第八話 騎士と魔法使い
インフルエンザ恐い。マイコプラズマ恐い。いや自分は大丈夫だったけど、仕事が……欠けた人員の分が一気に……ちくしょう……。
あとバレンタインイベント(アプリゲーム)とモリアーティ教授が楽し過ぎるからちくしょう……!
という駄目人間の言い訳から始まる第八話。皆はこんな人間になっちゃ駄目だぞ☆
誤字脱字がございましたら報告をお願いします。
ダンジョンというものは基本的に厄介な場所が多い。
というのも、まず前提として回復やアイテムの補充が行える拠点から離れた位置にあるのが問題なのだ。モンスターと遭遇するフィールドを歩き続け、大なり小なり消耗した後に辿り着く場所に設置されている事が多い。
さらに、ダンジョン内部のモンスターはフィールドのモンスターよりも強く、厄介な攻撃方法や行動パターンを持つ者が基本であるのだ。フィールドで消耗した後により消耗を強いられるモンスターと何度も戦わないといけなくなる。
加えて、地形構造が複雑であるのも消耗のし易さに拍車を掛けている。行き止まりが多かったり、ループ状になっているマップだと現在位置の把握が難しかったり、何度も階段の登り降りしたりすると、ボスの部屋に行く事すら困難になる。特にVRだと俯瞰してマップを見れないので、より迷いやすくなっているのだ。
序盤のダンジョンは簡単だと思っている者がいるのなら、声を大にして抗議したい。《神世界アマデウス》においての最初のダンジョンはどれもこれも鬼畜的な難易度であると。
けっして俺が下手なだけではない。【装備重量制限】のペナルティのせいでもない。ダンジョンは総じて難しく、デスし易い環境下にあるものなのだ。
「つっても日に三回から四回はデスしてるからなぁ…………。流石に死に過ぎだとは思うけど」
と、心の中で愚痴りつつ、俺は最初の町を歩いていた。特に目的も無くぶらぶらと散歩しているだけだ。
ダンジョンを攻略し始めて一週間が経過した。《神世界アマデウス》を始めてから数えれば二週間だ。結構なプレイヤーが第一のダンジョンを突破をし、第二のダンジョンの攻略に取り掛かっている頃合いだ。また《神世界アマデウス》の様々な情報が攻略サイトに記載され、効率の良い素材回収ポイントやら経験値稼ぎの狩り場やらが知れ渡っている。
ゲームの全体的な進行は最初の段差を乗り越えたと言うべきだろう。
対して俺はと言えば、第一のダンジョンの一つすら突破出来ていないのだ。〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉を含む四つのダンジョン全てに足を運び、どれか一つでも攻略できないかと必死に取り組んだものの、見事に返り討ちに合いまくり死に戻りのスパイラルに陥ってしまっている。ダンジョンボスの部屋にすら辿り着く事が出来ていないのが現状だ。
レベルは問題なく高い。クラスこそ初期クラスである《騎士》のままだが、熟練度は10にまで上げている。加えて騎士鎧の防御力とデスしまくったおかげで(不本意ながら)手に入った【マイスキル】――――【傷だらけの旅人】の効果で防御力が更に+10されているのだ。一騎討ちならば〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉の最強格のモブモンスターである〈フォースエッジ・ブロンズマンティス〉にすら余裕綽々で勝利することが出来るぐらいにステータスは高めているのだ。
が、敵モンスターが団体でご来訪なされた場合、一転して窮地に陥ってしまう。怒濤の攻撃の連続、隙らしい隙を見せない動き、状態異常や特殊攻撃による足止めと、騎士鎧の防御力を持ってしても耐えきれなくなる程の苛烈な戦闘になってしまうのだ。
「〈ブラックウルフ〉に〈スプラッシュバタフライ〉……あぁ、それに〈ウォーキングデッドツリー〉も鬼門だよなぁ。ソロプレイヤーはどうやってあいつらを倒してんだろ……」
一週間もの間〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉に籠り、何度もデスしながらもレベル上げをこなし、出現するモンスターの動きを徹底的に確認、記憶し、対策してーーなお突破出来ないのだ。いくら自分が鈍足状態で動きが遅くなっているとは言え、余りの不甲斐なさに若干ながら涙が出てきそうだった。
そうしている間になんだかモチベーションを保てなくなってきてしまい、今日は攻略を休む事にしたのだ。ずっとダンジョンに籠っていたので、丁度良い息抜きとして街の中をぶらついて気分転換しようというわけである。
「あー……そうだなぁ。街の中で出来るおつかいクエストでもやろうか。それとも街の飲食店を回って食い道楽でも楽しむとするか……?」
気軽に気楽に散歩し続けるのも良いが、どうせなら何か楽しい事をやって気分を上げたい。何もダンジョンを攻略するだけがゲームを楽しみではないのだ。せっかくのVRゲームなのだから、リアルの如く五感を最大限使って休みを堪能したい。
「…………とりあえず〈クレーテー城〉に行ってクエストを確認してみるか。良いのがなかったら食い道楽と洒落込むとしよう」
クエストの中にはちょっとしたストーリーが発生するものもあり、一種のドラマの如く進行していくのもある。攻略サイトに行けばクエストの内容や報酬は事前に確認出来るが、目の前でドラマが繰り広げられる臨場感は実際にやってみないと体験出来ない。まるで物語の中に入っている気分になれるのだ。VRゲームの利点が良く分かる。
という事でまずは〈クレーテー城〉に向かう事にする。道中でも何か面白いアイテムやイベントが無いか確認しつつ、まったりとした気分で歩き続ける。
「おっ。プレイヤーの出店があるな……。商品はNPCが売ってるのと余り変わらねぇけど、そろそろ生産職プレイヤーも本格的に店舗経営に乗り出して来たな」
こうして街を見回してみるだけでも二週間前から変化した場所があり、見ていて飽きない。プレイヤーの装備も変わり、新たな店も増え、ゲームが順調に進行しているのが分かる。まぁ自分の変化の無さをまじまじと実感させられているとも言えるが……。
「…………ん?」
そうして歩いていると、不意に視線を感じた。明らかに自分に向けて発せられる視線をだ。
首を巡らせて周囲を何気無く観察してみれば、何人かのプレイヤーが俺を見て馬鹿にしたようにニヤけていた。《戦士型》に《剣士型》や《弓兵型》や《銃士型》などの様々なプレイヤーがこちらに嫌な嘲笑を向けているのだ。その中に《騎士型》のプレイヤーは一人もいない。
「……ちっ。マナーの悪いプレイヤーもいるもんだぜ」
他人を見下して何が面白いのだろうか。典型的な《騎士型》のプレイヤーがいたから馬鹿にしていただけなのだろうか。何にせよ、俺からしてみれば全く面白くない話である。
この一週間、ずっとダンジョン攻略をやっていたわけではあるが、その間にパーティーを組んでくれたプレイヤーは結局ムサシしかいなかった。誰も彼もが何かと理由を付けてパーティー申請を断っていたからだ。
流石におかしいと思った俺とムサシは街中と攻略サイトで色々と調査をしてみた所、驚くべき噂がプレイヤー間に広がっているのが判明したのだ。
『《騎士型》のプレイヤーは足が遅く、攻撃も移動ものろまな地雷プレイヤーである。最弱のクラスなので余程の理由が無ければ関わらない方が賢明であろう』
というふざけた内容の噂である。《騎士型》の欠点のみを言及し、利点である『守備能力の高さ』に対して一切触れられていない偏った内容なのだ。《騎士型》を完全に貶める為に広められた、悪質な噂でしかない。
また《魔法使い型》も同様に『紙装甲ですぐ死ぬ。魔法の詠唱時間の長さの割りに威力も使い勝手も最悪の地雷クラスである』という話が広まっている。こちらは《騎士型》に比べて真に受けているプレイヤーは少ない為に余り被害は出ていないものの、それでも《魔法使い》というだけでパーティー申請を断られたプレイヤーもいるみたいである。
(ゲームもまだ序盤。情報も出揃い始めたとは言え、まだデマや勝手な憶測に振り回されるプレイヤーも多いんだろうけど……)
この話がプレイヤー間で蔓延した事により、いつの間にか《騎士型》は忌避される【クラススタイル】として定着してしまったのだ。今では《騎士型》というだけでパーティー申請を断られるばかりか、馬鹿にされて嘲笑わられるようになってしまっているのだ。
誰が、何の為にこんな話を広げたのか、という理由探しはどうでも良い事だ。悪質なプレイヤーなんてどこのオンラインゲームにも出現するものだし、人の噂なんて四十五日もすれば忘れ去られるものだからだ。
問題なのはこの噂を信じ込んでいるプレイヤーが大多数を占めるので、信じていないプレイヤーも周囲の目を気にして《騎士型》を避けるようになっている事である。ほぼ全てのプレイヤーが《騎士型》を露骨に避けるものだから、パーティーなんて組めるはずもなく。
「はぁ……。噂が消えるまでソロプレイをし続けるしかねぇのかねぇ」
結果的に俺は一週間も一人でダンジョン攻略に向かわねばならなくなってしまったのだ。いや、正確に言えばムサシは噂に振り回されない男なので(というかβプレイヤーであるムサシがそんなデマを真に受けるはずもない)、たまには一緒にパーティーを組んで遊んではくれているのだ。
『《騎士型》はむしろパーティーに一人は欲しい【クラススタイル】だぜ? タンクとして優秀だし、MPは少ないが自力で回復系統の魔法を使用できるし。根も葉も無い噂なんぞでわざわざパーティーからはずすなんて、めちゃ効率が悪いとしか言えねぇなぁ』
との事である。
しかし、ムサシは気にしなくても、噂の対象となっている俺は気にするのだ。俺と一緒にいたらムサシにまで悪い噂が立てられるんじゃないのかと。
故に一緒にパーティーを組んだとしても、人目につかない所で素材集めや経験値稼ぎをするだけだ。プレイヤーが行き交うダンジョンを攻略なんて、とてもじゃないが出来ない。ムサシは乗り気だったが、俺自身がムサシにまで被害が及ぶのが許せなかったのだ。
「今に見とけよ、馬鹿にしている野郎共。絶対に第一のダンジョンを攻略してやるからな」
だからこそ俺はずっと一人でダンジョンに挑み続けるのだ。《騎士型》を馬鹿にするプレイヤー達を見返す為に、そして《騎士型》の本当の強さを見せ付けてやる為に。
……まあ、でも、パーティーを組んでくれるプレイヤーがいたら有り難く組ませて貰いたい。出来れば迷惑にならない形で、同じ《騎士型》のプレイヤーか《魔法使い型》のプレイヤーと組みたい。元から不遇扱いされている【クラススタイル】同士ならば、これ以上貶められる事も無いだろうし。もうこれ以上デスペナルティを受けつつダンジョンをさ迷い歩くのはこりごりなのだ。
さて、そうこうと思い耽りながら歩けば、もう《クレーテー城》に到着した。早速中に入りクエストを貼り出しているボードへと向かう。
《クレーテー城》のクエストは重要なメインクエスト以外のクエスト――――つまりサブクエストはたまに変更される。大体が『~~に~~を届けろ』とか『~~を~~体倒せ』というクエストであるが、内容の細部は毎回変更する為に、いつも新鮮な気持ちで挑む事が出来るのだ。この前ボードを確認したのが三日前だったので、もうそろそろサブクエストが入れ替わっている所であろう。
そう思い貼り出されているクエストを一つ一つ確認していくが――――。
「……なんかパッとしねぇなぁ。討伐系統のクエストしかねぇのかよ」
今回は面白そうなクエストが無かった。いつもの討伐クエストばかりだ。何かしらのドラマが展開したり、変わった内容のクエストは貼り出されていないようである。まぁたまにはこんな時もあるだろう。
「仕方ねぇ。無いもんは無いし、大人しく出店の食い物を巡って行くとしますかね」
クエストには面白そうなものは無かった。ならば別の目的で気分転換するだけだ。
そう判断した俺は踵を返して《クレーテー城》から出ようとして――――。
「……あら? 貴方は…………」
「ん?」
《クレーテー城》の入り口付近で見覚えのある顔とばったりと出くわした。黄色の髪の毛が特徴的な、むしろそこ以外は大人しめな印象の女性だ。
最初の街周辺のフィールドを探索している時に出会った事がある。自分勝手なプレイヤーといざこざがあった時に助太刀した《魔法使い型》のプレイヤーである。確か、名前は――――――。
「アンタは……マリー、だったか?」
「あっ……はい。お久し振りです……騎士様」
ペコリと頭を下げるマリー。大体二週間ぐらい前に一度あっただけであるが、相変わらず真面目な女性である。いや、俺が少しばかり不真面目なだけかも知れないが。
「あの時は助けて頂いて本当にありがとうございました。騎士様のおかげで、こうして今でも《神世界アマデウス》をプレイする事が出来ています……」
「あー。いや、俺がしたのはあくまでプレイヤーをぶん殴っただけだし……そんな大袈裟に礼をする必要は無いぜ?」
というか、助太刀したのは確かではあるが、彼女が《神世界アマデウス》をプレイし続けるのとは余り関係が無い気がするのだが。仮にあの時にPKされていたとしても、別にゲームから永久に追い出される訳では無いのだから。
が、マリーはそう思って無いらしく、ふるふると首を横に振った。
「いえ……あの時騎士様に助けられたからこそ、他のプレイヤーの皆様に恐怖心を覚える事が無く、嫌にならずに済んだのですから。貴方のようなプレイヤーがいると分かったからこそ、安心してプレイする事が出来たのです」
「そ、そうか。そりゃ良かった」
やはりクソ真面目である。こうも臆面も無くお礼を言い募る事が出来るとは。言われているこちらが気恥ずかしくなるぐらいだ。
というか先程から気になっていたのだが。
「つーか、その『騎士様』ってなんだ?」
気恥ずかしさをより加速させている原因がこの呼称だ。俺は《騎士型》ではあるものの、様付けで称されるような人間ではない。騎士は騎士でも不良騎士と呼称されるのが正しい気がするのだが。
「あっ……。すみません、私は貴方のお名前を知らないので……貴方に似合いそうな名前で呼ばせて頂いています……」
「……流石に様付けは恥ずかしい。ナギって呼んでくれよ。それが俺のアバターの名前だから」
「……ナギ様……いえ、では、これからはナギさんと呼ばせて頂きますね」
そうしてマリーはにっこりと笑い掛けてきた。呼ぶ方は普通になったけど、彼女の俺に対する姿勢は変わらないようである。全力でこちらを尊重し尊敬する姿勢に、なんだか嬉しさと恥ずかしさが入り雑じって変な気分になりそうだ。
「あー……そういや、アンタもクエストを受けにここに来たのか?」
話題を変えようとマリーが《クレーテー城》に訪れた理由を訊いてみる。まぁ大半のプレイヤーはクエストを受ける以外の理由でここに来ることはないのだが、念の為にだ。
「はい。これから第一のダンジョンに向かうので、何か討伐系統のクエストでも受けようかと思いまして……」
「へぇ……って、ん? 第一のダンジョン? 第二のダンジョンじゃなくてか?」
「はい……。恥ずかしながら、私は未だに第一のダンジョンすら突破出来ていなくて……。今日のクエスト内容によってどこのダンジョンに挑むのか決める予定なのです……」
どうやらマリーも俺と同じく第一のダンジョンで足止めを喰らっているプレイヤーらしい。仲間を見つけて嬉しい反面、申し訳なさそうに項垂れている様子を見せられて悪いことを訊いてしまった気分になる。
「奇遇だな。俺も第一のダンジョンをクリアー出来ていないんだ」
「……えっ? 貴方程のプレイヤーがですか? ……誰かの陰湿な攻略阻害行為を受けているとか……?」
「いや、なんでそうなる……」
マリーの中で俺はどれだけ過大に評価されているのだろうか。
「単純にソロで挑んでるからだよ。一人じゃどこのダンジョンもクリアーすることが出来ねぇんだ。手数は足りないし、敵の攻撃を捌き切れないし……」
「…………パーティーを組んで攻略に行かないんですか?」
「組みたいのはやまやまだが、誰も組んでくれねぇんだよ。ほら、俺は《騎士型》だから……」
「あっ…………。す、すみません。嫌な事を訊いてしまって……」
別に嫌な事でもない。が、やはりマリーもあの噂話については耳に入れていたようだ。素直に謝るという事は、マリーも《騎士型》に偏見は持っていないようである。少し安心した。
「気にすんな。アンタの疑問も最もだしな。悪いのはあの噂の方だ」
「……私もあの噂には困っている身なのです。貴方の心中や苦労を察する事が出来たはずなのに、無遠慮な質問をしてしまい、本当にごめんなさい……」
「えっ? アンタも困っているって……あぁ、そう言うことか」
そういえば《魔法使い型》も被害を受けていたのだった。《騎士型》ほどでは無いものの、マリーもマリーでパーティーを組んで貰える人がおらず、一人でダンジョンに挑む羽目になっていたのだろう。どうやら俺もマリーも同じ噂の被害者のようだった。
「面倒だよなぁ。噂話一つでろくにゲーム攻略も出来なくなるなんてよ。ファンタジーRPGで魔法使いが必要ないなんて、あり得ねぇつーの」
「……そうですね。私もそう思います。けれど……現実的な問題として、実際に魔法使いは必要とされていないのです。第一のダンジョンはどの場所であっても、物理攻撃だけで十分に攻略可能みたいでして……」
確かに序盤のダンジョンである以上は、多少のごり押しでも熟練度さえ上げればクリアー出来るように設定されているだろう。俺だってフルアーマーを解除して【装備重量制限】のペナルティを無くしてしまえば、ソロプレイでもクリアー出来るだろう。
しかしそうなると、疑問が沸いてくる。防御力の低い《魔法使い型》とは言え高威力、広範囲攻撃でモンスターを殲滅出来るマリーが、何故ソロプレイでダンジョンを攻略出来ないのだろうか。俺のように無駄な制約が掛かっているのならともかく、マリーのあの火力ならば十分にクリアーが可能だと思うのだが。
「あぁ……。こんな事ならば見栄を張らずに普通の杖を買えば良かったです……。デザインの美しさに負けて【装備重量制限】を越える装備品を衝動買いしてしまったのが間違いだったのでしょうか……」
「いやアンタもかいぃぃぃぃぃぃぃ!?」
彼女も彼女で見た目に凝るタイプのようだった。変な所で共通点を見つけてしまい、思わず絶叫してしまった。つーか俺も人様の事言えねぇけど、自業自得じゃねぇか!?
「でも後悔してはいけないのです……。これこそが私の愛杖……。次に気に入ったデザインの杖を見つけるまでは魂の友達として使い続ける所存です……!」
「随分ミーハーな魂ですね!? 乗り換える気満々なのが哀し過ぎる!」
「み、ミーハーとは失礼な! いくらナギさんと言えど〈ポチ子〉ちゃんを馬鹿にするのは許しませんよ!」
「名前付けてんの!? つーかそれ飼い犬に付けるべき名前だろ!?」
ちなみにマリーが現状装備している杖の正式名称は恐らく形状からして〈ねじ巻きの石杖〉であろう。安直なのか微妙に判断し辛い名前を付けられて石杖も咽び泣いているのではないだろうか。
そして分かった事がある。このプレイヤー、マリーは俺やムサシと大差の無い感性の持ち主であるということだ。つまりろくでもない事にこだわりを持つプレイヤーだと言う事だ。俺としてみたら好ましいのだが、他のプレイヤーからして見ればキワモノとして映るのだろう。
「……ま、まぁその……。自分でもおかしいとは思いますが……。ナギさんもこう言ったプレイヤーは嫌……ですよね……」
しゅんと項垂れてるマリー。やはり自身の在り方に少しは可笑しさを感じてはいたようだ。
だからこそ、疎外感を感じている。自分自身が変なこだわりを持っているからこそ避けられていると思ってしまっているのだ。今回の噂話の件も相まって、パーティーを組む事もダンジョンも攻略出来ないのも自身の責任として感じてしまっているわけで。
確かに余りにも協調性の無い、あるいは他者に迷惑を掛けるこだわりは忌避されるだろう。ペナルティを受けステータスが下がり、他者の足を引っ張ってしまっているプレイヤーは、残念ながら拒絶され続けても仕方が無い。
だけど――――。
「いやノリで突っ込んじまったが、俺は嫌じゃねぇぞ。むしろ面白い感性だと思うぜ」
これはゲームだ。オンラインである以上は他のプレイヤーに迷惑を掛けてはいけないが、だからと言って自分の趣味嗜好を抑え込んでプレイするのは間違っていると思う。ゲームである以上は誰でも自分なりに楽しんで良いのだし、自分なりのプレイスタイルで遊んで良いのだ。少なくとも、俺はそう思う。
「ペナルティを受けたままのプレイヤーが地雷扱いされたって仕方がねぇ。だけど、武器に愛着が沸くのは自然の事だ。何も可笑しいところは無いさ」
むしろVRという五感で全てを感じ取るこの世界ならば、自身が実際に手に取る武器に愛着が沸くのは普通であろう。流石に名前を付ける程かは疑問ではあるが、それは人それぞれであり簡単に否定して良いものでは無いのだ。
俺は姿を隠す為に、そして騎士に憧れたから全身装甲の装備を身に纏った。マリーは武器が気に入ったから手に取った。それだけの話だ。
「あ……ありがとうございます。……やっぱりナギさんは優しいお方なんですね……」
「慈愛と屁理屈と突っ込みを合わせ持った騎士、それが俺だ」
「うふふ……冗談もお得意なのですね……」
さらりと毒を吐きつつ微笑むマリー。どうやら気分は持ち直せたようだ。せっかく知り合ったプレイヤーなのだ、落ち込まずに楽しんでプレイして貰いたいものだ。
さて、とは言えいくら言い繕っても俺とマリーが【装備重量制限】のペナルティに引っ掛かっているプレイヤーなのは変わらない。噂の効果も合わさって、いつまで経ってもソロでダンジョンに挑み続けないといけなくなるだろう。
俺達が地雷プレイヤーから脱却するにはペナルティを解除するしかない。装備を変えるつもりは無いので、実質的にステータスを上げて【装備重量制限】の上限を上げるしか無いだろう。その為にはレベルを上げる必要があり、レベルを上げるには第一のダンジョンをクリアーして第二のダンジョンでの経験値稼ぎが必要となる。
ソロ脱却の為にはソロでは突破不可能なダンジョンを攻略しないといけない。一見すると矛盾に満ちた行為だ。
けれど一つだけダンジョンを突破する方法がある。その為には目の前のマリーの協力が必要となる。
「……なぁマリー。ダンジョン攻略で悩んでいるんなら、相談があるんだけどよ」
「……相談? 悩んでいる側の私にですか……? 私が出来る事ならば何でも言って下さい。力になりますよ」
これはある意味賭けだ。マリーを巻き込んでの賭けである。正直、これ以上の悪評を纏いたくは無いし、マリーに被害が及ぶのも嫌なのだが、共に第一のダンジョンをクリアーしていない者として手を組みたいのだ。
まぁ簡単に言ってしまえば。そう難しい話では無く。
「ーー俺と一緒にパーティー組んで、ダンジョン攻略に行かねぇか?」
題するならば『悪質な噂の被害者同士、手を組んで見返してやろうぜ作戦』。
とどのつまり、二人の力を合わせてダンジョンを踏破してやろうという話だ。
ちょっと中途半端ですが、長くなりそうなので一度区切ります。
次回はいよいよ本格的なダンジョン攻略になりますよ。多分(えっ