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27.クエスト

「結局《宝石細工》の《スキル》を取ったんです」


「一番材料費がかかるヤツよね?」


 視線は真ん中に挟んだ僕を通り越して、タビーに向いている。話し掛けた笑顔を、僕は少し斜め横から見ていた。ポチ2号を膝に乗せたタビーが答えてから欠伸を噛み殺した。


「売り上げもよくありません」


「今から始めたって……最初からやってる同業者に勝てるわけないだろ。……装備品関係は同業者が多いんだ」


「むずかしいですね。商いって……」


 僕達は三人並んで露店を広げていた。いつもの北門前の広場に、いつものように行き交う人々が僕とタビー、それからもう一人の『僕』を見て、時々少し妙な顔をしながら通りすぎて行く。


 タビーと僕が露店を出してすぐに僕のとなりにやって来て、店を広げたのが……『僕』だった。

 偶然にしてはそっくり過ぎる。名前まで同じと気が付けば、誰もがバグか何かかだと思うだろう。何故か今日も、《変装術》で僕の姿に化けて……なんと呼べば良いのかわからない……コイツは、どうやら本当にMPKは廃業したらしい。


「とりあえず……僕の格好はやめたら? お客に顔と名前を覚えて貰わないと」


「ですからこの姿で」


「ヤメテ。うちのお得意が混乱する」


「目印が」


「ああ、それ(・・)もう回収するから」


 ナナシ(仮名)の首筋に巻き付いているポチ4号に手を伸ばしてつまみ上げた。頭だか尻尾だかわからないが、ぐったりと垂れ下がった先端が少しだけ持ち上がって反応する。ポチ4号はあれから一週間近く、使命を全うしようと飲まず食わずで頑張っていたらしい。試してみたことはないが、アンデットは餓死しないのかも知れない。

 それでもナナシがまだ生きていると云うことは、街から一歩も外に出なかったのだろう。


「君の件の依頼はキャンセルされたよ」


 売り物の中の、大きめの壺にポチ4号とウサギの肉をいくつか入れてやる。適当な皿で蓋をして日光を遮ってやると、すぐに中で暴れ始めた。壺をガタガタと揺らして蠢いて、よっぽど飢えていたらしい。


「あら、どうして?」


 一週間ぶりに解放されて、ナナシは自分の首を片手で撫でながら大きく伸びをする。


「あのままMPKが続く場合を考えてね……この前と同じ方法で二三十人ずつまとめて調べていけばそのうち炙り出せるって報告したんだ。そしたら……」


「絶対やめろって、アレスさんに怒られちゃったのよねー」


 ポチ2号に向かって話し掛けるみたいにして、タビーが会話に混じる。何故か頷くポチ2号。


「まあキャンセル料は貰えたしね」


「不思議ね……何故目印(・・)がついてるあいだに私を探さないのかしら?」


 壺のほうを見ながら呟くナナシ。当然の疑問だとは思う……あの馬鹿(アレス)を知らなければ。それにきっと表向きとは別に、GBが裏で動いているだろう。


「信じられないだろうけど、君のことを勝手に信用してるんだよ。そのアレスって男はね。MPKの被害がなくなれば、それで良いらしい」


 ナナシは壺を見たまま動かない。考えているのか、表情も変えないで黙ったままだ。


「それに、君のように戦えない《プレイヤー》達のことがショックだったらしい。そんなこと考えたこともなかったと」


「こんどから街の中でお金を稼げるクエストの情報集めるって云ってたよ」


「そうだわ……クエストって云ったら……」


 考え事をしていたナナシは、タビーの言葉に何かを思い出したらしい。インベントリから取り出して、僕の前に置いたのは一冊の本だった。僕が表紙を捲って中を開くと、タビーも寄ってきて肩越しに覗き込む。


「本……地図?」


 それは厚手の羊皮紙を製本した書物で、表紙の文字はかすれていて読むことが出来ない。中に書かれているのは何処か建物の中らしい地図と、僕の見たことのない文字だった。視界の隅で補助ウィンドウが開いて、その『unknown language』と表示される。《種族》によっては『共通語』以外に幾つかの言語を使えるらしいから、これは『人間族』以外の《種族》の書いた(という設定の)ものだろう。


「クエストの発動アイテムらしいんですけど……」


「読めないわ」


 二人とも内容はわからないらしい。ぱらぱらとページを捲りながら眺めてみる。


「これは何処で?」


「誰かの荷物から」


「あーなるほどね……」


「んで?」


「千ゴールドでどうでしょう?」


「高い! 五百!」


 どうやら本当に売上不振で懐が寂しいらしい。本当にクエスト関係のアイテムかわからないし、本当だとしても、どんなクエストだかわからない。千ゴールドは高い。そう思ったら、もうタビーが値切り始めていた。


「……八百」


「六百」


「七百」


「いいよ、買うよ。七百五十ね」


「七百七十五」


「細かいね……」


「じゃあ八百で」


「……まあいいか。八百でいいよ……」


「ありがとう。助かるわ」


 代金を払うともう一度表紙を眺めてからインベントリにしまい込む。なんでもないことのようについでを装って聞いてみる。


「こんな風に、クエストやダンジョンのヒントになるアイテムって多いのかな? 他人の鞄の中は詳しいでしょ?」


「あんまり見たことのないわ……でもなんで?」


「同じ本が沢山あったらライバルが多いよ。地図はダンジョンかも知れない」


「それと同じ本は見たことのないわ」


「そっか、でもまず読めないと……まぁ、暇なときに調べてみるよ」










  夕方近くになって、店を閉めてスラムに帰る途中、タビーと通りを歩きながら、もう一度本を取り出した。


「タビーもこれをよく見て」


「ぜったい八百なんて高いわよ……」


 意外にお金のことには細かいタビー。でも実は高いなんて云ってられなかったのだ。


「そんなことより、タビーは他の場所で、この本を見たことのない?」


「んー? ない。たぶん」


「このページ見てよ。この地図だ」


「長い通路と小さな部屋がたくさんあって……行き止まりに少し広い部屋?」


「そう。ページの下の方に骨の絵が描いてある。見たことない?」


「そーいえば見たことあるかも?」


「その地図は僕達の家(・・・・)だよタビー。そんな本が、何処かにまだあったら大変だよ? 毎日誰かが完全武装で訪ねて来たりして」


「あ……!」


「とりあえず……どうにかして解読してみないとなー。最悪の場合引っ越しかな?」


 本のほぼ真ん中のページにある地図は、僕達の住むダンジョンのものだった。もしもこの本がナナシから誰かの手に渡っていたら、面倒なことになっていたかも知れない。同じ本が何処かにまだあるかも知れない。調べてみる必要がある。

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