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神世界アマデウス  作者: 三神ノブノブ
第一章 神世界へようこそ
4/25

第三話 初戦闘は苦難の味

 すみません! 大変お待たせしました! 三話の投稿です!

 誤字脱字がございましたら、どうか報告をお願いします。


 防具屋で装備を整えた後、俺とムサシは道具屋に向かい回復アイテムである〈ポーション〉を買った。まぁ、残金が100Gしかないので大した数は購入できなかったが…………。


 その後は最初の街にある巨大な城――――〈クレーテー城〉へと足を運んだ。

 シナリオ設定上ではNPC女王である〈エウロペ〉が住まう城として説明されてあるが、ここではクエストの管理も行っているのだ。つまり、何かしらのクエストを受けたい場合は〈クレーテー城〉で受注するわけである。


「ここにあるクエストの内、特定のモンスターを一定数倒すだけで達成できる依頼を最初に受けておくんだ。報酬はささやかだが、経験値稼ぎしてるだけで勝手に依頼達成が出来るんだ。何度も受けれるし、フィールドに出る前には訪れておいた方がいいぞ」


 とムサシが言うので、いくつかのクエストを受注しておいた。どれも最初の街周辺で戦えるモンスター及びダンジョンに出現するモンスターを討伐するだけでクリアーできるクエストだ。まずは小手調べという事である。


「ちなみにクエストは〈クレーテー城〉以外の場所でも突発的に発生する。隠しクエストって奴だ」


「へぇ……。β版でもそうゆうのはあったのか?」


「おう。例えば最初のダンジョンをクリアーすると行けるようになる街には、特殊なアイテムが貰える隠しクエストがある」


「特殊なアイテム? 有能なアイテムなのか?」


「パーティーとかで使うクラッカーだ」


「いらねぇ!」


 などと談話しながら歩き、次に向かったのはいよいよ街の外だ。

 準備は万端。武器は初期のままであるが、防具は高級品(裏路地の寂れた店の購入品)。回復アイテムも少ないながら揃えた。

 ならば次にやるべき事は、待ちに待った大本命。すなわち、モンスターとの戦闘である。


 そもそもの話、俺が《神世界アマデウス》で一番楽しみにしていたのは、モンスターやプレイヤーとのバトルだ。

 自身の身体を使って現実のように仮想世界を楽しめるVRゲームでは、当然戦闘も自分の手足を使って行う。自分自身が強大な敵と戦い、そして見事討ち倒す勇者となるのである。

 まるで物語の主人公のように華麗に戦い、勇敢に立ち向かい、勝利を手にする事ができる。形から入る身として、これ以上に魅力的な話はないだろう。なにせ格好良い憧れの主人公に自分がなれるのだから。


 そんな訳で準備を終えた俺達は、楽しみにしていたモンスターの討伐へと乗り出す為に、街の外――――フィールドへと出陣したのだ。


「ここでムサシのワンポイント・アドバイス。騎士鎧を付けているお前と慣れているオレだったら、街の直ぐ近くで戦うよりは最初のダンジョンに向かった方が効率が良い。出現するモンスターもあんまり変わらないしな」


「えっ? 最初のダンジョンって職業レベルが5ぐらいになってから行くべきって、ネットサイトに書いてたぞ?」


「それは防御能力の低い《剣士型(ソードスタイル)》か《魔法使い型(マジックスタイル)》の話だ」


「じゃあやっぱり《剣士型(お前)》じゃん」


「オレは天才ムサシちゃんだから大丈夫」


「理由になってないんだが…………」


 しかし、β版経験者のムサシが言うのなら、サイトの情報よりもムサシを信頼した方が良いだろう。言動からは不安しか感じ取れないが、先程の防具屋での適切なアドバイスといい、どれもこれも正しい行動とゲーム進行を心掛けたものだった。ムサシの言う通り、このまま最初のダンジョンに向かっても問題無いだろう。


「確かに本来なら街周辺で戦闘慣れした方が良いだろうよ。けど、騎士鎧を装備しているお前ならダンジョンのモンスター相手でも大したダメージを負わない。なら、経験値がより稼げるダンジョンに即行で向かった方が良いんだよ」


「でもよ、ダンジョンのモンスターは街周辺の奴よりも複雑な動きをしてくるんじゃないのか? いきなりトラン○ムかましてくるゴブリンとか出てきたら、俺はゲームから逃げ出すぞ」


「どこのボスキャラだよ。心配しなくても、序盤じゃモンスターの動きはあまり変わらない。違いはステータスが高いか、あるいは状態異常攻撃をしてくるかぐらいかだ。モンスターの動きに慣れるだけなら、街周辺でもダンジョンでもどこでレベル上げしても問題ないぜ」


 防御力が高いのならダンジョンのモンスター相手でも大丈夫か。高い金を出して騎士鎧を買ったかいがあったな。


「なら、早速ダンジョンに向かうとしてだ。最初のダンジョンって四つあるんだろ。どこに向かえばいいんだ?」


 《神世界アマデウス》では最初から行けるダンジョンは、最初の街の東西南北にそれぞれ一ヶ所ずつ存在する。難易度は変わらないものの、出現するモンスターやダンジョントラップが違うので、人によっては得意不得意が相性として現れてくる。


 北には防御力の高いモンスターが出現し、高低差が激しい地形が特徴となる山岳ダンジョン〈ノース・ゴーレム・マウンテン〉。


 南には水棲モンスターが出現し、水中での戦闘も行う事が多くなる渓谷ダンジョン〈サウス・アクア・フォール〉。


 東には状態異常攻撃を多用するモンスターが出現し、暗くて複雑な迷路になっている森林ダンジョン〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉。


 西には武器を装備した二足歩行モンスターが出現し、見通しが良く広大な丘陵ダンジョン〈ウェスト・リザードマン・ヒルズ〉。


 この四つのステージを一つでもクリアーできれば、晴れて二つ目のダンジョンに挑めるようになる。言わばチュートリアルステージなのだ。

 しかし、最初のダンジョンだからと言って甘く見てはならない。VRゲームに慣れていない初心者では、いきなり挑めば即死亡――――そうでなくてもものの数分で瀕死の状態に追い込まれてしまう、かなりシビアな難易度設定が施されたダンジョンなのだ。レベルを最低でも5ぐらいにして、更に六人パーティを組んでから攻略に挑むのが良い、と攻略サイトにも書かれてあった。

 俺とムサシのレベル(職業熟練度)は共に1。相性が良い場所を選ばないとすぐに死に戻りをしてしまうだろう。

 というわけでムサシにどのダンジョンに向かえばいいのか尋ねてみたところ、ムサシはなんの迷いも無く即答した。


「東のダンジョン〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉だ。四つのダンジョンの内、雑魚モンスターの攻撃力が最も低いから、下手してもダメージを受けずに済むだろうよ」


「でも、彼処には毒状態を付与してくるモンスターや麻痺状態を付与してくるモンスターが出現するって書いてたぜ。いくらダメージを受けないっつっても、毒でちまちまHPを削られたり、麻痺で動けなくなっている内にリンチにされるんじゃないのか?」


「序盤の状態異常攻撃はウザイだけで、効果時間が短いし効力も微々たるものだ。気を付けるべきは疲労状態なんだが、アレは水中に長時間いないと発生しないしなぁ」


「…………つまり、あんまり気にしなくてもいいって事か?」


 確かに状態異常を気にしなくていいのなら、東の森のダンジョンは狙い目と言えるだろう。状態異常が煩わしく感じるところもあるだろうが、我慢さえすれば解決するのなら他のダンジョンに挑むよりはやり易いと断じても良いだろう。


「ダンジョン奥深くまで進むんだったら話は別だが、入り口辺りなら楽勝だぜ。鎧の重さのせいで尋常じゃない鈍足になっているお前でも問題ねぇよ」


「すまない……。スピードが遅いのは《騎士型(ナイトスタイル)》の仕様なんだ。すまないが、そこんとこ理解してくれないか」


「お前のは仕様以前の問題なんだよ!! 身の丈に合わない鎧を装備するからペナルティを受ける羽目になるんだよ!!」


「助言を無視してまで買ったものだ。失敗反省後悔謝罪なんてものは全て過去に置いてきたんだ。輝かしい未来の為にな……」


「拾って来い。輝かしい未来に行く前に人として大事なもんを拾って来い」


 ムサシの言う通り、今現在の俺は常時鈍足状態となっている。騎士鎧の重量が重過ぎて【装備重量制限】に引っ掛かっているからだ。ペナルティを受けると身体が重く感じるとは聞いていたのだが、想像以上に身体に負荷が掛かり、予想以上にスピードが出なくなってしまったのだ。

 しかし心配しなくても良い。速度を犠牲にした代わりに圧倒的な防御力を手に入れたからだ。どれだけ遅くとも、ダメージを受けなければ何も問題は無い。騎士らしく相手の攻撃を大楯でしっかりと防ぎ、両刃剣で反撃すれば大抵のモンスターは倒せるだろう。


「ったく……。そんな重量じゃ東のダンジョンに行くのも億劫だろうに。まぁ強く止めなかったオレにも責任はあるがよ」


「そう落ち込むな。俺だって足の遅さは理解している。ようはそれ以外の部分でカバーすればいいんだろ?」


「……あー。まぁ、うん。そうなんだけどよ…………」


 俺がサムズアップして答えると、ムサシは何故か言葉を濁した。やはり、俺が役立たずになると思っているのだろうか。このゲームにおいて鈍足状態とは、それほどまでに重いペナルティなのだろうか。


「…………うだうだ考えても意味ねぇか。まずはモンスターと戦闘してみなくちゃ何も言えないよな」


「なんの話だ?」


「いや、なんでも無い。それよりもさっさと〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉に行くぜ! そこそこ距離があるんだから、走らねぇと日が暮れちまうぜ、ナギ!」


 しかしムサシは何も教えずに走り出し、街の門よりフィールドへと飛び出した。俺も慌てて追従してフィールドへと出撃する。

 ムサシが何を心配していたのかは分からない。だが自己完結したのなら無理に訊き出す必要は無いだろう。恐らくは後で解決する問題なので、今は気にする事はないと判断しての行動だから、俺が考える必要も無いだろうしな。


 それよりも、いよいよフィールドへと進出だ。ついに冒険の舞台が幕を開けるのだ。まだ見ぬ未知のステージ、モンスター、アイテム、ダンジョン、そしてプレイヤーが、俺を待っている。興奮が胸一杯に広がり、気持ちがどんどん昂ってくる。

 弾む心を抑えつつ、俺はムサシの背を追いかける。鈍足状態のせいでスピードが出ず、身体も重く感じているものの、しかし気分と気持ちはどこまでも軽やかであった。


 そして俺とムサシは初期ダンジョンの一つである〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉へと走って行くのであった。




…………………………………………………





 と思っていたのだが。


『グゥルルルル…………!』


「…………ムサシさんや。このデカイ熊さんは弱いのかい?」


「なんで最初の街周辺のフィールドに〈ビッグベアー〉がいるんだ!? コイツは〈サウス・アクア・フォール〉のモンスターだろ!?」


 フィールドを走っている途中で明らかに強そうな熊型モンスターと遭遇してしまった。

 瞳を爛々と紅く輝かしせる巨大な熊は、地獄の底から響いているような重低音の唸り声を上げつつ、こちらと対峙している。敵愾心丸出しである。


「弱い?」


「〈サウス・アクア・フォール〉出現モンスターの中では、ボスに次いで強いな」


「〈サウス・アクア・フォール〉のモンスターが他のダンジョンの奴より弱いって事は…………」


「ないです」


「アッハイ」


 最初の街より東に走り続けたら、いきなり中ボスモンスターとエンカウントしてしまった。びっくりにも程がある。例えるなら、簡単なパズルと言われて蓋を開けてみたらミルクパズルだったみたいな。

 それよりも、この状況をどう切り抜けるのか考えなければならない。こちらのレベルは未だに1。序盤のモンスターの中でも特に強いモンスターと戦って勝てるわけがない。しかも俺にとっては初戦闘であるのだ。まともに戦うのは下策だろう。


「いや、案外……騎士鎧があれば倒せるレベルなのかも?」


「防御面では問題ないな。初期装備でも倒せないわけじゃねぇが、それは六人パーティで挑む場合の話だ」


「二人じゃ無理だと?」


「オレはともかく、お前は実質0.5人分の戦力だからな……」


 何気に酷い事を言われたが、ならばここは撤退しかない。勝てないモンスターに挑んで無駄に死ぬ事はない。なんとか隙をついて全力疾走し、敵のターゲッティングをはずすのだ。


「ムサシ! コイツの弱点はなんだ!?」


「脚だ脚! 〈ビッグベアー〉は攻撃力こそ高いが、図体がデカイぶん足下がお留守だ! 執拗に脚を攻撃して転ばせるんだ!」


「うおっしゃあ! 任せろ! “中学ん時の挨拶はローキックから“をモットーとしていた俺にな!」


「突っ込まねぇ! お前の殺伐とした過去に対して何も言わねぇからな、オレ!」


 両刃剣と大楯を構えて腰を落とす。まずは〈ビッグベアー〉の攻撃を誘う。そして大楯で受け止めた後に反撃で脚を攻撃するのだ。

こちらから仕掛けてもいいが、相手の行動パターンが分からないので、下手に攻撃するとむしろこちらが反撃をうけてしまう可能性がある。ここは後の先を取るのが得策だろう。

 ムサシも片刃剣を引き抜いて構える。《剣士型(ソードスタイル)》のムサシは《騎士型(ナイトスタイル)》の俺に比べて防御力が低い。〈ビッグベアー〉の攻撃力が高いというのなら、余り前には立たない方が良いだろう。


 〈ビッグベアー〉は唸り声を上げてこちらを威嚇していたが、やがて焦れたのか雄叫びと共に突進してきた。2mを越える巨体が猛然と突っ込んでくる様は、まるでダンプカーが正面から突撃してくるかのような恐怖心を覚えてしまう。

 俺は一歩引きそうになる身体を叱咤して、その場に大楯を構えて踏み留まる。ここで突進から逃げても意味はない。戦いにおける体の動かし方も知らない以上、無駄に動き回らずに防御に徹するのが正しいのだ。


『ゴアアアアアアッ!!』


「っが!?」


 〈ビッグベアー〉の巨体が大楯にへと衝突する。尋常ではない衝撃が大楯を通り、腕から身体全体へと走り抜ける。想像以上の攻撃に驚き、仰け反りながらも、しっかりと大楯を持ち続けて〈ビッグベアー〉の動きを止めた。


「ナイスだ!」


 〈ビッグベアー〉の動きが止まったのに合わせて、側面に回り込んだムサシが〈ビッグベアー〉にへと肉薄する。最大限にまで身を屈めて足下に入り込み、滑るように脚を斬り付けながら〈ビッグベアー〉の攻撃範囲より離脱した。見事なヒットアンドアウェイだ。

 しかしながら〈ビッグベアー〉を転倒させる程のダメージを与えたわけではなく、相手のHPゲージをほんのちょっぴり削っただけであった。もう少し大きな一撃を与えるか、あるいはもっと脚にダメージを蓄積しなければならないようだ。

 〈ビッグベアー〉の視線がダメージを与えたムサシにへと向く。目の前で防御し続ける俺よりも、自身に傷付けたムサシを最優先攻撃対象と認識したのだ。


「させるかっ!」


 ムサシの防御力は低い。攻撃の手をムサシの方へと向けさせてはならない。

 俺は〈ビッグベアー〉に押し付けていた大楯をずらして前に踏み出すと同時に、両刃剣を脚へと目掛けて突き出した。踏み込みの威力が乗った一撃は見事に〈ビッグベアー〉の脚に決まり、またHPゲージを削り取る事に成功した。


『ゴガァアアアッ!』


 〈ビッグベアー〉が雄叫びを上げて再びこちらに視線を向ける。ムサシへのターゲッティングをはずしたのだ。怒りに満ちた瞳を更に輝かせ、大振りの攻撃を俺にへと叩き込んできた。

 右腕を振り上げて全力で降り下ろす。〈ビッグベアー〉の攻撃力から繰り出された一撃は、まるで雷の如く鋭くて強烈であった。大楯を咄嗟に構えて防いだが、後ろにへと大きく仰け反ってしまった。


「まずっ……!」


『ゴアアア!』


 隙を見せた俺に対して慈悲は無く、必死の追撃が〈ビッグベアー〉より放たれる。直撃すれば致命的な左手の爪撃が俺に吸い込まれていき――――。


「【疾風斬】!!」


 しかし、当たることはなかった。ムサシが〈ビッグベアー〉の背後より奇襲を仕掛けたのだ。しかも【必殺技】でだ。


 【必殺技】――――単純かつ安直な名称だが、武器や体技に依存した固定の攻撃方法を指すシステムである。通常の攻撃よりもメリットがある(攻撃力の増加、攻撃速度の上昇、追加ダメージや特攻ダメージの付与など)派手な技なのだが、放つ際はMPを消費しなければならないので連発はあまり出来ない。魔法もMP消費の技であるので、兼ね合いを考えて使わないといけないのだ。

 今回ムサシが使用した【必殺技】は【疾風斬】というものだ。《剣士型(ソードスタイル)》のジョブなら誰でも最初から使える、言わば初期技である。通常よりも速い一撃を繰り出せるお手軽な技であり、威力も多少は増加している。


 〈ビッグベアー〉の背後より放たれた風の斬撃は、やはり脚にへと当たり、先程よりも大きなダメージを与えた。それでもHPゲージの減少は微々たるものであったのだが――――。


『ゴギャッ!?』


 脚に多大なダメージを受けた〈ビッグベアー〉は悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。転倒によるスタン状態だ。

 大きな隙。普通ならば状態が回復するまで攻撃を仕掛けて、HPを少しでも削るのであろう。しかし、今回の目的はモンスターの討伐ではなく撤退及び逃走だ。


「よっし! 逃げるぞ!」


「街に向かってレッツゴー!」


 武器をしまいつつ全力疾走する。端から見ればなんと情けない姿であるか理解しているつもりだ。

 けれど許してほしい。大楯で攻撃をしっかりと防いでいたはずなのに、たった二撃でHPが三割強も減らされたのだ。これ以上続けても勝ち目はなかっただろう。主に俺の精神力的な意味で。

 とにかく逃げる。〈ビッグベアー〉の手が届かない場所まで逃げる。二度とあんなモンスターと出会わない事を祈りつつ逃げるしかない。

 逃げるしかない、のだけれどーー。


「ムサシ! 全然スピード出ねぇんだけど!? 《騎士型(ナイトスタイル)》ってこんなに遅くなるもんなの!?」


「今更! 散々走って散々息切らしてたのに、今更疑問に持つ事じゃねぇだろ!」


 ムサシと俺とでは逃走速度が違い過ぎた。スピードが伸びやすい《剣士型(ソードスタイル)》と鈍足状態の《騎士型(ナイトスタイル)》では、そのスピードには天と地ほどの差が発生してしまう。ムサシが俺からどんどん離れていくのだ。

 加えて―――。


『ゴアアアア!!』


「うおおお!? あのデカ熊速いぞ!?」


「てめぇが遅過ぎんだよ!」


 転倒によるスタン状態から回復した〈ビッグベアー〉が猛スピードで追いかけてきた。いやけっして速いとは呼べない速度ではあるのだが、常時鈍足状態の俺に悠々と追い付けるぐらいの速さは持っていた。


「くそっ!」


 このままでは追い付かれてしまう。

 そう判断した俺は〈ビッグベアー〉を迎撃すべく、再び両刃剣と大楯を構えて立ち止まった。もう一度脚にダメージを与えて転倒させるしかない。そして、次は倒し切るしかないと。逃げ切れないのなら、追ってくる者を討伐するしか方法は残されていないのだ。


『ゴガアアッ!』


 〈ビッグベアー〉がそのままの勢いで突進攻撃を繰り出してきた。先程のよりも速度も威力も乗った、恐らく〈ビッグベアー〉最大の攻撃。大楯で受けたとしても大ダメージは免れない、正に必殺の大技であった。


 だが――――その攻撃は一度見ている。


「はあああ!」


 大楯を構えて備え〈ビッグベアー〉の直撃を待つ。そして、衝突する直前で〈ビッグベアー〉の側面に移動するように足を運ぶ。

 大楯の表面を〈ビッグベアー〉の体が滑るように通過していく。やはり凄まじい衝撃が身体を襲うが、けれどなんとか耐えきり〈ビッグベアー〉の攻撃を最小限のダメージに抑えた。

 即座に反撃へと移行する。左足を軸に身体を回転させ、そのままの勢いを保持して剣を振るう。狙い通り〈ビッグベアー〉の後ろ足に斬撃が吸い込まれていく。


『ゴアアアアアア!』


 だが、倒れない。この程度のダメージでは〈ビッグベアー〉は揺らぐ事はない。まだ威力も蓄積も足りない。

 次なる〈ビッグベアー〉の攻撃に備える。大楯を構えて反撃を狙う。ダメージをなるべく抑えつつ、相手の脚に攻撃を集中させて転倒を促し、ダメージレースで優位に立つ為にも。


「ナギ!」


 ムサシが引き返してこちらに向かってきている。助けに入るつもりなのだろう。〈ビッグベアー〉の驚異を知り尽くしている、二人掛かりでも勝ち目が無い事は分かっているはずなのに、本当に良い奴だ。


「うおおおっ!」


 ならば俺は答えるしかない。ムサシが敗北必死の救援を施そうというのなら、その敗北を覆して勝利を掲げよう。

 〈ビッグベアー〉が絶対の強者というのなら、不条理を打ち砕き確定した未来を塗り替えてやろう。

 逃げる事が赦されず、戦うしか道が無いのなら、最後の最後まで抗い一縷の可能性を辿り寄せるとしよう。


 俺は吠えた。吠えて〈ビッグベアー〉の攻撃を受けにいく。

 全ては勝利を得て、この死地を乗り越える為に。

 巨体の怪物に打ち勝ち、英雄になる為に。



 ………………………………………………




「で、格好付けて挑んだは良いが、特に魅せ場も無く普通にデスした気分はどうだ?」


「凄く…………恥ずかしいです…………」


 とまあ、勇んで〈ビッグベアー〉と戦ったが良いが、結局普通にHPが保たずに死んでしまった。それはもう、何の捻りも無い敗北であった。


「〈ビッグベアー〉を含む一部の中ボス級ダンジョンモンスターは、本来ならフィールドには出現しないはずなんだがなぁ……」


「いや、それよりもお前! 俺がデスした後、何気なく逃げ帰ってんじゃねぇよ! 必死こいて戦った俺がバカみてぇじゃんかよ!」


「だってお前が死んだ後まで〈ビッグベアー〉と戦う意味はねぇもん。スピードの高いオレなら追跡を振り切るのは、そう難しくないしな」


 結局のところ、俺の決意も奮戦もまったくの無駄であったわけだ。なんか気分が高揚して妙な事を決意して戦っていたが、冷静になってみれば恥ずかし過ぎる。穴に入って泣き崩れたい。


「まぁそんな事はリビングにでも置いといてだ」


「思い切り目立つところに置くな。後で弄る気満々じゃねぇか」


「問題なのは、なんでフィールドに〈ビッグベアー〉が出現したのか、だよな」


 無視された事に若干苛つきつつも、抑えてムサシの考えに同調する。それは俺自身も疑問に思っていた事だったからだ。

 攻略サイトの情報では、ダンジョンに行くまでの道中に出現するモンスターは全てフィールド専用のモンスターであり、ダンジョンに入ってからモンスターの強さや種別が変化するとの事であった。β版をプレイしていたムサシも〈ビッグベアー〉の出現に驚いていた事から、攻略サイトの情報が間違っているとは思えない。

 フィールドのモンスターは常に強さが一定。突然の強敵出現、なんてあり得ないはず。

 とするならば、考えてられる可能性は一つ。


「製品版に移行した事による、仕様の変更…………?」


「しか考えられねぇわな」


 β版からの難易度及び仕様の変更。調整やバランスを考えて、ゲームをより楽しめるように改善する。よくある話だ。


「確かにフィールドは広大なんだが、出現するモンスターに変わり映えがなくて飽きやすいって声はβ版の時からあった。ダンジョンのモンスターをちょっぱって来て難易度を底上げしてもおかしくはないな」


「でも、あんだけ強いモンスターが序盤のフィールドに出現したらクソゲー扱いにならないか? 二人掛かりでHPゲージを三分の一削るのがやっとだったぞ?」


「それはオレらのレベルが1しかなかったからだ。レベルが3から4あれば二人だけでもギリギリ倒せるし、六人パーティならもっと楽に倒せる。初戦闘で出会っちまったのが運の尽きだったなぁ」


 成る程、と納得した。すなわちフィールドに難易度の変化を持たせる為の仕様変更だったわけだ。街周辺でキッチリレベルを上げてからフィールドを探索するのが普通なのだろう。いきなり遠くまで出撃してしまった俺達のミスだったわけだ。


「こりゃ、フィールドに出るのは待った方が良いかも知れないなぁ。β版の情報が役に立たなくなってる場合があるのなら、そこら辺を調べてからフィールド探索に出た方が良いんだが…………」


 ムサシがため息をついた。β版と製品版の違いが顕著に出ているのなら、確かに慎重になった方が良いかも知れない。古い情報で調子に乗って出陣して、あっさりと雑魚モンスターに倒されてデスするなんて格好悪いし、非効率的過ぎる。

 どこに変更点があるのか。どのくらい難易度が上がっているのか。詳しく調べる必要があるだろう。


「とりあえず、ナギ。お前、デスペナルティを受けたよな? どこでリザレクションした? 所持金は減ったか?」


「復活場所は〈神聖堂〉とかいう白銀のデカイ建物の中ーー〈蘇生儀式場〉だったな。所持金は……半分失ってるな」


「そこはβ版と同じか……? いや、デスペナルティも複数あったはず。所持金半分は『プレイヤー及びNPC、モンスターに倒された場合』のペナルティだったから…………」


 ムサシが少し考えて、うんうん唸り、やがて一つの答えを出した。


「よしっ! 悪いが、今日は一旦解散だ。オレは他のβプレイヤー達と合流して、情報共有して仕様の変更がどのくらいあるのか調べてみるわ」


「え? それ、別に俺が付いていってもいいんじゃねぇか?」


「いや、お前には別にやってほしい事があるんだ。損する話じゃないし、お前みたいな初心者でも簡単にできるしな」


 ムサシが俺にやってほしい事とは何だろうか? 右も左も分からない現状で俺一人で行動するのは少し不安があるのだが。

 しかし、俺はムサシに結構迷惑を掛けている。〈ビッグベアー〉との戦闘だって俺が軽い装備を付けていたら逃げ切れたはずだったのだ。重い鎧を付けていたせいでムサシも(デスこそしていないが)巻き込んでしまった。

 ずっとムサシにおんぶに抱っこも恥ずかしい。ここは恩を返す為にもムサシの要望に応えるべきであろう。


「お前には〈転職の神殿〉に行って、他の《騎士型(ナイトスタイル)》のクラスになれるのかを確かめてきてほしい。β版だと初期の《騎士(ナイト)》の他に、攻撃寄りになる《斧騎士(アックスナイト)》や範囲攻撃ができる《鉄球騎士(ボールナイト)》、盾を棄てた二刀流の《双剣騎士(ツインソードナイト)》とかになれたはずだが……」


「えっ!? 最初からクラスって変更できたのかよ!?」


 だったら最初から〈転職の神殿〉に行けば良かった。《双剣騎士(ツインソードナイト)》とか格好良さそうだし。いやまあ、仕様が変更されててレベル1ではクラスチェンジ出来ないのかも知れないが。


「次に〈クレーテー城〉にいるNPC〈ラモラック〉に話掛けてみろ。クエストが出るかどうかの確認だ。クエストは難易度が高いから受けなくてもいいぞ」


「受けなくてもいい、て……クエストの報酬の確認じゃないのか?」


「いやな、そのクエストを受けている間は〈ラモラック〉をパーティメンバーとして連れて歩けるんだよ。ダンジョンには入れないが、フィールドのモンスターを狩ってもらって楽にレベル上げが出来るから、β版でも注目されていたクエストなんだ」


「ああ、そういう事か…………」


 ようはNPCを使ったレベル上げが出来なくなっているかの確認というわけだ。ラモラックの強さがどのくらいかは分からないが、話してクエストを受けるだけでパーティに入れる事が出来る戦闘要員がいるのなら、それだけでレベル上げの難易度も下がる。β版から製品版に移行するに当たって最も修正が入りそうな箇所だ。


「そして最後にお使いクエストの確認だ。クエストクリアしてしまえば何度でも即座に請け直せる、簡単にGが稼げるお使いクエストは序盤での収入源となるんだが、それ故に自身で金策をする必要が無くなってしまうシステムでもあったんだが…………」


「お使いクエストを請けてクリアして、直ぐに同じクエストが請けられるかの確認か」


 単調かつ簡単な金稼ぎも修正の対象となり得るだろう。そうなれば、序盤で金を稼ぐ方法を別に考えなくてはならなくなる。これも調べておくべきであろう。


「全部やってると今日はそれだけで終わっちまうけど……やってくれるか?」


「どうせフィールドに出たって自分一人じゃ、またデスペナルティ受けて戻ってくるだけだしなぁ。それなら調査に参加した方が有意義だぜ」


 〈ビッグベアー〉との戦闘を経て分かったのだが、予想以上に【装備重量制限】によるペナルティが重い。両刃剣を振るう分には何の問題は無いのだが、咄嗟に回避や反撃が鈍くなってしまい、大楯に頼った防御しか出来なくなってしまう。大楯も悪くはないのだが、やはりダメージを回避できる手段は多い方が良い。

 加えて〈ビッグベアー〉の時はムサシが一緒に戦ってくれたおかげで攻撃が分散していたが、俺一人で戦うとなるとモンスターの攻撃を全て自身のみで受ける羽目になってしまう。一対一ならなんとかなるかも知れないが、モンスターが複数体出現したらお手上げである。

 無論、防御力が高い騎士鎧を装備している俺ならば、街周辺のモンスターの攻撃を0に抑える事が出来るかも知れない。しかし〈ビッグベアー〉並に強いモンスターが出現するかどうか判明していない現状ではなんとも言えないのも事実だ。

 というわけでソロでフィールドに出るのは自殺行為になる可能性が高い。ここは大人しく見栄を張らずに、ムサシの頼みを聞いておくのが良いだろう。


「悪いな。なら、早速〈転職の神殿〉でジョブを確認してきてくれ。オレは〈銀の大木亭〉っつーところで情報集めしてくるからよ。合流は明日の朝にしようや」


「おう、分かったぜ」


 ムサシとは今日のところは別れて、それぞれで行動する事にした。互いに出来る事をして、これからの攻略を優位に進める為の情報を集めにいくのだ。


 ゲーム初日からアバター制作を失敗したり、いきなり散財したり、モンスターにやられてデスペナルティを受けたりと、幸先の良いスタートが切れたとはお世辞でも言えないが、色々と得るものもあった。

 今はまだろくに戦闘も行えずムサシに頼ってばかりだが、ゲームは始まったばかりだ。《神世界アマデウス》での一歩を踏み出したばかりなのだ。これから順調に冒険を進めて順当に強くなっていけば良いのだ。


 ――――けど、初戦闘は華麗に勝利したかったなぁ。


 少しだけ残念に思いながら、俺は〈転職の神殿〉へと向かうのであった。

 明日はムサシと集めてきた情報を交換だ。



 

 本当にこの時期は忙しい…………。毎日の如く運動会やら文化祭やら釣り大会やらがあるんですもん。

 次からはもっと早く投稿出来るように頑張ります…………。


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