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神世界アマデウス  作者: 三神ノブノブ
第一章 神世界へようこそ
14/25

第十三話 竜騎士討伐会議


 今回は会話ばかり。というか会話しかしていません。なのに文字数は戦闘シーンよりも多いという謎。

 というわけで第十三話です。誤字、脱字がございましたら報告をお願いします。


 敗北とは弱い己を受け入れてしまう事だと、俺の父親は言っていた。

 自分より強い者に敗けてしまうのは仕方が無い、相手の方が上手だった、今日は運が悪かった、体調が悪かった、鍛えていなかった自分が悪かった……。

 理由を付けて敗北したという事実を受け入れ、弱い事に納得してしまう精神こそが、本当の敗北なのだと言っていた。


『いいか、凪。男ってのは意地っ張りを貫き通してこそ輝くんだ。負けたくねぇ、負けるわけにはいかねぇ、そう思って醜くとも勝利をもぎ取ろうとする精神こそが、男の勝負に勝利を呼び込むんだよ』


 ……俺は納得が出来なかった。醜くとも勝利を目指すという精神、という部分がどうにも引っ掛かった。

 何であれ負けるのは悔しい事だと思う。だが、悔しいからと言って敗北を受け入れずに足掻き続けるのは、格好悪いとか無様だとか以前の問題である。

 勝者を称賛し、勝者を潔く認めて――――自分自身は敗北した悔しさをバネに修練を積んで、次の勝利を目指す。これこそが正しい勝負後の経過というのでは無いだろうか。

 醜く足掻いて自身の敗北を受け入れないのは、何も糧にせず、何も得る事なく、ただ無為に怨恨を募らせるだけでは無いのか。


『あー、そうじゃなくてだなぁ……。相手より力が無いとか、相手が上手だったとか、そーゆーぐちぐち言い訳を付ける精神が駄目っつーか……』


 父は上手く言い表せ無いのか、口をもごもごと言い澱ませて、しばらく考えてから改めて喋り始めた。


『つまりは、だ。例え意識を失っても、例え体が動かなくなるまで痛め付けられても、何度でも相手に挑んでいく精神が大事なんだよ。諦めずに「自分はまだ負けちゃいねぇ」って力を振り絞るんだ』


 それは……おかしな話では無いだろうか。意識を失ったら敗北の証である。体が動かなくなっても同じ事だろう。

 しかし、父の考えは違った。


『周りが敗北を指摘しようが、相手が明確に勝負の決着を宣言しようが、関係ねぇんだよ。日を改めて何度でも戦うんだ。どちらかが降参を言い出すまで戦い続けるのが、男の勝負の在り方だ』


 しかし、それでは不毛な争いが永遠と続く事になる。相手が、あるいは自分が圧倒的な実力を持っていたとしても、心が折れない限りは何度でも勝負は発生してしまう。実力、才能といった個人のアドバンテージが、精神というものに凌駕されて支配されてしまうだろう。


『それが男の勝負なんだよ、凪。ルールに則った勝負では測る事の出来ない戦いに決着を付けるのは、いつだって人間の精神力だ。ルール外で起きた戦いはルールの外の基準で終わらせるしかねぇ』


 ……ルールに則った勝負も、男の勝負も、同じであろう。勝利と敗北を明確にして、開始と終了を提示しておく。確かに精神力や意地で持ち堪えるべき場面もあるだろうが、それでも示された終わり方は守らなければならない。でないと際限無く争いは広がっていく訳なのだから。

 今は弱い。次は強くなって勝つ。一度終わらせてから次の勝負に向けて精進する。いつまでも足掻いて引き延ばす行為は、ただの悪質な一人よがりな感情でしかない、と思うのだが。


『ルール状で定められた勝負なら凪の意見が正しいな。けれど心の中では敗北を認めるな。次はだとかいつかは、なんて言葉を使うな。敗北を認めたら、心が折れて、二度と敵わなくなっちまう』


 心が折れる? 敗北を認めたら、二度と敵わなくなる?

 どういう意味か考えて見たが、なんとなくしか分からない。具体的な事は想像しても思い付かない。

 父の次の言葉を待った。しかし、返ってきたのは答えではなく、補足説明でもなかった。


『ルールは守れ。それは人間として当然の行為だ。

 卑怯な手は使うな。それは男として失格の行為だ。

 真っ向から立ち向かえ。それは戦う者として必然の行為だ。

 勝つまで諦めるな。それは――――真の男になる為の絶対の掟だ』


 父は俺の肩に手を置いて、真っ直ぐに俺の瞳を見据えた。


『凪。お前が不良に憧れてるんなら、俺は無理には止めはしない。だが道を踏み外すなよ。そして勝ち続けるんだ。敗北を受け入れずに何度でも立ち上がれ。不良になるってんなら、最低限は誇りを持って行動しろ。いいな?』


 それは約束だった。

 父親として修羅の道を歩もうとする息子に対する、激励にして忠告。

 社会的道徳から逸れるのならば、せめて勝者になり続けろという、分かりやすく――――難しい約束。



 俺が中学時代に交わした約束は、今もまだ続いてる。

 高校生になっても――――VRゲームであっても変わらずに。



  ―――――――――――――――――――――  



「そんなこんなで、昨日は見事〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉を攻略出来たんだけど、帰りにPKされちまいましたとさ」


「オメデトウとザンネンという二つの気持ちが混ぜ合わさって、なんとも言えねぇよ……」


 緑の騎士に見事PKされてしまった翌日。

 俺はムサシと時間を合わせてログインして〈銀の大木亭〉にて合流した。理由は勿論、昨日あった出来事を報告する為だ。〈インスタント・メッセンジャー〉を使っても良かったんだが、やはり長話は顔を突き合わせてした方が良いしな。


「くそー、あの《騎士型(ナイトスタイル)》のプレイヤーめ……。昨日はボコボコにされたが、次会った時は覚悟しておけよ……。ヘルムをひっぺ剥がしてマウントポジションで顔面をタコ殴りにしてやる!!」


「言ってる事が完全に悪役のソレだな……気持ちはめちゃ分かるけどな」


 せっかく苦労して第一のダンジョンをクリアー出来たのに、その達成感や高揚感を全て台無しにされたのだ。俺は完全に頭にきていた。

 PKするのはプレイヤーの勝手ではあるものの、そういう奴はPKされ返されても文句は言えないのだ。だから緑の騎士は必ず俺がぶっ飛ばすと決めたのだ。


「とは言ったものの、直ぐに勝負を挑んでも返り討ちに合う可能性が高いしなぁ……どうしたら良いものか……」


 ぶっ飛ばすと決めたは良いが、肝心の方法は思い付いていない。もちろん真正面から挑んで殴り飛ばすのは当然なのだが、あの緑の騎士は尋常じゃなく強い。対策を取ってから戦うか、俺自身が更に強くならなければ、まともに相対する事すら難しいだろう。

 昨日の戦いは互いに初見だったから渡り合えただけで、一度見られた攻撃や戦法は二度と通用しないと考えた方が良いだろう。


「そりゃそうだろう。相手は現状《神世界アマデウス》の中で最強と称されるプレイヤーだぜ? お前よりもレベルもプレイヤースキルも圧倒的に上だろうよ。勝てる要因が全くねぇ」


「……最強? アイツ、そんなに有名なのか? もしかしてβ版からのプレイヤーか?」


「いや、β版にはいなかったが、ここ数日で一気に名を上げているルーキーなんだよ。βプレイヤーすら鎧袖一触の凄腕ってな」


「なっ……!?」


 βプレイヤー逹よりも強い新参者。それは即ち、熟練者すら置き去りにしてしまう程の実力を持った真の天才という事だろうか。


「実はオレもソイツについてはある程度は調べてたんだよ。何せ最強と言われるプレイヤーの基本的な行動は、不特定多数のPKだ。抗いようの無い暴力が次々とプレイヤー逹を襲っているっつーのは、どうにも納得いかねぇ話だしな」


「あのプレイヤー、やっぱりPKばっかりやっていたのか……」


 昨日の戦闘中に呟いていた言葉の内容から、緑の騎士が強者との戦いに餓えていたのはなんとなく理解していたが、まさかそれが理由でPKばかりを行っていたというのか。本当に傍迷惑な男である。

 俺が呆れと怒りが混じった奇妙な感情を抱いているのを知ってか知らずか、ムサシは何やらウィンドを操作して画面を凝視していた。


「えーと、待てよ……そのプレイヤーのアバターネームは《ハイドラ》。クラスは《騎士型(ナイトスタイル)》の一つ《竜騎士(ドラゴンナイト)》。攻撃寄りな【必殺技】や跳躍力を上昇させる【必殺技】を自力習得するクラスだな」


「ただの《騎士(ナイト)》からクラスチェンジしていたのか……。ん? という事は……一度職業熟練度がリセットされている状態から、あの強さ(レベル)まで戻したって訳か!?」


「加えて教えてやるよ。《竜騎士(ドラゴンナイト)》にクラスチェンジ出来るようになるには「ドラゴン系統のモンスターを20体以上討伐する」「《騎士(ナイト)》の熟練度を20以上にする」「【竜殺し(初級)】を取得する」の3つの条件を満たさなければならねぇ。ドラゴン系統のモンスターは最弱の雑魚でも第一のダンジョンボス程度には強いっつーのに、それをさくっとぶっ倒して《竜騎士(ドラゴンナイト)》の熟練度すら上げているときた。二週間で出来るようなもんじゃねぇぞ、マジで」


「……心底、化け物だと思うよ。本当にな」


 ハイドラ。

 それが、あの緑の騎士の名前。最強の称号を手にした、孤高の竜騎士か。


「レベルは不明だが、第二のダンジョンをクリアー出来るぐらいには上げているようだ。またパーティーを組んでいる様子が無く、常にソロで行動しているらしい」


「まぁ、なんとなく、アイツが誰かと一緒にいるタイプの人間じゃないのは分かっていたけど」


 何せ「もっと僕を愉しませろ……!」とか言いながら襲い掛かってくるようなサイコプレイヤーだ。フレンドになろうとする者は中々いないだろう。下手したらパーティー申請を行う者も稀少かも知れない。


「戦闘スタイルはぶっちゃけ不明だ。相対した奴らのほとんどが、ものの数秒で瞬殺されているんだ。異様に高い戦闘技術、ハルバートによる超高速の急所攻撃で一撃の元に葬り去っている、という事は分かっているんだけどな……」


「……? 確かに攻撃は早かったけど、秒殺されるぐらいに実力差があったのか? 第一のダンジョンをクリアーした直後の俺程度でも、数分は持ち堪えたんだが……?」


 最前線プレイヤーならば、ハイドラとのステータス差は余り無いと思われる。ならばハイドラの動きについていく事も、そう難しい話では無いと思うのだが。現にハイドラから見れば格下であったはずの俺ですら、反撃してダメージを与える事に成功しているのだから。

 しかし、ムサシは呆れたような表情をして答えた。


「お前なぁ……ハイドラの強さはステータスじゃなくて、異様に高い戦闘技術にあるって言っただろうが。レベルが同等以上だろうが、有能なスキルを取得していようが、結局ハイドラの動きについて来れずに即死するんだよ」


 ムサシはそこまで言い切って――んっ? と首を傾げた。何か重要な事に気が付いたかのように。


「待て……今お前、数分は持ち堪えたっつったのか? 職業熟練度が10しかないお前がハイドラ相手にか!?」


「今は11に上がりましたー。誤解しないで下さいー。レベルも上がって【装備重量制限】のペナルティも解除されて、もう誰にも地雷プレイヤーだなんて呼ばせねぇぜ!」


「んなもんどうでも良いんだよ! どうやってハイドラと渡り合えたんだ!? 相手は最強のプレイヤーだぞ!?」


 ムサシが興奮したように訊いてきた。どこかしら期待を込めた眼差しで俺を見つめている。男に熱っぽい視線を送られても不気味にしか感じないのだが、無視するわけにもいかないので喋る事にした。


「どうやって、て……。相手が頸を斬り落とそうとしたのを根性で避けてだな――――」


「根性」


「それで隙を突いて渾身の頭突きを顔面に喰らわせて――――」


「頭突き」


「怯んだところを拳の嵐よ。攻撃しまくれば相手だって中々攻勢に移れないだろ? タコ殴りよ、タコ殴り」


「タコ殴り」


 ムサシは理解出来ていないようで、オウムの如く単語を返しているだけだ。まぁ、自分で振り返って見ても真っ当な戦い方では無いとは思うが。騎士というよりはチンピラの戦い方と言うべきであろうか。


「でも根性だけじゃ勝てなくて、結局投げ技やら払い技で転倒したところをハルバートでグサリ……だったな」


「あっ彼方さんも素手で技を仕掛けたんです?」


 ……うん。やはりハイドラのあの動きは、リアルの方でもかなり戦い慣れていたプレイヤーだったのだろう。しかも、俺のように根性や出任せで戦っていた訳じゃなく、技術という理合を獲得した合理的な戦い方で。

 片やただの不良、片や正当な強者。普通に比較して見れば、どちらがより優れた戦闘者なのかは明白であろう。もっとも、だからと言って俺がアイツに勝てない道理は全く無いのだが。


「相手が次にどこを狙うかが分かれば、少なくとも致命傷は避けられる。でもハイドラの攻撃はその”次“が分かり辛い攻撃だったから、避けるのすら難しいんだよなぁ。俺もハイドラから漏れ出す殺気を感知出来なかったら瞬殺されていたかもな……」


「なるほど、お前も十分に頭がおかしいという事が分かった」


「いや、なんでだよ!?」


「殺気を感知とかバトル漫画かよ!? 昔不良でしたとか、喧嘩慣れしているからとか、そんな理由じゃ説明付かない次元の話だろうが!!」


「なん……だと……。”虚墓炉崇(ウロボロス)“の三凶とか、八武山中学の”高景霧藤の四天王“とか、普通に使ってきたぞ!? 殺気の感知による先読み!!」


「他にもいるのかよ!? どんな魔境!?」


 中学時代は色んな不良と戦闘(バト)っていたからな。数をこなせば殺意とか敵意とかには嫌でも敏感になる。というか敏感にならないと、不意打ちや闇討ちが基本の世界では生き残れなかったのだ。


「……ま、まぁ、あれだ。お前がよく分からない能力のおかげで、ハイドラ相手にでもイニシアチブを取りやすいって事だな」


「露骨に話を反らしたな、てめぇ……。イニシアチブを取れるつったって、結局ステータス差と戦闘技量の差で敗北したんだぞ? 仮に今からレベルを上げてステータスを上昇させたとしても、ハイドラに追い付けるのか怪しいしなぁ……」


 こっちはやっと第一のダンジョンをクリアーした出遅れ。片やハイドラは第二のダンジョンをクリアー出来るレベルのプレイヤー。普通に考えれば、レベルの差は縮まる事はあっても追い付く事は無いだろう。こっちがレベル上げを勤しんでいる間、向こうだってレベル上げをしないわけじゃないのだから。


「……なぁ、ナギ。やっぱり今からでも最前線のプレイヤーに追い付きたいのか?」


「あっ? 当たり前だろうが。お前にも世話掛けられっぱなしっつーのも情けない話だし、ハイドラにやられっぱなしっつーのもムカつくからな。追い付けるなら追い付きたいぜ」


 ハイドラの事は後回しにしたとしても、やはりムサシとレベル差があるのはもどかしいのだ。ムサシは俺に合わせて格下のダンジョンにも付き合ってくれるだろうが、そうなるとムサシのレベル上げがその分だけ滞るのだ。それはとても申し訳なく感じる訳で。

 せめて第二のダンジョンをクリアー出来るレベルぐらいはさっさと上げたいものだ。ここで躓いているようでは永遠にムサシにもハイドラにも追い付け無いだろう。

 ムサシもそれを理解しているのか、大きく溜め息をついて天井を見上げた。


「あー、くそ。せめて《魔法使い型(マジックスタイル)》のプレイヤーがいればなぁ。レベリングを高速に行えるのになー」


「……え? 何故に《魔法使い型(マジックスタイル)》? 高速で行えるレベリング……?」


「熟練度20までなら《魔法使い型(マジックスタイル)》がいれば……まぁ大変だが高速で上げられる方法があるんだよ。所謂裏技って奴だ。製品版に移行した後でも、この裏技には手を付けられて無かったしな」


 裏技――――VRゲームだろうがTVゲームだろうが、やはりそういうものはどのゲームにもあるものだな。しかも丁度良くレベリングに関するものとは……。


「一応、他にもレアアイテムを効率良く回収する周回ルートとか、特定のモンスターのみを対象とした楽な狩り方とかも知ってるけど……今のお前が訊いても意味無いしなぁ」


「割りとガタガタですね《神世界アマデウス》!?」


「廃人プレイヤーを嘗めるなよ、ナギ。奴等は一日もあれば直ぐにゲームの穴や攻略ルートを即座に構築するような奴等だ。開発陣から見れば次から次に粗を発掘されてる気分になり、涙になりたくなるだろうよ」


 恐るべし廃人プレイヤー。俺もそんな奴等に追い付く為に今から努力するわけだが……まったく未来に展望が見えない。というか追い付ける気がしない。これがゲームに全てを掛ける人間の業というものだろうか。

 しかし、そんな廃人プレイヤーのおかげでレベリングは問題無さそうだ。有り難う、廃人プレイヤー達よ。君らの開拓した道筋は俺が余す事無く利用してあげよう。


「つまり《魔法使い型(マジックスタイル)》がいれば問題無いわけだな? その裏技で一気にレベル上げが出来るわけだな?」


「まぁな。けど《魔法使い型(マジックスタイル)》のフレンドなんていないぜ? 知り合いは全部、熟練度20以上になってるし、今から募集を掛けても《騎士型(ナイトスタイル)》のお前と組む奴なんて……」


「《騎士型(ナイトスタイル)》に掛けられている事実無根の(のろい)は、今は置いといてだな……。人の噂は四十五日というし、いずれ消えるとしてだな……」


「ナギ、三十日ほど足りてないぞ。七十五日だ」


「えっウソ、マジ!? いや、今はそれも置いといて!!」


 確かに今だに《騎士型(ナイトスタイル)》に対する風当たりは強い。俺が他のプレイヤーに声を掛けても断られるのがオチだろう。

 しかし、俺にはフレンドがいる。心優しく頼りがいのある、女魔法使いのフレンドが。


「実は昨日、女性の魔法使いプレイヤーとフレンドになってな」


「なにぃ!! 女性プレイヤーとフレンドにぃ!? さてはタラシだな、てめぇ!?」


「顔面を砕くぞ、オイ……」


「じょ、ジョーダンですよ、ナギの旦那! 口が過ぎました! だからそんな地獄の番犬も逃げ出すようなオーラを出さないで下さいよおー!」


 さらりと酷い事を言ったムサシに怒気を向けると、ムサシは流れるような動作で土下座態勢を取った。あまりの素早さに思わず面を食らってしまった程だ。う、美しい……。


「おぉ……。今、確かに感じたぜ、殺気……。成る程、あんなもんを日常的に受けていたら、そりゃ敏感にもなるか……」


「おーい。土下座する程に怖がらせたのは謝る。だから話を戻させてくれ」


「はっ!? あぁ、すまん。思わず条件反射で土下座っちまったぜ。まったく恐ろしい殺気(もん)をポンと出すなよな……」


 ムサシが席にいそいそと戻ってきた。俺達の他に店の中にプレイヤーがいなくて良かった。絶対に変人を見る眼を向けられていたからな……。


「で、だ。そのフレンドの返答次第だが、これで《魔法使い型(マジックスタイル)》の仲間はいるわけだろ? 後はその裏技を試すだけじゃないのか?」


「なんという無駄の無さ……! 次に必要な人材を即確保する手腕、その運の良さ! それだけで一端のプレイヤーに匹敵するな!」


「いやー、はっはっはっ……誉めてますソレ?」


 とにかく、これで多少はハイドラとのレベル差は埋まるだろう。あくまでマリーが協力してくれたらの話だが。

 しかし問題はまだまだある。ハイドラとの戦闘技量の差こそが一番の難関であるのだ。これをどうにかしない限り、例えハイドラとステータスが並んだとしても勝ち目は薄いだろう。


「後はハイドラをどうやって倒すかだな……? って、ムサシ?」


「……レベル上げが問題無いなら……あるいは、あっちのクエストを……装備さえ整えれば……」


 ムサシは何事かをぶつぶつ呟いて考え込んでいる。俺の声も届いていないようで、随分と深く思考に没頭しているようだ。

 しばらくの間、ムサシの考えが纏まるのを待ってみる。その間は暇なので、マリーに向けてメッセージを送る事にした。


〔マリーへ。

 レベル上げをするのにアンタの力を借りたい。都合が良ければ一緒にレベル上げをしないか? 急ぎじゃないからゆっくり考えて返事をしてくれ〕


「送信と」


 マリーにも都合があるだろうし、すぐには返答してこないだろう。そもそも今の時間帯にログインしているかも分からないし、こちらもしばらくは様子を見て――――。


 ピロリン♪(メッセージが届いた音)


〔私の力が必要なら直ぐにでも。どこかで合流しましょう〕


「早っ!? ものの数秒で返ってきたぞ!?」


 異常にマリーはやる気に満ちていた。なんだろう、彼方もレベル上げに困っていたのだろうか?

 なんにせよ、これで戦力は確保出来た。後はレベル上げに向かうのみだ。ムサシが思考の海から帰って来たら、マリーをここに呼んで話し合うとするか。


「……うし! これならいけるぞ! ハイドラに勝てる可能性が高い!」


「あ、戻ってきた」


 ムサシが復活した。何か考えついたのか、興奮を隠せないようでガッツポーズを取っている。


「ナギ! ハイドラに勝ちたいんだよな!? 良い方法を思い付いた! これならハイドラにも十分に対抗出来るぜ!」


「勝ちたいには勝ちたいが、卑怯な手は使いたくないぞ。やるなら真正面からねじ伏せるやり方をお願いします」


「大丈夫だ! 不意打ちだとか大人数でだとか、そういった方法でってわけじゃねぇ! ようはハイドラに追い付く為の方法だ!」


 ムサシはそう言って、指を3つ突き出した。


「3つだ! ハイドラに勝つ為にするべき事は3つある! 全てをこなせれば、お前は最前線プレイヤーに追い付けるぜ!」


「3つだぁ? 何をするかは知らないが、たった3つの事柄で最前線プレイヤーに追い付けるわけねぇよ」


「普通にやれば時間が掛かるからな。だが、どんなものにも抜け道はある。ハイドラが如何に凄まじいプレイヤーだとしても、奴は初心者だ。やりようはいくらでもあるんだよ」


 ハイドラにも追い付ける抜け道……裏技か。卑怯な手段で無いのなら文句は無いが、そんな都合の良いものがホイホイと出てくるものだろうか。

 俺が疑わし気な視線を送っていた事に気が付いたのか、ムサシは此方を安心させるように笑い掛けて来た。


「心配するな。この天才ムサシちゃんに任してくれよ! βプレイヤーとしての意地に掛けても、あの辻斬りプレイヤーを打倒出来るまでにはプロデュースしてやるからさ!」


「具体的な方法も分からない内じゃあなぁ。せめて何をやるのか、教えてくれねぇか?」


「おっと、すまんすまん。話を飛ばし過ぎたな」


 ムサシは少し気分を落ち着けたようで、声のトーンを抑えた。だが、それでも口角は上がりぱなしである。ニヤニヤとずっとにやけていて、正直気持ち悪い。

 しかし、それだけ気分が向上しているという事は、余程凄い計画を思い付いたに違いない。一体どんな裏技を実行するつもりなのか。俺も若干期待を込めてムサシの次の言葉を待った。


「ハイドラに勝つ為に、最前線プレイヤーに追い付く為には、レベルと装備とスキルが重要になる。それをお前用にチューンアップする方法だ」


「チューンアップ? 俺用にスキルや装備を弄るって事か? それはどのプレイヤーでもやってる事じゃねぇの?」


「お前はお前だけの利点がある。それを最大限生かす為のチューンアップだ。幸いにも《魔法使い型(マジックスタイル)》の仲間がいるんだろう? なら話は早い」


 スキルをチューンアップするのと《魔法使い型(マジックスタイル)》のフレンドがいるのに、何の因果関係があるのか。レベリング以外にも必要となる場面があると言うのか? 確かにマリーは戦力としては申し分は無いが。


「そうだなぁ。やり方を教える前に作戦名を伝えておこう。題するならば、この作戦はな――――」




 ――――後にこの作戦は、他のプレイヤーにも”伝説の裏技“として知れ渡るようになる。高速に短時間でレベル上げとスキル上げが行える、効率の良い方法として確立されるのだ。

 ただし、作業方法や内容を聞いたプレイヤー達は、皆口を揃えてこう言ったらしい。



「――――〈ドキッ! デスペナなんて恐くない! 1000回死ぬまで帰れま千!〉だ」


「嫌な予感しかしねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



 ――――1000回も死んでまでレベル上げなんて、正気の沙汰ではないと…………。




 1000回もデスペナを受けなければならない過酷な修行内容とは一体……!?

 次回『ゲームとはこういうものだ!』を期待しないで下さい!(えっ)


※サブタイトルは恐らく変更します。


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