第七話 順調とは言えず
今回はダンジョンに挑む話です。新キャラは出ません(モブキャラは除く)。
誤字、脱字がございましたらご報告をお願いします。
高圧的なプレイヤーを女性魔法使い・マリーと共に討伐してから一週間が経過した。
その間、俺はひたすらにレベル上げ、資金稼ぎ、素材収拾に没頭した。クエストも出来るものから片っ端にクリアーしていき、防具は騎士鎧のままだが武器をワンランク上の物に買い換えた。
ムサシとは相変わらず別行動中である。俺もムサシも【孤独なる勇猛】を取得する事ができたが、つぎの上位スキルである【天下無双】を取得する為になるべくソロでモンスターを討伐するようにしているからだ。まぁ、たまには二人で気分転換にパーティーを組むこともあるが。
そうしてレベルを上げて、このVR世界にも十分慣れたので。
この度、ついにダンジョンに挑むことにしたのだった。
「前回はそもそもダンジョンに挑む前に〈ビッグベアー〉にやられちまったが、今日はそうはいかねぇ。レベルも5になったしな!!」
『フラグ建設乙っ!!』
「うるせぇよ! そりゃまだ【装備重量制限】のペナルティを食らってるせいで鈍足だけどさぁ! 〈スターブルーウルフ〉ぐらいならソロで狩れるようになったんだぜ、俺!」
『いやそれ、むしろレベル3もあればソロでも狩れるモンスターだぞ。レベル5にもなって威張るようなモンスターじゃないから』
「マジで……? 〈ビッグベアー〉程じゃなくても、あんだけ強かったのにか!? 《神世界アマデウス》のモンスターって恐ぇ……」
ムサシと〈インスタント・メッセンジャー〉で会話をしながら、俺は前回行こうとして行けなかったダンジョン――――〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉にへと向かっていた。
最初の街より東に歩いて、中継地点の村を越えた先に、広大な森林地帯が存在する。キノコと巨大な樹木が入り雑じり乱立する、迷路の如く道が曲がりくねっている内部構造。それこそが〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉だ。
「ダンジョンの中はβ版の時と同系統のモンスターが出てくるんだっけ?」
『正確にはワンランク上の同系統モンスターが出現する、だな。例えばβ版は〈クロガネクワガタソルジャー〉ていうモンスターが出現したが、製品版だとソイツはフィールドに出現するモンスターになっているんだ。で、代わりに上位種である〈シロガネクワガタソルジャー〉が出現するようになった』
「どう違うんだ?」
『攻撃力と防御力が上昇。加えて攻撃パターンに【防御体勢】からの【反撃の一閃】が追加されたから、迂闊に攻撃するとクソ痛い一撃を食らうぞ』
《神世界アマデウス》が開始してから一週間が経ったおかげで、ダンジョンの攻略情報とかが充実し始めているのだ。プレイヤーの中には第一のダンジョンを攻略し終わって、もう次のランクのダンジョンに挑んでいる者もいるらしい。そうした情報を活用してダンジョン攻略に挑むつもりだ。
……まぁ、情報を活用しないといけないぐらいに遅れているわけだが。最前線のトッププレイヤーから置いていかれ、情報も出揃ってからやっとダンジョンに向かう自分自身の力量の低さに凹んでしまう。
「はぁ……。ここまで出遅れちまうなんてな……」
『《騎士型》の宿命だな。防御重視のステータスだからどうしても経験値稼ぎとかの効率が落ちちまうんだよ。アタッカーのプレイヤーとパーティーを組めば話は違うんだが……』
「【孤独なる勇猛】を取得する為にソロプレイばっかしていたツケがこんなにもデカイとはな……」
《騎士型》は大抵のモンスターの攻撃を弾いてしまう程の防御能力を持つが、代償としてSPDが低い。つまり、全体的な行動速度自体が遅くなってしまうのだ。故にモンスターを倒してから次のモンスターの所まで移動するのにも時間が掛かり、経験値取得効率は全【クラススタイル】中最低値となってしまうのだ。
加えて、俺はまだ【装備重量制限】のペナルティがある状態なので、更に輪に掛けて鈍足なのだ。最初は楽観視していた俺もみるみる間に他のプレイヤーに引き離されて、盛大に焦り始めたのだ。
「騎士鎧を買った事は後悔しないけど、それでもずっとペナルティを食らいっぱなしだと堪えるなぁ」
『お前のVITの上昇率なら、レベルを後5ぐらい上げれば問題無いんだが、その為にはダンジョンでのレベル上げが必須となるぜ。経験値効率的な意味で』
「ダンジョンに挑む前に【装備重量制限】を解除したかったんだけどな。思った以上に騎士鎧の重量が……」
強力な武具にはリスクがある。ノリで選ぶと大変な事になる。今の自分を省みて、俺は深く納得した。今まさに大変な状態になっているからだ。
しかし、冷静に考えてみれば、そんなに悲観的になることもない。ダンジョンに挑む推奨レベルは達成しているわけだし、騎士鎧という頑強な防具も装備しているのだ。後はダンジョンに慣れれば、十分にクリア可能なのではないだろうか。
『そうだなぁ。せめてソロじゃなければ第一のダンジョンぐらいなら突破出来ると思うぞ。〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉は特に攻撃力の高いモンスターもいないから、お前の防御力なら大したダメージは受けないし』
「……ソロだったら?」
『モンスターに囲まれてフルボッコ。急所攻撃食らって即死。状態異常ダメージをちまちま受けて何れ力尽きる』
「大体の死亡パターン網羅しちゃってんぞ!?」
現実は甘くはないということか。いやVR世界だけど。
「つーか、お前付いて来てくれよ!! ダンジョン攻略ぐらい一緒にやろうぜ!?」
『【天下無双】が欲しいねん……! 直ぐにでも欲しいねん……! だから嫌です』
「面倒臭がってねぇか!? 一人だけさっさと第二のダンジョンに進みやがってよぉ!!」
『モンスターは変わっても内部構造やボスβ版から変わってないからな。楽勝楽勝――――というか、そんだけ遅れてんのは自己責任だろうが! オレの忠告を無視して騎士鎧を買ったのはどこの誰だよ!』
「それ言われると俺は何も言えなくなりますねぇ……」
自業自得なのでムサシに同行を強要は出来ない。ムサシだって早く【天下無双】を取得したいだろうし、欲しいアイテムがあるわけでもないのに何度も同じダンジョンに入りたくはないのだろう。
結局のところ、ムサシの【天下無双】の取得を待つか、ソロでダンジョンに挑むかの二択しかないのだ。そして時間が惜しい現状ならば、ソロで挑むの選択肢を選ぶしかないわけで。
『…………あー、あれだ。SPDはともかく、お前は立ち回りの巧さと反射神経の速さはずば抜けてるんだ。ダンジョンに慣れさえすれば、レベル上げはソロでも出来ると思うぞ』
「クリアーするのはお預けですかね…………」
『《剣士型》や《魔法使い型》ならまだしも《騎士型》の鈍足状態じゃあなぁ』
鈍足状態でなければ、あるいはソロでなければ、第一のダンジョンの攻略は十分に可能である。つまり、騎士鎧を脱ぎ捨てて【装備重量制限】のペナルティを解除するか、誰でも良いのでプレイヤーを誘ってパーティーを組めば問題は解決するのだ。
けれど、せっかく購入した騎士鎧を手放したくはない。というか手放してしまったら、隠しているアバターの顔が露出してしまう。この女顔をフルフェイスヘルムで隠す為に騎士鎧を装備したのに、ペナルティを受けた程度で脱ぐ訳にはいかないのだ。
ならばもう一つの方法である「別のプレイヤーとパーティーを組む」を取るしかないのだが――――。
「おっ。中継地点の村が見えて来たな。……村の入り口にプレイヤーが集まってるけど、ダンジョンに挑むパーティーか?」
『なら丁度良いじゃねぇか。話し掛けて加えて貰えよ』
「そうだな……。ごますりして頭を下げながらお願いしたら、ワンチャンあるかも……」
『プライドないのかお前!?』
ムサシと話しながら歩き続けていたら中継地点の村に着いた。本来ならここでHPを回復したりアイテムを補充したりするのだが、元から準備万端の俺には必要の無い行為だ。そのまま〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉に向かっても問題無いだろう。
それよりも、村の入り口に三人のプレイヤーが集まっているのが見える。斧を装備したプレイヤー、弓を装備したプレイヤー、銃を装備したプレイヤーの三人組だ。恐らく、ダンジョンを攻略しようとするパーティーだろう。
「おーい、そこのプレイヤー三人組! 今から〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉に向かうのか?」
ムサシの助言の通り、仲間に入れて貰えないか交渉してみることにする。見たところ前衛が一人しかいないので、タンク(壁)役としてなら《騎士型》の俺を入れて貰えるかも知れない。
「ん…………? あぁ、そうだけど?」
「俺も攻略に行くところだったんだ! 良かったらパーティーに入れて貰えないかな? タンク役でも攻撃役でも何だって出来るぜ」
本来なら確実にダンジョンを攻略する為に、パーティーメンバーを増員できることを喜ぶはず。見ず知らずの他人とは言え、オンラインゲームなのだから即興でパーティーに加えるのには抵抗はないはずなのだ。
だが――――三人組は俺の全身をざっと目視してから、渋った表情で尋ねてきた。
「……君、もしかしなくても《騎士型》?」
「おう! 防御力と咄嗟のガードには自信があるぜ!」
俺が答えると三人組は互いに顔を見合わせて、何かしら頷きあった。そして斧持ちのプレイヤーが代表で返答する。
「あー……。悪いけど、僕らはこの三人で攻略するつもりなんだ。パーティーのバランスとかもあるし、君を加える事は出来ないんだ」
「あ…………そ、そうか。そりゃ仕方ないな……」
あっさりと断られてしまった。結構自分の長所をアピールしたつもりだったのだが、相手方には不要なものであったようだ。
「ごめんな~、盾役は今必要無いしな~。今回は縁が無かったということで…………」
「んじゃな。すまないが、別のパーティーを探してくれよな!」
そうして三人組はそそくさと、まるで逃げるようにダンジョンへと向かっていった。まだ話したい事や訊きたい事もあったというのに、せっかちなプレイヤー達である。
というかそもそもの話だが――――。
「なぁ……。気のせいかも知れないが、俺がパーティー申請を断られるの、これで五回目じゃねぇか?」
「何言ってんだ。気のせいに決まってるだろ? ――――オレが断ったのも含めて六回目だよ」
「悲しくなるから含めてんじゃねぇよ!?」
実はパーティー申請を断られるのはこれが始めてではないのだ。ムサシとパーティーを組む事が出来ないと分かった後に、最初の街にいるプレイヤーに何人かパーティー申請をしたのだが、何故か全部断られたのだ。余りの拒絶っぷりに、そのままログアウトして自室で体育座りでもしようかと本気で悩んだほどだ。
プレイヤー達のほとんどが、俺が《騎士型》かどうかを確認した上で断ってきた。何の【クラススタイル】かを尋ねたわけではなく、《騎士型》かどうかを尋ねてきたのだ。とどのつまり、俺が《騎士型》だったから断ったという事になるわけだが――――。
「なんなんだよ……。《騎士型》はパーティーに加えると呪われるとか、そんな噂でも流れているのか?」
『聞いたことねぇけど、確かに妙だな…………。防御力の高い《騎士型》を入れればタンク役として使えるのに、なんで全員が全員《騎士型》を毛嫌いするんだ?』
それぞれのプレイヤーの理由は様々だ。バランスかどうとか、壁役はいらないとか、リアル友達のみでやりたいとか、ソロで狩りたいとか。真っ当かつ自然な理由ではあるものの、どうにも断る際の態度がおかしかった。
恐らく断りの理由は全て建前なのだろう。何かしら俺やムサシが知らない、そして《騎士型》のプレイヤーに面と向かって言えない、本当の理由を隠しているのだ。あくまでも予想の域から出ない考察ではあるが…………。
『まぁ答えの出ない事で悩んでいても仕方ねぇよ。オレのスキルレベル上げが一段落したら一緒にパーティー組んでやるから、今はソロでダンジョンに挑むんだな』
「そうだな……。それしかないか」
いくら悩んでも意味が無い。俺がやるべき事はダンジョンを攻略して最前線のプレイヤー達に追い付く事だ。パーティーが組めないのなら、地獄のような難易度になろうともソロで挑むしかないのだ。
「やるしかねぇよなぁ! どうせレベル上げもダンジョンで行うしかねぇんだし、他にやることも――――というか出来る事もねぇ! 今は孤独だろうが突き進むのみだぜ!」
『おう! その意気だぜ! と、そろそろ時間だな。一度通信切るわ。何かあったら連絡してくれ』
「あぁ、分かった。また後でな」
ムサシもムサシでスキルレベルを上げに向かったようだ。ここからは本当の意味で、一人でダンジョンに挑まなくてはならなくなる。事前に攻略情報は仕入れて来たとはいっても、不安なものは不安である。
だが、怯む事はしない。臆するなんて真似もしない。この程度の難易度に後退する必要は無い。
「一人か…………。かつてどこぞの中学校の不良グループと争った時の事を思い出すな……」
中学時代の友人が卑怯な手で病院送りにされた時、怒りに身を任せて不良グループの溜まり場に特効を仕掛けて暴れた事があった。あの時はこちらもボコボコに殴られまくったが、最終的には不良のヘッドの鼻柱をへし折って勝利した。凄まじい逆境だったが、何とか仇討ちを達成出来たのだ。
その時に比べたら、まだ簡単で楽なものだろうか。薄暗くじめじめした森の中に一人で進んでいくだけなのだ。しかも武器も鎧もあるし、回復アイテムもある。怯える理由も逃げる理由も無いのだ。
「行くぜ〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉! もうすぐに到着して攻略してやるからよ!」
気合いを入れて俺は〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉に向かって歩き出した。中継の村より少し歩けば、直ぐにダンジョンに辿り着く。俺が挑むべき壁はもうじき姿を現すのだ。
一人で歩きながらも、俺は悲観する事無く進んで行くのであった。
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が、やはり現実は甘くなかった。
どれだけ気合いを入れても、どれだけ準備万端にしても、やられる時はあっさりとやられるものなのである。
「くぉぉぉ!? 〈ヴェノムニードル〉二体に〈ブラックウルフ〉一体が奇襲掛けてきやがった!? せめて一体ずつ来てくれませんかねぇ!?」
薄暗い森の中に入って二分ぐらいで早速モンスターと遭遇してしまったのである。しかも巨大なキノコの影から〈ブラックウルフ〉が奇襲を掛けてきたのだ。初撃をモロに食らっていきなりダメージを受けてしまったのだ。
敵は攻略サイトで確認したモンスターだ。毒のトゲを飛ばしてくるサソリ型モンスター〈ヴェノムニードル〉二体と、急所攻撃が得意の〈ブラックウルフ〉の構成である。どちらも本来なら大した事のないモンスターらしいが、SPDの遅い俺にとっては〈ブラックウルフ〉は鬼門となるのだ。
「ヤベェ! まずは〈ヴェノムニードル〉から距離を取ってトゲ攻撃の範囲外に出ねぇと……」
『――――――――!』
俺が大楯を前面に構えつつ後退しようとすると〈ヴェノムニードル〉は形容し難い奇声を上げて尻尾のトゲを飛ばしてきた。トゲには紫色の液体が掛かっており、いかにも毒々しい見た目であった。あのトゲに直撃すれば毒の状態異常になってしまうだろう。
「クソっ!」
大楯でトゲを弾く。威力は大した事はないようで、ダメージは入らなかった。また直撃ではないので毒状態になることもなかった。
しかし、俺が〈ヴェノムニードル〉の攻撃に気を取られている間に〈ブラックウルフ〉が俺の側面にへと移動する。そして大楯が無い方向より飛び掛かってきたのだ。
「うお!?」
咄嗟に身を屈めて〈ブラックウルフ〉の攻撃を回避する。俺の頭上を通り過ぎた〈ブラックウルフ〉は華麗に反対側に着地して、こちらから距離を取った。
「あーー! 面倒だなぁ! 〈ブラックウルフ〉のAIが優秀過ぎるだろうが! コイツ、本当に雑魚モンスターなのかよ!?」
側面に回り込んでの奇襲に、攻撃が失敗したら距離を取って仕切り直すところと言い、単純な行動しかしないフィールドのモンスターに比べて随分と器用に立ち回るのだ。犬や狼は頭が良いと聞くが、敵として相対するとその賢さが厄介に思えてくるのだ。
〈ヴェノムニードル〉自体はただトゲを飛ばしてくるだけだが、遠距離から一方的に攻撃され続けるのも煩わしい。しかも毒の攻撃なので騎士鎧の防御力に頼ってゴリ押す事も難しいのだ。
前からは〈ヴェノムニードル〉のトゲ飛ばし攻撃。真横からは〈ブラックウルフ〉の奇襲攻撃。これをソロで捌くのは確かに骨が折れそうだ。
「〈ヴェノムニードル〉は後回し! 足が遅いから直ぐに攻撃範囲から逃げられるはずだ!」
何度もバックステップをして一気に距離を取る。〈ヴェノムニードル〉は俺との距離を詰めようと動き始めるが、その動作はもそもそと遅くて欠伸が出そうであった。攻略サイトの情報通り、確かに〈ヴェノムニードル〉は毒のトゲにさえ気を付ければ問題無く処理できそうだ。
「そして――――掛かって来いや! 一対一なら負ける気はしねぇぞ!」
次は〈ブラックウルフ〉を相手にする。このモンスターを素早く倒さないと〈ヴェノムニードル〉が追い付いて来てしまう。幸いにも〈ブラックウルフ〉自体の耐久力は低いはずなので、一対一ならば倒すのは難しくないのだ。
倒すのは難しくない……はずないのだが。
『グオォーーーン!』
「うぉ!? 早っっ!?」
やはり【装備重量制限】を食らっている身としてみれば、素早く的確にこちらの急所を狙ってくるモンスターは強敵となるので。
ぶっちゃけて言えば、攻撃を防ぐのが手一杯になる程のスピードに翻弄されて、倒す事は愚か反撃すら満足に行えないのだ。ちょこまかと動き回る〈ブラックウルフ〉に両刃剣を振るっても簡単に回避され、僅かにでも隙を見せれば飛び掛かってくる。
そうやってモタモタしていると〈ヴェノムニードル〉が追い付いて来て容赦なく毒のトゲを発射してきて。
「ちょっと待て! えーと、毒のトゲ防いで距離を取って〈ブラックウルフ〉の攻撃を避けて反撃して…………やることが多過ぎる!?」
と、泣き声を言ってもモンスター達は手加減などしてくれない。毒のトゲを殺意を込めて発射し続け、鋭い牙を殺意を込めて喉に突き立てようとするだけなのだ。
あちらからこちらから迫りくるモンスターにずっと惑わされ続け、目が回る勢いで戦闘をこなし。
勿論、そんなに器用でもない俺がずっとノーダメージで戦い続ける事も出来ずに、少しずつダメージが蓄積していって。
そして、やがて――――。
「おりゃあああああああ…………って、アレ?」
〈Your are dead〉
気が付いたらHPがいつの間にか空っぽになって、あっさりとキルされていたのだった。多分、知らず間に食らっていた毒の状態異常によりダメージが死因である。
視界に浮かぶメッセージを呆然とした気持ちで眺めていたのだが、やがて言葉を絞り出して言う事が出来た。
「いや、いくら何でも難し過ぎやしませんかね?」
それは俺が心の底より絞り出した、嘘偽りの無い挫折の言葉であったのだった。
次回はプロローグより後の話になる予定です。
〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉のモンスターに何度も倒されるナギ。攻略が難航する彼の前に、救世主が降臨するのか?