プロローグ 暗い森の中にて
どうも、三神ノブノブです。
処女作なので見苦しい所や拙い箇所、分かりにくい表現があるかも知れませんが、それでもよろしければご覧になって下さい。
――――満天の星空が輝きを放ち、闇夜に包まれた大地をほんのりと照らす。
一筋の風が草木を揺らし、淡く光を放つ摩訶不思議な植物が胞子を飛ばして周囲の視界を保つ為の光源と成る。
星の光すら届かない深い森の中。おおよそ人が立ち入りそうにもない、獣道しか歩く場所も無い暗い闇の中。野生の生物が唸り声を上げ、虫のさざめきが響き渡る人外魔境。
人間が存在するべきではない地に。
その事実を否定するかのように、一人の男がそこにいた。
全身を鉄製の鎧兜に身を包み、右手に両刃剣を持ち、左腕で大楯を構える姿は、正しく〈騎士〉と呼ぶに相応しきもの。華美な装飾はなく、万人が思い浮かべるであろう平凡かつ普遍的なデザインの鎧姿とはいえ、だからこそ無骨かつ王道な姿をしていると言えるだろう。
〈騎士〉は深い森の中で剣を構えて、ただ目の前を見据える。その先に佇むのは、この森に住む原生生物の一体であろう黒い毛並みをした大きな狼であった。
「《ブラック・ウルフ》……推奨撃破レベルは5。本来なら苦戦するべき相手じゃないが……」
ごくり、と唾を飲み〈騎士〉は剣を持つ手に力を込める。腰を落とし、いつ狼が飛び掛かってきても迎撃できるように準備をする。
狼はしばらく唸り声を上げて〈騎士〉を睨み付けていたが、やがて牙を剥き出しにして〈騎士〉目掛けて襲い掛かった。黒い毛並みが荒々しく揺れ、暴風の如き速度をもって〈騎士〉に害を成そうとする――――。
「おおっ‼」
〈騎士〉は慌てずに左に構える大楯を狼に向けて突き出す。飛び掛かった狼は突き出された楯に対応できずに激突する。
「ギャイン!?」
狼は情けない悲鳴と共に地面にもんどり打って転がり落ちる。その隙を〈騎士〉は見逃す事なく突き、両刃剣を狼に向かって降り下ろす。
「はぁぁっ!」
「グギャッ!?」
両刃剣は見事に狼の脇腹にへと当たる。そのまま毛皮を裂き、狼に致命傷を与え、絶命させる――――事はなく、狼は慌てて立ち上がり〈騎士〉から大きく飛び退くいた。
「だああ! くそ、やっぱり一撃じゃ倒せないか!」
〈騎士〉は悔しそうな声を出す。狼の脇腹には赤色の傷跡が輝きを放っているだけだ。傷跡が光るなど現実的な光景ではないものの、ダメージを与えたのは確かな事だ。しかし狼はピンピンしていて動きに支障なく〈騎士〉と相対している。
「現実だったらまず間違いなく致命傷なのになぁ……。これがVRの悲しさか!」
〈騎士〉は文句を呟きながらも一歩踏み出す。そして腰を捻り両刃剣を狼に向かって突き出した。しかし刃が頭蓋に当たる直前に狼はヒラリと横に飛び、そして右側面より〈騎士〉に飛び掛かり右肩にへと噛みついた。
「ぐっ!? や、ろう!!」
〈騎士〉は右腕を振り回して狼を弾く――――否、狼が動きに合わして離れたのだ。華麗に着地した狼は三度目の攻撃に移行する。
「何度もやられるか!」
〈騎士〉は慌てずに狼の飛び掛かりを大楯で防ぐ。そして反撃とばかりに剣を振るう――――が、狼はまたもや〈騎士〉の攻撃を回避してしまう。頭を下げる事で剣を避けた狼は〈騎士〉にへと体当たりする。
「がっ!?」
今度は〈騎士〉がもんどり打って地面へと転がる。そして狼はすぐさま追撃を仕掛ける。転がる〈騎士〉の首に噛みつき鋭利な牙を突き立てたのだ。鎧の隙間より入り込んだ牙は容易く生身の皮膚にへと到達する。
「うおおお!?」
〈騎士〉は慌てて狼を引き離そうとするが、時は既に遅し。急所に突き立てられた牙はあっという間に「騎士」のHPを削り切り――――。
「あっ……」
〈You are dead〉
無情にも〈騎士〉の視界は黒く侵食され、屈辱の二つの単語が映し出されていた。あまりにも呆気なく〈騎士〉は狼に噛み殺されたのだ。
〈騎士〉は視界に表示された文字を呆然と眺めていたが、やがて自らの死が理解出来たのか、徐々に身体中を震わせ始めた。
そして、闇の中で叫んだのであった。
「ふざけんな! なんで序盤の雑魚モンスターに何十回も殺されなきゃならねぇんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
彼の名は《ナギ》。騎士の鎧に身を包んだただの一般人である。彼は高校生であり、別に特殊な訓練を受けた戦士だとか、軍人だとか、そんな裏事情は一切ない。普通に普通な普通の学生である。
そんな彼がどうして騎士鎧に身を包み、そして戦っているのか。
始まりは二週間前まで遡る――――。
序盤は主人公がやられまくります。徐々に成長していくスタイルです。