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 そろそろその家を辞することになった。すでに、玄関の重厚なデザインのドアを押さえて、着物と草履姿の連れが立っている。それを尻目に、私は小動物を連れ出そうとしている。ダックスフントくらいの大きさで、茶色くぬいぐるみのような毛がモコモコしている目もその中に隠れている。猫だか犬だかわからないが、年寄りらしく動作が鈍い。早く連れて帰りたいのだけれどもたもたしている。

 ようやく外に出て、歩き出したと思ったら、近所の家の庭先にくんくんと入っていってしまう。生垣を回って見ると、軒下のところに、猫たちがいるのだった。大きさは大小さまざまだったし、毛の長さもいろいろだったけれど、色は皆一様に灰色の虎模様だった。中でも一番小さな子猫が、雨樋の脇の牛乳瓶にいて、うちの小動物と鼻先を付きあ合わせて匂いを嗅ぎ合うのだった。

 そこへ誰かがやってきて、インターホンのピンポンを鳴らした。家の中から若い声で「いらっしゃいませ」と言っているのが聞こえた。してみるとここは、住宅ではなくて、なにかの商売をやっているのだろうか。客は私が見ないうちにすぐに帰ってしまった。店員らしき姿も見えなかった。しばらくすると、家の中から両親とふたりの子供といった感じの親子連れが、きちんとした服装をして出てきた。私たちは彼らと一緒に、薄暗い路地を歩いていった。

 いくつかの角を曲がったあたりに、ファミリーレストランを少し高級にしたような店構えがあった。他に客が何組かいて、彼らとともに、入口を入ったところのソファに座って待つことになった。隣の一家は向かい側にあった茶色いガラス窓の喫茶店に行ってしまった。ステンドグラスの模様をした電灯の笠の下、父親はだらしなく寝そべった。子供たちはわいわいはしゃいで、手に持ったおもちゃで遊んでいた。ファーストフードあたりでお土産に配るようなプラスティックのミニチュアだった。

 やがて店が開き、私たちは順々に案内された。となりの家族もいつのまにかその最後尾に並んでいた。たちまち店は満席になる。給仕たちは赤いトレーナーのような制服を着ていて、それぞれ胸に大きく番号が書いてあった。みな違う番号らしく、背番号のようなものだろうか。52番の給仕が、私たちのテーブルにやってきて、注文もしていないのに、サーブしていった。カップに入った金色のスープ、丸いお皿にライスが盛られ、メインの皿には、ポテトサラダとトマトとレタスに囲まれて何やらカツレツが盛り付けてあった。ソースなどはかかっていない。ナイフフォークを使って切り取って見ると、中身は白っぽい柔らかい魚の身で、どうやらウナギのようだった。つまりはウナギカツというわけだった。私と連れと小動物はそれらの料理をゆっくりと食べ進めた。レストランらしい、食器の音と話し声の喧騒が蘇ってきた。


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