取り返しがつかない。
子どもが、丸いカプセルを持って歩いてくる。私はそれを呼び止める。
「ぼく、何を持っているんだい」
「そこで拾ったの」
よく見れば小汚い子供だ。髪はざんばらで揃っておらず、長袖の丸首シャツも染みだらけだ。首が伸びきって、両袖の長さも大きく違う。からだ自体がゆがんで見えるけれど、それは姿勢の問題なのだろう。どちらかといえば背が高い。中学生にも見えるけれど、幼い表情からすれば、小学校の高学年といったところだろう。カーキ色の短パンは筋目がはっきりしていて、折り返しのアイロンがまだ残っている。足は意外に筋肉質で、走ると速そうだった。
子どもは素直に、カプセルを差し出してくる。私はそれを受け取って、光に当てて眺めてみる。カプセルは半透明の横に長い球体をしていて、外から眺めても中身はわからない。子供がベタベタ触ったせいか、手垢にまみれている。手を持ち替えて、上と下を左右にひねって、カプセルを開けた。
中から出てきたのは、消しゴムのような小さなまりのような、不思議な質感を持ったいくつかの塊だった。色はほのかなピンク色をしていて、ひとつひとつ微妙に異なっている。そんなものが五六個入っていた。そっと取り出すと、その一つ一つも垢じみている。
「指紋がベタベタ付いてるよ」と子どもが無邪気に笑った。「ぼくはマニアだからね。おじさんもマニアかい?」
「そうだよ」と、私は少し不機嫌に答えてみせる。
「でも、こうなってはもう取り返しがつかない。一度こうなってしまったら、再構成するのは至難の業だから。本来は水気のたっぷり含んだ泥玉から始めなければならない。丁寧に丁寧に丸めて言って、光沢のある一品に仕上げる必要があるものだ。それで初めてちゃんとした人間を作ることができる。これではもうだめだ」
「ぼくも泥遊びは好きだよ」そう言って子どもはかけていった。
私はその背中を見送った。泥の羽がついていた。