列車に乗る
改札口は、割と手狭で、木製の屋根の下に三機の自動改札が並んでいた。端の壁に窓口があり、その手前に制服をまとった駅員が立っていた。窓の向こうの事務室にも、駅員がいる様子だった。
私は立っている駅員に話しかけて、どうしたらよいか尋ねていた。一旦外に出て用事を済ませて戻ってきたのだけれど、事故があって切符が折れ曲がってしまったのだ。カード大の切符が、長い辺と垂直方向に何重にも折れ曲がり、ヨレヨレになってしまっていた。それを、駅員の面前にかざしてみせると、駅員はしばらくそれを眺めてから返事をした。
「たぶん大丈夫だと思いますよ。投入口に入れてみてください」
私がそうしようとしたときに、駅の中から改造した制服を着て大きなバッグを担いだ高校生の集団がやってきた。ちょうど列車が到着したのだろうか。改札機は出入り両方に使われていたので、私が切符を投入する前に、彼らがやってきて改札を通っていった。私はその間、横に避けて待っていた。しばらくして、彼らがいなくなった頃あいを見計らって、駅員が私の切符を受け取った。駅員は乱暴とも言える手つきで切符をひっくり返し、投入口に放り込んだ。しかし意外にも、それはすんなり機械の中に滑り込み、中でぐるぐる回って、少し折り目は残っていたものの、ほぼ平に戻った形で、反対側から出てきたのだ。私は通路を通って駅に入ることができた、
今度は私が進む方向に乗客たちの流れが出来ていた。人波に乗るようにして私は階段を上り降りして、プラットフォームに立っていた。人混みは、それぞれの待機ポイントで立ち止まり、私は人の密度の低い、端の方まで歩いてきた。
すると、反対側の改札口から入ってきた数名の乗客たちとぶつかり合う格好になった。その中のひとりが、私に手を挙げて挨拶した。それは私の知り合いで、ここで荷物の受け渡しをすることになっていたのだ。
「やあ、久しぶり」と挨拶をしてきた。
しかし私がボストンバッグを渡そうとすると、「いや、きょうはこちらの方に渡して欲しいんだ」と言うのだった。その傍らに見慣れないきっちりスーツを着込んだ人物が立っていた、私は少し不審に思ったけれど、そのままカバンを渡して踵を返した。
やがてフォームに車両が入ってきて、私はそれに乗り込んだ。
吊り革にぶら下がって、私は「超耐久スピードレース」というものについて考えていた。例えば砂漠の真ん中に裸で横たわり、リボンで体に蝶結びをするのだ。その間食事も水も取れないので、なるべく動作は行わない。だから体を清潔にするための入浴もコンマ数秒の時間で行わなければならない。
ターミナルで降り別の電車に乗り換えた。さらに数十分、今度はシートに座って旅を続け、郊外の駅で降りた。駅前の小規模なロータリーの中に小さな書店があり、その二階に上がった。教室の中に入っていくと、既に客は来ていて、保護者らしき人物が、小学生の子どもを教師に引き渡しながら説明をしていた。
「明日テストがあるんです。これがそのためのリストです」
カード状になった教材を教卓の上において手渡していた。カードには人物の動作を示す図解が描かれていて、教科の勉強というのでもなさそうだった。きっと砂漠の耐久大会に出るのだなと思った。