八百屋で働く
「いくつだ」と尋ねられたので「二十九です」と答えた。
「え、そうなの、それだと割り切れないし、そんな歳には見えない」
ふたり分だと偶数だといけないなと思い、私は言い間違えていたことに気づいて言い直した。
「十九歳です」
そう言うと納得してくれたようだった。
「きょうは何処に行けばいいですか」
「社長に聞いてみて」
社長はここにはいなかった。そこへ電話がかかってきて、それは社長から私宛だった。
「きょうは瑞穂商店に行ってくれ」
そこは一度行ったことがあった。小さめの店だった。そこの店先を借りて野菜や果物を売ればいいのだと思った。早速準備をしなくてはいけない。コンクリートの打ちっ放しの荷捌き場に行くと、すでに先輩たちが作業を始めていた。私は搬出用の台車を探した。プラスチックの台にスチールパイプの取っ手をつけたものが一台あったので確保して、上にプラスチックの平箱を置いた。そこに、ほうれん草の束を載せようとしていると、背の高い先輩が近づいてきた。
「それはうちのんなんだけどな。きょうはどこだ?」
「瑞穂って言われました」
「そうか。それなら貸しといてやるか」
「ありがとうございます」
奥の冷蔵庫に商品を取りに行くと、そこでもまた尋ねられた。
「きょうはどこ行けって?」
「社長には電話で瑞穂って言われました」
「あれ、瑞穂なら近藤さんが行ってるはずだな」
それなら近藤さんのサブなのかと思った。
「近藤さんはどこですか」
「近藤はここじゃないよ。別所から直接行ってる」
ベテラン社員が私を連れて店先にやってきた。
「一人で行けって言われたのか。社長も変だな。白井のシステムがどうこう言ってたけど、白井はあれはマニュアル化してるだけで、ちゃんと客対応できてないぞ。真似すんな」
そこへまた社長から電話がかかってきた。
「いやもういいんだ。もう殺したから」
「それならどうして」
「近藤さんも絡んでるんでな。それで瑞穂に行ってもらいたかったんだ」
「それならやっぱり行きましょうか」
「いやもういいんだ。なかったことにしてくれ」
それなら私はどうしたらいいんだろう。