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怪獣に食われる

 もう少しで脱出できるところだった。私たちはトンネルの出口に近づいていた。カートのような小さな車で、運転しているのは私の連れ合いだったか私の親だったか。ところが出口の近くになって、段々失速した。運転していた連れは深刻な表情をした。

「だめだ。どんどんスピードが落ちている」

 理由は分からなかったが、なぜが時間稼ぎをされているような気がした。出口に近づくにつれてどんどん遅くなって、トンネルの外の普通の街の中に出たところで完全に止まってしまった。ちょうど目の前は、学園の門のところだった。

 最初は静かだったのに、門の上の坂の上の方から騒ぎ声が近づいてきた。逃げ惑う学生たち、それを追いかけてくるのが、巨大な芋虫のような怪獣だった。怪獣は、私たちの車の前で体の前半分を仁王立ちのように折り曲げて、大きな単眼で私たちを睨みつけたかと思ったら、一気に私の連れに襲いかかった。怪獣に一口で食べられてしまった瞬間に、それが私の親であることがはっきりした気がする。私はからだが動かなくなって、そのまま助手席でじっとしていた。それを巨大芋虫が匂いを嗅ぐように頭を近づけてきた。しかし、しばらく触手をゆらめかせて観察したのち、食べずに去ってしまった。それは私が全く身動きしないので、獲物として認識できなかったからだろうか。

 怪獣が去ってしまってしばらくしてから、私は動き出して、車から降りて歩いて行った。すぐ近くにいつもの私鉄の駅があったけれど、そこから乗るのはなんとなくはばかられた。

 私はいつものシャツを着ていて、ポケットにはICカードが入っていた。財布も持っていた。帰ることはできそうだった。少し歩いてから、JRの自動改札を入った。カードの入った名刺入れをセンサーに押し当てたけれど、音がせず、ひとどめもわずかにしか開かなかった。それでも私は通り抜けたけれど、少し不安になって、目の前にあった駅員室に行って尋ねた。

「これちゃんと通っているでしょうか」

「カードを見せてください」

 役務室内のセンサーに当ててから返してきた。

「大丈夫ですよ。残額三千二百十九円です」

 私はそこから階段を上り、フォームに出ると、ちょうどモノレールが入ってくるところだった。並んでいる人々もいたけれど、ちょうどうまい具合に私の立ち止まったところに、自動ドアが開いたので、そのまま乗り込んだ。割り込んだような気がしてしまったので、乗り込んでからゆっくり歩いていると、その間に座席はほとんど埋まってしまった。窓際の一列になった席の後方に二人がけの席が空いていたので、私はそこを確保した。そこへどんどん列になって乗客が乗り込んできた。その中に私が好きだった若いいとこがいて、その確保した席に誘導した。しかしそのあとから、そのいとこの友人たちも乗り込んできたので、私のためにとったはずの席も譲ることになった。

 列車が出発してから、私は別の車両に移動した。いろんな客がいた。ヤクザものや酔っ払い、騒がしい親子連れ。しかしそのことが逆に平和を感じさせた。このモノレールは反対側に進んでいる。次の駅で降りて引き返そうか。そう思いながら、ドアの上の路線図を見ていると、何駅か先に、いつもの私鉄に乗り換えられる駅があることに気がついた。

 バスの中で、私は、敵のアジトでの経験を話した。革命は成就するはずだったが、結局は怪獣兵器のおかげで頓挫したことを。

 私たちの乗ったバスは、ちょうど線路の上に停車していた。警備しているものが、列車が来れば警告を発することになっていた。一台目が来たときは、別の引き込み線に去っていった。しかし二台目は間に合わずにぶつかりそうになったので、そのまま出発した。その騒ぎで話の続きができなくなった。私は自分の経験譚を途中になっているからこそ、続きを誰にも話せなかった。私たちはそこからさらに逃げのびた。博士の一人が何やら話していたけれど胡散臭さを感じた。

 ある家に入っていくと、一人の人物が編み物をしていた。両手を上手に使って、マフラーのようなものを編んでいた。材料が見当たらないので、どこにあるのかと聞くと、自分の排泄物であんでいるのだと説明した。家族たちが現れた。それぞれにその編み物でできた服を着ていた。

 ラジオでは、歌手たちの新しいCDの情報が流れていた。そのなかのひとつが、有名だった二人組のミュージシャンのもので「人気者たち」というタイトルだった。それまでのベスト盤のようなものだったけれど「全て新録」というのが触れ込みだった。それもそのはず、古い録音など残っていないのだ。それらはみんな怪獣たちに食われてしまったのだから、新しく録り直すしか方法はないのであったが、それを逆手にキャッチとしてしまっているのだった。

 それを聞きながら木綿の寸胴のようなものをまとっただけの双子の片割れが悲しそうにそう語った。

「よくまた演奏してくれと言われるのだけれど、そんな気になれない。もうひとりは生き返らないのだから」

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