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7.君のお陰

 微睡みの君の御運びに酔え

 悪夢の娘に悦びを知れ

 無貌の父 恐怖の王

 祝福を賜りし我が名において命ず

 汝()るべき処に(まが)

 汝我が眷属の列に()

 

 詠唱のイントネーションに併せて明滅する黄色い輝きが、表情の消えたミルテの顔を照らしている。別のものに変えられて行くその姿の方を向きながら、タビーの目は何処か違う方向を見ていた。


「何がどうなってるの……?」


 もう一度同じ言葉を繰り返す。言葉の調子は、さっきより少し険しい。彼女と対称的に上機嫌のノーザがそれに答える。


「僕が襲われてるところを、君が助けてくれたんだ。……君は命の恩人だよ。」


「それほどでもー……じゃない! そうじゃなくて……」


「あー、僕の《スキル》? ご覧の通り《プレイヤー》も材料になるんだ。バレるとちょっと引かれちゃうだろ? 今造ってるのはグールって……」


「え?……うわっ! ……ってそれも違う!」


「私のこと? 私は魔法使いと見せ掛けて棒術使い。《スキル》隠した方が有利でしょ?」


「ちがーう!!」


「あーそっか、PKのことよね?」


 エステーがタビーの真似をして「!」を表示させながら答える。彼女が《表情エモ》なんて使ってるのを初めて見た。


「そうよ! 一人逃げちゃったわ!」


「違うよタビー。PKは全員無事(・・・・)だよ。君のお陰さ。……逃げたのはPKKだね」


「……ゑ?」


 僕の方を向いたタビーが固まった。半笑いの口元のまま動かない。少し頭の中を整理する時間が必要らしい。でも面白いからそんな余裕はあげない。


「僕達がPKだよ。彼を知ってるかな? ベータテストの初日に三人殺したPK第一号、ノーザ・ゴーン。僕とエステーの友達さ」


「……そんな」


「初めましてお嬢さん」


 床に手をついてへたりこむタビーは、青い顔で前を見たまま動かない。そんな彼女にノーザはわざと丁寧なお辞儀をして満面の笑顔を向ける。それで用が済んだとでも云うように、僕の方に向き直った。横目でタビーを見ながら、腕を組んで話し始める。わざとタビーに聞かせて、さらに動揺を誘うつもりだろう。


「どうも組織的に僕達を駆除しようとする動きが有るようだね。……そこの馬鹿の話によると」


 冷たい視線の先には死者達に支えられて無表情のミルテ……ポチ3号が立っている。黄色く濁った瞳以外には、顔色が悪くて弛緩して半開きの口元くらいしか不自然なところもない。

 造ったばかりのグールの見た目は、ほとんど生前と変わらない。ただ徐々に肉体が変質して行き、三日もすると……そのまま一緒につれて歩くのは、エステーじゃなくても嫌だろう。僕も遠慮したくなる。使い捨ての死者達のように影の中に入れておくことも出来ない。


「静かでいい子じゃないか」


「今はね」


「今はな」


 ノーザは、ついさっきまでのミルテと比べて「今はいい子」だと云ったのだろう。エステーは逆に、これから徐々に変わって行くグールのことを考えたらしい。


「それはおいといて……首謀者は『みんな』だとか『誰かがやらなきゃ』とか……演説好きな暑苦しい人物のようだけど……さっきの連中の中にはそれらしいのは……いないな」


「僕達の知らないところで、何か動きがある。でもまだ何もわからない」


「用心した方がいいわね」


 エステーが手を貸してタビーを立たせて、ノーザを非難するように睨む。虐めているのがバレてもノーザは笑って続けるつもりらしい。


「ところでタビー、君はどうするんだい?」


「ええっと? え? ナニ?」


「いやほら……PKK達がある程度まとまって組織になってるなら、君もPKの仲間だってことになっちゃうけど? 一人逃げちゃっただろ? 仲間達に今日のことは話すだろうしね」


 ノーザが(笑うのを我慢して)神妙な顔をしてタビーに止めを刺す。タビーはエステーに支えられてかろうじて立っている有り様だ。ちょっと可哀想になってきた。


「そんな……」


「ま、私達も今までバレてなかったんだけどね。一人も逃がしてなかったから」


 エステーが溜め息をついて僕を見る。やっぱ僕のせいになってる?


「ひどいなー。PKで有名な僕がマヌケ見たいじゃないか」


「いつも目立つところで殺るからでしょ」


「まぁいいさ。せっかく来たんだから、モンスターでも狩りながら考えようか?」


「今更《スキル》やステータスを隠してもしょうがない気もするわね」


「他にも何か出るかもよ?」


「わ……私……帰る……帰る!」


 タビーが突然叫びだした。やっと理解が追い付いたらしい。青い顔はさっきまでのミルテも顔負けだ。なんだか気の毒になってきた。ノーザが何か意地悪をする前に、彼女の気持ちを落ち着かせておきたい。


「タビー……話を聞いていたろ? 今ソロは危ない」


「だって……」


「まだ何もわからないさ。今は念のため、一人になるのはやめよう。帰るときは一緒に帰ろう。ね?」


「大丈夫、僕達と一緒にいたら安心さ。さっきの戦闘を見てたろ?」


「……うん」


 彼女の深呼吸をして吐き出す息が、大きな溜め息のようにも聞こえた。目を閉じて自分の頬をピシャリと叩くとガッツポーズのように拳を握り締めて叫んだ。


「よし! あきらめた!」


 ……ポジティブ?

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