手伝う
私たちは、エスカレータを登って来た。周りには、きらびやかな店先が集まっていて、ちょっと歩いたところには、宝石店があり、私たちはそこに立ち寄った。店の中は、ショウウィンドウに、様々な指輪やネックレス、イヤリングなどが展示されていて、客の通れる通路は存外に手狭だった。
私たちが中に入っていくと、店員が老人の客の相手をしていた。私は手持ち無沙汰をかこつて、手にしたチューブで造形を始めた。ガラスの上に細工物の小さなウサギがあったので、その上から白いもので、雪景色を表現しようとした。私は専門店の従業員だったので自信があったのだけれど、それほどうまくいかなかった。そうしているところ、老人の客が振り返って私にぶつかってしまった。弾みで、私の手にしたチューブから、白い塗料が飛び出して、客の胸の上に、ブローチのような塊をつけてしまった。
「あ、すみません」
私は慌ててハンカチを取り出し、それを拭き取りにかかった。大部分は布に取れたのだけれど、かすかにシミが残った。それを丁寧に取り除こうとしていたら、その客が言った。
「別にいいのよ。気にしないで」
そう言って、店を出ていった。店の前には、スーパーマーケットのカートが二台置いてあり、それらを押して、どこかに行こうとしていた。私は追いついて、話しかけた。
「お手伝いしますよ」
「それは助かるわ」
客は待ってましたとばかりに微笑んだ。
「ちょっと待っててくださいね」
私は、店先で待っていた連れの所に行って「あの人を送ってくるから」と告げた。
「まだ仕事があるの?」と、連れは不満顔だった。
私は、カートの一台を押して、客に付き従った。連れはエスカレータのところに行き、そこにカートを載せようというのだった。危険だと思った私は「エレベータに乗りませんか」と提案した。
「そうしますか」
客は、どっていでもいいのだが、私の顔を立てるのだというような曖昧な返答をした。
「荷物もまとめませんか」
一台のカートには、上のかごと下のかごに荷物が載っていて、もう一台のカートには野菜や果物が積み上げられていた。一代目のカートにはまだ余裕があるようだったので、私はもう一方の野菜や果物を一つ一つ掴み上げて、移していった。最初は少しだからと思っていたのだけれど、結構満杯となり、最後は載せる隙間を探すのに苦労するほどだった。確かにこうなっては、重くてこの老人一人では無理だろう。
私はひとりでカートを押して、引き返した。客もそのあとについてきた。柱を曲がったところに、エレベータが二台あるのを見つけた。なんだか金属むき出しのくすんだ感じの扉なので、よく見ると、客用のものではなくて、従業員用のものだった。まあいいやと思って、下向きのマークのボタンを押したら、すぐに扉が左右に開いた。
私たちが乗り込むと、あとから作業着を着た二人連れも乗り込んできた。回数表示を見て、押そうとするとよくわからなかった。
「B1-WEST」
「B1-EAST」
「B3」
「B6」
などとなっていた。数字が飛んでいるのも気になったが、駐車場があるのは地下一階だと分かっていた。けれどそれが二つに分かれているのだった。
「お客様駐車場ってどっちでしたっけ」と、私は後から来た作業着に聞いてみた。
「確か西館の方だろう」
それで私は、「B1-WEST」を押した。
「このエレベータがそこに行くかどうかは知らないけれど」と、作業着は補足した。
それならそれで仕方ない、と私は考えた。すぐに到着して、扉が開いた。私たちが降りると、そこには庭園が広がり、花壇に色とりどりの花が咲き乱れていた。




