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サクラ舞う季節  作者: なっかー
第1章 離別
6/15

§5 一夏の思い出

今までより長くなります。

 

 1



 ()()キャンプ。それは二年生の夏に行ったキャンプ。仲良くなったばかりの頃の友情が深まるきっかけとなった出来事が起きた。






 2



 「着いたー!」

僕は車の中で嬉々としていた。真と明里と貴子も車から降りてくる。

 僕達は今、キャンプに来ている。ここの大自然は心を癒してくれる。これからの二泊三日がとても楽しみだ。

 取り敢えず僕は自分の分の荷物を降ろす。

「あんた別にこんなに持ってこなくても良いでしょ。家まで三十分で帰れるんだからもうちょっと軽くした方が良いと思うんだけどなあ」

と母に言われてしまった。

 僕は子どもの頃からものすごい心配性で、あれもこれもとたくさんの荷物をカバンに入れてしまうので、かなり重い。



 「あなた達は遊んできなさい」

と親達に言われたので、言う通りにしておく。

 幸いにも、すぐ近くに遊具があったのでそれで遊ぶことになった。


 大自然の中に巨大な遊具がいくつかある。ここは国立公園に指定されていて、かなり整備されている。その中にあるキャンプ場。今は閑散としているが、テントを二百張ほど設置でき、普段は社員旅行等の団体客が多い。その事を知ると空いているのはかなりラッキーなことであると思える。


 「肉焼けたよー」

という声を聞くと、全員が素早く集まった。

 たれを皿に出し、いい感じに焼けた肉をそこにつける。

 うん。おいしい。

 昼からバーベキューって豪華だなぁと思っていたら、明里の母から衝撃の一言を言われた。


 「夕食もBBQよ」


 驚きのあまり、肉が喉に詰まりそうになった。同じものを二回食べると、飽きませんか?いくらバーベキューでも。

 しかし、子ども一人が嫌だと言っても変わるわけがない。さらに他の三人は喜んでいるから尚更だ。

 かくして、夕食もバーベキューになった。


 大人達の恐ろしい企みに気付かないまま。






 3



 午後は全員でパークゴルフをすることになっている。明日もアクティビティー三昧らしい。色々と考えるのも面倒なので、とりあえず今、このときを楽しむことにした。



 それからしばらくして、パークゴルフが始まった。


 「ううん……」

パークゴルフがこんなに難しかったとは……。


+3

+4

+2

+6

+1

±0

+3

+2

+4


 「見て! 六ホール目はパーだよ」

などと僕が自慢していると真は自らのスコアを静かに差し出した。


+1

+3

-1

-1

-2

±0

+1

±0

-2


 「すげー」

僕ら三人はただただ感嘆することしかできなかった。


 そのとき、気がついた。世の中には何でもできる真のような、いや、もしかしたら真よりも素晴らしい方がいらっしゃるということに。



 夕方、再びバーベキューの準備が始まった。

 クーラーボックスから食材が……

 親のうちの誰かが言った。

「あー、節約できて良かったー」

僕は身震いした。出てきた食材は昼の残りだった。

 なぜ折角キャンプ来たのにそこで節約するのか、とても疑問に思った。



 空は暗くなり、僕らの上には広大な宇宙が広がっていた。みんなが満天の星空に夢中になっている頃、真はみんなに星の説明を始めた。

「この地球はね、太陽系の中にあるというのは聞いたことがあるよね。実はその太陽系も銀河系っていうものの中にあるもので、天の川はその銀河系の中心の星が多いところのことなんだよ。あとね、星は地球からものすごーく遠いところにあるんだよ。それはこと座のベガで、あれがはくちょう座のデネブ、こっちはこと座のベガ。三つ合わせると……」

 貴子は嬉しそうに

「夏の大三角形だー!」

と答えたが、明里は

「大三角でしょうが」と指摘した。

 貴子は決まりが悪そうだった。



 つつがなく一日が終わろうとしていた。しかし、迷惑な存在がいる。

 「かゆい!」

と貴子はたまらず叫んだ。そう、虫だ。山の虫は街なかの虫よりも強い。その影響で、いつもよりも虫刺されの痕が大きい。

 全員、どこかが必ず痒そうだ。真を除いては――。


 疑問に思った僕は

「真、なんで真だけ刺されてないん?」

と質問した。すると真はスプレー缶をおもむろに取り出した。

 「ああ!」

と全員が叫んだ。

 全員、各々のことに夢中で虫よけスプレーの存在を完全に忘れていた。そして、今更ながらみんなでかけた。


 そんなこんなで虫に振り回された一行は虫から身を守るため、それぞれのテントに早々に避難していった。夏の夜は蒸し暑くて眠りづらい。


 本当に熱帯夜は早く寝たいや。






 4



 二日目の朝は鳥の鳴き声で目が覚めた。


 「おーい、明里、貴子、大丈夫か? んん? いや、何でもないか。大丈夫。所詮はただの夢や」


 テントから出ると昨日のバーベキュー騒動とは正反対な、静かで美しい朝が僕を迎えた。山の空気は澄んでいて、とても美味しい。それでもって朝だから尚更だ。



 二日目はジップライン等のアトラクションを楽しみ、大した事件もなくおわった。




 今思えば、「嵐の前の静けさ」だったと思う。







 5



今朝は昨日と違って騒がしい。なぜなら撤収作業が始まったからだ。

 そして準備の時と同様に子ども達四人には、どっかで遊んで来いという命令が下された。相談の結果、この広い土地を活用しようということで、懐かしの「かくれんぼ」をすることになった。

 もちろん、遠くに行きすぎないように予め隠れる範囲を限定しておいた。

 各親子の間で、

「十二時には帰ってきなさいね」

「わかった。今何時?」

「だいたい八時くらいかな」

「ありがとう! じゃあ行ってきます!」

「いってらっしゃい」

というような会話が交わされた後、全員が集まった。



 厳正なるじゃんけんの結果、最初のおには明里になった。


 ここでいいか……と思える場所があったので、少し近いがそこに隠れることにした。しかし、僕の短絡的な思考ではダメらしく、すぐに見つかってしまった。そういう訳で僕は明里と歩いている。

 二人で話したのはこれが初めてだが、意外と話が弾むことに気付いた。何を話したかというと、身の上話や近況についてなどだった。こうして話してみると、境遇が似ていると分かった。因みに、明里への感謝は今でも尽きない。


 その後、貴子がおにになったが、僕は悔しさから粘り、見つかるまで一時間もかかった。


 日は高く昇り、もうすぐ十時だ。


 次のおには真になった。僕はまあまあ健闘し、三十分ほど隠れていられた。

 暇だったので、真と話していると、自然と夢の話になった。それは、摩訶不思議な夢だった。明里と貴子がどこかから落ちそうになるというもので全く可笑しい。ところが笑い事ではなさそうだ。二人とも同じ夢を、二夜連続でみていた。これが単なる偶然とは、とても思えない。


 話をしていると、かれこれ二十分経っていた。ところで残り二人は見つかっていない。最初に決めた範囲を、真と僕で手分けして捜すことになった。

「また、二十分後にここで会おう!」

「そうだね!」






 6



 それから十五分後。

 「うわぁーーーー!」

という叫び声が聞こえた。

 刹那、何者かが僕の心に何かをもたらした。そして、僕は叫び声の出所と誰のものであるのかを悟った。

 僕は今行くよと自らの心に言い聞かせ、自分自身を落ち着かせた。



 その声が聞こえた場所に行くと、つり橋が崩れていた。目の前には明里がぶら下がっていて、向かい側には貴子がぶら下がっていた。明里も貴子も、上から手を伸ばすと届きそうなところにいる。しかしそれでは、こちら側にいる明里は助けられるが、反対側の貴子は助けられない。困っていると、同じくあの声を聞いた真が来た。その反対側に。

 僕は決めた。

「おーい、真! 僕は明里を助けるから、真は貴子を頼む!」

と叫んだ。すると、真から分かったという返事が来た。


 作戦遂行。



 僕は明里に手を伸ばす。

 真は貴子に手を伸ばす。


 明里は僕の手首を掴む。

 貴子は真の手首を掴む。


 僕は明里をゆっくりと引き上げる。

 真は貴子をゆっくりと引き上げる。


 僕の腕は震えている。

 真の腕は震えている。


 僕には明里の顔が見えた。

 真には貴子の顔が見えた。


 僕は最後の力を振り絞る。

 真は最後の力を振り絞る。



 「っしゃー!!」

僕と真の声が同時に山々の間をこだました。






 7



 僕ら四人はキャンプ場で合流することになった。僕は明里から様々なことを聞いた。道に迷ってしまったこと。つり橋にいたら不穏な音がしたので走って逃げようとしたこと。あと少しのところでつり橋が崩れたこと。僕と真が来たのはそれから直ぐだったこと。

 日の当たらない場所の、ヌメヌメとした地面のところを通ったとき、明里が滑り、転びそうになった。咄嗟の判断で僕は明里が倒れないようにきっちりと両肩を抑えた。

「ありがとう……」

と言った明里の頬も、

「どうも……」

と言った僕の頬も、燃えていた。



 途中、何度か道に迷いながらも、無事、キャンプ場の手前で合流できた。

 それから、各自解散した。






 8



 ()()キャンプは、僕ら四人全員にとって大きなものとなり、その後の何年かにも多大な影響を及ぼした。また、それぞれの人生にも。

 友情が深まったと共に、何種類かの特別な感覚も芽生えた。それが後々関わってくる。

 これぞ、新・つり橋効果!

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