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悪と戦う

 私が料理の受け取りカウンタに並んでいると、参加者の一人が話しかけてきた。

「ねえ、やっぱり、他の物にすればよかったわ」

 そう言って、広大なカフェテラスの一角を振り返った。天井が高く清潔感があり、質素ながらもしっかりとした感じのテーブルやソファが並んでいた。客の入りは三割ぐらいで、話しかけてきた参加者が見た席には数名、中年のやはり参加者が座っていた。かれらの前のテーブルには、トレイがあり、その上に丼などの食器が置かれたままだった。

「あの人たちが、うどんって言うもんだから。だって、うどんを食べることは決まっていて、何うどんにしようかっていう相談を始めるもんだから、ほかに選択肢がなくって」

「ラーメンだってありますよ」と私は答えた。「洋食も」

「オムレツもあるの?」

「オムレツもあるはずですよ」

「オムレツが食べたかった」

 私たちが話していると、さらに数名の参加者たちが集まってきて、会話に加わった。

「きっと、関東の人間が、関西人を馬鹿にしているという話になってしまうのよ」

 どうやら、うどんを食べていたメンバーは関西出身の集まりらしかった。そして、私の周りに集まっているのが、関東出身者のようだった。私は手に持ったスティック状のパンをかじりながら、それを聞いていた。カウンタには、美味しそうな、各種チーズのディップがあったけれど、それをつけないまま、私のパンは残り少なくなっていた。相槌を打つのに忙しかったからだ。大きな塊を上の方から熱で溶かしてあるところに、ようやく自分のパンにつけて食べることができた。パンのおかわりもしようかどうか、迷っていた。

 ともかく群れの中から抜け出して、一旦外に出ることにした。食堂のすぐ横に、子供たちの集まる集会所があった。私がそこに行くと、ちょうどトイレからアメコミのような扮装をした子供が出てくるところに出くわした。黒ずくめの衣装で、胸に英語で「BADANT」と書いてあった。それがそのキャラクターの名前だろうと思った。私は口を大きく開いて、口の形だけでその発音を真似てみせた。

「ばあっでああん」という感じだろうか。

 その子供が、ドアの横の壁のところに行って、ポケットから出したものを押し当てていた。あとからいってそこを見ると、白い安物の壁紙の上に画鋲が差してあった。金色をしたシンプルなそれを、私は取り除いた。

 たくさんの子供たちが、部屋の中で遊んでいた。百平方メートルくらいの部屋で、床にはスポンジ・シートが敷き詰められ、その上に積み木状のぬいぐるみなどの遊具があり、それらで遊んでいる者もいれば、鬼ごっこなどをして走り回っている一団もあった。

 その只中に入っていった黒装束の子供は、手の中に握りこんでいたものを、ぱあっと撒き散らかした。金属の光が舞った。やはり画鋲だった。けれど子供たちはそれに気づいていないようだった。

「画鋲が欲しいひと!」と、その子供が叫んだので、ようやく何人かがこちらを見上げて、歩いてきた。

「痛い!」

 画鋲を踏んだ誰かが声を上げた。そこここで同じような声が上がって、立ち止まるものが多かった。何の障害もなくたどり着いたものだけが、黒い子供から一枚の画鋲を受け取ることができるのだった。嬉々として。

 翌朝、私が起きると、同室のものが心配そうにこちらを見ていた。私たちはパジャマ姿だった。

「いま何時かな」とルームメイトが尋ねるので、私は枕元のスマートフォンを手にとって見た。

 時刻表示は7時台だった。

「えっと、七時すぎかな」

 ところが見ているうちに、表示が変化し、10時台になったり、5時台になったりした。しばらくそうやってから、11時前で固定した。

「うわ、もうこんな時間」

 私たちは慌ててスーツに着替え始めた。それから部屋を出て廊下に出ると、寮の管理人が私たちの方を見て不思議そうな顔をした。

「今から出かけるの?」

「うん。遅刻だけれど」

 ところが、管理人が窓の外を示すと、大荒れの天候だった。ベランダにつながるサッシのカーテンを開けると、ガラス一面が黒い雲で覆われ、雨が横殴りに打ち付けていた。その黒い雲の上に、五人組の悪魔の姿が見えた。横に並んで凄みのある笑顔を見せていて、七福神の暗黒ヴァージョンのようだった。

 私と相棒は、顔を見合わせてうなづきあった。これこそ私たちの出番なのだった。彼らを退治すれば、この嵐も収まるはずだった。

 私たちは雨の中を外に出て彼らの姿を探し回った。スーパーマーケットの裏手に差し掛かったところで、雷の光がきらめき、五悪軍の姿を照らしだした。そのうち左端の一人はほかと比べてダントツに背が小さかった。子供なのだろうか。

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