制服を探す
私はもうひとりの役者と並んで広場のヘリに座り込んでいた。撮影現場となる長方形の広場は、ほぼむき出しのグラウンド状態で、端の方には短い雑草が茂っていた。その雑草のあたりに膝を抱えるようにして座っていると、村の有力者の一人が私たちのところに笑顔でやってきた。
「ああ、素晴らしい映画になりそうだね」
「ありがとうございます」
「台本を読ませてもらったけどね、期待できそうだねえ」
「あ、そうなんですか」
「まだ読んでないの?」
「ええ。初稿は読んでるんですけど、決定稿はまだ」
「そうなのかい。わたしは昨日読ませてもらったんだけど」
村人はニコニコ笑ったまま去っていった。
「そろそろ相方がやって来る頃かな」などといっていると、村はずれから黒っぽい服装の一団が現れ、道をくねって近づいてきた。
先頭を歩くのが、この映画の監督で、脚本も書き、主役の一人でもあった。その五六人は、一列に隊を組んで整然と広場のゲートをくぐってきた。黒っぽい服装は近づくにつれて、制服のデザインと同様のものであることが分かってきた。しかし、なんだか色合いに妙な光沢があり、ほのかに空間に滲み出しているようでもあった。それもそのはず、その役柄は、冥界からの帰還者たちなのであった。
しかしそんな役柄はまだお首にも出さずに、談笑しながらスタッフたちと合流した。私たちもその仲間に加わり、中の一人から完成した脚本の冊子を受け取って読み始めた。確かになかなかの出来と認めざるを得なかった。しかし問題点がないわけでもなかった。
「ところで、私の制服はどうなっている」
もうひとりの主役であるはずの私はまだシャツ姿であり、制服は上下ともまだ着ていなかった。
「え、まだですか」
スタッフのひとりが素っ頓狂な声を上げた。私は少々不機嫌になった。隅に積んである荷物の山を探し始めたけれど、見つからなかった。
「誰が持ってくる係りなんだっけ」
すると、幽霊の一団の中にいた、小柄な学生が手を挙げた。
「すいません。忘れました」
「なあ。そんな慌てなくてもいいじゃないか。そこのを借りればいいだろう」
私は、公園の裏手にある藁葺き屋根の大邸宅の手前にある納屋を指し示した。そこはここの地主の先々代の衣装べやだったのだ。そこを引っ掻き回して、ようやく持ってきてくれたものが、妙なデザインのスーツだった。私は一旦それを着てみたが、どう見ても制服に見えなかった。
「みんなの先輩の家なんだから、制服ぐらいあるだろう」と、私は叫んだ。みな同じ高校の出身だった。
「それがなかなか見つからなくて」
「じゃあ、どうだろう。上半身だけ映して、下は絶対映さないってのは」
それなら夏服に見えなくもない、と思ったのだった。
「ありました」
私は、その年世代も前の制服を着てカメラの前に立った。そしてフィルムを回して、試し取りをしてみたのだった。
「制服が映りません」
なんと、その制服には光学迷彩が張り巡らされていて、撮影された私の姿に服装は映らず、顔だけが生首のように浮かんで見えるのだった。