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02話 魔王さまと『ゆーきゅーきゅーか』

「魔王さま、お仕事です」


 朝一番に秘書は魔王の元を訪れる。一日分の仕事を割り振るためだ。ただ、それが手を付けられていることは少ないのだが。


 今日も大量の書類を抱えて魔王の執務室に入ると、いつもの様に安楽椅子に座りながら読書に耽っている魔王の姿が秘書を迎えた。


 いつもなら、ここから生産性のないやり取りが繰り広げられるはずだが、何やら今日は魔王の様子が違った。


 いつもなら、生気の感じない顔をしているのだが、今日は少しばかり活力に満ちているように見える。


 こういう時はろくな事を言い出さないことを秘書は経験で知っていた。だからどんな言葉が飛び出すのか身構えていると、


「秘書よ、知っているかね、人間界には『ゆーきゅーきゅーか』というものがあるそうだ」


「はぁ、それが何か?」


「聞くところによれば、『ゆーきゅーきゅーか』を使えば、仕事をせずとも給料がもらえるそうだ」


「そうですね」


「だから、儂もそれを行使しようと思う」


「今日の夕食もなしでいいんですね、魔王さま」


「いや、だから『ゆーきゅーきゅーか』をだねぇ」


 オウムのように何度も同じ言葉を繰り返す魔王に冷たい目線を送り、秘書はコホンと咳払いをしてから説明した。


「人間界に限った話ではなく、魔王城でも『有給休暇』は導入しています」


「おぉ、そうなのか。いつの間に導入されていたかは知らんが、そうなのか」


「魔王さまが長き眠りについていた間に、です。それで、ここが重要ですが、『有給休暇』はきちんと仕事をしていれば与えられます、ちゃんと仕事をしていれば、です」


「いや、だったら、儂、何百年前はきちんと働いてたぞ」


「この制度が導入してからは全く働いてないので、関係ないです。諦めてください」


「……そう、なのか」


 見るからに落ち込み、顔から生気が抜けていく魔王。秘書から目線を外し、本へと向ける眼差しが、なんだか虚ろである。


 見ているこちらが悪いのでは、と思えてくるくらいの落ち込みように秘書は狼狽する。自分よりも遥かに年上の存在の、しかも上司に当たる人物の、格好悪い姿はあまり見たくないものである。


 だからか、秘書は気が付けばあることを口にしていた。


「でも、魔王さまはこれまでに何百年と働いてきました。なので、今回は例外として、『有給休暇』を認めましょう、例外で、ですよ」


「本当か! 感謝するぞ、秘書よ!」


 まるで誕生日プレゼントを与えられた子どもかのような魔王の喜びように、秘書は甘いかなと思いながらも、辛気臭い顔をされるよりはいいか、と自分を納得させる。


「では、失礼します。ただ、明日からは働いてもらいますからね」 


 なんだかんだで魔王に甘い秘書と、秘書に甘やかされている魔王。

 魔王さまは、今日も働かない。ただ、今日は夕食にありつけた。

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