています。あれに確実に勝てるやつ何ていませんよ。」
稔は『勝てる人間』とは言わなかった。
その意味するところを知ってか知らずか、スサノオも何も言わない。
「あー…その…なんだ、ま、気を付けてな。」
「は?」
少しして、ポツリと漏らすように告げたスサノオの言葉に、稔は思わず真顔で聞き返した。
間違いなく死闘、それも分が悪いのに、『気を付けろ』。
割と本気で意味がわからない稔を見かねてか、クシナダがひょっこりと顔を出した。
「何て言ったらいいかわからないんですよ。稔さんの幸せを願っても。」
「え…あ…」
言われてようやく気付く。
稔と真の二人を尤も見ていたのは、間違いなく師であるスサノオだ。
殺してこいでも負けちまえでも言えるはずもなく、困るのは当然だった。
「稔さん…私は待ってます。」
「…期待には添えませんよ。」
「それでも…待ってますから。」
祈るように繰り返すクシナダを柔らかく抱えあげたスサノオは、顎だけ動かして鳥居を…神社の入り口を示す。
「お友達の到着だ、こっちはいいから。」
「…はい、ありがとうございました。」
一礼して、稔は振り返った。
神々は人と別離した空間、練想空間にいる者。一般の人間には見る事は出来ないが、それなりに真威を磨いてきたものには交流も出来る。特に強い真威の使い手である稔は自然に会話したり普通の視界に戻したりを出来るようになっている。
視界を現実のそれに戻した稔が見た鳥居から、包みを持った穂波と長い袋を持った守雄が並んで歩いてきていた。
「誰かいたのか?」
「神社で人以外何て神様に決まってるだろ。」
「…お前がお祈りが必要なんてな。さすがに姫野真が相手だけの事はあるか。」
言いつつ、先に進み出た穂波は包みを下ろすと…
背中の竹刀を抜いた。
一閃。
常人なら腕も見えないだろうその一撃を、稔は指先でつまんで止めた。
「…ふん、当然と言えば当然か。」
「冗談に付き合う気分じゃない、最期に試合とか言うなら病院送りは覚悟しろよ?」
「馬鹿言うな、出来れば行きたくないさ。病院も…あの世も。」
言いながら何か諦めるように竹刀を背に戻した穂波は、おろした包みを開く。
中からは、真新しい巫女装束と鎧が出てきた。
「お前のためだけに存在する最強の一品らしいな。神の赤雷相手にいるか知らないが、まあ金属の破片くらいなら防げるだろ。」
軽く片付けた穂波は、一歩下がると稔に笑いかけた。
「出来れば死にたくない…が、私にそれを決める権利は無いみたいだな。今のでよくわかったよ。」
「穂波…」
「…お前に任せる。お前がアイツを選ぶなら、大人しく殺されてやる。」
冗談所ではなかった。
かつて自身の人生をかけて稔に剣を届けたときと同じく、命というチップを稔に差し出したのだ。
それも、今度は勝ち目は勿論、『戦わないかもしれない』と言う可能性まで受け入れて。
「…済まない、私は」
「覚悟もない雑魚に面白半分で力を向けられて気分よくないに決まってるさ、謝るな。」
小さな…所詮人の力かもしれない。
けれど、面白半分何かじゃない。それくらいは稔はよく知っていた。
知っていた筈だった。
今更ながらに真しか見えてなく、見ようと思ってさえいなかった自分に気付いた稔だったが、あくまでも穂波は笑顔だった。
「持っていけ、私の命。守る気ならきっと足しにはなるし、真を選ぶならいつでも殺されてやる。」
淀みなく告げる穂波を前に、稔は小さく頭を下げた。
目も向けていなかった人に命の行方を名指しで託されると言う、暖かくも申し訳ない状況に、謝らざるを得なかったのだ。
次いで進み出た守雄は、包みの封を解く。
「こ…れは…」
稔は目を疑った。
守雄が手にしていたそれは剣だった。
だが、それが尋常ならざる代物であることは鞘の内にある今からすでに感じられた。
「月兎の剣。鎧もそうだが、兄貴に手配して貰った最強の金属を錬牙って鍛冶屋に打って貰った、多分地上最強の武具だ。」
「あの人が…いや、だがこれは…」
差し出された剣を受け取った稔は身震いする。
現実では模造刀か木刀位しか扱ってこなかった稔。
だが、練想空間で手にしていた剣を思い出すほどに手に馴染んだ。
その上、ただの剣ではない。
錬牙が打ったと言うのも勿論ある。だが、稔が普通じゃないと分かったのは、そんなことじゃなかった。
青い光。
鞘に納められているにも関わらず生きているかのような真威を纏う剣。
「何か感じたか?ならこんな似非神主の祈祷でも意味あったな。」
力なく告げられた守雄の言葉に、稔は初めてその顔色に気付いた。
血色が悪く目元には隈が刻まれている様相。
剣を見ても、顔を見ても、一朝一夕の代物でないのは明らかだった。
「馬鹿な…っ!私は水葉たちと一緒に戦わなかったんだぞ!?いつから…どうして私の武具が揃って」
「お前以外にいないからに決まってるだろ、あいつの事頼めるの何か。」
狼狽える稔を前に、真っ直ぐに言い切る守雄。
そして…深々と頭を下げた。
「どうしろ…とは言わない。あいつの事…頼む。」
あいつ…真の事を頼むと頭を下げる守雄を前に、稔は改めて剣を見た。
真摯な祈りを込められた剣。その剣が纏う真威。それは、敵意や害意のような淀みを一切感じさせなかった。
真の事を託すためにあらん限りの祈りを込められた剣。
「…分かった。」
何をどうするとは告げずに、稔は鞘に納められた剣を手に頷いた。
そうして今、稔は友に託された地上で用意できる最良の武具を持ち、真の前に立っていた。
姫野真を殺し、止める為に。
「懐かしいよね、本当に。あの頃の殺す何て、嫌ならやめろってだけのただの脅しだったのに。」
「その頃からお前は私の言うこと何て守った試しがなかっただろうが、無茶ばかりして心配かけて…あげくにこれか…」
泣きそうになりながら話す稔。
その稔が見据える真は…
溢れんばかりの紫色の光を湛えていた。
惑意。人々の恐怖、憎悪、姫野真への固定観念。
世界中からのそれらが集中した結果の…
それでも『赤』に成りきらず堪えている結果の姿。
惑意が集中すれば妖魔に成る。
にも拘らず、姫野真を満たす光が紫色なのは…
「身体が『奪え壊せ殺せ』ってうるさくてさ。中毒ってこんな感じなのかな…何て。」
「馬鹿野郎…」
もう壊れないほうがおかしい呪詛に晒されながら、真は尚真だった。
それは、相対して会話した水葉にはよくわかっていただろう事。
だから、悲しそうに笑いながら自らを手紙代わりにしてまで、自身に全て託したのだと感じ…
刹那、稔が踏み込んだ。
瞬間に近い移動。
其所から一気に迷うことなく首めがけた一閃を振るう。
「っ!」
下がって回避した真目掛けて、ほとんど止まることなく追撃に入る稔。
突きが真の脇腹を裂いて…
貫かれながら踏み込んできていた真の掌底を顎に受けた稔は後方に吹っ飛ばされた。
「っ…ぐっ…」
無理が過ぎる反撃だが、頭が揺らされた程度で致命の一撃を放り込めたなら十分だと、ふらつくままで立ち上がり…
「リヴァイブストリーム。」
立ち上がっている間に手にしていた木の剣を開放している真の姿を見た。
完全に貫いたはずの深手が、淡い光に包まれて見る間に癒えて行く様を眺め、稔は肩を竦めた。
「首とかだと即死だろうけど…まぁこう言うわけで。」
「回復術…何でもありだなお前。」
あっさりと怪我を治した真は、次いで魔法陣を描き、剣を手にする。
芯に螺旋状の雷が鈍い光を放っている
「磁界剣。」
「黄金色のドリルか?水葉への仕打ちといい中々エグい趣味してるな。」
「趣味っ!?ちょ、あ、あれはそんなんじゃ…い、いや、確かに怒られるの覚悟ではいたんだけど」
会話の最中いきなり斬りかかった稔によって真の言葉が止まる。
剣と剣がぶつかる甲高い音と共に、両者は硬直した。
「簡単には押しきれないか、さすが稔。」
「ふ…ん…いっぱいいっぱいだ。」
競り合いが成立する二人。
それは稔が、素手でつかんで止められていた大和達を凌駕していることを示していた。
だが、それでも神の赤雷とまで言われるように成ってしまっている真。
世界の恐怖の象徴となって惑意を集めたその身は力では稔の及ぶ所ではなかった。
その上…
魔法剣には、効果があった。
「っ…な…」
弾かれた稔はバランスを崩して膝をついた。
全身が痺れたように上手く動かない。
「負の雷剣、効果は電達阻害。一定空間内のジャミングみたいなものだけど…今の僕じゃ、普通の人心停止して死んじゃうからね。さすが稔。」
「生きてるからさすがだと…舐めるなっ!!」
稔は一声あげると共に剣を一閃した。
軽く下がって回避した真は稔を見て小さく微笑む。
「…本当に凄いや。でも、それでいっぱいでしょ?」
「試してみるか?」
「わかるよ、脱力できるわけないもの。」
言われて稔は息を吐く。
力を入れることができないのではなく、緩急が調整できない。
それは剣を扱うのに致命と言えた。だが…
「舐めるな!!」
稔は全力で剣を振り抜いた。
それができることは真もわかっていた、だが驚いた。
真の剣から効果が広がる一定空間が『裂け』た。
力そのものを斬ったのだと理解した真は、微笑み、剣を構える。
「乱!!」
力より速さに寄った稔にとっての得意技。
常人にはもはや見えない連続攻撃。
「ちょ、嘘っ!?」
それは、真が手にした剣の効果を尽く斬り裂いた。
剣から広がろうとする力を次から次へと裂いていく乱の連撃は、剣の結界とでも言うべき代物だった。
速度では今の真でもついていけない斬撃結界を前に、受け手に回ることでその連撃を凌ぎ…
きれずに、何発かがその体に届いた。
「っ…くっ…」
真は後方に跳躍しながら剣を宙に投げる。
追撃に出ようとして、稔は止まった。
剣の効果を斬りながら進んでいたから成立する攻勢。
剣を…麻痺効果を無視しては進めない。
先に剣を弾き飛ばそうと跳躍した稔は…
「サンダーロード!」
剣の開放による雷撃を、剣で受けた。
バチバチと派手な音をたてるが、剣は曇りも汚れもせずにそこにあった。
着地した稔を見据え、真は既に魔法陣を描いていた。
「ライズ!カームクリス!」
宣言と共に取り出したのは、淡い翠色の短剣だった。
見たことの無い剣に警戒したのも少しの間、稔は一気に駆け寄り剣を…
振るえなかった。
剣は止められていない。だが、振ろうとする腕を包み込むような何かがあった。
「凪の力を持つ負の風の短剣。効果は…一定範囲の空気の壁の生成って所かな。」
軽く口にしながら、真は短剣を突き出してくる。
振るおうとする腕を邪魔されたままの稔は、下がる事でそれを回避して、何かを確かめるように頷いた。
「凪で空気操作か、やっぱり勉強が足り無すぎるんじゃないか?」
「そういう事今言うかなぁ…」
好きな場所を無制限に、なら稔は後退も出来ずにとめられた。
だが、それは無かった。
カームクリスの効果は、一定空間内に空気の動きの皆無に近い密度の濃い場所を作ると言う効果だった。
(自由無き風の剣…か、凪の剣とはよく言ったものだ。)
自然そのままの効果を体現した『正』の剣と反する効果を持つ『負』の剣。
それぞれに創ってあることは稔も知っていたが、負の剣はそう見なかったと振り返り…
「ん?」
「うん?稔、どうかした?」
「お前…『似合ってる』から負の面の剣使ってるのか?」
稔が真顔で問いかけると、真は顔を逸らした。
その動作が正解を引いた事を語っていて、稔は肩を落とす。
「お前と言う奴はこんな事になっても…」
「せ、せめて不謹慎とか怒ってよ!そんな全力で呆れないで!!」
真の抗議を無視するように、稔は剣を十字に振るった。
連続で振るわれた剣から遠当ての刃が放たれる。
空。
腕のような身体の元近い部分を柔らかくとめる程度には使える空気の壁。しかしそれは、銃弾のように空気を切り裂くものだけが単体で飛来するようなものには効果が薄かった。
既に当然の様に弾丸などより速い稔の遠当てを短剣で捌く真。
二つを消したその時、稔の身体が真の目の前にあった。
(無音の踏み込み…速いっ!!)
腕を振るうような動作ならまだ空気での減速を狙う余地もあったのだが、稔は力まず速さのみ重視して最短距離を走るように突きを放っていた。
右手に持った短剣を振り切った所に放たれた突きを、咄嗟に左手で掴む真。
その手に剣の先端が刺さったものの、大和の槍も掴んでとめた真、速さに特化させた突きなら止められない訳は無かった。
だが、剣を掴まれた稔は笑みを見せた。
「旋舞!!!」
全身を回転させながら横凪に剣を振るう稔。
一度手を離れたにも関わらず背中を見せている間などほぼ無いに等しく、真の左から刃が迫ってきていた。
咄嗟に下がって回避した真。だが…
稔は回転の勢いを止めずに増しながら近づいてきた。
それも、剣の軌道を変えて。
(袈裟斬…っ!!!)
ただでさえ咄嗟に下がって止まった所に振るわれた一撃など避ける間は無く、短剣で受ける真。
剣は持ったが、回転からの袈裟斬りを止め切れずに真の肩に刃が届いた。
だが、回転の勢いがあったからこそ届いたものの、まともには真に押し勝てず、力任せに弾いた勢いに乗るようにして再び距離をとる稔。
それを見送って、真は軽く左肩の傷を見た。
「っぅ…強斬撃の連携…」
「常餓の奴が大剣を面白いように振り回していてな、折角だから使えないかと。」
「あはは…あの人を参考に…豪快なわけだ。」
事も無げに全身を連動させた強力な連撃の出所を語る稔を前に、修行で立ち会っていた頃を思い出した真は笑う。
サラッと偉業をなした上で、時にはその結果にも不満そうに剣を見ながら話す稔の姿。それは未だに思い出せる代物で…
消したくは無い代物だった。
笑って、そして…真は目を細めた。
真剣、と言うよりはただ寂しげに。
「…やっぱり、駄目だったね。」
「何?」
「さすがに稔も、ここまで…ううん、一つ位上なのは知ってるんだけどね。でも、僕となら互角、それ以上かもしれない稔でも、今の僕相手じゃ…」
終わりを告げるような真の台詞に、眉を顰める稔。
真は短剣を左手に右手でゆっくりと魔法陣を描き始め…
悪寒が、稔の全身を駆け巡った。
真威、惑意、神域、現世、そんな言葉はいい、アレは止めなければ確実に…
「マテリアルダスト。」
「っ…ぐっ!!」
寒気に導かれるように殆ど反射的に接近しようとしていた所に短剣を開放した風とかまいたちが襲いかかる。
刃一撃ごとの威力は真の魔法剣の中では低いが、それでも刃。
首なんかに食らえば致命の刃が足止めの風とともに全身を包むように襲ってくるのに、咄嗟に防御に回る。
それで終わりだった。
「ライズ…プリズムスターセイバー。」
静かに、呟くように、しかしはっきりと。
名を告げて、真はその剣を抜いた。
白と黒の対の刀身を持ち、六芒魔法に使われる六属性それぞれの色の光を称えた六芒星が鍔に輝く剣。
悪寒の正体がこれだと、目の当たりにしただけで分かった稔。
だが、今だけは完全にソレに心奪われていた。
一瞬、真の身体に重なる力の影が、紫色から真威の青だけに変わったようにすら見えた。
(錯覚…じゃないな、きっと。)
世界中から向けられた惑意によって変質しかけている真。
だが、彼の真威の全てが込められた剣が、きっと目の前の剣なのだと、それを手にした自分を、余計なもので汚す事などありえないと、それだけの想いが込められた、姫野真の真威の塊なのだと、言葉など解さなくても稔は理解していた。
させられていた。
「きっと…神域の剣だと思う。ひょっとすると…神域『外』の。」
別れ際の約束を大事そうに告げる真。
それを見て、ようやく正気を取り戻した稔は、両手に握った剣を正眼に構え…
「だから…思いっきり堪能していって。」
柔らかい笑みで告げた真に、剣一つ手に駆け出した。
「おおおぉぉぉっ!!!」
踏み込みからの轟。
強斬撃に当たるその一撃を、片手で手にした白黒の剣であっさりととめた真は、真っ向から弾くように剣を振り、そのまま横に薙ぐ。
「はっ!!!」
咄嗟に低姿勢になって回避した稔は、無空旋月を放ったが、ただ動かしただけの真の剣の柄に阻まれその一撃も届かない。
「リバースタッブ。」
「っ!!」
着地と同時に放たれる貫通性の鋭い水流を咄嗟に剣で受ける稔。
剣は無事だったが、それごと思いっきり後方へ弾かれた。
だが…
「ブレイズバースト。」
真の剣は消えることなく、その上で炎を続けざまに放つ。
地を這い広域を焼き払う炎の絨毯。
「っざかしい!!!」
稔はそれを、剣を振るう事で縦に裂いた。
だが、真正面から直接焼けないだけで周囲を焼き尽くし広がった炎が稔の身体を左右からあぶるように通りすぎて行く。
「トランスロード、各地に現れるのにこれ使ってたんだ。」
「っ!?」
通り過ぎた中に雷があった。
稔がそれを認識した時には、稔の背後からその雷に乗って移動した真の声が響いていた。
振り返る勢いを利用した一閃。
真もそれにあわせて剣を振るい…
「ぐっ…」
衝突と同時に一瞬の拮抗も無く、稔は背後へ弾き飛ばされた。
炎を裂いたのは剣の間合いまで、その先の炎の中に背中から落ちた稔は、後方に転がるようにしながら炎を脱した。
鎧同様戦闘を考えた素材で作られている服は焼けていないがそれでも炎に身を投じて平気な顔は出来ず…
真が間合いをつめてきていた。
「っそ!」
「わ…っと。」
咄嗟に首目掛けて剣を振るう稔。
あっさりと防いだ真だったが、無視して沈み込んだ稔はそのまま足払いをかけた。
倒れた所に迷い無く剣を振り下ろす稔。
真は立ち上がるでもなくその一撃を防ぐと、寝たままの姿勢で手首の返しだけで押し返した。
体勢をくずしかねない力を返された稔は、それを知っていたように押し上げる勢いに乗じて立ち上がると、開いた間合いから空を放つ。
転がってそれを避けながら真も立ち上がった。
「全能強化…全魔法使用無制限…か?ふざけた剣を…」
「あはは…これでも集大成だからね。ま、そもそも元の僕じゃ使ったらすぐ倒れる代物だから、反則もいい所なんだけど。」
寂しげに笑いながら、真は剣を振り上げる。
風。
優しいはずのそれに、稔は絶望を感じ…その後に理由に思い至る。
唯閃は本物の妖魔を断ち切り、余波も周囲を薙ぎ払う輝く風刃の魔法を。
「イブリスプリット!!!」
振り下ろされた真の剣から、予測を裏切らずに放たれた全てを斬り裂く光の刃を辛うじて回避した稔は…周囲を逆巻き薙ぎ払う風刃に包み込まれ吹き飛ばされ、地面を転がって動かなくなった。
倒れた稔を、真は無表情で眺めていた。
「…っくっ!!」
自然、勝手にそうなっていた事を自覚した真は頬を叩く。
だが、『お前はそういう者だ』と言う声が、心が、惑意が押し寄せ、辛うじて保てているような真の意思を飲み込んで行く。
「僕は…そんなんじゃ…」
自分の意思で殺したくせに抵抗してなんになる水葉を汚し殺される予定だった稔も今打ち倒し後残っているのは殺意と破壊衝動と違うそれは僕じゃない僕に抱かれているお前もその手でいくつ…
勝手に、侵食してくる、意思に、飲み込まれ…
「飲み込まれて…たまるか…」
握り締めた剣を見る。
扱う事そのものにはこの狂った注がれる力を借りているが、この手にした剣を創る時には、真は自分の全てを込めたつもりだった。
逆を言えば、空になった器に余所者が殺到しているような状態で…
「中身の無い…宝箱。」
かつて言われた言葉を思い返し、手元の剣を見る。
誰一人に必要の無い剣を…
ゆらりと、稔が突如立ち上がった。
「え…」
呆然とする真を見据え、無言で剣を構えた稔は…
何も言わずに斬りかかった。
「っ!」
咄嗟に応じる真。
問題ない、力では真の方が圧倒的に上で、速さも互角程度なのだから。
まして、無意識に突き動かされたようで、負けると微塵も感じなかった。
このまま殺されれば?
一瞬よぎった考えに…
手が止まらなかった。
まるで、付け入る隙を見たと言わんばかりに、赤紫色の光に包まれ、真の身体は導かれるように剣を振るう。
傷だらけで、それ以前から力負けしている稔はたやすく吹き飛ばされる。
無表情でそれを見送った真は剣を振りかぶり…
「バーンライトニング。」
機械的に、代名詞となった神の赤雷を放った。
兵器を施設を一撃で葬る凶悪な炎熱雷撃。
後退させられ、よろけた無意識の稔に放たれたそれは…
稔が振るった剣閃によって断ち切られた。
暗闇の中、それを晴らすような何かが自分に満ちてくるのを、稔は感じていた。
祈り。
小さな子供の、骨と皮で出来ているような老婆の、片腕の無い軍服の男の、病院の医師の看護師の患者の学校の先生の生徒の学生の仕事場の主婦警察料理人人人人人人人…
全てを分かるようで、処理しきれないような数々の祈り。
全身に力が満ちてくるその祈りに応えるように、稔は自然に立ち上がっていた。
誘われるままに剣を振るう。
私を助けて僕を助けて俺を家族を母を父を助け助け助け
『持っていけ、私の命。守る気ならきっと足しにはなるし、真を選ぶならいつでも殺されてやる。』
『どうしろ…とは言わない。あいつの事…頼む。』
騒音のような祈りの濁流を裂くように、剣から聞こえた声に踏みとどまった。
姫野真は殺さなければならない、身体に満ちる力には応えていい、でもそれは何故?
『失敗しちゃったら…お願いしますね。』
彼へと託されたさまざまな祈りに応える為、そして…
「それが出来るのがこの世界に私ただ一人だと自惚れてるからだ!!!」
目を見開いた稔は、全身に満ちる力に応えるように剣を振りぬいた。
ただの全力の一閃。それは、二属性の力を持つ炎熱雷撃を両断していた。
まるでそれが当然の様に剣を構える稔を前に、雷撃を放った真の方が呆然と口を開ける。
「…風や炎は覚悟してたけどさ、雷斬る普通?」
「それを言うなら雷を撃つのも普通じゃないだろ。」
当然とばかりに応えた稔を前に、真は笑みを返した。
真相手に戦う備え。
それは、当然ながら『魔法』に備えるのと同様の意味を持ち…
稔は正しくそれを積み重ねてきたのだ。
ずっと。
麻痺結界を空間を斬る様にして逃れた時から分かっていた事だ、稔がずっとこの時を待っていた事は。
真は自身をつぎ込んだ剣を握り締める。見失うものはもう無い。
「…行くよ!!!」
「来い!!!」
互いに笑顔のまま、剣を手に地を蹴った。
全能強化の加護により加速した剣を用いて乱撃を振るう真に対して、稔はその全てを打ち合いで留めていた。
「「轟っ!!!」」
乱の連撃から強斬撃を織り交ぜトドメにする基本連携。
二人揃って鏡合わせのように繰り出したそれは、周囲がひびわれるかのような衝撃を撒き散らしながら拮抗した。
「っ…返せない…」
競り合いには絶対にならないほどあったはずの『力』の差が埋まっていた。
力任せに返そうとすれば真に出来なくもないが、それでも今の稔の一撃の重さは先刻までとは明らかに違っていた。
そして…
「おおおぉぉぉぉっ!!!」
「っ…」
簡単に弾けない上、速さでは五分か稔に部があるような状態になった今、決定的に差があることがあった。
剣そのものの技量。
この数年、魔法剣の『特性』を駆使して旅をしながら各地の惑意を払って、自然災害に対応してきた真に対して、最初からずっと剣だけを振るってきた稔。
積んだものの総量が同じなら、勝負している土俵が自分のものであるほうが有利に決まっていた。
左右からの揺さぶりを縦に構えた剣で止めた真に対して、垂直に突きを放つ稔。
真っ直ぐ鳩尾に向かってくるそれをどうにか逸らした真だったが、その突きは真の右の肋骨に突き刺さった。
「っ…フルールウインド!!」
真が咄嗟に放った風の魔法。
密着状態で面に吹き荒れる風はさすがに回避も何も出来ず、双方思いっきり吹き飛ばされる事になる。
だが、当然放った真の方が体勢を立て直すのは速く…
「イブリスプリット!!!」
先に稔を瀕死に追い込んだ一撃を再び放った。
鎧も服も刻まれた風の刃の傷跡は稔の身体にはっきりと刻まれ、到底次を生きて耐えられる代物では無い事を示していて…
「舐めるな!!!!」
稔は、向かってきた光の剣閃に綺麗に添う形で剣を振りぬいた。
蛟やがしゃどくろといった、災害規模の巨大な惑意を散らしてきた光の一閃。
それを、稔は相殺した。
後を追うように続く風刃、それも今まともに受けて済む代物ではなく…
壁のように迫り来る風の刃を、斬撃の障壁が悉く阻んだ。
細雪。
斬って倒せない非実体の精霊の類すら微塵以上に刻んで散らして消滅させる、斬撃だけで精霊を倒そうとした乱の上位特化。
稔の振るう剣閃が、まるでその身を守る障壁のように展開される中、風が収まると剣を下げた稔の姿があった。
真は呆然とそれを見て…やがて目を輝かせて笑みを見せた。
「あはは…さすが稔…ホントに凌いじゃった…」
「ふん…いつまでも6年前の伝説に負けてられるか。」
相対した化物は全て片付けてきた、今のところ最大最強の一撃。
それを凌ぎきった稔を見て、逆に心を躍らせた真は…
身を軋ませるような感覚に、歯を食いしばった。
「名残惜しいけど…そろそろ最期…かな。僕ももう正気でいられる時間あまりなさそうだし…」
言いつつ、真は剣を振り上げた。
真っ直ぐに掲げるように振り上げたそれに、自身が纏う紫色の光を集めて行く。
「多分、『僕』の最期の一撃。持ってってくれるよね?」
「なら…此方も…だな。」
今ですら妖魔を一撃で終わらせてきたイブリスプリットを超える一撃。
それを前に…稔は、八括魔の構えを取った。
「ストライクフォース!!!」
振り下ろされた真の剣から放たれたのは、八つの光の…力の柱だった。
六芒の各属性火水雷地風木に、光と闇。
それらがうねり、大蛇のように稔に殺到する。
(狙ったか偶々か…全く、八括魔が元々何を斬り裂いたものか忘れたのか?)
大蛇の…『八岐の龍の首』の様に向かってくる強大な力の塊。
「八括魔!!!」
八岐大蛇を屠ったスサノオ直伝の奥義の完成形。
一撃ならイブリスプリットの光の剣閃すら相殺して見せた今の稔の強斬撃の八連撃。
全てが強力にして一瞬で振るわれた斬撃が、火を水を雷を地を風を緑を光を闇を…
全てを斬り裂いた。
斬り裂いた。だが、それは切り抜けたではない。
直後、稔の全身をあらゆる力が包み込んだ。
直線状…左右に裂いて切り開く事は出来る。
だが、全てが真の全霊にしてそれぞれの力の塊のような代物八発。
切り裂いて、自分を避ける様に分かれただけでは、その着弾まで防げるわけではなかった。
文字通りに八方から飛来し、稔への直撃を避けるように切り裂かれた力の塊が、稔の周囲で荒れ狂った。
音が止んだ。
静まり返った空間の中、真は剣を振り下ろした姿勢のまま動かなかった。
稔は、顔の前で両腕を交差させた姿勢で固まっていた。
ガラン、と派手な音がして稔の腕から篭手がはがれて落ちた。
そして…
稔は、ゆっくりと眼を開いた。
(破片程度なら…か、控えめにも程がある評価だ。本当、鎧のお陰でぎりぎり助かったな…コレは。)
傷だらけの服と鎧と身体。
だが、それで立っていられるのは、紛れも無く備えていた服と鎧のお陰だった。
耐熱防刃効果のある服と胸元を守る鎧、眼前で交差させた両手の篭手。
無論イブリスプリットの風刃を食らった時点で切れて隙間だらけではあったが、それでも無ければ炎や雷によって焼け焦げた死体に変わっていただろう。
真は動かない。
否、動けないのだろう。凌ぎきったとはいえ放った力は人のものでも現実のものでも無かった。
強大な力を解き放って動かずにいる真目掛けて、残る力を振り絞るように稔は駆け出した。
これで終わる。
これで最期。
チリ…と、稔の頭に警鐘がなった。
真は動かない。
動けるほうがおかしい、あの剣の力も、イブリスプリットの連発も何もかも消耗しないわけが無い。
それは、いくら世界中の呪詛に晒されて…それらを扱えていたのだとしてもおかしいほどの消耗のはずだ。今反撃の余裕など無い。
(ならこの警鐘は何だ?この際限なく嫌な感じは?)
スローモーションのように真に近づきながら考える稔。
戦闘経験から来る危険?否、間違いなく殺せる、きっと殺せる。
だから?真を殺したく無いからの警鐘?否、殺すのが為になるとまで言うと問題だが、このまま際限なく世界の呪詛に晒して妖魔に成り下がるかその一歩手前を虚ろなままふらふらさせるのは論外。
だから、殺すべき。
警鐘が鳴り響く。
(くそっ…なんだ!?絶対に殺さなきゃならないし、殺すべきだし、今ならそれも絶対に)
警鐘が…鳴り響く。
(絶対に…殺せる?何で?あの剣を持った世界中の惑意で強化された真を、私が?単独で?単独)
警鐘が…鳴り…響く。
(絶対勝てるなら少し止まって考えてもいいじゃないか、止まればいい…止まれば…)
警鐘が…
止んだ。
稔が突き出した剣が音も無く真の胸に突き刺さると共に。
(ほら、殺せた。悲しい…と言えば悲しいけど、こんなの別にさっきまでの警鐘と何も…)
何も…関係が…ない。
真が死ぬ事が問題なんじゃない。
自身を覆う溢れんばかりの青い光とそれに乗せられた祈りと感謝の念、自身に際限ないかのように溢れた力、真を殺すのに止まらなかった身体、祈りと願いに突き動かされ人々の力になる者…
地上の人の身の神様…現人神。
「あ…ぁ?」
自身に宿る際限ない力の奔流理解したくない嫌だ気づくな考えるな見るな見るな見るな…
ぜんまい仕掛けの人形のように稔の首だけがぎりぎりと動いて、突き刺さった剣から真の顔へ動く。
稔を見て、真は微笑んでいた。
「ぉ…お前っ!!!」
既に力の無い真の身体。それも、突き刺さった剣を動かさずに寝かせるのは無理で、でも立たせておいたら出血が…
どうやっても既に助からない真を前に、倒れないようにその身体を抱く稔。
稔に沸いた力は真と同質の別物、つまり、神の赤雷に対抗するものを願い人々の平和を願う物達の捧げた祈りの…真威の力。
何故稔に?戦ったから。傷ついても、強くても。
それを何故『皆』は知っている?見たから。どうやって?元々今回破壊に来た中にある施設の通信設備が不完全だろうと残って使われていたから。誰がやった?元から設置してあったとして生きてる通信機材なんて誰が残した?生存者、姫野真。
真は死ぬ必要があった、当人も無茶を自覚していた。
稔が殺すと言い切って笑っていた。
でもおかしい、戦いごっこをするためなら、イブリスプリットまで撃つのは危険が過ぎる。
しなくていいなら、そもそも稔を待たずに水葉達に殺されてしまっておけば、或いは稔と最期に話すにしても序盤で抵抗しなければよかった。
にも関わらず、小出しにしながら戦って、最期の方にはまるで『いかにも全力を出してます』と言わんばかりに大盤振る舞いをして、力を使い切って呆然と…
相手を殺す為に戦っていたなら、別に大技の乱射以外にやりようなんていくらでもあったろうに。
「お前っ…私を神様に…現人神に仕立て上げる為にこんな事を!?」
神様。
人々の祈りの…真威の塊。
奉られ宿り成るとされるもので、それは時に木だったり、川だったり、時に地蔵や武具だったり…
人だったり。
『…神様に成りたいんだ。』
出会った頃に告げた、稔の目標。
スサノオの存在を知ってから勝ちたい相手が人間じゃなくなった、たったそれだけの事で祈られる存在とかその重さとか人を世界を守るとか愛するとか全く考えて無かった頃の、ただ強さの終着点みたいに見ていた頃の言葉。
だから、意味が全く違う。成れればどうでもいいわけじゃない。
まして、これでは…
絶対死なせたくなかった唯一無二と言っていい親愛を向ける相棒の死を、自分の拙い頃の願い事の為に利用した事にな
(警鐘の意味は…コレだ…こんな…こんなの…嫌だ…やだ…よ…)
力でどうにも出来ない、自分が勝っても何の解決にもならない不安。
真と知り合ってから、大切になってから、稔にずっとあったものだった。
知ってるところでも知らないところでも人の為にへらへら緩い笑顔で矢面に出て、その癖強いって言うよりはよく泣いて、泣く理由が怪我や苦労とかじゃなくて、人や自分の宝物をないがしろにしたり傷つく事があったりするようなそんなときばっかりで…
「シスター…殺されて…神様に祈ってたのに…助けたがってたのに…自分が死んだ事を戦争の理由にされて…」
血を吐きながら、それでも必死に話す真の声が耳に届いて、稔は抱きしめた真を見る。
その場を見てないのに手に取るように分かった。
開戦前にシスターが死んだ時には既に悲しみを抱えていて、それがよりにもよってお前が死んだから神様はいないんだと言われ、戦争を止めに行ったのにお前を殺したから開戦するんだと叫んで…
こんなのあんまりだと、『シスターの宝物の為に』泣きながら机を叩いて駆け出す真の姿が、見てないのに稔には想像できてしまった。
ああそういう奴だから、殺し合いを止める為に戦って、自分が共通の敵役を引き受ける事も兼ねて兵器を片っ端から潰していたら、今度は自分が惑意に晒されて…
「神様…いるのに…皆…守りたがってるのに…練想空間に離されて…その上…自分達で死に掛けてるのに…人間の力で問題は解決できるって…しなきゃならないって…自分達が問題なのに…理屈でどうしようもなくたって…悲しいものだってあるのに…だから祈る…のに…」
「分かってる…分かってるよ!ここまできて私が…私が分からない訳無いだろ!!私はお前の…」
ここへきて稔は言葉に詰まった。
自分と真の関係が何なのか、言葉に出来なかったのだ。
修行仲間と淡白に言い切る事も、恋人と甘く告げる事も適切じゃない、でもただで済ませられない、本当に、何より大切な…
(こんな時に…告げる言葉が無いなんて…何なんだ私は…何を…)
止まらない涙で視界もぐしゃぐしゃになる稔。
それでも必死に真の姿を見ようと目を開く。
「だから…妖魔なるって気づいた時…祈ったら何とかしてくれる神様は…僕を…なんとかするのは…稔しか…」
妖魔に…『人の外にあるモノに頼るほか無いモノ』に対抗する為の祈りを捧げさせ…祈る気持ちを思い出させるために、真は世界の敵役を引き受けた身で、それを打ち倒すモノを稔に任せた。
(私に…そんな役…)
真と対峙する事すら水葉の献身を目の当たりにするまで避けていた稔は、過ぎた役を振られたとばかりに口を閉ざし…
「こ…れ…稔への…祈りの…証…だから…きっと…」
「ぁ…」
真は、震える手で自身に刺さった剣を撫でた。
守雄に託された、何日かけたかも分からないほどの祈りを捧げられた剣。
それを撫でて…
真は目を閉じて、動かなくなった。
罅の入ったカメラと雑音だらけのスピーカーから届けられた、ぶれた映像と音声。
それは、ただでさえ現実味の無い二人の戦いをまるで幻想のように映し出して届けていた。
やがて戦いが終わると、稔は真に刺さった剣を鞘に納め、その身体を抱えて姿を消した。
何度再生したか分からない一連の流れ全てを終えた映像を止めて、守雄は溜息を吐いた。
「稔の神話を遺せ…ねぇ、あのバカ訳分からんことを…」
一人悪態を吐いた守雄は、畳みに寝転がり、外の空を見る。
神の赤雷の名が災害と共に広がり始めた頃、まるで神のお告げの如く守雄は夢を見た。
知った声の馬鹿が、二つの頼みごとをしてくる夢。
神の赤雷を倒すための稔の剣を用意する事と、『全てが終わった後』その神話を用意する事。
ありえない知った声のお告げに驚愕した守雄だったが、なんとなくでも真が絡んでいると思っていた神の赤雷の名をそんな形で聞いて、動かないわけが無く、すぐに剣を用意した。
起業を余裕で成功させた化物兄に最高峰の金属を用意させ、それを錬牙という職人に加工してもらい、必死で祈った。
自由意志も無く任されたとか愚痴っていた神社だが、この時ばかりは守雄も全身全霊を込め…事実それはこれ以上ないほどに大切な役割を果たした。
だからきっと、神話を遺せというお告げも重要な役割を担っている事は想像に難くないのだが…
「で、どーして『稔の』神話なんだよ…馬鹿野郎…」
しっかりと音声が残っているわけでもない映像だが、守雄には何度見ても『化物を倒した英雄』と言う形には見えなかった。
もしコレで、世界を破壊しつくした神の赤雷を打ち破った白兎稔の伝説として話を遺したなら、無関係の奴は稔を称え、真はその結果に安堵し…稔は絶対に傷つくだろう。
それを分かってるのか分かってないのか、そういう事を自虐でもなんでもなく自然と選ぶ馬鹿な友人の姿を思い出した守雄は、仕方の無い奴と言わんばかりに肩を竦めた。
「神話…ねぇ…」
一人繰り返した守雄は、口の端を吊り上げた。
神話。
古来より語られ、『所々形を変えて』伝わるモノ。
「戦争も終わり、災害の元凶も止まった、そのお祝い。どーせ暗い話よりは明るい話題のほうがいいってな。」
心底楽しそうな笑顔を浮かべた守雄は、浮かんだ考えを実行する為に家を出た。
真を殺したままで一人呑気に生きながらえる気など稔には無く、真の身体をしっかりと抱きとめたまま、稔は静かに水の中に沈んでいった。
元より、そのつもりだった。
今回に限って言えば、勝って生き残るとかそんな事は全く稔の中には無かった。
(自殺と言うよりは即身仏のような気分なんだが…誰に言い訳してるのか。)
一瞬、『誰か』の理解を得ようとか思い、即座に首を振る稔。
そんなもの必要なかった。別に誰が責めようが誰が望もうが、やめる理由は…
(真に言われたら…かな。)
そうしたら、やめる理由にはなりそうだと、稔は思った。逆に言えば、それがありえないからこそこうなっているのだと。
抱いたままの亡骸に力を込めて、稔は目を閉じる。
そして…
パタン。
と、音がするように本を閉じる。
練想空間でも、現実にあるものはほぼ大概在る。
手に入る、と言う過程がないから自身のものとなるかは怪しい反面、神々はあらゆるものを見通すとも思われているため、現代事象だろうが知る事が出来た。
故に、本が読めても普通の事なのだが…
「どうした?何か不満か?」
「そうだよ、結構出来すぎだと思うけど。」
二つの声の主…スサノオと真を、稔は睨んだ。
そして、見せびらかすように本を持つ。
「神話、伝承、それらに向けられた真威の塊、神威で在り、力を振るえる神々。そうなる為にわざわざこんなものを須佐経由で仕込んだのはいい。私の神話をと言ったのに、アイツが真の事まで自分の知る限りを好意的に綴った上、最期の戦いに残った声と姿を見聞きした者達が、お前の事を呪わなくなったのもいい。」
「あはは、本当にね。ちょっと畑違いだけど僕もこうして『破壊神』扱いで遺して貰ってるからね。」
「お前もきっちり感謝しとけよ?英雄ったって昔の回りの奴が奉ろうとか思わなかったらこんな風には行かなかったんだからな?」
直接祭り上げられ心底祈りを受け取った稔は戦女神として残り、それどころか、『畏怖』と世界への慈愛を感じ取った者達から崇められた真も、神と妖怪の中間のような形で残っている。
人に影響を及ぼす形でなければ割と自由に過ごしている神々、人の域を外れた二人の最後の形としては出来すぎと言わざるを得ないほど贅沢な結果で…
「が…何で官能小説なんだっ!!!」
稔はつまんでいた本を石畳の床に叩き付けた。
石が砕けてめり込んで本が青い光に変わって散る。
オーバーにならない程度に可愛くされた自分の絵が表紙になっているその本を踏み散らすと、稔は未だに本を開いている男二人を鋭く睨む。
死闘から一年、真が破壊と殺戮の限りを尽くしたとは言うものの、武器兵器の類そのものや、それを扱うのに好意的な者達が壊滅しただけで、完全な一般の人々はもう落ち着きを取り戻しつつあった。
それに沿うように販売されたその本は、守雄が真と稔の知り合いからかき集めた情報を作家に編集、小説を出版して貰ったのだ。
「もう『神様』なんだから、聞かなくてもわかんだろ?」
「っ…えぇ分かってます!」
奉られて神様に成っている身の特徴として、向けられる真威に込められた想いを感じ取る力がある。
人の願いを聞き届けて加護を授ける身として当然で、守雄が官能小説として頼んだ訳も、それを作家が受けた理由も自身に向けられたものである為感じ取れている。
『唯一無二という程仲良かったのに機会無いままこんな事になった二人に愛し合う機会を』と言う想いを。
「史実じゃなくて神話を遺してって頼んだから、織姫と彦星じゃないけど、後から会えるようにって考えてこの形にしてくれたんだよね。本当守雄には感謝してもし切れないや。」
この小説で、死闘の後に高天原で再会を果たした事にされているお陰で、真がここで話す事が出来ると言っても過言ではなかった。
もし、敵対したままと言う形で遺され誰もに広げられたのなら、その認識に影響されて、神様に成った身の今でもまだ話す事も出来ない可能性もあったのだ。
「感謝してんのはコッチもだろ?うはぁ…部分部分で面白いネタになる俺らの話と違って細か」
「わーっわああぁぁっ!!!」
真っ赤になって半狂乱気味に剣を抜いて真とスサノオが見ている本を斬り裂く稔。
人々の真威の塊である神の身となった今、自身を題材にされた書の内容…認識された内容は広まり方によって程度の差こそあれ体験した『記憶』のように入る。
まして、神社等に伝説のように伝わって、『~と結ばれ子供が』等のただの記載で終わっているスサノオ達の話と違い、作家に渾身の一品を仕上げて貰ったせいか、色々と丁寧だった。
両親とは仲違いにあった頃から剣ではずっと師のような位置に立っていた父のような男に、勝手にとは言え自身に刻まれた体験談をまじまじと眺められて稔が慌てないはずがなかった。
「お、お前もっ!何でっ!落ち着きはらってる!!」
「ちょっとは恥ずかしいけど…それを言うなら、コレ出版されてるんだよ?」
「ぅ…あああぁぁぁぁぁっ!!?」
一人余裕を以って告げる真の言葉に、稔は頭を抱えてのた打ち回った。
と、そんな稔の背をポンと軽く叩く小さな影。
「はやや…女の子なんですからそんなに追い詰めたら駄目ですよ二人とも。」
見ていられずやってきたクシナダだった。
男二人を前にどうにも出来ずにいた稔の味方をするようにその背をそっと撫でる。
少しして、落ち着いたように動かなくなった稔は…
「…じゃあ、クシナダ姫は読んでないんですか?」
振り返って尋ねた稔の言葉を聞いて、クシナダは頬を染めて顔を逸らした。
その手には、きっちりと、本があった。
味方はいない。
胸元を隠すように腕を組んで俯いた稔はそう悟ったように動かなくなった。
と、そんな稔に向かって歩みよった真は、しゃがんでいた稔をまるで抱きしめるように…立ち上がらせて、そのまま抱きしめた。
「そんなに拗ねなくてもいいじゃない、あの時言えなかった呼び名も出来た事だし。」
「呼び名?…っ…」
あの時が、生身での最期の時の事だとはすぐに分かった稔。ほどなくして、真の言いたい呼び名に気付いて顔を逸らす。
『夫婦神の祈り』という本の題名。
それは、どれほど二人の軌跡を見聞きして、想ってくれた人がつけたものなのか、今の二人は聞くまでも無く感じる存在になっている。
幼少鍛えた力を近しい人の為に使い、人を案じて動いた破壊神と結果荒れかけた相方を案じて止めて去った、非戦を祈る夫婦神を描いた神話。
題名、込められた想い自体は、散々文句をつけた稔としてもありがたい。ありがたいのだが…
「夫婦…神…で…いいのか?」
恐る恐る…と言った様子で、稔は呟いた。
到底真の顔を見て言えず、顔は逸らしたままで。
「稔こそ、僕みたいな破壊神でよければ。」
明るく言おうとして言えていない真の言葉。
その理由がわからないはずもない稔は、真を真っ直ぐに見て頷く。
稔が顔を上げた所に、真は口付けた。
「ん…っ!?」
急すぎて頭がついていかない稔だったが、落ち着くとそのまま静かに目を閉じ動かなくなった。
「あーあ、あんな修行馬鹿のお子様の終着点がこんないちゃいちゃでいいのかね。」
「昔の神様にお姉さんとの喧嘩のあと女の子欲しさに龍と戦ったと言う方もいらっしゃいますし、いいんじゃないですか?」
「…そりゃそうだ。」
遠くすらない場で保護者のように二人を眺めるスサノオとクシナダ。
その声にも気づいているだろうに、二人はそのままで動かなかった。
苦笑交じりにクシナダの手にしていた本をひったくったスサノオは、本を裏からめくる。
後書き。
著者が記した書に関わる事柄を読者に伝える場。
『偉業威光として残すだけならばこのような書は必要とされなかったでしょう。ですが、注がれた心を遺すにはこの形が必要と思い、本書を書く大役を引き受けました。いつかこの日を知る人がいなくなったとしても何かの形で残ればと』
書き連ねてある後書きの一部。
この著者は真と稔とは無縁のはずなのに、二人を含め強く想ってくれたのだと、真威をそのままに感じ取れるスサノオとクシナダにはよく分かる。
「すげぇありがたい本なんだがな…ま、気づくのはもっと先か。」
「ですかね。」
いつかこの日を知る人がいなくなったとしても何かの形で残ればと…
盛者必衰生々流転、避け得ぬ現実の中でそれでも続く、遺された想い。
その貴く温かいモノの『欠片』が…全てがそのままで残る訳も無い中でそれでも、今を、先を、人やそれ以外を動かす力になっていく。
記されるという事は、ある意味その欠片の代表にされたと言う事にもなるのだが…
互いを離すまいと抱き合っている二人がその貴重さに気づくのは、先の長い話になりそうだった。
総後書き
まず始めに。
夢現シリーズにここまでお付き合いくださった方向けの内容となっておりますので、本編含め全シリーズの内容に関する話を含む内容となっておりますので、後書きから探す方はご注意ください。
また、後書きまで覗いて下さる方にはオープン気味にと、多少情けない等あっても作者の心中や意図を明かしていく方向性で進めるので、そういうの苦手な方、別にいいわと言う方もご注意ください。
まずは、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
十年来成長無いと自白したものの…絵に関しては見かけた方つくづく申し訳ない。
そういう練習があるらしくてやってはみたのですが、直線引けない人間らしくブレるブレる。多分この手の力に乏しいんでしょう。字も汚いので(汗)。
・夢現シリーズについて。
『我は神だ!貴様らは我が人形に過ぎん!』系がラスボス扱いのゲーム。
『私、神様信じてないんだー。だってこの前わざわざお願いに行ったのに叶えてくれなかったし』とか言ってる通行人の方。
『居もしない物に祈りとか時間の無駄だから、サボってないで努力したら?』って感じの淡白な方。
に…『いやちょっと待とうよ』と、感じたのがこのシリーズ誕生の一因になってます。
あ、念のためですが、当然作者個人の感覚と言うだけでそれらが悪いとか言う話で無い事はご了承ください。
この時点で察する方もおられるかも知れませんが、これらから作中の神様の立ち位置とか行動条件が出来てたりしてます。
人の及び知らぬ所の支えとして直接でない加護や支えを、そして尊び祈ってきた者にはより強く応える。
手の届かない、及ばない所に祈りや感謝を。
それは、そもそも本当に神様と言う名のとんでもないものがいるかいないかに関わらず持っているに越した事のない感覚だと思います。
人同士の通貨や物資のやり取りすら、『何処の誰とも知れない人』の力のお陰で成り立っているし、大昔から本当の意味で『自力』で生きていられるものなんて、殆ど存在しないでしょう。
それら自分以外の要素を感謝や畏怖の対象とするか、『全部この俺の運。俺の力!ああ俺素晴らしい!!』ってなるかの違いなら…作者は前者がいいなぁ…と、まぁその程度の感覚の話です。
にも拘らず、主人公が神職者ではないのは、これだけ祈ったら?信じたら?とか言う方向に言っておきながら作者が無宗教だからです。無茶苦茶か!
えー…理由はありまして、何々を信仰すると言うのは、自己なく盲目的に信じる事と同義らしいのです。赤子が『お母さんが言ってた』と言うのと同様近いレベルで、神様が言った事は信じる事らしいのです。
形無き不確かなものを信じる心。それは尊ぶ大事なものだと思いますが、尊ぶのはあくまで自分だと、自分であるべきだと思ってます。これだと思考や思想であり先の信仰にはならないので、作者は無宗教になります。あとまぁ日本の八百万の神が万象に宿るって考えが好きですが、だからと言って絶対神は違う!とかは言わない、基本駄々甘作者なので(笑)。
あとは…初期、二部、最終戦と分けたのは、まぁタグとか初期の書き方とか…ではなく。
主役二人の位置とその流れからですね。
神様のあり方を知っている二人が、近隣の人の悩みや苦しみを直接でない形で戦い掃いながら練想空間で力を身につける初期。
練想空間ではそれなりになったものの、実際問題現実ではどうするの?っていう二部。
神様に成る、世界から畏怖や祈りを向けられる最終戦。
…って、こういうのは読んでて分かるように出来てるかどうかって言う作者の問題なんですよね。ここへきて『そうだったの!?』だと作者の失敗と言う(苦笑)。どうだったでしょう?
・登場人物について。
『姫野真』
中身の無い綺麗な手の届かない宝箱に手を伸ばすと言う人です。
なりたいもの魔法剣士。理由はカッコいいから。
オマケに計画性とか後や周囲について特に省みずお人よしだけで人助けに突っ込んで…
「うわ駄目だこのガキ」と切った人とかもいたんだろうなぁ…なんて思った所で知るよしも無いのですが(苦笑)。
誰かの助けにという程度の中身すら特に無く反射みたいに動きますが、二部途中の後書きでも触れましたが、『そもそもそれでもいいんじゃないか』と思ってます。
もし中身…現実的な効果が『衣食住』の生命活動のみなら、中身の無い活動なんてものはこの世に溢れかえっていますが、だから駄目だと思った事が無いので。
重要なのは、大事なものをどれだけ大事に見ていられるかと言う点じゃないかと思い、その点では図抜けているのが彼のらしさだと思ってます。
後、魔法剣士って言うのを馬鹿にされすぎた結果、他人(自分も含め)がよく分からないものを大事にする人もいると言うことも考えます。譲り合いじゃないですがこういうのって大事な感覚だと。
その割に水葉の大事な(以下略)。し、仕方なかったんだよ…ウン(汗)。
『白兎稔』
選んだものに全てを費やし、他の邪魔を断ち切ると言う…それを除けば可愛い子です(笑)。
両親相手の対応やら生活できてないだろってレベルのとげとげしい対応を見てるだけだと全くそんな事思わないでしょうが、邪魔しない、崇める、ついてくる真相手だと…まぁ微笑ましい。
初めから人の理外れた夢を見てた真と違い、一歩二歩と先へ先へを際限なく延々と繰り返している形ですが、相手が多人数でも神様でも関係ないあたりが理を外れてます。
頂に着いたら誰もいない。って言うのがこのタイプの切ない道の終焉みたいな所がありますが、真がいるのでそうはならないと言う。
記憶も無い頃から同じ道を歩んでいた友人との関係も絶って進んできたが、真のお陰で仲を取り戻せたと言う。
気づけば何処なら真に助けられてないのやらと言う。…そりゃ夫婦神にもなるわ(笑)。
とまぁさらった通り二人とも、『自身の内より湧くもの』に従って動くタイプで、信仰とは言えません。元から『神様』とする予定ではあったので、神様が誰信仰すんの?って考えれば当たり前かもしれませんが。
…畏怖と信仰、逆だよなぁ…ギャップ萌え?な訳が無い(苦笑)。
『須佐守雄と持田穂波』
数少ない友人…ですら親しすぎる表現の間柄から始まった真と稔の知人。
初期は練想空間で惑意を晴らす…個人規模の小さな悩みの種と戦う形を予定していたので、その小さな個人としてちょっとは知ってる友人が出来たのですが…まぁ活躍したもんだ(笑)。
主役二人と比べると完全に人間なんですが、大したものです。
『川崎世一』
こんな教師いてたまるか…って言う方。
本人は大真面目で本気なので余計に達が悪いですが、印象のように悪い人ではないです。
真に『中身が無い』事を怒るのに、普通に真剣になる人が必要だったのでこんな形になりました。
余談ですが、裂岩流について非公式武術団体だと知っていたのは、真と稔の日の目に当たらない修行の結果が社会に結びつくようにと調べた結果だったりします。
『氷野大和と船祈水葉』
二部…夢現同化を目指すに際して真威の使い手が他に必要で、現実的な非現実として雨乞いが実際に成ると中間っぽいかという事で…
から、最終戦の前哨戦で切り札任される水葉。友人二人同様の大出世(笑)。
や、大和さんも強くなったんですよ?真にかすり傷つけられたし(汗)。
当初水葉は高校同じにしようかとかぼんやりと思っていたんですが、途中で『あ、あの二人高校行かないわ絶対』と気づく作者。おかげさまで作中だけだと期間の短い知り合いになりました(汗)。
尤も水葉の場合学校回りに仲のいい人がいない状況かつ劇的な知り合いなのでたわいない連絡自体は結構交わしていたと思います。大和は立ち位置から焔が濃い知り合いになったもので真達からは少し逸れました。メイン二人に二部からサブ二人が…って予定だったんですが、あの男生きが良すぎて(苦笑)。
『龍磨常餓』
俺の糧となれーを地で行く人間のラスボス。同時に、恐怖される事で惑意を集めて妖魔に近づくと言う最終戦の真の狂化フラグ。
あらゆる意味で喰らい大きくなると言う弱肉強食思想特化が災いした方。この人ほどぶっ壊れてなければ間違いと言うほど無い考えでもないんですがね。
銃効かない、忍びの小太刀が刺さらない、大剣振ったら車もコンクリもバターのようにばっさりと。稔はよくこんなの倒したな本当に(汗)。
『水上湖乃衛』
実はこの世界設定上では最強格の永遠の高校2年生(笑)。
最期の世界規模のブーストがかかった真や稔でも、さすがに五分ではないものの勝率があるほど。
とは言え、呪い的なものでその身を活動させている為色々不都合がある。常餓を倒しに動けなかったのも、真を倒しに動けなかったのもそのため。
名前の感じからばれるかもしれませんが、『同世界線上で別の話があった主役』です。しかも描いてない(笑)。あんまりにもぽっと出すぎると問題かとも思いましたが、話題には絡んでる退魔師の話を出来て二人の試練になる人が彼女しかいなかったので。
・心は力を持っている
湖乃衛の項で明かした同世界…つまり、世界線そのものの題があり、それが此方になっています。尤も稔や真のような人外はそういませんが。短編で気づいた方とかいたら感謝の極み…
この世界の中核である二人の話を書き終えるのが最初の目的だったので、とりあえずはそこには到れたのは良かったと思いつつ…色々予定と違ったりできてなかったりとあるのでその辺も上手くいくようになればと。
今後の予定と言うか予定は未定と言うか(汗)。
何をどうするかまとまれば書くつもりではいます。
…とは言え、もうちょっと予定外を減らせるように準備してからにしたいとも思う今日この頃。でも昨今の色々を考えると準備なんてしてたら保たないんじゃないかとも思う今日この頃。ジレンマですね。
とりあえずは未定という事で。
改めて、ここまでありがとうございました!