添削される
太ったいとことその親とが、ショッピングセンターの前の広場を、一緒に歩いてくる。もう夜で、ガス灯を模したLEDがほのかに敷き詰められたレンガを照らし出している。階段を下りたところが、噴水になったいるけれど、いまは水は流れておらず、ただの池となっている。私が彼らを迎えると、いとこは手に持った新聞紙を乱暴に揺らしながら、何やら激昂していた。
「だからこれじゃダメだって。ちゃんとしたのを買ってよ」
しかし親の方は聞き流す体で、請け合わなかった。いとこが差し出す新聞紙のテレビ欄を見てみると、ピントのズレた青写真のように、字が潰れていて全く読み取れなかった。確かにこれでは役に立たないと思ったけれど、だからと言ってどうにかしてやりたいとは思わなかった。
白っぽい平屋の建物の、ガラス戸を開いて中に入った。小さなホールのようなところで靴を脱ぎ、板敷の廊下に上がると、左右に二つの部屋があり、私たちは右側の部屋に入った。八畳くらいの和室で、入口の横の壁際には移動用の脚のついたホワイトボードが置いてあった。その足元には、靴下などのこまごまとした衣類や、文庫本や漫画の単行本などが雑然と集められていた。
「自分のモノだけ選んで持って行ってよ」と、私はいとこに言った。そこにあるのはいとこのものと私のものとがごっちゃになっているようだったからだ。
私は向かって右側の押し入れのところに行って、その前に座った。襖を開けると、そこがデスクのようになっていて、書棚もあった。下の段の奥からプラスチックの衣装ケースを引き出して、ホワイトボードのところから拾って来た自分のTシャツなどを放り込んだ。
いとこはいとこで、学校の工作で作ったような不器用な書棚に、マンガや図鑑を並べていた。私はそれを見守って、なかに私のものが混じっていないかどうかチェックした。シリーズものの冒険小説の文庫本が羨ましかった。ただまだ途中までしかなく、続きはまだまだあるようだった。いとこは自分のコレクションを不満気に片付けた。
私は再び自分の押入れデスクに舞い戻った。鉛筆などを取り出して作業の支度をしていると、なくなっているものがあることに気づいた。
「面白くなかったよ」
いとこの親が布団を敷きながら言った。
「あなたの小説読んだけれど、面白くなかったよ」
「え」
「二回も読んだけれど、やっぱり面白くなかった」
そう言って寝てしまった。
私は部屋の角にある棚のところに行って、自分の書いた原稿を取り戻した。そして自分の席に戻って読み返し始めたが、驚いたことに、私の書いたものとは別物になっていた。八ページほどの冊子に、断片を書き連ねたもののはずだったのに、広く取っていた余白にびっしりと書き込みが施されていた。それは章のタイトルであったり、デザインされた風景であったり、細かい描写であったりした。つまり私の書いたものを補強して分かりやすくしているのだった。その結果芸術性が損なわれて、単なるパンフレットと化していた。
私は憤慨していた。どうしてくれよう。今夜のうちに殺してやる。