第十五話 ゲームならではの方法・その二
まーた会話シーンだけの話だよ……。
スミマセンが、もう少ししたら動きのあるシーンも入るので待っていて下さい……。
そんなこんなで第十五話です。誤字、脱字がございましたらご報告をお願いします。
「そうして一年の時が流れた――――」
「一時間しか経ってねぇよ! ひたすら蟻を駆逐しまくってただけだよ!」
〈アーミーアント・フォートレス〉内で限界まで戦ってはマリーに俺ごと一掃してもらう作業をし始めて一時間後。
俺達は最初の街にまで一度戻り、〈銀の大木亭〉に入って休憩する事にした。
巨大蟻を駆逐してはデスする、巨大蟻を駆逐してはデスする、巨大蟻を――――とゲシュタルト崩壊をしそうなループ作業をしていたせいか、どっと疲れてしまった。確かにこれは精神疲労が溜まりやすい、大変なレベル上げ方法だと実感出来たな。
「……でも相当な数のモンスターを倒しました……。私の職業熟練度も少しだけですが上がっていますし、ナギさんの職業熟練度はかなり上がっているのでは無いでしょうか……?」
「そうだな……。これで1、2しか上がってなかったら心折れるぞ……」
マリーに言われて俺は自らのステータスを確認する。あの死に物狂いの戦闘の果てに職業熟練度がどれぐらい上がったのか、若干ドキドキしながら開いた画面を見てみる。
「…………おぉ!! 16にまで上がってる!?」
「わぁ……! おめでとうございます、ナギさん……!」
「レベル上げする前のナギの職業熟練度は11だったから、一時間で5上がってるわけだな。まぁスピードとしてはそんなとこだろう」
俺が職業熟練度を10にするのに掛かった日数は大体二週間程だった。【装備重量制限】のペナルティを受けて動きが鈍っていた時期での話ではあるものの、それを差し引いて考えたって一時間で7レベルもの上昇は凄まじい速度であると言えよう。
「レベルが上がった事でレベル上昇速度が遅くなっていく事を鑑みても、20ぐらいまでならこの方法で十分に上げられる。最前線を往くプレイヤーともタメを張れるレベルだ」
「なるほど、そうなればハイドラにもステータス的には対抗出来るわけか」
ハイドラがいくら強くても、廃人プレイヤー達とは違って効率の良い経験値稼ぎや資金稼ぎの方法は知らないだろう。こちらが高速でレベル上げすれば、レベル差が引き離される前にハイドラに追い縋る事も可能である。
ステータスさえ同じならば、身体能力面で遅れを取る事も無い。奴と同等の速度で――――とまでは無理だろうが、十分に対応出来る範囲の速度で動けるのであれば、勝率はグッと上がる。
「話は予め聞いていましたが……聞く限りでは、その竜騎士さんは戦闘技巧に優れているのですよね? なら、ステータスを同等まで上げても勝ち目は薄いのでは……?」
「おっと、マリーちゃんが意外と鋭く指摘してきた。ズバリッ! その通りなんだよな」
とは言え、勝率が上がると言っても1%から10%になる――――ようは一割程度の上昇量でしか無い。絶望的な戦力差を僅かに引き上げる事しか出来ない、ささやかな努力なのである。
一割でも勝率が上がるのであれば、当然蟻狩りは実行し続けるのではあるが、それだけではまだ足りないだろう。ハイドラに勝つ為にはレベル上げ以外にもするべき事は沢山ある。
「……で? 次は何をするべきだ?」
「そうだなぁ。次にするべき事を教える前に、ちょいとクイズと洒落込もうか」
「……クイズですか……?」
ムサシは俺とマリーを見据えて、指をピンと立てた。
「問題です。ナギは昨日のPVPの最中にハイドラを数十発は殴り付けたそうですが」
「殴っ……? 両刃剣で斬ったの間違いでは……?」
「そこは置いといて。しかし、数十発殴ってもハイドラに大したダメージを与える事は出来ませんでした。対してハイドラは三発か四発程でナギをキルしたようです」
「そうなんだよな。レベル差があったとは言え、凄まじい攻撃力の高さだよなぁ……」
「割り込むんじゃねぇよ! レベル差以外にもこれだけのダメージに差があった理由があります。それはなんでしょうか?」
「レベル差以外で……だと?」
少し考えてみる。
確かにステータスに差があったが、俺は防御力の高い【クラススタイル】だ。ハイドラの《竜騎士》だって《騎士型》の一種のはず。そう攻撃力が高くなるとは思えない。
《騎士型》が《騎士型》に多くのダメージを与えるには。それがレベル差以外で成される為に必要なものとは。
……考えてみれば難しくはない。直ぐに答えは分かった。
「「……装備品の差?」でしょうか……?」
「グレイト! そういう事だ」
マリーも同じ答えに至ったようだ。そしてその答えは正解だったようで、ムサシは嬉しそうに指を鳴らして讃えてくれた。
「ハイドラは自身が倒しまくったドラゴン系統のモンスターの素材を使った装備品を付けていると見ていいだろう。ドラゴン系統の素材は物理防御力も魔法耐性も高いめちゃ優秀な素材だからな。そんなもんをガチガチに装備されちゃあ、生半可な攻撃は通用しねぇ」
「……強い素材を使った強い装備品を付けているので、元の技量が更に冴え渡っているわけですね……。強者の特権と言えば良いのでしょうか……」
「まぁ、自身が倒したモンスターの素材を使うのは当然の事だしな。それで装備品を作ったって誰からも文句は出ねぇよな」
自分で倒したモンスターの素材を使って装備品を強化するのは、プレイヤーにとっては楽しみの一つであり、ゲームをする上で一種の目的となり得る大切な行為だ。
単純に強くなれる方法でもあるが、何よりも「これだけ強い装備品を作れる」=「それだけ自分は強いのだ」という証明になるので、装備品の強化は自分の努力と力量を示して自慢するのにも必要となるのだ。
「《神世界アマデウス》だけじゃなく、装備品をきっちりと整えるのはどのゲームでも重要な事だ。自分のプレイヤースキルのみで戦いたい奴もいるだろうが、大体のプレイヤーは装備品の強化は入念に行うだろうよ」
「……他人に迷惑を掛けない為にも、自分の気に入った装備をカスタマイズしたり、自身のプレイスタイルに合わせて強化するのは、パーティーを組む上での礼儀みたいなものですからね……」
ハイドラが装備品に執着しているから分からないが、それでも一プレイヤーである以上は装備品の強化は行っているはず。
俺もハイドラと戦うのならば、自分のレベルを上げるだけではなくて装備を強化しなくてはならないだろう。それは相手に対する備えであり、相手の強さに対する敬意でもあるからだ。
「というわけで次にやるべき事は『装備品の強化』だ。しかも店でグレードの高い商品を買うんじゃなくて、鍜治屋や裁縫屋でオーダーメイドの品を作ってもらう」
「鍜治屋か……!」
大体のゲームに置いて武器や防具の強化は鍜治屋で行う事が多いが、《神世界アマデウス》でもそれは変わり無いようだ。
「鍜治屋というと……プレイヤーさんに作ってもらうのですか……? 最近は生産職プレイをしている人達も増えてきましたし……」
「あー……残念だがゲームを始めたばっかの鍜治プレイヤーじゃ大した装備品は作れねぇな。まだスキルのレベルが足りないだろうぜ。普通にNPCの鍜治屋に製作を頼む」
「NPCなら平均点の装備品は作れるだろうしな」
ならば善は急げだ。さっさと鍜治屋に行って武器や防具を新調して貰うとしよう。
俺は席を立ち上がり外に向かおうとしたが、ムサシに手で制止させられた。
「おっと待ちな、ナギ。急ぐ気持ちは分かるけど、話はまだ続いているんだぜ」
「話って……後は作るだけじゃねぇのか?」
「だったら〈銀の大木亭〉に入らずに鍜治屋に直行してるわ。いいから座り直せ、訳を話してやるからよ」
ムサシがそう言うのならば仕方がない。俺は席に座り直した。
その間にムサシは自分の画面を操作して、何かしらのアイテムを取り出して机の上に置いていた。
「これは第二のダンジョンの一つ〈クリスタル・ケイブ〉に出現するモンスターの素材だ。コイツを見てくれ」
机の上のアイテムを手に取りしげしげと眺めてみる。俺の横からマリーをアイテムを覗き見るように確認している。
白色の半透明な結晶――――鉱石か何かのアイテムはメッセージウィンドウ上ではこう記されていた。
《ホワイトアイ・ビッグワームの心臓結晶》
『〈ホワイトアイ・ビッグワーム〉の心臓。死亡時に魔力が固まって硬質化している。純粋かつ多量の魔力を含んでいるので、魔法行使の際の触媒として適した【アイテム素材】である』
[ 武器――魔法攻撃力:5 魔法行使効率:1 防具――魔法防御力:2 魔法抵抗力:3 ]
「……結構優秀な素材ですね。魔法攻撃力が5も上がるのに、その他の魔法関係ステータスも上昇するなんて……。凄く欲しい……」
「あぁ、下の数値は上昇量なのか」
【アイテム素材】を詳しく調べて見たことが無かったから気付かなかったが、このようにアイテムの効能が表示されるのか。
「一から装備品を作る際にどのアイテムをどの程度の数を消費して作製するのかを決めれるんだ。しかも、部位毎にな」
「部位毎にって……ヘルムならこれだけ、アーマーならこれだけ、て個別に設定出来るのか!?」
「もっと細かく設定出来るぜ。防具だけでも頭、上半身、腕、下半身、腰、脚、アクセサリー三種類……とにかく一個一個別けて作製出来るんだぜ」
「まぁ……正確に言うのであれば、アクセサリーは防具扱いでは無いのですが……防具とアクセサリーは裁縫屋で作製出来る品なので、一緒にしてしまっても構わないでしょう……」
それは知らなかった情報である。現在装備している防具も武器も店で購入した物なので、オーダーメイドの商品についてはノータッチだったのだ。
「一から作る場合じゃなくて、現状所持している装備品を強化する場合は、自由度が下がるけどアイテムと金の消費が抑えられる。お前の騎士鎧を元にすれば多少の出費は軽減出来るわけだな」
「なるほど」
蟻狩りを行ったおかげで資金はある程度は確保しているが、強い装備は総じて高額なものだ。場合によっては俺の騎士鎧を元にして新装備を作製する必要もあるだろう。
「しかし問題なのは出費じゃねぇ。どんな素材をいくつ消費して作るか……そこをきっちりと決めて作らなきゃならねぇ」
「鍜治屋や裁縫屋で装備品を作る場合は、作製者の鍜治や裁縫のスキルレベルに見合った品しか作れません……。どのような装備品を作る場合でも、使用出来る【アイテム素材】の数には上限があります……。何も考えずに【アイテム素材】を突っ込んでしまうと、中途半端な物が出来上がってしまうのです……」
ムサシとマリーの言葉を受けて、俺は手に持っている《ホワイトアイ・ビッグワームの心臓結晶》に目を落とした。
「つまりコイツを騎士鎧の強化素材に使っても魔法防御力と魔法抵抗力しか上昇せず、物理防御力は上昇しない……って事か?」
「そういうこった。その素材じゃあ物理系統のステータスアップは出来ない。ハイドラに備えるなら、物理防御力を高める素材を使って装備品を作りたいんだよ」
マリー曰く、この素材は優秀だというのだが、それはあくまで魔法系統面での話だ。この素材を使用して防具を作っても物理面での強化が望めない。
もし俺が防具を作製するのであれば、使用する素材は物理防御力を上昇させるようなもので固めたいところだ。後々の事を考えれば魔法防御力も高めておいた方が良いのだろうが、今はハイドラに勝つことが最優先だ。
「幸い〈アーミーアント・ローランク〉の素材は物理防御力を少しは強化してくれる。あんだけ倒したんだから、素材はありに余っているだろ? 蟻だけにな!」
「あっ? そうなのか? なら〈アーミーアント〉の素材だけで防具を作れば全て丸く収まるな」
「オレのギャグを完全無視だと……!?」
「えっと……ア、アハハハ……」
「無理矢理笑わなくていいぜ、マリーちゃん。むしろ泣けてくるから」
虚しい結果に終わるのは目に見えていたのだから、あんな寒いギャグを披露しなければ良かったのに。
「……それからナギさん。装備作製の際に同じ【アイテム素材】を次々に使用しても、二個目以降は効果がだんだんと少なくなっていきます……。〈アーミーアント〉の素材なら、四個目以上はステータスの上昇は望めなくなってしまうでしょう……」
「そうなのか? まぁ、そんなうまい話は無いか……」
同じアイテムで永遠にステータスが上昇してしまったら、同じモンスターしか倒さなくなってしまうから、こういった制限は必要なのだろう。装備品の作製は一筋縄ではいかないようだ。
というか、先程から気になっていたのだが――――。
「それにしてもマリー。アンタ、やけに装備品の製作について詳しいな?」
「…………《神世界アマデウス》をプレイし始めた時にオーダーメイドの装備品が作れると聞いて、直ぐに裁縫屋で防具を作って貰ったのです……。その時は大した情報も手に入れて無い時だったので、適当にアイテムと資金をつぎ込んでしまって……」
「中途半端な装備が出来てしまったわけか……」
一度失敗した経験者だったから、改めて情報を集めて備えていたのか。道理で詳しいはずである。
「ちなみに今着ているローブこそ、その時に作った防具です……」
「えっ? その地味……大人しいローブが?」
「今、地味って言い掛けませんでした……? これは凄いローブなんですよ……? なんと物理防御力:0です……!」
「マイナス方面でめちゃ凄いローブだな!? ただでさえ紙耐久の《魔法使い型》なのに防御力ゼロとかピーキー過ぎるだろ!?」
やっぱり前々から思っていたのだが、マリーは一見まともなように見えて俺達と同じぐらいにバカなプレイヤーだ。俺としては面白いので大歓迎ではあるのだが。
同時に〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉でやたらとモンスターの攻撃に身を引いていた理由が分かった。確かに防御力が無いに等しいのなら、最下級のモンスターの攻撃すら即死級のダメージとなりうる。過剰に警戒していてもおかしくは無い。
「……とにかく、マリーちゃんが良い例……いや悪い例だ。装備品を作るのなら、素材は慎重に選らばないといけねぇぜ」
「……そうです。ナギさんも私と同じようになりたくなければ、きちんと【アイテム素材】を集めて、組み合わせを考えて作製して下さいね……?」
「うん。経験者の言葉は重いな」
俺は二人の言葉をしっかりと心に刻んで、敬意と感謝を込めて頷いた。ちゃんと使用する素材を吟味して、ネタ装備にならないように気を付けなければならない。じゃなければ待っているのは地獄である。
ならば、まずやるべき事は鍜治屋に行って防具を作成する事ではなく、自身の理想の装備品を作るのに必要な【アイテム素材】は何かを調べる事であろう。加えて必要な【アイテム素材】を入手出来るダンジョンも調べないといけない。
「ということでナギ。お前がどんなステータスが上昇する装備品を作りたいのか案を出してくれ。オレが持っている情報と照らし合わせて、理想の装備品を作るのに必要な【アイテム素材】を書き出すからよ」
「それなら私もお手伝いします……。モンスターの素材はともかくとして、薬草類や鉱石類の【アイテム素材】ならば私でも収集出来ますので……手分けして探しましょう……」
「え? いいのか!? そんな事まで手伝わせちまって!?」
マリーはレベル上げ作業の手伝いもお願いしている。ここで素材回収作業も手伝ってしまうと、かなり長い時間俺達に拘束されてしまうのだが、それで良いのだろうか?
「ええ……ただ、その……もしナギさんが使用しなくて、捨てるだけの【アイテム素材】があったら、いくつか譲っては貰えないでしょうか……? ナギさんやムサシさんが必要とする【アイテム素材】を見つけたら、優先してお譲りしますので……」
「なるほど……アイテムのトレードか……」
つまり、互いに必要なアイテム同士を交換して協力し合おうというわけである。不必要な素材を抱えていても仕方無いし、売却してしまうよりかは有益に【アイテム素材】を利用する事が出来るからだ。
それは此方からお願いしたい事だった。協力してくれているマリーにお返しが出来るし、仲間であるマリーの装備も強化出来たら更に頼もしい存在になる。一石が二鳥にも三鳥にもなる素晴らしい提案だろう。
ムサシに視線を送ると、良い笑顔で頷き返してきた。ムサシも了承してくれたようだった。
「OK、それで行こう。魔法系統のステータスが上がる素材はマリーに譲る。物理系統のステータスが上がる素材は俺が貰う。ムサシは――――」
「オレは速度重視のダメージディーラーだからな。移動速度や攻撃速度が上がる素材を貰えたら嬉しいぜ~」
「なら、それぞれに必要な素材は全部譲る事にしようか。その条件で【アイテム素材】の回収作業を手伝ってくれるか、マリー」
「はい……! 此方からお願いします……!」
マリーも引き続き協力してくれるのなら心強い。彼女の為にも、ハイドラに打ち勝つ為にも、気合いを入れて【アイテム素材】の回収に努めなければな。
「それでナギ。どんなステータスが上がる装備品を作りたいんだ? ひたすら物理防御力を上げる装備? それとも攻撃範囲や攻撃速度も上がるように調整するのか?」
「防具だけじゃなくて武器も考えて作らないといけないんだよなぁ。どんな装備品にするのか……か」
じっくりと考えなければならない。時にはムサシやマリーからも意見を訊いて、俺のスタイルに合った装備品を作れるように、使用する【アイテム素材】を調整しなければならないからだ。
攻撃方法。立ち回り。防御の仕方。対応力。全てをカバーした装備品を作るのは難しいが、少しでもハイドラに対抗出来るような物を作り出せれば、後は俺の努力と戦い方次第で補える。
(だったら、まずは俺がどんな風に戦うかのを決めないといけないな。攻撃主体か、防御主体か。剣を振るうのか、拳を振るうのか――――)
ムサシとマリーとも意見を出し合いながら、暗中模索の如く議論していく。二人の協力に感謝しながらも、俺自身がどのような戦い方をしたいのかを考え続ける。
もしかしたら今すぐには――――今日中には決まらないかも知れない。一度卓上から離れてから、頭を切り替えてから日を改めて話し合うかも知れない。
それならそれでも構わない。時間を掛け過ぎるとハイドラとのレベル差が開いてしまうが、しかし焦っても良い結果は生まれない。職業熟練度を上げるのにもまだまだ時間が必要なので、考える時間も必然的にはある。
(さて、ハイドラと対等になる為にはどんな装備を作るべきか……)
打倒竜騎士に向けての会議は進んでいく。
これだけ二人には迷惑を掛けているのだから、期待には応えたい。なんとしてでもハイドラに勝てるように、俺自身も頑張らなければならない。
緑の竜騎士へのリベンジマッチを頭の中で描きつつも、俺はまずは目の前の問題に対処するべき、二人と議論を交わし続けたのであった。
――――――side Nagi:AUTO――――――
場面は切り替わる。
場所は《神世界アマデウス》のダンジョンの一つ――――第二のダンジョン〈レッドストーン・バレー〉。
その端の端、ボス部屋から大きく離れたダンジョンの隅に存在する、小さな洞窟の中。
〈レッドストーン・バレー〉の隅には隠し部屋があるという話は、βプレイヤーなら大体が知っているものだ。小さな洞窟の奥にある出っ張った石を武器で攻撃すると、石壁が動いて更に奥に進めるようになる。
その奥にはレアな鉱石が採掘できるエリアがあり、運が良ければ強力な武器や防具の作成の元となる【アイテム素材】を確保する事が出来る、言うなればボーナス部屋である。
だが、隠し部屋にあるのは稀少なものばかりでは無い。大半のプレイヤーを絶望させてしまう存在も居座っているのだ。
〈緋炎鉱殻竜グレングレア〉――――シークレットボスと呼ばれる、ダンジョンボスよりも遥かに強力なボスモンスター。
隠し部屋の中で居眠りしている〈グレングレア〉はプレイヤーが近付いても起きないが、たまに一定確率でランダムに目を覚まして採掘に来たプレイヤーに襲い掛かるのだ。
運が悪いプレイヤーは〈グレングレア〉の目覚めに立ち会ってしまい、成す術無く火炎のブレスによって灰になってしまう。目覚めが完全にランダムなのも質の悪さに拍車を掛けているのだ。
〈グレングレア〉の実力は第四のダンジョンのボスに匹敵――――下手したら上回るとさえ言われている。第二のダンジョンをクリアーした程度のプレイヤーでは逆立ちしても敵わない、絶対的な存在なのだ。
しかし――――そんな常識を覆すのもプレイヤーの仕事である。
ナギ達が〈銀の大木亭〉であれやこれやを話し合っている最中、この〈グレングレア〉は一人のプレイヤーの手によって討伐された。
光輝くエフェクトと共に緋色の竜王は砕け散り、隠し部屋には一切の脅威は存在しなくなった。また一定時間が経過すればリポップするだろうが、それまでは真の意味で安全地帯となったのだ。
〈グレングレア〉をたった独りで討伐した、緑色の鎧を全身に身に纏うプレイヤー――――〈ハイドラ〉はハルバートをブンッと降るって背中に納める。
そして自身が一時間もの戦闘の末に打ち倒した〈グレングレア〉が存在した位置を見据えて、大きくため息をついた。
「…………遥か格上のボスと聞いて戦ってみたが、ただ強いだけのつまらないモンスターだったな。攻撃手段に面白味が無く、ごり押しの戦い方をするなんて…………本当にボスモンスターかと疑いたくなる」
ハイドラは期待外れの結果に愚痴を吐く。自身の欲求を満たしてくれるかも知れないと勇んでやってきたは良いが、いざ戦ってみるとまったく楽しめずに終わってしまい、不満を抱えてしまったのだ。
「やはりAIでは駄目だ。攻撃にパターンがあり、読み切るのが簡単過ぎる。僕を真に楽しませてくれるのは、やはりプレイヤー同士の戦いしか無いというわけか……」
興味を失ったハイドラは最早やるべき事は無いとばかりに、隠し部屋を後にする。稀少な鉱石には一切手を付けずに、竜の素材のみを回収して去っていく。
「……昨日戦った《騎士型》のプレイヤー。彼は凄く良かった。ああいった奇抜な戦い方をする人物は初めてだったからな……。機会があれば、また戦いたいものだ」
ハイドラはふと思い出す。先日の戦いを。
こちらの奇襲を読み取り反撃し、頭突きや素手の格闘すらも使いこなしていたプレイヤー。彼のプレイヤーの事を思い出すとハイドラの心は昂り、ふつふつと血潮が沸騰するような感覚に陥る。
ハイドラは強者との戦闘を愉しむプレイヤーである。自分より強い者や、自身の予想の範疇から外れる者には、最大限の敬意を示す。
ハイドラにとって彼のプレイヤーは、最大の御馳走である。彼のプレイヤーと同等の実力を持つ者との戦いを夢見て、こうして《神世界アマデウス》をプレイしていると言っても過言ではない。
「…………あぁ。駄目だ。抑え切れないな」
ぶるりと身体を奮わせて、ハイドラは〈レッドストーン・バレー〉より飛び出した。昂ってしまった血潮を抑える為に、目についたプレイヤーと戦って欲求を発散するのである。
かくして今日もハイドラは自身の愉しみの為にプレイヤーを狩る。己を打倒してくれる存在を求めて、自身の昂りを抑えてくれる強者を求めて、フィールドを駆けるのであった――――。
ハイドラは悪いプレイヤーでは無いです。ただ、ちょっと周りを省みない性質の子なんです。
次回はレベル、装備品ときて、ゲームならではの手段で強くなります。とは言っても奇抜なものではありませんが……。
次回もお楽しみに……してくれたらありがたいなぁ……。