表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

01話 魔王さま、お仕事です

「魔王さま、お仕事です」


「嫌だ」


「お・し・ご・と・で・す!」


「い・や・だ!」


 とある城の一室。そこで男女が言い争っていた。


「このやり取りも何回目ですか、いい加減聞き分けてくれませんか?」


「秘書、君の方こそ、いい加減諦めたまえ。儂は意地でも働かんぞ」


「働かざるもの食うべからず、ですよ」


「……だからって、本当に昨日の夕食を用意してくれないとは思わなかったよ」


 昨日、夕食にありつけなかった魔王は、手に持つ本から目を離して、犯人である秘書に非難の目を向ける。そんなことは知っちゃ事ないという様子で、秘書は魔王が座る椅子の前に大量の書類を、叩きつけるかのように置いた。


「これはなんだい?」


「今日のお仕事です」


「……多くないかい?」


「どっかの魔王さまが働かないので溜まっているんですよ、どっかの魔王さまが働かないので」


「二回も言う必要はないだろう、さすがの儂も傷ついてしまうじゃないか」


「そのわりにヘラヘラしてますけどね」


 秘書は文句の代わりに溜息を吐いて、目の前のダメ魔王を見やる。

 安楽椅子に腰掛けて本を読む姿は、白髪の髪や伸びっぱなしの髭とあいまって、ただのダメなオッサンである。 

 百年前以上前から何度も世界を恐怖に陥れてきた魔王像とは、まったくもって重ならない。いっその事、別人と言われた方がしっくりくるくらいだ。


「とにかく、その書類に目を通しといてくださいね。じゃないと、今日の夕食もナシですので」


「おぉ、コワイコワイ。まぁ、気が向いたらしておくよ」


 絶対にしないだろうが、内心はそう思いながらも、秘書は自分の仕事をするために魔王の自室をあとにした。


 今日も世界は、残念なことに平和である。魔王と勇者の戦いに終止符が打たれてから、早くも百年ほどが経とうとしていた。

 魔王の中で燃え盛っていた野望の炎も、何百年と経つ内に弱まり、最後には消えてしまった。

 魔王さまは、今日も働かない。だからきっと、今日の夕食もないだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ