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神世界アマデウス  作者: 三神ノブノブ
第一章 神世界へようこそ
15/25

第十四話 ゲームならではの方法・その一


 ちょっと長いかな? それともむしろ短いのかな? 後半は分けて書いた方が良いかな?

 そうして悩んだ末に出来たのが十四話です。結局まとめました。

 誤字、脱字がありましたら報告をお願いします。



 ムサシの絶望の未来しか見えて来ない作戦名を聞いてから十数分。

 俺達は場所を〈銀の大木亭〉から〈クレーテー城〉に変えてマリーを呼ぶことにした。レベル上げのついでにクエストもいくつか受けておいた方が効率が良いし、〈クレーテー城〉の方が〈銀の大木亭〉よりも場所が分かり易いからだ。

 城内部に設置されたテーブルに腰掛けてしばらく待っていると、マリーが入り口から城の中に入って来た。相変わらず地味な格好をしているが、黄色の髪はよく目立つので発見は容易かった。


「おーい。マリー、こっちだ」


「あっ……。ナギさん、昨日振りです……」


 俺が声を掛ければ直ぐに気が付いて、此方に近付いてきた。

 マリーの姿形は昨日から余り変わっていない。精々、武器が〈ねじ巻きの石杖〉から新調して、上位武器である〈ねじ巻きの硬石杖〉に強化されているぐらいだ。まぁ、ダンジョンボスを倒したからといって、直ぐには装備品全てを変える事は無いか。

 俺がマリーの様子をしげしげと見ている間、マリーは俺と向かい合って座っているムサシに視線を向けていた。一応、メッセージでムサシの存在は伝えていたが、それでも気になるのだろう。ここは紹介しておこうか。


「コイツは俺のリア友であり、βプレイヤーでもある、侍のムサシだ」


「どもっ! 拙者は大剣豪のムサシで御座る! なんてな」


「あ、はい……その……魔法使いをやっている、マリーです……。よろしく……お願いします……」


 ムサシがノリ良く挨拶を返したが、マリーは細々と縮こまりながら自己紹介をした。元から気の弱い性質なのは知っていたが、ムサシのテンションの高さに面を喰らってしまったのだろうか。


「マリー、心配するな。コイツは見た目こそ極悪人面かも知れねぇが、中身はただの剣豪オタクだ。そこまで萎縮しなくてもいいぜ」


「おっし、ナギ。表出ろや」


「い、いえ! ……その、ムサシが恐いのでは無くて……私が、勝手にどもっているだけなので……! ご、ごめんなさい……」


「えっ!? いや、謝らなくていいって!? 君は悪くない、オレも悪くない、皆罪は無い……OK?」


「その唐突な似非ラップを止めろよ」


 マリーを安心させようとムサシが妙な言語で会話し始めたが、そんな事をしなくても良いだろう。というか、ムサシの見た目に合わないラップを披露したせいで余計にマリーが面を喰らっている。思いきり逆効果である

 人見知りしている人間は共通の話題を振って仲良くなれば良いのだ。「その武器イイネ!」とか「ダンジョンはどこまで進んだ?」程度の会話から始めて、ゆっくりと話し慣れれば万事OKだ。


「所でマリー、武器を変えたんだな。えーと〈ポチ子ちゃん〉だっけ? アレを強化したのか?」


「えっと……はい。昨日倒した〈ボアガッシュ〉の素材を使って、より魔法攻撃力を増やすように強化しました。これからはこの〈ポチ子ちゃん二世〉を使っていきたいと思います……」


「名前は相変わらず〈ポチ子ちゃん〉なんだな……」


 マリーの名前の付け方はペット方式でいくようだ。その内〈タロ〉やら〈ワン助〉と言った名前を付け始めてもおかしくはないだろう。

 とにかく、話題は振ってやったのだ。後はムサシ次第だ。ここから会話を広げてマリーとの壁を無くすように頑張って欲しい。

 俺がチラリとムサシを見れば、ムサシもこちらの意図に気付いたのか、果敢にマリーに話し掛ける。


「〈晶石杖〉じゃなくて〈硬石杖〉にしたって事は、《魔導支援者(マジックサポーター)》や《治癒修道士(ヒーリングシスター)》とかを目指してるわけじゃないんだな」


「えっ……? いえ、余り気にしてませんでした……。私は……広範囲に攻撃する魔法が……使ってみたいと思っていたので……」


「殲滅型の《魔法使い型(マジックスタイル)》か。めちゃいいねぇ、ロマンがあるな! やっぱ魔法ってド派手で格好良くなくっちゃあいけないよな!」


「は、はい! そうなんです……! 魔法は綺麗で見惚れるぐらいに輝かしいものだと思うんです……! 私もそんな誰もが見惚れてしまうような、すっごい魔法を使いたいのです……!」


「分かる分かる、めちゃ分かる。オレもド派手な剣技とか剣法とかに憧れて《剣士型(ソードスタイル)》を選んだんだよな~」


 早い! もう心の壁を打ち砕いている! 元からコミュ力は高い方だと思っていたが、こうして俯瞰して見るとムサシの人付き合いの上手さが改めて実感出来る。凄まじい男だ……。


「広範囲殲滅型魔法を使いたいなら《魔法砲撃士(マナブレイカー)》ってクラスになると良いぜ。そのクラスでしか修得出来ない強力な魔法が幾つかあるからな」


「そのクラス……攻略サイトにも載ってました……。けれど《魔法砲撃士(マナブレイカー)》は……弱い敵を大量に倒すには向いているけれど、ボス戦は苦手と……書いてありましたが……」


「苦手なもんなんてどの【クラススタイル】にもあるわ。苦手なもんはオレやナギにでも任せちまえばいい。なぁ、ナギ?」


「あぁ、その通りだ――――ってムサシ。雑談も良いけど、そろそろ本題に入らないか?」


 マリーもムサシの人柄についてある程度把握しただろうし、ムサシもマリーの性格を理解出来ただろう。こうして会話に花を咲かせるのも悪くないが、今日は今日の目的を達成したいところであるので、会話はそこそこに切り上げよう。


「おっと、そうだな。というわけでマリーちゃん、オレは色々と詳しいからじゃんじゃん頼ってくれて構わないぜ! 訊きたい事や知りたい事は出来る限り応えるからな!」


「あ……はい。ありがとうございます、ムサシさん……」


 こうしてマリーとムサシの自己アピールも終わったところで本題に入るとする。

 マリーを俺達と同じ机に座らせて、これからやるべき計画の内容をムサシが説明し始めた。


「さて、マリーちゃんに来てもらった理由からだ。今ナギは最前線を走るプレイヤー逹から大きく引き離されているので、今から一気に追い付く為にマリーちゃんの力が必要なんだ」


「ムサシが言うにはこのレベル上げ作業はマリーにも十分に利益があるし、特殊なスキルの獲得出来るチャンスもあるらしいんだ。だけど割りと大変な作業になる――――少なくとも精神的な疲労はバカにならないレベルで溜まるから、計画内容をゆっくり吟味して受けるかどうかを判断して欲しい」


「受けなくてもオレ逹だけでなんとかするから、遠慮無く言ってくれ。協力してくれれば有り難いけど、マリーちゃんはオレ逹の事は気にせずに自由に判断してくれて良いからな」


「……はい、分かりました」


 マリーからすれば答えはもう決まっているのだろう。しかし(俺も詳しくは知らないが)このレベル上げ作業は本当に大変らしいので、ちゃんと内容を理解してから協力してくれるかを判断してもらいたいのである。なまじ善意のみで協力してしまったら、作業はやがて大きな苦痛に変化してしまい、長続きはしなくなるからだ。

 マリーにも楽しんで一緒にレベル上げをしてもらいたい。精神的な疲労も含めて、やって良かったと達成感を得られるように、きちんと計画内容を吟味してもらってから参加して欲しいのである。


「それでムサシ。そのレベル上げやら装備品・スキルのチューンアップってのは、どうやってやるんだ?」


 さて、ではいよいよ本題に入る。ムサシが色々と考えて計画――――名前を『ドキッ! デスペナなんて恐くない! 1000回死ぬまで帰れま千!』という、もう絶対にろくな方法ではないのが丸分かりの作業内容について問い質す。

 ムサシは待ってましたと言わんばかりの笑顔を浮かべて、その内容を語り始めた。


「レベル上げを高速に行うには二種類の手段がある。大量のモンスターを永遠に倒し続けるか、経験値効率の良いクエストをハイスピードで回し続けるか、だ」


「クエストって一度受けたものは、しばらくの間は再度受けれないんじゃなかったっけ?」


「同じクエストを回すわけじゃないから大丈夫だ。ちゃんと色んなクエストをローテーションで回し続ける事の出来る順番は調べてきてる」


 尤も――――とムサシは更に続ける。


「今回やるのはクエストを回し続ける方法じゃねぇ。いや、クエストを受けるには受けるが、メインはモンスター退治の方だ」


「……大量のモンスターを倒し続ける作業……。モンスターが無限湧きする所に居座り、常に休む事無く戦い続ける事で……経験値を大量入手する……という方法でしょうか……?」


「他のゲームでも良く見るレベル上げ方法だが……」


 例えばダンジョンのトラップなどで、不用意に部屋に入ったり宝箱を開けたりすると作動し、大量のモンスターが周囲に出現するというものがあるとする。

 本来なら苦しい連続的かつ暴力的な戦闘行為を強いられる厭らしいトラップであるのだが、出現するモンスターを迅速に一方的に処理出来る力量と手段があれば、その見方がガラリと変わる。

 つまり『簡易的な方法』で『大量の経験値・素材』が『自信の周囲に出現』する――――まとめれば『手軽に経験値を稼ぐ事が出来るスイッチ』と化すわけである。

 そう言ったモンスターが簡単に大量に出現する場所は、最初の内は敬遠されがちではあるものの、攻略が進行すれば有名な狩り場となる。大抵のゲームで見られる光景であろう。


「鋭いな、マリーちゃん。完全にじゃねぇが当たりだぜ。第二のダンジョンにそういうモンスターが大量出現する部屋があるんだ」


「俗に言う《モンスターハウス》ってものか」


 そして狩り場(それ)は《神世界アマデウス》においても変わらないようだ。ゲームの製作スタッフ逹は必死に創ったモンスター出現トラップが、効率の良い経験値稼ぎ場になるの光景を見て、どんな気持ちになるのだろうか。


「……完全にじゃないとは、一体……?」


「画面越しで操作するゲームとは違って《神世界アマデウス》はVRだ。自分の身体で四方八方から迫り来るモンスターの大軍を捌くのは、最上級のプレイヤーでも至難の技となるんだよ」


「ソロで〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉を攻略していた時期は、複数体のモンスターに囲まれたら絶望しかなかったからな……。ムサシの言う事に全力で共感出来るぜ……」


 中学生時代でもそういう経験はある。相手がどんなに雑魚で弱かろうが、何人も集まれば脅威となり得た。特に《虚墓炉崇(ウロボロス)》という不良チームと敵対していた時は、ほぼ毎日五人以上に囲まれて殴り掛かられて痛い目に合っていたのだ。集団による一斉攻撃の怖さは嫌という程に知っている。


「つまり、いくら経験値が手に入ろうとモンスター無限湧き・大量出現する場所に留まって戦うのは自殺行為にしかならないってわけだ」


「……ではどうやって経験値を稼ぐのですか……? 留まって戦えないとなると、ある一定数のみ誘い出して逃げながら戦うとか……?」


「いいや、逃げながらは戦わない。最終的には逃げ出すが、基本は留まって戦う」


「……?」


 マリーは意味が分からないという表情を浮かべて困惑している。俺もムサシの言っている事がまったく理解出来なくて困っている。

 留まって戦うのは自殺行為というのに基本は留まって戦うとは、それは矛盾した行為ではないのだろうか。

 俺とマリーが疑問の視線をぶつければ、ムサシは話を続けてくれた。


「ナギには言ったはずだろうが。今回の作戦名――――『1000回死ぬまで帰れま千!』って」


「…………待て待て待て待て。まさか、お前――――!?」


 1000回死ぬまで。

 自殺行為。


 この二つの単語を組み合わせれば、なんとなくムサシがやろうとしている事が理解出来てしまった。マリーは未だに首を傾げているが、直ぐに分かるだろう。

 これは正気の沙汰ではない。やり方としては本当に自殺行為そのものだ。画面越しのゲームならともかく、VRゲームでやるのは相当な勇気がいるだろう。


「ナギ。強くなるにはどうしたって無理をする必要がある。楽に強くなれる方法なんて無いんだよ」


「それにしたって、こんなやり方は無いだろうが! というか俺はともかくとして、マリーにもやらせるつもりか!? 別に《魔法使い型(マジックスタイル)》は必要無くないか!?」


「あ、それについては大丈夫。マリーちゃんは別の安全なレベル上げ方法をしてもらうから。ようは後始末係だ」


「ならよし!」


「あの……会話に付いていけないのですが……。結局お二人は何をするつもりなんですか……?」


 おずおずとマリーが口を挟んできた。勝手に男二人が熱くなって語り合っているのを見て不安になったのだろうか。

 俺とムサシは顔を見合わせる。口頭で説明しても良いが、ここは実際にダンジョンに行って実践した方が理解し易いだろう。一度己の目で作業内容を見てから、やるかどうかを決めて貰うとしよう。マリーがこのレベル上げ方法を気に入るかは分からないが……。


「そうだな。とりあえずレベル上げを行うダンジョンに移動しようか。細部を確認しながら説明した方が分かり易いし、実際にやってみれば案外気に入るかも知れないぜ?」


「絶対に気に入りはしないだろうけどな、俺は……」


「えっと……詳しい事は分かりませんが、移動するのですね……? なら、そのダンジョンに出現するモンスターの討伐クエストもついでに受けておきましょう……」


 正直気乗りしないし、余りやりたくは無い作業内容ではあるものの、確かにレベル上げとしては有効な手段ではありそうだ。どれぐらいスムーズに行えるかは俺次第ではあるが、少なくとも普通にダンジョンに入り浸るよりかは素早くレベル上げが行えるであろう。

 ならばやるしかない。こうしている間にもハイドラは更に先に進んでいるだろう。奴に追い付く為には無理を承知で突き進む気概が必要なのだ。ここで怯えて後退している暇は無い。


「しかし、アレだな。レベル上げにこんなに必死になるなんて廃人ゲーマー道を突っ走ってるな、俺……」


「そこは夢中になる程やりがいのあるゲームで楽しんでマース! って開き直ろうぜ。現実よりも全力を出して遊ぶのがゲームの真髄なんだからよ」


「……一理ありますが、なんか駄目人間の言い訳みたいですね……。そのゲームにどっぷりと浸かっている私が言えた事ではありませんが……」


 なんにせよ、そこまで全力で鍛え上げなければ勝てない相手がいるのだから、ゲームの世界だろうと必死になるべきなのだろう。

 虚構の世界だからと言って、誰かに勝ちたいだとか強くなりたいといった思いまでもが偽物だとは限らないのだから。


 そういうわけで俺とマリーはムサシの先導の元、クエストをいくつか受注した後にレベル上げに必要な場所へと向かったのであった。



  ………………………………………………………  



 《神世界アマデウス》における死亡――――デスには複数の種類がある。

 その種類というのは次のように分別される。


・A……モンスターやNPC、プレイヤーの手によって死亡した場合。


・B……自然発生したトラップや地形効果によって死亡した場合。


・C……イベント内の選択肢をミスしたペナルティで死亡した場合。


・D……自分が使用したアイテムや魔法の効果で死亡した場合。


 《盗賊型(シーフスタイル)》や《弓兵型(アロースタイル)》のプレイヤーの中にはトラップを自己生成して設置出来る者もいるが、そのトラップの効果で死亡した場合もAに分類される。

 トラップの効果で毒状態や火傷状態などの継続的にダメージを受け続ける状態になって、それでHPがゼロになり死亡した場合は、トラップの種類――――他者が仕掛けたタイプか、自然発生したタイプかで、AかBかのどちらかに分かれる。

 また高い所から自ら飛び降りて、落下のダメージで死亡したとしても、それは『地形効果による死亡』と見なされてDでは無くBに分類される。


 と、色々と細かく死亡状況によってタイプが分別されているのだ。

 そして更にタイプによってデスした際のペナルティの内容が変わって来るのも特徴である。

 A、B、C、Dのタイプ毎に説明すると。


・A……所持金の半分を失う。他のプレイヤーに手によって死亡した場合は、その他のプレイヤーに失った分の所持金が譲渡される(拒否する事も可能で、拒否された場合は所持金は元のプレイヤーへ戻って来る)。


・B……STR・VIT・SPD・INTのいずれかが(現実時間の数えで)一定時間ダウンする。時間経過以外の方法では解除出来ない。


・C……選択をミスしたイベントが強制的に失敗扱いとなり、失敗した場合の違約金を払わなければならない。


・D……特にペナルティ無し。


 となっている。

 D以外はどれもこれも何かしらの損失が発生するようになっている。Aに至ってはPKをするメリットとして分かりやすいペナルティである。

 この為に《神世界アマデウス》では基本的には死亡を前提とした行動は取らない、あるいは死亡するにしてもDになるように調整するのが基本となっている訳であり、数多くの死亡を経験する作業は余り意味の無いのである。


 しかし、逆説的に。

 死亡するペナルティを無くす、または上回るメリットがあるのであれば、死亡を前提とした行動をする必要性も出てくるものだ。

 そう――――丁度、今の俺のように。


「うおおおおおおおおおお!!? 多い多い多い多い多い!! いくらなんでも多過ぎるんだよぉぉぉぉぉぉ!!?」


「とにかく倒せ! 多少の被弾は無視しろ! 身を守る暇があるならモンスターを倒しまくれ! 限界まで剣を振るい続けるんだ!」


「なななな……!? なんですか、この蟻の大軍はーーーー!?」


 場所は第二のダンジョンの一つ〈アーミーアント・フォートレス〉の内部。入り口から近くにある、とある通路の半ば程。

 この〈アーミーアント・フォートレス〉は近場に中継地点となる村や町が存在しない為に、ダンジョンに入って直ぐの場所にNPCが簡易的なキャンプ場を構えている。アイテムの売買やHPの回復ぐらいなら、このキャンプ場で行えるのだ。


「斬っても斬っても減らねぇぇぇぇぇぇぇ!!? 何十体出現してんだよ、この蟻共はーーーー!?」


 そして、入り口から正面に真っ直ぐに伸びる通路がある。ここを直進すれば直ぐにでもボス部屋の前にたどり着く事が出来るという親切設計。

 しかし、意気揚々と何も考えずに通路に突っ込んで進んでしまうと、道中の半ば程で前方から〈アーミーアント・ローランク〉というモンスターが尋常では無い程に出現し、道を塞いで来るのだ。その数の多さと勢いの強さはまるで雪崩れのようであり、強行突破するには相当なステータスでゴリ押すか広範囲攻撃で一掃するしか無いのだ。

 無論、第二のダンジョンに来たばかりの職業熟練度では突発は愚か逃走すらままならないので、大抵のプレイヤーはここで一度デスする。親切設計どころか心折設計である。


「ムサシさん! いきなりナギさんを先頭にして通路を進んだと思ったら、このモンスターの大軍……! これではナギさんが死んでしまいます……!?」


「あぁ、ナギの足の早さじゃあ〈アーミーアント・ローランク〉からは逃げ切れない。倒すだけ倒しておいて、いずれは押し負けて死ぬな」


「なっ…………!?」


 〈アーミーアント・ローランク〉は一体一体の強さは大した事は無い。〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉にはこのモンスターを超える強さを持つ敵も何種類か存在したのだ。一騎討ちならば俺が倒されるような事態には陥らないだろう。

 しかし倒しても倒しても奥からゾロゾロ沸いて来る巨大蟻の大軍を前に俺のHPはガリガリと削られている。どんなに手早く倒しても数が減らないので、捌き切れずに何発も攻撃を喰らってしまうのだ。

 《騎士型(ナイトスタイル)》の防御力の高さならばしばらくの間は耐え切れるだろう。しかし巨大蟻の大軍を押し返して脱出する手段が無いので、ムサシの言う通り何時かはデスする定めにあるのだ。


「……1000回死ぬまで帰れま千って、デスする事を前提としたレベル上げ作業の事だったのですか……? リアルなVR世界でデスするのがどれだけ辛いのか、貴方は理解していないのですか……!?」


「そう怒るな、マリーちゃん。さっきも言ったが無理を承知でやらなきゃ追い付けねぇんだよ。〈アーミーアント・ローランク〉は単体の戦闘力が低い割りには経験値が高いモンスターだ。しかもそれが大量に出現する。かーなーり旨みのあるレベル上げ方法なんだよ、これは」


「……でも、それなら私も一緒に戦った方が良いのでは……? わざわざナギさんをたった独りで戦わせる理由は……?」


「魔法は広範囲過ぎてナギを巻き込んじまう可能性がある。一体一体を的確に射抜ける技量があれば参戦しても良いけど、ナギの背中越しにモンスターに魔法を当てるのは難しいだろう?」


「……〈追従の牙矢(ファングショット)〉なら……。でも、攻撃軌道上にナギさんが居たら……」


「邪魔になりそうなら大人しくしておいた方が良いぜ。適材適所っつー言葉があるように、後でマリーちゃんにも出番はあるから、それまでMPは残しておいてくれ」


 後ろでムサシとマリーが何か話し合っているが、気にする余裕は無い。とにかく目の前から迫るモンスターの大軍を斬りまくり、数を減らさなければいけない。

 斬って斬って斬って斬って斬って、片っ端から斬り捨てる。攻撃を防いで反撃、なんて事をしている暇すら惜しい。致命的な攻撃だけ弾いて反らし、それ以外は体で受け止めて攻撃する。


「ムサシ! これをデスするまで続けるのか!? かなりキッツいけど!?」


「でも経験値はみるみる間に獲得しているはずだぜ! 実際にモンスターを倒しているお前も、パーティーメンバーボーナスでマリーちゃんもな!」


「ご、ごめんなさいナギさん……! 何もしていない癖に経験値だけ貰ってしまって……!」


「どうせ俺の取り分は減ってねぇ! 遠慮無くラッキーだと思って貰えばいい! アンタも危険な事には変わり無いんだしな!」


 〈アーミーアント・ローランク〉の勢いは止まらない。俺を集中して狙って来るのでマリーにまで攻撃は届いていないが、俺が倒されれば防御力の低いマリーは一瞬で蹂躙されてしまうだろう。

 もっとも、そうなればムサシが割って入ってマリーを助けてあげるらしい。マリーがキャンプ場(安全地帯)まで逃げれば、足の早いムサシならば〈アーミーアント・ローランク〉から逃げ切るのは容易い。俺以外が被害を受ける事は無い。


「……ムサシさん。私の仕事ってなんなんですか……? ナギさんのHPが尽きる直前に助け出す為に……というわけでは無いのですか……?」


 マリーは不安そうな声を出した。まぁ気合いたっぷりにダンジョンに来たのに、現状マリーがしている事は俺の後ろで戦いを観戦しているだけだ。自分が来た意味が理解出来ずに不安がっているのであろう。

 戦況を見守っていたムサシは、腕を組んでから応えた。


「うーん。ネタバレすると、マリーちゃんにはナギのお金を回収して欲しいんだよね」


「ナギさんのお金……? 回収って、デスしたら所持金は半分消滅しますよ……? 別にドロップする訳でもありませんし……」


「所持金の半分を失うのは確かだけど、それはモンスターかプレイヤーにキルされた場合のペナルティだ。そしてPKしたプレイヤーはキルしたプレイヤーの所持金の半分を得る事が出来る」


 そこまで聞いてマリーは息をのんだ。ムサシが次に言おうとしている事が分かったからだろう。


「だけど、所持金の獲得を拒否する事で所持金はプレイヤーの元へ返還される」


「……ま、まさか……。ムサシさん、私にナギさんを……!?」


「そう――――広範囲殲滅魔法で〈アーミーアント〉ごと倒して欲しい。そしてナギのお金を拒否して返還すれば、デスペナを受ける事無くナギはリスポーンするわけだ」


 それは俺が半ば予想していた内容と同じ方法だった。

 遠距離から広範囲を一瞬で一掃出来る《魔法使い型(マリー)》に止めを刺されることで、実質デスペナを無視してデスする事が出来る。

 マリーは〈アーミーアント・ローランク〉が一掃された隙にキャンプ場まで戻ってくれば、何も問題無く経験値を稼いで帰還する事が出来る。

 一応は互いに利点がある方法だ。味方を攻撃するという後味の悪さを除けば、だが。


「そ、そんな……。ナギさんを攻撃する事なんて……私には出来ません……」


「えっ? ウソ、マジで? マリーちゃんがナギを倒してくれないと、アイツがデスペナを受けちまうんだけど……。俺だとナギに止めを刺しても、追撃してくる〈アーミーアント〉を殲滅する手段が無いし。マリーちゃんなら一方的に攻撃出来るから、安全に引導を渡す事が出来るんだよ」


「でも……私、ナギさんには恩があって……それを仇で返すような真似は……」


「大丈夫大丈夫。アイツ実はドMだから。攻撃してくれた方が喜ぶから、十分に恩返し出来るぜ?」


「えっ…………!!?」


「ムサシィ! てめぇテキトーな事言ってんじゃねぇ!! 俺はどっかと言えばSだ!! 激しく攻めるのが好きなんですぅ!!」


「ほら、ああやって最低な事を言うような奴だから! 気にせずぶちのめしてやればいいって」


 しまった。ついぽろっと性癖が漏れてしまった。これはドン引き案件だろう。まぁ、マリーがヤル気を出してくれるのであれば構わないのだが。


「…………なるほど…………。ナギさんは攻めるのがお好きなんですね…………」


「マリーちゃん?」「マリー?」


「いえなんでもありません」


 なんかマリーが少しだけ考え込んだが、すぐに誤魔化した。なんだろう、俺がSなのに思うところがあったのだろうか。

 というより、そんな会話している場合ではなかった。そろそろ俺のHPがヤバくなってきた。マリーが魔法攻撃で殲滅しないと、俺だけじゃなくてマリーにも危険が迫る。


「マリー! 俺の事は気にするな! 遠慮無くぶっ放せ! つーか魔法攻撃してくれ! 流石に所持金半分はキツいから! そっちの方が助かるから!」


「……うっ……。ナギさんがそう言うのであれば……。でも本当によろしいんですか? 凄い炎ですよ? 死ぬ程熱いかも知れませんよ……?」


「実際に死ぬから問題ねぇ! ……言った俺でも訳分かんないわ、これ」


 VRの世界で実際に痛みを感じる事は無いのだから、たぶん大丈夫だろう。


「……分かりました。では……」


「万が一〈アーミーアント・ローランク〉が残ったら、俺が時間稼ぎをする。マリーちゃんの身は守ってやるから安心して死んでくれ、ナギ」


「任せたぞ、ムサシ! それはそれとして、こんな悪魔的な方法を思い付き実行した分は殴るからな!」


「なんで!?」



 マリーが詠唱を開始する。唱えるは大軍を一掃された出来る魔法。恐らくは〈拡散の火炎弾(ブラスト)〉を上回る、今マリーが覚えている魔法の中でも最大級のもの。


『悪鬼すら燃え尽きる炎熱地獄、今ここに再現せよ!』


 《魔法使い》が職業熟練度11で覚える炎熱系統の大技――――。


『――――《災厄の渦焔(フレアホール)》!!』



 瞬間。

 〈アーミーアント・ローランク〉を中心に巨大な炎の渦が出現した。

 莫大な熱量を持つ渦は巨大蟻を次々と絡めとり、引き摺り込み、瞬く間に灰にする。逃げる時間すら与えず、炎は範囲内にいる生命体に喰らい付き、貪り燃やしていく。

 それは俺も例外ではなく、圧倒的な熱量によって巨大蟻と共に炎に巻かれて、一瞬で残りのHPを消し去られた。



 〈You are dead〉



「もうこのメッセージも見飽きたなぁ……」


 最期にポツリとそんな言葉を残して、俺はまたもデスしたのであった。



 まだまだ続くよ、修業パート! けど早めに切り上げて戦闘パートに行きたいよね!

 たぶん後二話ぐらいしたら戦闘パートに入ると思いますので、しばらくは修業パートを堪能して下さい。

 次回は大量に獲得した素材を使った話になる予定です。


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