第六話 プレイヤー同士のいざこざ・その二
プレイヤーとの対決、戦闘編です。描写がきちんと著すことが出来ているのか心配です。
誤字、脱字がありましたらご報告をお願いします。
《神世界アマデウス》におけるPVPとはどういうものなのか。
簡単に説明すれば『ルール無用の喧嘩』である。そもそもの話、《神世界アマデウス》ではプレイヤー同士が決闘するというシステム自体が存在しない。パーティー内外に関わらず、プレイヤーからプレイヤーに対する攻撃行為は有効とされており、街の中といった拠点内でのみ攻撃は無効化されるのだ。故にフィールドやダンジョンであるのならプレイヤーはプレイヤーに攻撃を仕掛けても(システム的には)問題は無いので、これを利用して決闘染みた行為ができるのである。
明確なルールがあくまでプレイヤー間の口約束でしか成立しない以上は、こうしたPVPは二極化する定めにある。則ち一対一の純粋な力比べか、プレイヤーキラー(通称PK)としてプレイヤーから戦利品を奪う単純な山賊行為かだ。
プレイヤーはプレイヤーのキルに成功すると、討伐した者の所持金を半分取得できる。実力者であるならばモンスターを狩るよりも効率的にGを稼ぐ事が出来るのだ。尤も経験値は手に入らないので全体で見れば旨味は少ないのだが。
今回の場合、男はプレイヤーをキル――――俺や女性を倒して所持金を奪う為にPVPを仕掛けてきた。俺は男のそんな態度が気に入らないので喧嘩を買い取った。凄まじい程に暴力的かつ短絡的な理由で争うわけだ。
しかし、何度も言うようだが分かりやすくて良い。勝った方の言い分がまかり通るというのは当然の事だと思うし、無駄な言い争いをし続ける必要も無い。話の通じない相手には拳(今回は剣)をぶつけるしかないのだ。
「くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だからこそ戦う。だからこそ争う。目の前の男の理不尽な主張を否定する為に、女性を助ける為に俺は男を打ち倒すのだ。
男は大上段に構えた大剣を力の有らん限りを持って振り下ろす。鋼鉄の刃が圧倒的な膂力で迫り、俺の体を二つ割りにせんと牙を剥く。
「はぁっ!!」
だが、相手が攻撃重視の【クラススタイル】ならば、こちらは防御重視の【クラススタイル】。
大振りの大上段故に見切り易い攻撃を、俺は慌てずに大楯を持って防いだ。かなりの衝撃が左腕を貫くが根性で踏み留まった。
傍目で自身のHPを確認する。きちんと大楯で攻撃を凌いだ為か、HPは全体量の10分の1程度しか減少していなかった。
(だけど、逆に言えば十回攻撃を受けたらアウトってわけでもあるな)
しかも完璧にガードしてこのダメージだ。直撃ならば大きくHPは削られてしまうだろう。それにこのまま守備に徹していても勝機は無い。どこかで攻めてダメージレースで優位に立たなくてはならない。
「だぁりゃあ!!」
大楯で攻撃を防ぎ切ったので、相手の動きが一瞬だけ止まる。その隙を突いて両刃剣をお返しに突き出した。
「ちっ……!!」
男は身を捩り両刃剣から逃れようとしたが、完全には避けることが出来ずに脇腹に刃がヒットした。男のHPも少しだけ減少する。
(浅いか……! もっと素早く的確に狙わねぇと大したダメージにはならねぇな……!)
HPの量は互いに同じく位。与えるダメージは相手の方が僅かに上回っている。このままではいずれは押し負けてしまう。
「はぁっ!」
「うおおおおお!!?」
俺は追撃を仕掛ける。大楯を突き出して相手の体を弾き飛ばし、体勢が崩れた所に両刃剣を横殴りに叩き付ける。男はこの攻撃には対応し切れなかったようで、再び脇腹が両刃剣に斬り裂かれた。
ググンッと大きく減少するHP。内心で俺はガッツポーズを取った。ダメージレースで男よりも優位に立てたからだ。
「くそ……! この野郎!!」
悪態と共に男は数歩後退して距離を取った。一度身を引いて仕切り直したようだ。
大剣を今度は中段に構えて腰を落とした。次は突きの攻撃を繰り出して来るのだろうかと思い、俺も腰を落として大楯をがっちしと構える。
「てめぇ、素人じゃねぇな!! 対応や反撃が速すぎる! リアルで剣道でもやってます系か!?」
「お前が単調かつ単純なだけじゃねぇのか!? 大振りの攻撃じゃあ《騎士型》の防御は突破できねぇぜ!!」
昔とった杵柄とはこういう事だ。中学時代の喧嘩経験が活きている。殴り慣れ殴られ慣れ、戦い慣れ挑み慣れているから、あの男よりも一歩先んじて攻撃や防御が出来ているのだ。
とは言うものの、それはあくまでリアルの話。《神世界アマデウス》という剣と魔法のファンタジー世界で、どこまで通用するか分からないものだ。現に男はHPで大きく差を付けられたというのに、余裕のある表情でニヤケている。
「はっ! ほざいてろ、ゴミ野郎が! 賢い確実な戦い方ってのを教えてやるよ!!」
その言葉と共に男は再びこちらに突進してきた。大上段の構えではなく、大剣を突き出したままの攻撃だ。リーチの差を活かして反撃を受け付けない間合いから攻め立てる気なのだろう。
(正面から受けるのは不味いな。大楯で突進の軌道をずらして受け流す!! その後に反撃だ!!)
スピードでこちらが大きく劣っている以上、相手に先手を取られるのは仕方ない事だ。下手にこっちから動き始めると、逆に手痛い反撃を食らう羽目になる。
ここは防御を主として反撃のタイミング待つしかない。専守防衛、守備をきちんとしていれば余計なダメージを受ける事はない。
――――――はずなのだが。
「バカが、引っ掛かりやがって!!」
男は俺に大剣をぶつけるーー直前に真横にスライドし、俺の隣をすれ違うように通り過ぎていったのだ。
「なっ――――――――!!?」
大楯を構えて守備に徹していた俺は、男の突然の行動に対応仕切る事が出来ずに一歩遅れてしまった。
男が俺を無視して向かった先に居たのは、俺達のPVPを見守っていた女性であった。
「えっ……!?」
「あの野郎!?」
確かに《神世界アマデウス》のPVPに明確なルールは無い。だからといって目の前の敵を放っておいて傍観者を狙いに行くのは、いくらなんでも常軌を逸している。反則とかそんなレベルの話ではない。
確かに男の目的は女性から金を奪い取る事だ。それは女性をPKしても達成できる事ではあるが、しかし、俺という障害すら避けてまで先に女性を狙う理由が分からない。
(いや、単純に面倒臭くなっただけか! 俺を倒してから女性の金を奪うなんて真似をしなくても、女性のみを倒してから逃走するつもりか!)
あくまで俺から金を奪うのはオマケでしか無いのだろう。むしろ俺に敗北してデスペナルティを受けてしまえば、オマケ以上に大損害である。だから俺と戦わずに女性だけから金を奪って、取り敢えず最初の目的のみを遂行しようと決めたのだろう。
慌てて反転した男の背中を追い掛ける。だが、先んじて走り出していた男に追い付く事は不可能。特に俺は《騎士型》という鈍足タイプな上に【装備重量制限】のペナルティも受けているのだ。俺が男の背中に刃を突き立てるより早く、男が女性を大剣で切り裂く方が早いのは明確である。
「余裕ぶっこいてるからこうなるんだよ!! わざわざ正義面して護りに来てお疲れ様でっす!! そんなてめぇの前で女をぶっ殺してやるぜぇぇぇぇぇ!!」
「ーーーー!」
女性は悲鳴を上げる事すら出来ない。暴虐の災害が如く襲い掛かる男の前に茫然と立ち尽くす事しか出来ないのだろう。
問答無用で女性は狩られてしまう。時間は止まらず、奇跡も起きず、男のまさかの行動に呆気に取られたまま、為す術も無くその身体を大剣で蹂躙される――――。
「両刃剣を相手の背中に投擲!!」
しかし常識から外れても良いのなら、こちらにも考えがあるのだ。
走って追い付かない距離は別の手段で埋めれば良い。具体的に言えば、両刃剣を男に向かって全力投擲したのだ。高速回転しながら猛スピードで両刃剣がすっ飛んでいき――――。
「ぐおわっ!?」
見事に男の背中を斬り付けつつ直撃。ダメージは大して与える事が出来なかったものの、背後より受けた衝撃によって男は無様に地面にへと転がり込んだ。
いくら足の速さで差があるとしても、これだけの時間があれば追い付ける。俺は倒れ伏す男に追い付き、そのままの勢いで背中を踏み抜いて追い越した。
「べぎゃっっ!? てめ、今俺を踏み潰しやがったな!!」
「すまんな! 悪気はなくわざとだ!」
「悪意有りまくりじゃねぇか!? ぜってぇ赦さねぇ!! 痛め付けてぶっ殺してやる!!」
女性を背後にぴったりと隠すように庇い、跳ね起きた男と再び相対した。
分かった事があるが、この男はかなり強気なようで不利な状況では直ぐに戦いを避ける慎重な性格のようだ。即ち根本的な部分ではチキンなのだろう。
決してリスクは犯さない、確実かつ一方的な戦闘を好むタイプ。堅実だと言えば良いが、その実戦い自体は余り得意では無い。現に初心者である俺との戦闘すらも避ける程だ。普通に戦えば俺がなんとか勝ち越せるだろう。
――――だが、俺は圧倒的に不利な状況に立たされてしまっている。このままでは勝利を掴む事は不可能に近いだろう。
「あの……あ、ありがとうございます。また護って戴いて……」
「別に構わないさ。つーか俺を無視しやがったアイツが全面的に悪い。いきなりアンタを狙うなんて、ホントに男の風上に置けねぇ奴だぜ」
一つは背後にいる女性の存在だ。男が勝負を度外視して女性を狙う可能性がある以上、俺は彼女から離れる事が出来なくなってしまった。これでは反撃を狙う事すらままならない。別に俺が勝手に護っているだけであり、女性が悪いわけではないが、かなり厄介だ。
加えてもう一つ。重要度としてはこっちの方がヤバイ。
「けど、私のせいで武器が……」
そう、武器が手元から無くなったのだ。言わずもがな、男に向かってぶん投げたからだ。現在、両刃剣は男の背後に転がっており、回収は不可能だろう。あの慎重チキン野郎がこのチャンスを見逃す事が無い。
「最悪素手でどうにかする。鼻っ面と肝臓、鳩尾あたりを集中して狙えば、一分と持たずに沈むだろうよ」
「けれど、相手はリーチの長い大剣を持っています。……懐に入り込むのは難しそうです……」
意外に的確かつ鋭角な指摘である。だが事実だ。強がってはいるものの、あのリーチの差を埋める手段が見つからない。現実の身体なら武器を持った相手とも戦い慣れているから問題無いが、身体が異常に重くなっている現状では男の懐に入り込むのは至難の技と言えるだろう。
「なぁにダベッてんだ? 余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ、カス共ぉ!!」
しかも男も考える時間を与えないらしい。此方に突進して大剣を横凪ぎに振るってきた。
「クソッ!!」
大楯で大剣を弾く。しかし反撃が出来ない。攻撃しようと踏み出そうとすれば、それよりも早く次の攻撃が飛んで来るのだ。防御に精一杯で攻撃に転じる隙が無い。
大楯を駆使して大剣の攻撃を防ぐ、防ぐ、防ぐ。上から斜めから横から前から――――ありとあらゆる方面からの斬撃を受け止めては弾く。
(このままじゃ不味い……!! なんとかして反撃しねぇといずれ押し負ける!!)
「どうしたどうした!? ゴミ野郎はゴミらしく、無惨に切り刻まれてりゃいいんだよ!! ゴミが人間様に刃向かうからこんな目に合うんだぜ、ボケがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
苛烈さを増して行く攻撃の嵐。少しずつこちらのHPが削られていく。もう三分の一程度しか残っていない。後一分足らずで俺のHPが全損してしまう――――。
『火炎よ。外敵を貫く一矢と化せ!!』
不意に。
俺の背後よりそんな言葉が聞こえた。
「何!? ぐおぉぉぉ!?」
そして背後より火炎が飛翔し、男に直撃した。爆発と共に男の体は大きく吹き飛んだ。俺は大楯で衝撃を防いで無事であった。
またも無様に地面に転がる男。その体からは黒煙が上がり、熱量によってダメージが発生したことが分かる。事実、男のHPは大きく削れているのが確認出来た。
「今のは……魔法攻撃か?」
詠唱を唱える事で様々な現象を巻き起こす力。RPGにおいてはメジャーであり普遍的なファンタジーの象徴。それこそが魔法である。
《神世界アマデウス》において魔法を主力として使える【クラススタイル】は唯一つだけ。背後に存在する女性のクラス《魔法使い型》のみだ。つまり、今の魔法を放ったのはーー。
「すみません。勝手ながら手を出させてもらいました。初期魔法の一つである〈爆裂する一矢〉……魔法防御力が低い《戦士型》なら十分にダメージを与える事が出来たはずですが……」
やはり、今まで俺達の争いを見守っていた女性であった。男が攻撃に集中している隙を突いて、攻撃魔法を放って援護してくれたのだ。
「クソカス女ぁぁぁぁ……!! 大人しくしとけばいいのによぉ!! また俺の邪魔しやがるのか!? てめぇにその権利があると!?」
「権利はありません……。けど、義務はあります。私のせいで武器を失ってしまったこの方の為に、私は代わりに貴方を攻撃させて頂きます」
「なんだと!?」
男が牙を剥いて怒るが、女性は敢えて無視したのか、気にせずに俺にへと話し掛けてきた。
「一対一の戦いを汚してしまってすみません……。けれど、元を正せばこの戦いは私の責任なのです。貴方が私の為にデスペナルティを受ける必要はありません……」
「いやまぁ、ぶっちゃけ援護してくれるのは有難いんだが……良いのか? 一応はパーティーメンバーだったんだろ?」
男が女性に狙いを付けた時点で一対一という形式は崩れた。不本意ではあるものの、女性が優先的に狙われているのなら、女性が反撃をしたって仕方ないだろう。先に手を出したのはあちらなのだし、俺と女性の二人掛かりで男と戦闘を行っても良心は全く痛みはしない。
だが俺は良いとして、女性はそれで良いのだろうか? 彼女は男の自分勝手な横暴ぶりこそ否定したが、自分にも非があったことは認めていたはずだ(俺からしてみれば、女性は全く悪くはないのだが)。男を攻撃するのに躊躇いはないのだろうか。
俺がそう尋ねてみると、女性は少し申し訳ないような表情をした。
「そう、ですね。確かにあの方には悪いとは思います。けれど、もう良いのです。……貴方に恩はあっても、彼方には恩がありません。どちらかの言い分しか通らないのならば、私は貴方を援護します」
「カスが!! 偉そうにしやがって…………!! 二人まとめて相手でも問題ねぇ!! 雑魚同士一緒に処分してやるよ!!」
女性は女性で考えを固めたようだ。基本的に優しく控えめな彼女にとって、あの男がいくら傍若無人の悪漢とは言え、引け目がある以上は攻撃するのは辛いのだろう。
だが、それでも戦うと決意してくれたのだ。どちらかが正しいかという話ではない、どちらかを援護すべきかを考えてくれたのだ。俺が彼女を庇って武器を失ったから、代わりに自らが攻撃役になると進み出たのだ。自分のやるべき事を恐れながらもやろうとしているのだ。
「……オーケー、分かった。アンタ、名前はなんて言うんだ?」
「えっ? あ……〈マリー〉と言います……」
「よっしゃ! なら攻撃は任せたぜ、マリー。一緒にあのバカ野郎の鼻っ面をぶっ飛ばしてやろうぜ!」
ならば俺は彼女と共に戦うのみだ。男の威圧的かつ暴力的な性格を叩きのめす。二人であの男にプレイヤー同士の連携の重要性と強さを見せ付けてやろう。
「のろまのゴミと役立たずのカスが協力しても意味ねぇんだよ!!」
男が再び突進して来た。ただし、単純に真っ直ぐ突っ込んで来たわけではない。明らかに女性の魔法攻撃を警戒して、ややスピードを抑えつつ大剣を前面に構えて盾にしつつの突進である。
確かに魔法は詠唱が必要であり、例え序盤の下級魔法でも一言二言の詠唱を強いられる。なので連発して放つのが難しく、一度回避や防御をしてしまえば追撃が飛んで来ることは無い。男はその事を熟知して防御をしつつ接近しているのだ。
「魔法は高威力、高範囲がウリなんだろう!? ならそこのカスとピッタリ張り付いちまえばよう――――」
「下がっていろ、マリー!」
今度は至近距離より大剣を振るって来る。慌てずに大剣を大楯で防ぎ、身を引こうとしたが、男は前のめり気味に距離を詰めながら攻撃して来た。男から離れる事が出来ない。
「味方を巻き起まずに魔法を放つ事が出来るのかぁ!? 散々俺の邪魔ばっかしていた、ノーコンのてめぇがよぉ!!」
「うっ…………」
俺と男から距離を取ったマリーは、魔法を放つ事が出来ずに杖をこちらに向けたまま戸惑っていた。先程よりも俺と男の距離が近いせいで、魔法を放つと俺を巻き込んでしまうのだ。故にマリーは魔法詠唱を直ぐに行えるのに、詠唱をすることが出来ない状態に陥っている。
男の戦術は理に叶っている。HPが少ない現状では魔法ダメージは互いにとって致命傷となり得る。《騎士型》の俺であっても、男の猛攻によって大幅にHPを減らされている状態では、魔法ダメージに耐え切る自信が無い。短絡的な癖に変に頭が回る男である。
だが――――俺は慌てない。攻撃役がいる以上は勝ち筋が見えているからだ。
要は俺から男を突き放してからマリーが魔法をぶち当てれば良いのだ。そして、突き放すのは俺の役目だ。俺の仕事だ。
「マリー! 詠唱を始めろ!!」
「えっ……!?」
「良いから早く!!」
俺の叫びに一瞬だけ面を食らったマリーであったが、戸惑いながらも俺の要望通りに詠唱を開始した。
『火炎よ――――』
「バカが! 自爆特攻するつもりか!? この位置ならてめぇを盾にして防げるんだぜ!?」
男は余裕そうに言い放ち、大剣を大上段に構えた。強烈な一撃を加えて足止めし、その隙に魔法攻撃から逃れるつもりなのだろう。
だが、それこそが失策。その強烈な一撃を俺は待っていたのだ。
「さぁ――――行くぜ!!」
男の一撃が大楯にへと直撃する。渾身の力を込めて放った一撃は見事に大楯を押し返すが如く突き進み――――。
「――――――――あっ?」
そのまま男は前につんのめった。呆けた表情をして体勢を大きく崩す。
なんてことはない。大剣が大楯に直撃した瞬間、俺が大楯から手を離して真横に移動しただけの事だ。大楯を支えるべき力が無くなったから、男は勢いがついたままに前のめりになったのだ。
「そして、ぶっ飛べやコラァ!!」
「ぐごっ!?」
体勢を崩した隙を見逃す事は無い。容赦なく突かせて貰う。
中学時代に何度もやった我流の蹴り――――渾身のミドルキックを男の脇腹に突き立てる。体勢が崩れていた男は防ぐことすらままならず、無様にぶっ飛んでしまう。
そして、距離が大きく開く。
距離が開いたのなら後は任せるのみ。
「今だ! 思い切りぶちかませ!」
『――――外敵を貫く』
この距離なら巻き込む心配が無い。蹴りでふっ飛んだ男に魔法を回避することも出来ない。防御も間に合わない。その事に気付いた時には既に遅く。
「…………っ!! こんな……カス共に、俺がああああ!!」
『――――一矢と化せ!』
男は情けの無い断末魔を最後に。
マリーの放った〈爆裂する一矢〉と爆熱の中にへと消えていった。
爆炎が消えた後には何も無く、マリーの攻撃によって男はデスしたという事実のみが証明されたのだった。
「これがパーティーと連携し、協力するってことだ。次にパーティーを組もうとするんなら、他のプレイヤーとも歩調を合わせやがれ」
俺は大楯と両刃剣を回収しつつ、男がデスした場所に向かってそう吐き捨てたのであった。
「…………あっ…………。勝ったの……ですか?」
マリーは信じられないように呟いた。男に止めを差したという実感が沸かないのか、あるいは勝てると思ってもみなかったのか。どちらにせよ、若干戸惑っているようだ。
「あぁ、勝った! 大勝利だ。文句なしの勝利だ。見事にあのムカつく野郎の鼻っ面をへし折ってやったぜ!」
「…………あの方には悪いことをしてしまいました。本来なら私があの方に倒されるべきだったのでしょう……。すみません、名前も知らない方……」
「何言ってんだよ! こんだけの活躍をしたアンタを貶めていたんだぞ? やっぱり協力しようとも思ってなかったアイツの方が悪かったんだよ」
マリーは見事に魔法を使って援護してくれた。邪魔になるどころか、むしろ今回の戦いのMVPと言うべき活躍だった。彼女を邪魔者扱いしていたあの男がいかに彼女を蔑ろにしていたのかがよく分かる。
「……そう言ってくれると有難いです……。すみません、私の為にそんなに傷ついて……」
「えっ? あーいや、うん。俺は俺の勝手にやっただけだから。お礼を言う必要もないぜ。話をややこしくしちまったし……」
色々と熱くなってしまったが、冷静になって振り返ってみれば、俺もかなり自分勝手な行動を取ってしまっている。見捨てておけない出来事ではあったし、後悔はしていないのだが、いきなり割って入ってきた俺に彼女が礼を尽くす必要はないのだ。
しかし、俺の返答を彼女は首を横に振って否定した。
「いいえ。貴方が来てくれなかったら、あの方とは話し合いも出来ずに一方的に切り捨てられていたでしょう…………。そうなったら、私はこのゲームに恐怖感を持ち、止めてしまっていたかも知れません……」
「まぁ、それはそうかも知れないけど……」
確かにパーティーメンバーに一方的に怒鳴られて、挙げ句に斬り殺されたらトラウマになるかも知れない。そうしたらゲーム自体も嫌になって、離れる原因になっていたかも知れないだろう。
「だから私は貴方に感謝しています……。私を救けて下さり、ありがとうございました」
「……俺は女を痛め付けようとしてる、あの男が気に入らなかっただけだ。同じ男として許せなかったんだよ」
照れ臭くなってツンデレさんみたいな反応を取ってしまった。大人しい女性に感謝の言葉を言われたら、なんか気恥ずかしくなってしまったのだ。マリーはそんな俺に微笑みをくれた。
「……男らしい方ですね。格好良いです」
「うぉっ!? どストレートに告白とは勇気あるなぁ、アンタ」
「素直なのが取り柄と……周囲によく言われますので……」
大人しいように見えて意外と大胆だ。思春期真っ只中の俺にとって、割りと刺激がキツい。特に中学時代は硬派として女性とは無縁の生活をしていたので、倍率がドンと重なって凄まじい破壊力と化している。
「…………じ、じゃあ揉め事も解決したし、俺もう行くわ。じゃあな!」
「えっ? あ…………」
なんだか恥ずかしくなり過ぎて逃げ出してしまった。女性と仲良く出来るチャンスなのに何もせずに走り出すなんて……しかもスピード出ないし……情け無い限りだ。
「……行っちゃった……。名前、訊いておきたかったのに…………。ありがとうございました、騎士様……」
ふと後ろから何か聞こえた気がしたが、色々とこんがらがっていた頭では理解が出来なかったので、走る事のみに専念することにしたのだった。
しかし、本当に恥ずかしい事をしたな……。しかも最後はヘタレ丸出しだし……。
とにかく、こうして発生したプレイヤー同士のいざこざは幕を閉じたのであった。
余談だが、今回の事をムサシに話してみたら爆笑された。ムカついたので全力の右ストレートをぶちかましたのであった。
騎士なのに肉体言語を主体とする。そんな主人公です。
マリーにはまだまだ出番があります。というか美味しいところは全て持って行きましたね……。
次回は時間が飛びます。プロローグまでの話になる予定です。




