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テントを立てる

 カウンタの向こうの制服姿のフロントに、番号札のついたルームキイを手渡して、私は振り返った。それほど広くないロビーが窮屈に感じたのは、ソファを団体客が占領していて騒がしくしているからだった。しばし佇んで、ぼんやり見ていると、横から声をかけてくるものがあった。

「やあ、どうしたの」

 初老の人物で、知り合いだった。その横にもうひとり知らない若者がいた。

「あれ、随分な荷物だね」

 旧知の人物が話を続けた。私はかなり大きなリュックサックを背負っていた。

「貸していたテントを返してもらったところなんです」

「それは大変だ」

「まあ、でも。すぐそこですから。自転車で二時間半くらいだから」

「よかったら、そのテント貸してくれないか」

 ということで私たちはホテルを出て、向かい側にある建物に移った。二階建てて、コンクリートの壁面に罅が入り、相当老朽化していた。広いガラス戸を開けると、中はほぼ正方形の九坪位の空間で、左右に事務所の窓口があったがカーテンが降りていて誰もおらず、正面に階段があった。私たちはリノニウムのステップを踏んで、階段を上がった。

 二階は仕切りのない広い空間で、若者たちがあちこちに毛布を敷いて屯していた。

「テントを立ててくださらないですか」

 知り合いの連れが初めて口をきいた。私はリュックを下ろして、中からテントのセットを取り出して、誰もいない床面を見つけてそこにテントを立ててやった。

 翌日には自宅に帰っていた。二階の自室で寝ていたのだけれど、子供が私を揺り起こしていた。ここの大家の子供だった。仲良くはしていたけれど、こんなことは初めてだった。私は寝ぼけ眼で布団から起き上がった。子供は私にまとわりつき、何のかんのと高い声で話しかけてくる。

「うるさいな」

 私はそれほど大きくない声できっぱりと告げた。

 それから部屋の隅の鏡に向かい、その脇に投げ捨ててあったトートバックから中身を取り出した。昨夜、駅前のアーケードで購入したもので、まだ温かみがあった。輪ゴムを取り、包み紙を開くとビニールパックの中に焼きそばが入っていた。

 テレビをつけると、その左半分で、「銀プロ」についてやっていた。第百回目が去年行われて、二百回目が今年行われた。そして三百回にむけてのプロモーションが行われているのだった。テレビの画面が大きく広がり、そこはいつの間にか、ビルの屋上になっていた。腰までもない端のコンクリート塀の手前で、タレントたちが色々とアピールをしていた。私は、長テーブルの前にパイプ椅子を開いて座った。しばらくそうしていたところへ、給水塔の下の鉄扉が開いて、中から誰かが現れた。

 ゾン太という名前の、ウルトラ兄弟の長男だった。私は、記憶を全部、ゾン太に持っていかれたような悔しさを覚えた。

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