金縛りにあう
背中に硬いシートの感触が蘇ると、私は列車の中で目を覚ました。硬いのは、座席の方なのか背中の方なのか。長い眠りのために身体が硬直しているように感じられた。いや、実際にまだ目が覚め切ってはおらず、金縛りのように手足が動かなかった。私は見ていたはずの夢を思い出そうとしていたけれど、なかなか形にならなかった。
目を開けると、私の左側に友人が座り、その向こう側に通路が、反対側のシートが、車窓が、見えた。窓の外には、風景らしきものは判然としなかったけれど、防音壁が後ろへ後ろへ走っていくのが見えた。私の目の前には、前の席のシートの背中が見えた。ビロード風の布が貼られた古臭いもので、リクライニングもついていなかった。そして、前の座席と私の間に、ちょうど右の窓側に背中を凭れる格好で寝ている人がいるのだった。シートの間隔は広めでかなりの余裕があったけれど、そうは言ってもひと一人となると、私の両足は窮屈にシートの下部に押し付けられているのだった。
Tシャツに短パンというラフな服装の青年で、髪が乱れていた。酔いつぶれて眠ってしまったという感じだった。友人たちが特に問題視していないから、車内で知り合った人物ででもあったのだろうか。
「あとどれくらいかな」と私は友人に尋ねた。
眠っている間に時間感覚をなくしていたからだ。
「うーん、どうだろう」
「もうすぐ着くのかな」
そう思ったのは、右の窓から夕日らしき赤い光が差し込んでいたからだ。
私はふと思いついて、ポケットからスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動させ、GPSで現在地と目的の駅名を入力した。光点がゆっくりと北上していくのを見ると、まだまだ時間がかかりそうだった。私は再び眠気に襲われて、ミイラのように固まっていった。
次に目を覚ますと、私は布団の上に寝かされていた。またしても身体が硬直していて身動きがとれなかった。私の右側がちょうど襖になっていて閉ざされていた。頭の方は土壁に黒ずんだ柱が並び、足の方には床の間があり、その横にテレビ台があった。横に細長い和室で、布団が目一杯に敷き詰められていた。私たちは思い思いにその上に寝そべったり座り込んだりしていた。
床の間と布団の間にわずかばかりに畳が見えていて、そこに新聞紙が置いてあった。私はその新聞を見ようと思ったが、からだをくねらせて、頭をそちらの方に持っていくのがやっとだった。ちょうど布団と布団の隙間に挟まり込むような格好で最も頭が床の間を向いて止まった。手を伸ばせば、指先に新聞紙が触れた。もうひと伸びすると、ようやく硬直が溶けて、足を引きずり上げるようにして座ることができた。
私は胡座をかいて、新聞を膝の上に開いた。トップ記事から順々に見出しを拾い読みするようにしていったら、ところどころスクラップのためにページ毎引きちぎられているのに気づいた。そのおかげで肝心の記事を読めないような気がしたけれど、特に目当てがあるわけでもなかったのだ。私は、野球の結果や番組欄を漫然と眺めるだけだった。
ドーンと、足で蹴り落とされた。私は隣の布団の上に座っていて、そこの主が枕に飛び込むように横たわったのだった。そのとき伸ばした足がちょうど私を追いやったのだ。わざとではなかった。私がそこにいるのに気づいていなかったのだ。
「悪い。だいじょうぶか」と友人は私を気遣った。
そのまま枕元のリモコンを持って、テレビをつけた。放送ではなく、録画したメディアを再生した。ロボットアニメの映画版が流れた。敵役の黒いロボットのフィギアが三体、神棚に飾ってあるのが見えた。そこへ監督が入ってきて、私たちに布団をたたむように指示をした。別の部屋に泊まっていたメンバーも続々入ってきて、練習の準備を始めた。
「これはどっちのペダルでしょうか」と私は監督に尋ねた。
監督は自分で考えるのを促すかのように、笑顔で首をかしげた。
奥のドラムセットはペダルの一部が残っていたので、これは手前の方のだろう。私は久しぶりに組み立てるので、本当にできるかどうか不安だった。でもやっているうちになんとかなるだろう。