表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/53

予約する

 私は廊下を歩いていた。古いけれどよく油の塗り込められた黒光りのする板敷だった。外側の壁は、ガルバリウムのような質感でクリーム色をしていた。そこに船窓のような直径二メートルくらいの丸い窓がずっと並んでいた。ガラスなのかアクリルなのか、わずかに色がついているようで、外の空や森がパステルカラーに滲んでいた。

 反対側の壁は下の方がコンクリートで、上のほうが赤く錆止めを塗った鉄骨がむき出しで、窓には何もはめられていなかった。その中はやはり板敷の教室になっていて、一面を左右に占める大きめの黒板に向かって、一体型の机と椅子が数十脚並んでいた。何もかも整然としていた。黒板は新品のように深緑に輝いていたし、鉄パイプに板を貼り合わせた机はタテヨコに等間隔に並んでいた。黒板の向かい側の壁にはロッカーも掃除用具入れもなく、クリーム色の壁紙が貼られていた。さらに廊下と並行の壁には窓がなく、スチール製の収納らしき区切り目が見えた。

 ドアの扉はなく、そこを白と紺を基調としたなんとなくミッション系を思わせる制服を着た生徒たちが出入りしていた。いまは休憩時間なのか放課後なのか、わいわいがやがやと喋りながら私の周りを行き来している。

 廊下はしばらく行くと直角に曲がっていて、そこからも同じように片側が窓、片側が教室になっていた。どうやらこの建物は大きな立方体のような形になっていて、四面に廊下と窓があり、中程に教室が並んでいるようだった。さらに数十メートル歩いてまた直角に曲がると、教室と教室の間に階段室があった。リノニウムのステップを、やはり多くの生徒たちが上り下りしていた。さっきから生徒と言っているけれど、背の高さからするとどうやら小学校高学年くらいのようだった。私一人だけ頭を雲の上に出している感じだ。しかし私も生徒たちの一人のような心持ちなのだった。

 階段を上っていく者よりも降りていく者たちの方が多かった。割合にして十倍くらい。なので私も流れに乗って、階段を下りていった。階段には窓がなく、ただLEDの明かりが煌々とスチールの壁に反射していた。

 一階まで降りると大きなホールで、中央にダビデ像が有り、壁には油絵の肖像画が簡素な額に入れられていた。ここも生徒たちでごった返していた。その多くは回転扉から外に出て行って数段のコンクリート階段を下り、そこから花壇の合間の小径を歩いていくのだった。外に出て、校舎の方を振り返ると、要塞のような建物の周囲をさらに金網のような高い壁が取り囲んでいた。

 出口の門は青い銅製で、一人通る分だけの通用口が開いていた。そこから一人ずつ外に出ていくのだった。特に何かのチェックをしている様子ではなかったけれど、生徒が出るたびに、センサーが働いて壁面になにかの表示が出ていた。列に並んで近づいていくと、その表示が学校名なのだとわかった。そしてよく見ると、生徒たちの制服はみなまちまちなのだった。その所属する学校名が表示されることで、何らかのセーフガードになっているようだった。

 私が通ると「職業訓練校 修了」と出た。確かに私が直近で通った学校はそれだった。高校や大学ではなくそれが最終学歴になるのか。

 私は手に持った紙片に書かれた場所に向かった。名刺大で、住所と電話番号だけが書かれていて、地図はなかった。でもこのあたりはだいたい土地勘があったので、あまり迷うことなく目当ての建物に入ることができた。新しく低予算で建てた公共施設のようだったが、入っていくと薄暗く、床のタイルもところどころ禿げていて何となくおばけ屋敷を連想させた。廊下をくねくねと曲がっていくと、そこだけ蛍光灯の明かりが浮かび上がっているところがあり、白衣を着た人物の前に数名が並んでいた。

 それぞれ、カウンタに置かれたノートのようなものに名前を書いて列から離れた。すぐに私の順番になって、私も名前と携帯番号を記入した。すると白衣の受付が説明してくれた。

「これで予約ができましたので、午後二時にもう一度来てください」

 まだ午前中だった。二時までどうやって時間を潰そうか。そう思いながら廊下を引き返していくと、後ろの方から猫の鳴き声が聞こえた。見るとダンボール箱の中から次々と猫たちを部屋に解き放っているのだった。さっき受付を済ませた連中のうち何人かがそこへ行って、猫たちの頭を撫でたりしていた。猫カフェかなにかなのかと思って、私もそこに行こうかと思ったけれど、足はそのまま外に向かって進んでいた。うちのおネコ様に悪いからなどと、言い訳のようなことを考えながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ