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問いかけに答える

 私が座っているところへ、同僚の一人がつかつかと歩み寄ってきて、いきなり手に持ったものを机の上に叩きつけた。そのまま背中を向けて、板敷の床を踏み抜かんばかりの勢いで歩み去り、戸口を出て行った。

「告白なんじゃないの」とアルバイト仲間たちは囃し立てたけれど、私にはどうもそのようには思えなかったし、仲間たちも確信があるようではなかった。

 天板の上を見やると、そこには時計盤のようなものが置かれていた。腕時計よりもやや大きめの丸い文字盤の部分だけがあり、数字の十と十二のところを同じ長さの針が指していた。それらは、どちらも長針のようで、それ以外に針は付いていなかった。しかもぴちっと固定されているという感じではなく、ゆらゆらと、大体のあたりをウロウロしているのだった。気が付くと、テーブルはやけに斜めに傾いでいて、木目がはっきりしてニスの色も禿げた脚ががたがたと揺れているのだった。

 もうひとつは銀色のプレートだった。そこに携帯ゲーム機のような映像が現れた。私と、このプレゼントの送り主が裸で横たわり、その胸の上に短剣が差し込まれ血が流れていた。短剣は私の胸に現れては消え、送り主の胸に現れては消えた。つまりどちらかが刺されて死ぬということだ。

 これらを読み取るならば、十時から十二時の間に私たちは殺し合いを行い、どちらかが生き残るということだった。そう考えているところへ、さっきまで笑っていた同僚の一人が私の手首をがしっと握り、左の袖をまくりあげて上腕を露わにした。

「ある」と、指差すところへ視線を向けると、そこには活字のような数字の「7」が刻印されていた。自然にできた痣のようにうっすらと赤く浮かび上がっているのだった。その同僚は自分の袖もまくりあげて見せた。そこにも「7」と書いてあった。

 それから追求が始まった。みんな数字が書いてあるはずだろうというのだった。なかなかその部分を見せないで逃げ回るものが一人いた。最初の一人が追い詰めて、とうとう壁に押し付けた。

「分かった。自分で見せる」

 まくりあげた肩の下にできている数字は「27」だった。

 殺し合いをするということだけではないのではない。さっきの映像は、ふたりとも眠っていた。そう、眠るのだ。恐らくこの数字の時刻から何時間か眠ってしまうのだ。それが十時間だか十二時間だかで、その間に殺せということなのだろう。そうしないと、こちらがやられてしまうのだ。

 誰かが隅っこのデスクについてなにか書きものを続けていた。それがようやく書き終わったというように私たちの方を向き直ったとき、裏側のドアが開いて、軍服を着た人物が入ってきて、すかさず隅のデスクに詰め寄った。

「何を書いているのですか」

「法律を書いたのです」

 軍服がその文書を取り上げ、瞬時に目を通すと言った。

「やっぱり。この字は『マグナカルタ』と同じだ。あれには迷惑してるんですよ。できたらもう法律は書かないで欲しかった」

「じゃあ破るんですか」

「そういうわけにもいかないでしょう。議会に諮るしかない」

「この人が誰だかわかりますか」

「王様だ」と、私たちの一人がすぐに答えた。

「それではこれは誰だ?」と、王様が私たちに尋ねた。

 私たちの部屋は大きなカヌーボートだった。カーテンの向こうに人物は立っていたのだけれどシルエットだけで、距離感がわからないから体格もわからなかった。さらにその向こうからシャワーの音が聞こえた。誰なのだろう。さっき私にプレゼントを贈った同僚だろうか。今のうちに殺せというのだろうか。しかし私は飽き飽きしていた。もういいだろう。人物当てクイズにはうんざりしていた。

 私は表のガラス戸を開けて外に出た。そこは木製のバルコニーになっていた。下へ降りる階段も木製で、ギシギシ言わせながら降りていった。もうあたりは真っ暗になっていた。私は舗装された道を、駅の方に向かって歩いていった。高架になっている駅舎の下を通り抜け、反対側の繁華街にやってきた。けれどももう相当遅い時間だったので、店もほとんど開いてなかった。ふと見ると、屋台で惣菜の類をおいているところがあった。誰もいなかったけれど、私はどれを買おうかと物色し始めた。やがて店の人らしき背の低い太った老人が現れた。

 私は馬刺しとローストビーフと鯵のたたきを選んだ。台の上に置かれていたときは、どれもずいぶん素敵に見えたのだけれど、手にとってみるとなんだか薄汚れて見えた。ラップもずれているようだった。

 にゃあにゃあと猫の鳴き声がするので見ると、ガードの窓の向こうに数匹の猫がやってきているのだった。私がそちらに気を取られている間に、店の人は私の買ったものを新聞紙でくるみ、小さな瓶を渡した。

「ワインを上げるよ」

 その瓶の表示を見ると、どうやら日本酒のようだった。けれどきっと中身はワインなのだ。大きな瓶に入っていたワインの残りを集めたのだろう。

 私はそれらを受け取ると、足早に立ち去った。しかしそれをつけてくる影があった。街灯の切れたところで、影は私に話しかけてきた。

「あなたのおうちはどちらですか」

 私は答えを口にしないで、顔だけで方向を示した。

「どのくらいかかりますか」

 商店街のアーケードの下に出て、明かりがその影の顔を暴くと、さっきの軍服の人物がスーツに着替えていたのだ。刑事ででもあるのだろうか。

「十分もかからない」と、私は答えた。実際アーケードを抜けたところから路地を少し行けば私の住居があった。

「近いんですね」と聞いてくるので、うんうんと頷いた。

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