説明を受ける
アーチ状の外枠は鉄で出来ていて白いペンキで塗られていた。そこが駅舎とプラットフォームの境目で、改札も同じような鉄パイプで組み上げられていた。私はその最前列で並んでいたはずなのに、プラスチック製らしい黄色い鎖が駅員の手によって解き放たれたとき、どこにいたのか何組かの親子連れが私よりも前にいて、先に乗り込んでいった。
クリームイエローを中心に流線型もように塗られた、バスのように小柄な車体が二両つながっていた。私はその後ろ側のドアから乗り込んだ。ほかの乗客たちが我先にシートを取っていくので、私は通路をさらに先に進んでいき、連結部を抜けて、前の車両に移った。少し歩くと、すぐに最先端にたどり着き、ドームのように丸い天井からサイドに向けて開放的な窓があり、外がよく見えるように横向きにベンチが設置してあった。運転席の後ろもガラス張りになっていて、そのすぐ後ろで進行方向を見ることのできる座席があった。
洗面所の横から階段を上ると、二階席になっている。私はそこを上がり、上の席に座ることにした。しかし二階もサロンのような座席が既にほぼ埋まっていた。かろうじて空席を見つけ、私はその席を確保した。私以外はみなグループらしく、和気藹々とした雰囲気の中、一人だけ黙って車窓の外を眺めていた。
列車は森の中を走り抜け、五分ほどで次の駅に着く。そこから長い鉄橋を渡り、また五分ほどで終点に到着する。遊園地やサファリのある観光ランドから、ベッドタウンと都心を繋ぐ通常の路線への、中継のための列車だった。私は乗り換え駅で降り、歩いて学校へ戻った。
一旦丘の上にある寮に行き、そこで学友たちと合流した。私は今まで美術選択だったけれど、今日からは音楽教室に変更になるのだった。いや、それとも今日だけ音楽を習うのだったか。周りの連中はずっと音楽をやっていて、手に手に楽器を持っている。私もクラリネットの箱を抱えて、長くて広いスロープを降りて、芝生の公園の脇にある、平屋のだだっ広いログハウスの様な音楽室に向かうのだった。箱の上部に小さなつまみがあり、そこを開くと中にリードが入っていた。リードは最初濡らしておく必要があるはずだと思い、私は歩きながらそこから取り出して確かめてみたけれど、そこに入れておくとちゃんと程よい状態になっているようだった。
教室に入ると、生徒の一人が私に笑顔を見せて案内してくれた。
「その一番後ろの席が空いてるから」
私はその席にいって楽器を机の上に置いた。黒板の方を見ると、既に先生がいて近くにいた生徒たちと談笑していた。私はしばらく躊躇してから、先生の方へ行き、挨拶をした。
「今日からよろしくお願いします」
「ああよろしく。準備室に来てよ」
準備室に行くと、私の他にも何人かの学生たちが待っていた。
「ちょうどいま手元にこれがあってね」と先生が説明し始めた。
祭事に使う神子人形で、桐の小箱の中に収められている。蓋を取って中から取り出すと、神棚の上へと階段で上がり、銀でできた盥に張った水の中央に浮かべた。するとさらに箱の奥から御神体の袱紗が現れるという仕掛けになっていた。
白衣を着た助手が現れて、スライドを使って詳しいことを説明した。私はその話に感銘を受けたが、それを見越したかのように説明を終えた助手が最後に言ったのだ。
「いいでしょう。古都に住みたいと思わない?」
学生たちはいやいやいやそれはちょっとという感じで苦笑した。お開きとなり三々五々と部屋を出ていった。私は最後まで残って、助手の先生に「シャワーを浴びたいんだけれど、ありますか」と尋ねた。
「あるよ」と言って、何やら奥に向かって声をかけると、そこからウイーンというような機械音がして、掃除機のようなものが自走してきた。
「二階に上がると使えるよ」
私はその機械と一緒に階段をあがった。二階は板張りの更衣室になっていて、シャワー用のブースもあった。そこへ機械を持って入った。どうしていいのかわからなかったのでとりあえず「シャワー」と口に出して言ってみると、機械はバタバタと組みあがって、シャワーの設備になった。どうやら口で指示を出すと、その通りに動くようだった。しかし、次に「水」と言っても作動しなかった。試しに英語で「ウォーター」というと、水がサーっと流れ出た。まだ脱いでいなかったので慌てて「ストップ」と言ったら止まった。