書店に寄る
軽トラックが進んでいくのは砂利道だったけれど、それほど振動は激しくなかった。幅三十メートルほどの横幅の道路の、両側に木造の建物が並んでいた。どれも、人がいるのかどうかわからない朽ちた住宅や、やっているのかどうか疑わしい看板の薄汚れた商店だった。黄昏時となり、電柱の影が朧に連なっていた。
私たちは一軒の店舗の前で車を停めた。そこは、蛍光灯の明かりが煌々と照らされて、明らかに営業している店舗だった。シャッターはまだ下ろされていたなかったが、商品は既に店の奥に仕舞われて、分厚い雨戸が半ば閉じられていた。荷台からダンボール箱をいくつか抱えて、店の中に運び込んだら、奥から現れた店主らしき老人に声をかけられた。
「こんなところにやって来るのは、あんたたちぐらいだわ」
呆れているのか褒めているのか分からない口調だった。
「毎度」と、私の横にいた同僚が挨拶をした。私は口の中でもごもご呟くだけだった。
再び車に乗り込んで、坂道をうねうねと下っていった。
心地よい振動に身を委ねているうちに、あたりはすっかり薄闇に閉ざされ、街灯の明かりだけがぼんやりと後ろに流れていった。
「今夜これからどうするんだ」ハンドルを握りながら同僚が尋ねた。
「ちょっと行くところがあるんです」と私は答えた。
寄りたいところがあったのは事実だけけれど、特別にしなければならない用事というわけではなかった。その前にどこかで食事でも取ろうか、と私はぼんやり考えていた。
同僚は上手にバックで車をガレージの中に入れた。コンクリートブロックを積み上げて鉄の波板で天井を葺いた簡易な三匹の子豚のような長屋だった。駐車スペースの奥には新しいロッカーが並べられ、私たちはそこで作業着から私服に着替えた。
私はTシャツとチノパンを着て、キャップをかぶって外に出た。二人で協力してシャッターを下ろし「じゃあ」と気軽な挨拶を交わして、別々の方向に去っていった。
少し歩くと光り輝く地下鉄の入口があって、私はその中に吸い込まれていった。地下街の両側にある、ジーンズショップやカフェを眺め、飲食店のゾーンに入ったところで本格的にどこの店で食事をしようかと考えていた。現金が心もとなかったので、鉄道系カードが使えるところが望ましかった。一軒、よく行く四川料理の店があり、そこの麻婆豆腐は美味しかったけれど、紅色の暖簾の前まで行ったら、かなり人が入っているようで気後れがした。
そのまま素通りをして、私は別の店に入っていった。ガラス戸を開けて中に入ると、左側にレジカウンターがあり、右側に書棚が並んでいた。エプロンをつけた若者が「いらっしゃい」と声をかけてきた。
「マスターは?」
「まだだけれど、もうすぐ来ると思うよ」
私は書棚の間を回遊した。黄色いLEDの光に、趣味のいい品揃えで、気持ちの行き届いた並べ方をされた書物の題名が浮かび上がるのを眺めるのは、気分を落ち着かせた。その間何人かの客がやってきて、店員と話をしていった。私は再びカウンターの前の通路に戻り、レジの向かい側にあるチラシ置き場の上をかき回して、目当てのパンフレットを探した。すぐに見つかって、私はその中身を読んでいた。
そこへ店主がやってきた。
「やあみんな早いじゃないか」
いつの間にか夜明け前になっていたのだ。