待たされる
会社を出てくると、私たちは砂利道を下っていった。コンクリートでできた背の低い代わりに鈍重に広い自社ビルの反対側は、切り立った丘になっていて、そこからさらに山間に続いていた。その隙間にトラックに踏み固められたような白い道があって、そこを私たちが歩いていたときに、社長の携帯電話が鳴った。遠くに緑が見えた。禿山にわずかだけ樹木が残っているような感じだった。
電話を話し終えると、社長は私の方を見た。
「要らないといってきたよ」
「そうですか。仕方ないですね」
「どうしよう」
「それなら残りも売ってしまうのがいいでしょうね」
「まだ上がると思うんだけどな」
「私もそう思いますけれど、当事者が要らないといっているんだから、ここで利益確保しておくのが安全だと思いますよ」
「わかった」
「あそこに売ればいいじゃないですか」
「え、買ってくれるかな」
「同業なんだから、上手く言えば買うでしょう」
話は決まって、私たちは歩き続けた。
「どこにあるんですかね」
何も分かっていない後輩が歩きながら尋ねてきた。
「あそこだよ」
私は、野原の向こうにあるビルを指さした。鉄筋コンクリートで出来ているはずなのに、色合いのせいなのかプレハブみたいに見える。屋上に一文字ずつ看板が立てられ、こちらに社名を見せていた。
「あ、そうですね。書いてありますね」
まっすぐ行くとアスファルト舗装の車道に出て、そこを直角に曲がって砂混じりの歩道を歩いていったらすぐに玄関にたどり着いた。ガラスの自動ドアを通って、正面の受付に行った。来意を告げると、二階に行くように言われたので、すぐ脇にあった絨毯を敷かれた階段を上がっていった。時計を見ると五時半だった。約束通りの時間だった。
「じゃあいってきます」
ホールに置かれた待合用のソファに社長を残して、私たちは壁で仕切られた部屋に入っていった。ひとつ角を曲がったところから二手に分かれていて、その右側に入っていくと、白い小ぶりのテーブルの両側にスタッキング椅子が二脚ずつ置かれ、その上座にここの社長が座って、何やら手に持った書類を眺めていた。
「もう来たのか」
私たちに気づくと、腕時計を見た。
「まだ待っててくれ」
約束の時間を間違えているのかもなと思った。約束は五時半で、いまは五時三十五分になろうとしていた。しかし私は素直に従った。
「はい、わかりました」
角を引き返したところで、私は手に持っていた透明なガラスのマグカップを、後輩よりもさらに若い新入社員に手渡した。
「持っててくれないか」
「はい、温め直しておきます」
「何も入っていないから」
そこにも待合用のソファセットがあった。私はトイレに行こうと思った。後輩たちにはここで座って待つように言おうかどうか考えた。