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王子の小鳥ちゃん  作者: さくらみちる
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第一話

ヴァルニリア王国はフィリベス家による100年間続く王政国家である。人々は武力によって支配され、貧しい生活を強いられている。そして、この国には不思議な規則があった。



ーそれは女の子が産まれたら城に渡すことー




1




「ルカ、終わったらこっちを手伝ってくれ」

「分かった」

城下町のとある場所に有名なパン屋さんがある。そこで働くルカ・フェニールは、郊外に住む病弱な母親の薬の資金を稼ぐために住み込みで働いている。

「グラットさん、終わったよ」

「ありがとうな、それじゃあバットの上にあるパンを並べてくれや」

ルカは焼きたてのパンがのったバットを片手に持ち、空いている方の手に持っているトングをカチカチと鳴らしながらパンを並べていく。香ばしい匂いを思いっきり吸い込むとルカの嗅覚を刺激した。ずっと我慢してたのか、それとも嗅覚同様、刺激されたのか分からないが盛大にお腹が鳴った。その音は厨房にいたグラットにも聞こえたらしく、豪快に大笑いした。

「そんなにお腹空いたのか?」

「こんなに良い匂いがするんだ、もう我慢できなくて」

「並べ終わったら朝食にするか」

「本当か!」

そう言って喜んでいるルカの顔は見た目と少し変わって見える。見た目はどこにでもいる18歳の少年だが、本当は少女なのだ。口調と見た目は少年になれても、笑顔などの自然に出る表情や仕草はやはり少女になってしまう。少女だという事実を知っているのは店主のグラットだけ。もちろん、このことは国王たちに知られてはならない。




「ルカ、ニアさんの具合はどうだ?」

「悪くなる一方だ、お医者さんは時間の問題だって」

朝食に出されたパンを皿の上にゆっくりと置いた。

ニアというのがルカの母親。ニアの病気を治すにはこの国の有名な医者に診てもらう必要があるが、それには莫大なお金がかかる。生活が困難で薬の資金を稼ぐのに精一杯のルカにとっては難しいことなのだ。

「そうか、今度の休日はニアさんの見舞いにでも行くか」

「嬉しいけど、お店はどうするんだよ。僕のことを気にかけて言ってくれたなら心配いらないぜ?」

「大丈夫だ、俺がニアさんに用事があるんだ。だから店のことは心配しなくていいんだよ」

グラットは二カッと歯を出して笑った。所謂照れ隠しだ。

「ありがとう、グラットさん」

優しく微笑むと、残ってたパンを一気に口へと放り込むと、店前の掃き掃除をする為に掃除用具を持って外に出た。




「うぅ、寒い・・・」

ドアを開けると、2月の寒い風がルカを包み込み、足の先から頭の先まで体温が奪われる。手袋をすればよかったと後悔しながら、ゆっくりと箒を動かした。規則正しい音が朝の城下町に響く。すぐ近くでは布団を叩く音、洗濯物を干す音、子供たちの賑やかな声など朝の日常が繰り広げられている。

そんな中、この朝の日常に似合わない男が一人、太陽と同じ方向から歩いてくる。

肩までだらしなく伸ばしきりボサボサ頭の黒髪、綺麗に整えていない髭、最初は綺麗な白のシャツだったはずが、今では黄ばんでいて所々に黒や茶色の模様。

着ているコートもシャツと同じようなもの。衣切れで作ったようにあちらこちらに穴が空いており、裾や袖は勿論破れていた。

ズボンはコートと全く同じ。

男は何かに苛々しているのか、前を横切った小さな仔犬を思いっきり蹴飛ばし掃除しているルカに近づく。

「いってー!」

「だっ、大丈夫か、おじさん!?」

ルカにぶつかった衝撃で男が道端に音を立てて倒れた。

「お前の所為で左腕が折れたじゃねぇか!」

折れたであろう場所を押さえながらよろよろと起き上がりルカに怒りをぶつけるように睨みつける。

「悪かったよ」

「それだけかよ、治療費と慰謝料を払ってくれるよな・・・?」

それは脅迫だ。そう言おうとしたルカだが、これ以上相手を刺激したらまた変な言いがかりをつけられる。ここは逃げるしかない。そう思った。

後ずさりしなから店の中に入って男を追い返すという作戦。頭の中でのシミュレーションは成功したのだから、本番でも必ず成功すると思ったのだが現実は甘くなかった。

後ずさったルカの胸倉を右手で掴み上げ嫌らしい笑みを浮かべた。

「離せ!」

「お前、逃げようとしただろう。倍にして請求するぞ」

ジタバタするルカに満足しているのか下品な笑い声をあげなから、地面に叩きつけようと腕を振りかざす。

ルカは条件反射で目を瞑る。


強い衝撃が中々こない。恐る恐る目を開けると、男の右手は何者かに掴まれていた。

「何しやがる!」

「貴方こそ何してるんですか?この子、怖がってます」

腕を掴んだ青年は少し力を加えながら優しく微笑んでいる。そっちの方が怖い。

男も怖かったのか痛かったのかは分からないが、ルカの胸倉を離し青年に殴りかかろうとするがあっさり避けられた。悔しくてもう一度殴りかかろうとする。左腕で。

「あれ?左腕は折れているはずなのに、使えるなんて不思議ですね」

左腕は青年に掴まれ、虚空を代わりに殴った。

「てめぇ何者だ」

負け台詞とも取れる言葉が動揺の声と共に男の口から出た。

「私はレオン・フィリベス。この男を城に連れて行きなさい」

男は逃れようと暴れるが、レオンのボディーガード二人が両脇に立ち連行した。




ーこれがルカとレオンの最初に出会ったきっかけなのだー




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