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引き取りに行く

 部屋から出ると、鉄骨にコンクリートの打ちっぱなしの廊下で、手すりは赤く錆止めを塗っただけのもので、外が吹き抜けだった。ここは何階だろうか。かなり高い気がした。十階以上のように思えたが、案外それほどでもないのかもしれない。それでも三階以下ではないだろう。

 私の出てきたのは一番端の部屋で、すぐ脇が階段になっていた。これが手すりもない鉄の階段で、赤いペンキがところどころ禿げて鈍色に光っていた。私はそこを降りていったが、一歩一歩たわむようで、いまにもポキリと折れそうだった。

 数回降りるとホールのような広めの廊下になっていて、内側に部屋があり、外側にはエレベータもあった。そこで何人かの友だちと出会い、挨拶を交わした。みんな学生服や体操服を着ていて、どうやらここは中学校で、私も生徒の一人のようだった。しばらくするとまた独りになったので、ゆらゆら揺れる階段を後戻りして、私の部屋よりもひとつ下の階の廊下で体育座りをして待っていた。するとそこへそこの住人が上がってきて、廊下と部屋を繋ぐコンクリートの橋を渡っていった。それだけでバランスが崩れて、シーソーのように上下した。

 私は飛び上がって、階段や壁の窓を手で伝って降りていこうとした。どれもあまり頑丈な感じがしなかったが、最後に掴んだ鉄骨は、私が掴むとすぐにぐにゃりと曲がり、振り子のように揺られて、私はさっきのホールのところに着地した。なんだか騒がしかった。

 生徒たちが騒いでいるところに、数人の先生たちも現れて、何やら喋っていた。話を聞いていると、何人かの生徒たちが脱走したというのだった。先生たちと一緒に私もエレベータに乗って外に出た。先生たちの服装はジャージ姿だったりワイシャツ姿だったりした。いつの間にか私も新米の教師という扱いになっていた。しばらく町を歩き、公民館のような建物に入った。リノニウムの階段を上がっていくと、すぐの部屋の引き戸が開け放たれていて、中の様子が見えた。

 私たちはそこに佇んだまましばらく様子を伺った。中は教室のようだったが、黒板だけがあり、格子模様の床には机も椅子もなにも置かれていなかった。黒板の前には生徒たちが五六人立っていた。そこへ若い教師の一団が向き合って話し合いをしているのだった。

「祭りはまた来月の二十四日にもあるよ」と、生徒の一人が解説をしていた。「そんなことも知らないで、説教しようとするなんて勉強不足だね」

 教師たちはとなりの学校の教師だった。生徒も、私たちの学校の生徒だけでなく、隣の学校の生徒たちもいた。つまりは示し合わせて、学校を抜け出し、どこかへ繰り出そうとしていたところを、警察の職務質問に会い、隣の学校に引き渡されたところのようだった。私たちも部屋に入り、私たちの学校の生徒を引き取って、学校に戻ることにした。

 踊り場で生徒のうちの数名が、ダースヴェイダーのような喋り方でゴニョゴニョと会話していた。

「どうする。やっぱ次の時に合わせてまたやるか」

「別の日でもいいんじゃないか」

 祭りに行ったり、ディズニーランドに行ったりすることが最終目的ではなく、楽しければなんでもいいような感じだった。私はなんとなく共感してしまい、追い抜きざまに小声で「やれやれ」と言ってしまった。

 そのまま駆け足で先輩教師の横に追いつき、話しかけてみた。

「私には生徒たちのどこが悪いのかわからないんです」

 定年間際の先輩教師は驚いた顔をした。

「おいおいそれは困るな」

「だってみんなで遊びに行っただけでしょう」

「うん。いや、それはいいんだ。学校をサボったってそんなのは構わない。良くないのは、行方不明になったことなんだ」

 私は納得した。しかしだからこそ、生徒たちは行方不明になろうとしたんだろうとも思った。

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