私の兄は、世界一格好良いのです!
私の名前はサーラ・スウォンといいます。
今日は、私の大好きなたった一人の家族をご紹介します。
兄の名前はオルワド・スウォン。
この国で唯一の魔法使いの家柄である『スウォン』の当主をしています。
私は小さな頃、スウォンの先代に拾われ兄に妹として引き取られました。なので、兄とは血は繋がっていません。
でも、私は兄が大好きです。
無口で無表情で不器用。だけど、ちゃんと私を見てくれる優しい人。本当の家族を思い出しては泣いていた私を、毎回黙って抱き締めてくれたのを憶えています。
そんな兄は騎士というお仕事をしています。
『スウォン』なのだから魔法使いじゃないのか、と思われるでしょう?
でも、違うんです。
兄は、第一王子の直属である特殊部隊の隊長をしているのです!
……え?
隊長は騎士じゃない?
まぁ……普通に考えればそうですよね。騎士は近衛に属すのが普通ですし、部隊を率いることなんてありませんもんね。
なんというか、兄は私と出会う前までに色々と酷い事件に巻き込まれていて、波乱の人生を歩んでいらしたようなのです。その時の功績が認められて『魔法騎士』という特別な地位を与えられたそうです。
凄いでしょう?
でもね、兄は全く喜ばなかったのですって。そればかりか、「地位を与えれば今までの事が許されると思うなよ?」みたいなことを冷ややかに言ってのけたらしいです。
さすが、我が兄。ぶれませんね。
王族だろうと貴族だろうと容赦しないところは今も昔も変わらない……と、ご友人方が教えてくださったのですが、その時の話をすると皆さん顔色が悪くなるので聞くのを止めました。私も命が惜しいので。
とにかく、兄は騎士として働いています。
殿下の下で働く兄は本当に活き活きしていて、見ているこっちまで嬉しくなります。
だからといって、残業してまで働いているわけではありませんよ? 遅くならないように帰ってきます。仕事にかまけて家族を忘れるような人ではありませんから、ちゃんと定時に帰れるように終わらせているんだそうです。友人たちにも自慢したいぐらいです。いや、毎日してましたね。呆れられるぐらいしてました。
そんなハイスペックな兄ですが、一つ残念なところがあります。
何故、花形であるはずの騎士なのに全くモテないのです!?
真っ黒な髪と真っ黒な瞳はとても綺麗だし、精悍な顔立ちだし、身長は高いし、しっかりと鍛えた身体は均整がとれていてがっしりしてるし、良いとこずくめなのに! 世の女性はいったい、兄のどこを見てるんでしょうか! 節穴なのですか?! 世界一格好良い兄だというのに……!!
……。
すみません。つい力が入ってしまいました。
ですが、妹の私から見ても優良物件だと思うのに、誰も兄を視野に入れてくれないのです。さりげなく勧めてみたのですが、「どうしても恐い」と言われてしまいました。良い男なのは間違いないけれど、鑑賞するだけで十分……と。残念です。
まぁ、無愛想ですし、笑わないので、女性からは取っ付きにくい印象を受けるのでしょう。顔の筋肉は正常のはずなのに。おかしいですね、まったく。
あら。噂をすれば、あそこに兄がいます。本人にも話をしてもら……待ってください。
お隣にいるご令嬢はどなたでしょうか。
兄が他人に微笑むなんて、明日は槍が降ってくるんですか? それとも天変地異の前触れ?
いやいや、そんなことを言っている場合ではないですね。わたしも混乱しているようです。まずは、あのご令嬢がどこの誰で、どんな方なのかを調べる必要がありますね。小柄で可愛らしいし、控えめなようでいてちゃんと発言していらっしゃいますし、なにより兄を恐がっていないのが良い!
もはや、すぐにお嫁に来てもらってかまわないです。
言ったことはないですが、小さな頃から姉が欲しいと思っていたんです。兄の嫁は、義理とはいえ姉に違いありませんよね? 異論は認めません。
さて! こうしてはいられません。
兄の未来の花嫁のために、煩い周りをどう黙ら……じゃなかった。納得させるかを考えなくては。
それでは嫁取り……ではなく、急ぎの用ができましたので失礼します。
次会う時は、兄の結婚式だといいですね!