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サクラ舞う季節  作者: なっかー
第1章 離別
5/15

§4 巣立ち(3)


 1



 貴子の表情はまだ暗い。合唱コンクールの時の雄姿とは正反対で、自信をなくしている。


 しばらくして歌は終わった。貴子の表情は歌い始める前よりさらに暗く、泣いていた。歌の次にあるもの。それは先生への感謝の言葉&花束贈呈式。その代表が貴子……のはずだが、もう何も出来なさそうになっている。クラス全体に不安の表情が広がる。イベント係は打開策を考え始めたようだ。


 「……ます!私、やります!」

貴子は叫んだ。

 当然の如く、更に困惑する。ただ強がっているだけなのではないか。皆がそう思ったが、そんなはずはないと考えた。今まで貴子がクラスのためにしてきたことを思えば、きっと何か考えがあるに違いない。そう思ったのだ。


 そして、貴子は予め用意しておいた花束を、これまた予め用意しておいたに違いない感謝の言葉と共に先生に手渡した。

「先生、今までありがとうございました。このクラスで過ごした一年間は本当に素晴らしいものでした。これも偏に先生のお陰です。本当にありがとうございました」


 続いて、先生の言葉があった。

 そのなかに出てくる懐かしい思い出の数々。僕は自らの中学校生活を振り返った。他の生徒は仲の良い友達と思い出を語り合っている。


 その後は、写真撮影。

 クラス全員、三十九人が黒板前に集まる。これが中学校最後の写真。みんな、三年前よりも、大人っぽく見える。

「スマイルとピースを忘れずに!」

先生がそう言いながら、セルフタイマーのスイッチを押す。

 ピッ!という音を繰り返しながら、カウントダウンが進む。

 先生が生徒たちの中央に来る。

 みんながポーズをとった次の瞬間、カメラのシャッター音が聞こえた。

 みんなが集まって写真を確認する。

 次の瞬間、教室が笑いに包まれた。


 最後はフリータイム。

 各自が思い思いのことをしている。僕はいつものメンバー(いつメン)と話すことにした。どうやら、貴子は無事に立ち直ったようだ。その様子を見た明里は、

「いやー、良かったぁー」

と心の底から言った。全くその通りだ。そう思った僕は、貴子に質問した。

「一体何があったの。差し支えのない範囲で教えてよ」

貴子は色々と語り始めた。

「まずね、式で歌っていたら何か感極まってしまって……。でー、それから力が入らなくなって、気づいたら倒れてた。そのあと、先生達に起こしてもらって、とりあえず立って歌った。ええと……集会の前半で下を向いていたのは、考え事をしていたからだよ。まあ、総じて言うと、何か心配かけてごめんねっていうことかな」

考え事で泣く奴がどこにいるか! そりゃ居たらそいつは相当感傷的になっているからその時点で普通は考え事とは言わないし、言えない。もう元気そうなので、そう突っ込んでみようと思ったが、僕の言葉は真の言葉に遮られた。

「まあ、軽度の立ち眩みだと思うから、心配しなくて良いと思うよ」

真の、その自らの知識を振り絞ってかけた優しい言葉に、僕はとても感心した。

 やっぱり真には敵わない。うん。やっぱり無理だ。



 やがて、それとなく帰る頃合いになってきた。この学校では、毎年在校生の間を通って玄関から校門まで歩くという恒例行事がある。ただし多くの生徒は直ぐに戻って色んな人と写真を撮ったり、お世話になった恩師と話したりする。

 そんな中、僕らは教室に再び戻ってくることにした。


 「準備が出来た様です」

田島先生の声がかかる。そして卒業生達は荷物を持って並び、そのまま玄関に移動した。そこには既に在校生が規則正しく整列していた。


 「これからー! 先輩方にー! エールを贈るー!」

恒例行事のエール。これも贈る側から、贈られる側に変わった。因みに僕は、エールを贈られるように、ただ何かをされるだけで自分は何もしないというのが一番苦手だが、そんなことはどうでも良いと思う。大切なのは、心だ。

 うーん我ながら巧いことを考えたなぁ。


 その後も色々とあったが省略する。

 僕は在校生の間を通り抜けた後、写真を何枚か撮ってもらった。そして教室に向かおうとした――。






 2



 「ねぇ、覚えてる?」

「何を?」

「あのキャンプ」

ああ、あれか。と思った。

 状況を説明する。僕と明里は教室に行く途中で会った。それから二人で教室に向かって歩いている途中である。

「そういえば、大変だったなあ」

明里も頷く。


 そうこうしているうちに、教室についた。

 「遅かったね」

と真に言われた。僕らは本当に遅かった。すまない。写真を撮った後も色々とあったのだ。それを知った上で敢えて僕は話題を変えた。

「ああ、ごめん。それはそうとして、今、明里と()()キャンプについて話していたんだけど、本当に色々あったね」

「せやな」

真は、時々言うことがある関西弁擬きで答えた。


 ()()キャンプは、今でも胸の奥に残っている。


 そう。僕ら四人にとって、それは非常に大きな出来事であった。


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