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コーチをする

 私たちは、鉄筋コンクリートでできた二階建て校舎の、屋上の端っこに座っていた。足をへりにブラブラさせて、下の中庭にいる小学校高学年くらいの子供と会話をしていた。

「うん。よくうまい具合にふたり揃えたと思うと思うよ」と、子供が言ってから、私たちの下の方にある、つまり校舎の方に向かって叫んだ。

「おーい」

 その掛け声に応じて、窓からもう少し小さい学年のような子供が現われた。私たちは、壁面に設えられたクリームイエローのペンキが禿げかかった鉄ばしごを伝って、地面に降りた。もうひとり、奥の花壇のあたりから走ってくるのが見えた。ふたりとも、確かに絶妙な顔つきをしていた。可愛いというのでもなく不細工というのでもない。ヒトのようでもなくサルのようでもない、中途半端な顔つきをしているのだ。

 私が、中庭と運動場の角を曲がって、運動場側に行こうと歩いていると、子供の一人が急に走り出した。

「いまから、見せてやるよ。うまいんだ」

 そう叫んで、校舎の壁面にある、さっき私たちが降りたのよりも幅の広い鉄ばしごにささっと駆け上がっていった。そしてその中ほどまで登ったところで、手を離し後転しながら空中に飛び上がった。私の方に飛びかかってきたので、思わず地べたに両手をついて転がった。子供はその上を飛んで、見事着地をしたようだった。ざざっと、運動靴が砂を掻く音が聞こえた。

「あぶないあぶない。咄嗟に倒れ込まなけりゃ、ぶつかって腰痛になるところだった」

「へえ、腰痛になるんだ」と、連れが言った。

 後者の向こうの正門から入ってくると、ちょうど出入り口があり、靴箱がありそしてそのまま反対側の校庭に出る扉口につながっている。広く開け放たれた入口の下に階段が数段あり、その手前に赤茶色い朝礼台がある。その回りをくるりと迂回して、私は校舎の中に入っていった。薄暗い廊下を歩いて職員室の手前に、やや細長い事務室のような部屋があり、ドアが開けっ放しになって光が漏れていた。中を見やると、職員たちが何やらプリントの整理をしていた。私が入っていくと、その中のひとりが説明を始めた。

「資料をいちいち作成するのは面倒ですから、こうして流れ作業で作ってしまうんです」

 絵や図表がふんだんに使われていて、それぞれに色まで塗られていた。カラーのサインペンのようなもので少しムラのある感じで斜めに塗りこんであった。

 奥の方にいた、年老いた人物が私の方に近づいてきた。

「やあ、お疲れ様です。ときに、ピッチャーの子はどうですか。いい子なんだが、良くないのは、粘られたときだわ。尻取りをやっとったらいいのに、急に変化球ばかり放りたがる」

 私はさっきのその子供の投球を思い出していた。

「そのことも、今度の会報に書いたんだわ」

 確かに、プリントの一枚に投球論についての詳しい論文が載っていた。しかしそれよりも、私はその人物の右のおでこの上のところにコインくらいの丸い穴が二つ空いているのが気になっていた。

「脳みその方はどうなんだ」

 プリントの整理をしている事務員の一人がその人物に尋ねた。

「いや、まだまだだな」といって、頭を下げるような格好をした。

 二つの穴の中の向こうが見えたが、そこは空洞だった。丸くくり抜かれて、首のところが底になっていた。一体どうなっているのか。脳みそがないのに生きていられるものか。前から見ると普通に顔があり、目が動き鼻が呼吸をして、口でしゃべっている。どうやら、顔の後ろ側に必要な脳みそを寄せてコーティングしてあるようだった。その状態で、そんなに長くは持たないだろうけれど、今のところは大丈夫なのだった。

 

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