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MAYBE  作者: 汐見しほ
11/29

◆ 4 ◆ 01 焦る気持ちは止められない

 夜中に寒くて目が覚めた。それもそのはず、カーテンを少し開けてみると、雪が降っていた。あまりに寒く、エアコンのスイッチを入れ、加湿器にもスイッチを入れてから、ベッドにまた入った。

 その雪は、朝起きるとやんでいてはいたけれど、厚い雲がまだ降ると伝えているようだった。

 会社の最寄り駅に着く頃には、傘を持って出なくて良かったと思えるくらい、寒いながらも太陽は穏やかな温かさを放っていた。

 天気予報を信じて良かった。たまに騙される事はあるけれど。


「先輩、本当にごめんなさい」


「だから、もういいってば。大丈夫だからね」


 天気の事ばかりか考えていると、春香ちゃんは、思い出したかのようにまた謝る。春香ちゃんは、ごめんなさいを何度も繰り返した。

 結局、昨日は春香ちゃんをうちに泊めた。

 タクシーで帰るにはまだ早い時間に恭平と別れ家路についた。春香ちゃんはあたし に引っ付いて離れなかった。そして、地下鉄で帰るのは諦めた。

 タクシーを拾い、乗り込むと春香ちゃんはすぐに寝息を立て始めた。

 大人しくなったその隙に、春香ちゃんの家に電話を入れようとした。けれど、電源のキレたあたしの携帯は使えない。

 そこで思いついたのが、色は違うけれど、同じ機種の携帯を春香ちゃんが持っている事。

 春香ちゃんの携帯を拝借すると、電池を取り外し、自分の携帯にセットし、春香ちゃんの家に電話を入れた。

 あたしの家で飲んでいて酔いつぶれてしまったので今日はうちに泊めると、春香ちゃんのお母さんに伝えた。お母さんは、今の春香ちゃん様に恐縮してた。

 そんなお母さんに、春香ちゃんが外で酔い潰れたなんて言えない。


「着替えまで借りちゃって。ありがとうございます」


「いいよ。気にしない! それ、ネットで買ってみたんだけど、あたしにはちょっと小さかったし。良かったらそのまま使ってくれると嬉しいんだけど」


「いいんですか?」


「うん。だって、あたし着れないし。返品するのも面倒だったし」


「じゃ、遠慮なく。ありがとうございます」


 それにしても、憂鬱。宮内と打ち合わせしないといけない。朝からはヤメておこう。そうでもしないと、あたし今日一日嫌な気分をを引きづるに決まっている。

 元を正せば、佐崎部長の一言の所為。

 何故に、宮内。他にも優秀な営業はいるだろうに。何なら、あたしが引き受けたってイイ。やってやれない事はない。たぶん。

 その前に、未だ宮内が春香ちゃんに拘っているのかというのも気になる所。

 いったい、春香ちゃんの周りに何があって、今の状況に至っているのか。春香ちゃんに聞くと言うのも、一つの方法ではあるけれど、そうもいかない。

 佐崎部長は、何を考えてあたしに春香ちゃんの事を漏らしたのだろう。

 元々、佐崎部長の考えている事なんて、わからない。こればかりは、いくら考えても出てくる事はない。

 それでも、一つだけ思いつくのは、想像の域は全く出ないけれど、ただの過保護という結論は、有る。これは、どう考えても違うと思う。

 春香ちゃんと他愛のない話をしながら、頭では他の事ばかり考え肩を並べ歩いていると、いつもの看板が目に入った。


「先輩、昨日の使うんですよね」


「もちろん」


 いつも通り、コーヒーショップに入るとブルーな気持ちが少し晴れて来た。コーヒーの香りと加倉さんから貰ったプリペのおかげ。

 そういえば、加倉さんには、宮内の事で嫌な思いさせている。今日ぐらいは、突っかかるのヤメておこう。けれど、うまくいくのだろうか。加倉さんには、頭より口が勝手に反応してしまう。

 宮内はあたしの何が気に入らないんだろう。

 当たり前といえば、当たり前。あたしが気に入らないんだから、向こうだって気に入る訳がない。宮内の全てがムカつく。お互い様って所か。

 宮内との打ち合わせをしたくない為だけに、会社に行きたくないと思っていたのに、コーヒーでウキウキしながら、お店を出て会社に向かっている。

 あたしは、かなり単純なんじゃないか。そう、思ってはいなかったけれど。

 会社に着きエレベータに乗り込むと、もう憂鬱な気分は晴れていた。


「それじゃ、私着替えてきますね」


「いってらっしゃい」


 春香ちゃんの背中を見送りながら、朝からタバコを吸っていない事に気が付いた。

 そう思い至ると、もう吸いたくて仕方がない。自分のデスクまで忙しなく辿り着くと、荷物を置き、バックからタバコと手帳を取り出し、カプチーノを持って喫煙室に向た。






 いつも通り、一番乗り。

 喫煙室に入るとすぐにタバコに火をつけ、紫煙で深呼吸すると、頭がボケーッとしてきた。しばらく、何も考えずソファーに座ったまま、窓の外を意味もなく眺めていた。ぼんやりしながらも、思い出した今日の組み立て。どう行動すべきかと、手帳を開く。

 一口、コーヒーを啜ると、昨日メモ程度に箇条書きにした今日の予定を確認しする。そして、目に入る週末の予定欄。何もかかれていない真っ白。明日会社に来たら休める。もう少し頑張らないと。

 白い予定を心待ちにしながら、土曜日に丸を付けた。土曜は、お昼くらいまでゆっくり気が済むまで眠り、早智子の所に行こう。バッサリと髪を切るかどうかは決めかねている。毛先は切った方が良さそう。

 予定を大幅に変えた所為で、今月のページはぐちゃぐちゃ。なんだか、この手帳だけ見ていると、すごく忙しい人。

 やるべき事はたくさんある。

 本城君にディレクションをまかせた事で、今日から本格的に京香さんのプランを練り始められる。まずは、リサーチ。一度もした事ないのだから、勉強する事が多そうだ。

 友達の結婚式には行った事が何度かあるけれど、プランニングは全然別物。しかも、そんな目で式や披露宴を見てなかった。どうするのがいいんだろうか。

 その前に、結納は? 仲人はどうなってるの?

 今の状況を詳しく聞かなくては。予算だってどのくらいかわからない。こっちは宮内になんとかしてもらえばいいか。陰険に交渉していただこう。

 まさかとは思うけれど、海外ウエディングとか言い始めたら? いくらなんでも、それは間に合わないと思う。時間が有るなら話は別だけれど。

 とりあえず、今日は資料集めとサンプルプランの作成に徹しよう。朝から出掛ける事になりそうだ。


「あれ? 何か悩んでる?」


 手帳から目を上げ声の方を見ると、疲れた顔をした葉折さんがいた。


「どうしたの。もしかして、徹夜してた?」


「もうしばらく続きそうな、イヤな感じがする」


「今日でどれくらい連続? 顔見てるだけでこっちが疲れくる」


 葉折さんは、生気のない顔で苦笑いをした。目が充血している上に、顔色も悪い。仮眠を取れなかったのか、取らなかったのか。どちらにしても、忙しい状態に有る事は間違えない。

 この間、葉折さんの言ってた事がしみじみとわかった。確かに、こんな顔してる人が何人かでタバコ吸ってたら、より一層疲れそう。


「ちょっと、待ってて」


 タバコを変えられたばかりの底に水の入った灰皿に捨てると、あまりに疲れてる葉折さんの為にコーヒーを取りに行った。

 デスクの上に置いたままの紙袋の中から、ホットのラテを取り出した。

 今日の葉折さんには、濃いのもいいけどミルクたっぷりの方が良さそだった。

 少し早足で喫煙室に戻ると、葉折さんはソファーに浅く座りタバコに火をつけていた。


「はい、どうぞ。少しは、役に立つ?」


「サンキュ、悪いな」


 葉折さんは、手に持っていたライターをポケットにしまうと、少し晴れたような笑顔を見せて、あたしが手渡したラテの入った紙コップを受け取った。

 一瞬、疲れきった顔が向ける微笑みに、ドッキっとした。

 和也に見えた。

 こんな疲れきった顔をしている時、和也はとても優しく微笑む。

 何を思いだしているのかと、急いで思考を止め、そして、今のは無かった事にしようと、切り替える為に強く目を閉じ和也を追い出した。

 ソファーに置いたままのタバコの箱から1本抜き出すと葉折さんの隣に座り、火をつけた。


「どうかした?」


「何でもない。今日のはラテ」


 葉折さんに声をかけられ、あからさまに驚いてしまったけれど、葉折さんはまったく気する様子はない。よほど疲れているのだろう。

 けれど、お陰で助かった。聞かれても、答え難い。


「うあぁ、熱っつ。でも、うまい」


 葉折さんは、そう言うとまた勢いよくコーヒーを呷った。熱いと気付いたにもかかわらず、冷ます気は無いようだ。


「仮眠、取らなかったんでしょう」


「まぁ〜な。週末は休みたいからな」


「そうだよね。休日出勤なんてしたくないよね。なんか、デザイン会社にいた時の事思い出す。あの時は、若かったし気合いも入ってたから、辛いながらも何とかなってたけど。今じゃ、気力も持ちそうにないし。悲しい事に、寝ないとすぐに肌がボロボロになっちゃう」


「今、正にその状況だな、俺…。ただ、気力なんて欠片もない」


 葉折さんは、週末に予定があるから、ちょっと無理してるのかも知れない。それともあたしと同じく、気の済むまで眠りたいと思っているのか。


「そういえば、聞こうと思って忘れてたけど、この間のおやつイッパイ、あれ何?」


「ちゃんと、受け取った?」


「うん。って言うか、お礼ちゃんと言ったじゃない」


 確かに受け取った。けれど、ほとんど本城君のお腹の中に消えて行っている。まだ、残ってるのも有る。昨日もそれで遊んでいた。


「伊藤は、どう…」


「ヒドイ顔してるな、葉折、仮眠取って来た方がいいんじゃないか?」


 葉折さんの方を見ていたので、加倉さんが入ってきた事に気付かなかった。

 加倉さんは、いきなり割って入って来たかと思うと、疲れ切っている葉折さんを見て楽しそうにそう言った。

 もう少し、気遣ってあげてもいいのに。

 言ってる事は、気遣ってるようだけど、そんなに楽しそうに言う事じゃない。


「あさちゃん、おはよう!」


「おはようございます。ご機嫌ですね。イイ事あったんですか?」


「別に」


 無駄に嬉しそうに言われても、このご機嫌さは何なのか。気持ち悪いほどに、ニコニコしている。

 昨日の宮内の事なんて、もう忘れているらしい。素直に言う事を聞いてやろうと思っていたけれど、その必要はないようだ。


「加倉主任、あなたの所為で徹夜ですよ! 急ぎのが多すぎるよ。もうちょっと、何とかなりませんか?!」


 そろそろ、あたしは退散した方が良さそうだ。葉折さんは、加倉さんにクレームがあるらしい。

 この二人は仲が悪い訳じゃないけれど、葉折さんがクレームモードに入ると、加倉さんは穏やかな顔して葉折さんをイライラさせようとする。

 ここは、とっとと逃げよう。


「じゃ、あたし行きますね。お先に〜」


 今日の加倉さんはご機嫌だから、いつもよりハードに葉折さんを攻めそうだ。葉折さんの発言からすると、本当は、攻められるべきは加倉さんのはず。

 葉折さんは、加倉さんに勝つ事が出来るのだろうか。それを確かめる為に、見ていたい気もするけれど、こっちに火の粉が飛んでくる前に逃げた方が賢い。

 あたしは、早々に喫煙室を立ち去り、自分のデスクに向かった。






 デスクに戻ると、春香ちゃんは着替えを済ませ、備品の整理をしていた。


「春香ちゃん、気分悪くなったりしてない?」


「あ、先輩。大丈夫ですよ。昨日で伝票整理終わりましたから、今日はゆっくり仕事できそうですし、平気ですよ。出来そうな事あったら、手伝います」


 備品の入っている棚を片付け終えた春香ちゃんは、少し恥ずかしそうにしている。昨日の事を覚えているのだろうか。今朝の様子からすると、殆ど覚えていないような印象を受けた。寧ろ、覚えていない方がいい。


「ありがとう。けどね、特に今日はないんだな。本城君助けてあげてくれる?」


「忙しいんですか?」


「まぁね。今の仕事全部任せたから。昨日、様子おかしかったでしょ? ちょっと、パニってるみたいだから、煮詰まってるようだったら気晴らしにでもお喋りしてあげて」


「わかりました」


 春香ちゃんは、納得した様子で快く引き受けてくれた。

 あまり大きい音ではないはずの電話の音が、静かなオフィスに響いた。二人してその音に驚き、顔を見合わせたまま動きが止まる。

 それがうち課の電話だと気付くと、春香ちゃんは、電話に向かって小走りで自分のデスクに戻り受話器を取った。

 あたしも仕事をしなければ。

 自分の席に着くと、パソコンを立ち上げた。


「先輩、電話です。1番で受けてください。京香ちゃんですよ」


「ありがとう。なんか、タイミング良すぎなんだけど。見られてるのかな?」


「そんな事、有る訳無いですよ。早く出てあげてください」


 クスクスと、笑いながらも春香ちゃんは、電話を待たせている事を思い出させた。






 受話器を置くと、これからするべき事を改めて暫く考え、メモを取った。

 早速、出掛けた方が良さそうだ。

 本城君は、もう暫くは来そうにない。いつも通りなら、遅くとも9時半くらいまでには来ると思う。けれど、それを待っているのも、もどかしい。

 どんな様子か、見てからにしようとは思ったけれど、あたしの方がそうは言っていられない状況になってきた。

 本城君が、出社するまでは加倉さんに任せて行く事にしよう。朝は、出掛けない主義の加倉さん。何故だかは、わからないけれど助かるから文句など無い。電話は春香ちゃんがいてくれるので大丈夫。

 加倉さんのデスクに目を向けると、帰ってきた気配さえない。パソコンの電源は入ってはいるけれど、デスクの上は整えられたままだ。まだ、葉折さんで遊んでいるんだろうか。

 早速出掛けようと、デスクの上に散らばるものを片付け、必要なものは無造作にバッグの中に詰め込んだ。


「春香ちゃん、あたし出掛けるからよろしくね」


 コートとマフラーを取り、バッグを手に取ると、春香ちゃんに声を掛けた。


「はい。わかりました。今から会いに行くんですか?」


「違うよ。少し資料集めとオファーを入れに。昼頃までには帰ってこようと思ってるけど、本城君で足りないようなら、すぐに連絡入れて」


「はい。期待してますよ」


 春香ちゃんに手を振りながらオフィスを出る。加倉さんと葉折さんはまだ喫煙室にいるのだろうと、声を掛けに向かった。

 予想通り、二人はまだいた。

 言い争っているわけではないけれど、悔しそうに睡眠不足の顔を歪ませている葉折さんが、キレかけている。声の聞こえないガラス壁の向こうでもそれは良くわかる。

 それでも構わず、勢いよくドアを開けると二人とも驚いた様子でこちらを向いた。


「お話中、失礼。加倉さん、出掛けますんで本城君来るまでお願いします。それから、葉折さん、帰ってきた方がいいよ。帰社して余裕有ったら、手伝ってあげるから。それじゃ、そういう事で。どうぞ、続けてください」


 用件だけ伝えると、急いで会社を出た。あの二人に捕まっては、出るのが遅くなりそうだ。

 歩きながらマフラーをしっかり首に巻き付けると、最寄りの駅へと向かった。






 地下鉄と私鉄を乗り継いで、約20分ほどで目的の駅に着いた。

 まだ、日時も聞いていないのに、アポを入れられる人なんて、あたしには一人しか見付ける事ができなかった。なんとか、確保しないとならない。

 昨夜、堪らない寒さを連れて来た雪は、歩道を濡らせていたけれど、今は乾き始めている。寒さは変わらず、まだ身体には痛い。

 コートのポケットに手を入れまま早足で目指すは、週末来ようと思っていた場所。


「いらっしゃいませ、お久しぶりです。平日にいらっしゃるなんて、めずらしいですね」


「今日は、お客さんじゃないのよね。店長は?」


 笑顔で迎えてくれた、女性スタッフに愛想も少なく本題を伝えた。するとすぐに、お店の奥に呼びに行ってくれた。

 久しぶりに来た、早智子の美容室。

 お店の中は暖かく、外の寒さがより一層感じられる。マフラーを外しコートを脱ぐと、腕にかけ、お店の中をひと眺めする。平日の朝一番という事もあってか、まだお客さんは一人しか居なかった。

 男性スタッフの一人が、お客さんと談笑しながら、何かを塗っていた。カラーか、縮毛矯正なのか、両方はずれかも知れない。

 オープンして今年で、2年目。30までには、絶対にお店を持つと、ハードに頑張り続けた早智子。公言通り、資金も技術も用意した。

 彼女の努力がどれ程のものかを、見ていたあたしは本当に彼女を尊敬する。

 寝る間も惜しみ、勉強し練習もしていた。そして、昼間は普通に美容室で働きながら、それが終われば、夜のお店を回り単独営業。夜の街のお姉様達を練習台にしながらまた勉強。確実にスキルを上げた。お姉様方を満足させ、ご指名を受けるようになるまでには時間はかからなかった。

 好きだと思えるものを見付け、目的を持った時、こんなにも力を注げるのだと感心した。

 高校生の時に、通信教育と美容室のバイトで見習いをしながら卒業前には資格を取得した所もまた、彼女のすごい所。もう、12年のキャリアがある。そして、お店を持つ資格さえ取得した。

 オーナーは、早智子の父親という事になっているけれど、実質は早智子。彼女の妹もこのお店で働いている。そして、母親もマネージャーという事で、予約の管理や雑務を引き受けている。


「麻美ちゃん、いらっしゃい。ごめんね。今、店長電話中なのよ。あらまぁ、コートお預かりするわ」


「ありがとうございます。ご無沙汰してます」


 早智子のお母さんは、あたしからコートを受け取ると、受付の後ろにあるクローゼットに向かった。

 お店では、娘を上司として自分の仕事に徹している。早智子のお母さんもまた、スゴイと思う。


「どうぞ、お掛けになっていてね。」


 遠慮無くソファーに座らせてもらい、目の前のテーブルに並べてあるヘアーカタログを手に取った。

 本当なら、明日コレを見ながら、どうしようかと悩んでいたはずなのに。

 ペラペラと何気なくページをめくりながら、モデルの女の子と達を眺めた。


「はい、外は寒かったでしょ。どうぞ」


 早智子のお母さんは、コーヒーを出してくれた。あたしがお礼を言うと、笑顔を見せながら早智子のお母さんは、仕事に戻った。


「いらっしゃい、麻美。予約なしで来るなんて、初めてね。まぁ、麻美なら予約無しでも割り込ませてあげるわよ。突然、イメチェンたくなったとか?」


 お店の奥にある従業員専用スペースから出てきた早智子は、お店を縦断しながらあたしに話しかけてきた。

 あたしは、手に取っていた雑誌をテーブルの上に戻し、立ち上がって早智子を迎えた。


「それは、ありがとう。でもね、今日は違うんだな。今、少し話せる?」


「いいわよ。改まっちゃって、何なの?」


 ソファーに腰を下ろすと、隣に座った早智子に、早速、花嫁と花婿のセットとメイクのオファーを伝えた。

 早智子は、人差し指を顎に置き少し驚いた様子で話を聞いていた。


「どう? 受けて貰えそう?」


「そうね、大丈夫だと思う。衣装の事だけど、そっちも何とかなると思う。借りるにしても、お買い上げでもね。イイ所、紹介するわ」


「ありがとう。良かった〜。本当にどうしたらいいのか、あたしも困ってたのよ。本当にありがとう」


 早智子の手を握りしめながら、勢いよく振り回した。早智子は呆れながらも、あたしの困り具合を察知手くれたらしく、落ち着きなさいと、コーヒーを勧めてくれた。


「麻美も、大変ね。いろんな仕事が回ってくるのね」


「今回に限っては、どこから手をつけたらいいのやら。とりあえず、これから資料集めをするつもり。けど、クライアントの要望がまだわからないから、手探りで出来る事から準備するしかないんだけどね」


「そうね、手を付けられるところからって言うのは、妥当だと思う。まぁ、何とかなるんじゃないの? あたしは、そう思うけど」


 人事だと思ってか、早智子は楽観的な事を言う。

 これを本城くんが言おうものなら、半ギレ状態で冷たくあしらうだろう。けれど、早知子の自信ありげな表情と穏やかな声のトーンにそうなるのではないかと、こちらもそう信じそうになる。


「なるのかなぁ。けど、何とかしないと。ねえ、今から切っちゃってくれる?」


「はぁ?」


「髪、切って。早智子のお任せで」


「本当に、麻美は突然ね」


「気合い入れないと。気分も変わりそうだし」


「仕事中でしょ、さっさとあっち行こう」


 突然の申し出に早智子は、早速準備を始めた。

 近くにいた、スタッフにバックを預けると、早智子についてシャンプー台に向かった。




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