24.釣り
その日の夜、GBから追加の情報がもたらされて、敵の出没候補地をいくつかに絞り混むことが出来た。目撃者達の証言をまとめたもので、証言をした人物のことまで詳しく書かれている。GB自身が纏めたものなのかはわからないが、追加情報を持って夜半に僕の家を訪れたときの彼装いと合わせて、彼の約束事に律儀な、誠実な性格を示しているようだ。
MPKの犯人は、グレイウルフという移動速度の速いアクティブモンスターを使うことが多いらしく、犯行の現場はその生息地周辺が圧倒的に多かった。生息地から少し離れたアクティブモンスターの発生しない場所まで連れていき、安全な場所だと思って狩りをする《プレイヤー》の油断を利用する。候補地は、街の北側の街道沿いに点在していて、ノンアクティブなウサギ達しか存在しない初心者狩り場と、さらに北の森の周囲では被害はない。これは周囲の見通しが利く場所や、走りにくい森の中は避けられているためだと思われた。背の高い草が生い茂った草原地帯などが、もっとも狙われやすい。
僕達は追加情報を元にして候補地の見張りを開始した。候補地に向かうためには街を出て約一時間も歩かねばならないし、いくつかの場所を見て回るのにもさらに歩く。徒歩の移動ではスタミナの消費もない仮想の世界でなければ、移動だけでくたびれてしまいそうだった。僕達はこの三日間、MPKの現れそうな場所をひたすら歩いて回っていた。そして……
「飽きた」
「わたしも」
「つまんないー」
「……」
見張ると云うのは退屈なもので、暇潰しに誰かを襲うことも出来ない。PKが現れたなんて騒ぎになれば、《プレイヤー》達もMPKもその場から逃げてしまう。街道ですれ違ったり、お互いの名前が確認できるほど接近した《プレイヤー》達の何人かはノーザを知っているらしく、彼を見るなり慌てて逃げ出した。これ以上目立つのは不味い。
「少し気にならないか?」
意外なことに、この退屈な仕事に一番最後まで集中力を失わないでいたのは、派手なことが好きなノーザだった。彼はモンスターの近寄らない安全地帯に座って休む、別のパーティを眺めていた。
「あのPT、よく見かける」
「全員チェック済みだよ」
タビーが答える。僕達はタビーの《識別》で、遭遇する《プレイヤー》達のステータスを確認していた。《変装術》の《スキル》を持っていればMPK本人と考えていいし、ステータスを隠していれば容疑者だ。偶然《レアスキル》である《変装術》を持っている一般人と会う可能性もなくはない。でもそれはまぁ、その《プレイヤー》にリアルラックがなかったと云うことだ。
「どうもね……引っ掛かるんだ。彼等だけじゃない。このら辺りでよく見かける奴らも」
僕もノーザの視線の先のパーティを眺めて値踏みする。あんまりいい装備じゃなさそうだ。ロングソードの獣人は《NPC》が売っているレザーアーマーを着ていて、杖を持った魔法使いらしいエルフは初期装備のローブを着ている。その魔法使いが僕を見て視線をそらした。それで僕も気が付いた。
彼等も僕達を見ていたのだ。
「ねぇみんな、あのパーティがモンスターと戦ってるのを見たことある?」
「さぁ、気が付かなかったわ……」
「誰かが敵を釣りに? でもずっと座ってるね」
もしかして? 僕達と同じ?
「……成る程、読めてきたぞ……」
ノーザも気が付いたらしい。僕達が見ていたパーティは狩りに来たのじゃない。僕達と同じように、ここで見張っているのだ。思えば今までも、なん組か似たようなパーティを見てきた。彼等は戦いもせず、ひたすら待っているらしい。ここで何かが起きるのを知っているのだ。
証拠を掴むためには、彼等に行動を起こしてもらわないとならないが……僕は思い付いた作戦を話すために、みんなに声を掛けた。
「みんな、向こうのパーティに悟られないように、そのまま休んでるふりをして聞いて……MPKを釣り上げて見よう」
休んでいた場所からモンスターの彷徨く草原の中に移動して、狩りを始める。念のためモンスターと戦うのはタビーとポチ3号で、エステーには《付与魔法》でバッフを掛けたら普通の魔法使いのふりをしてもらい、不測の事態に備える。五感の鋭いノーザには周囲の観察に専念してもらう。僕は影の中から黒犬獣を喚ぶと指示を与えてあとは見物だ。
しばらく適当にモンスター達と戦っていると、やはり反応があった。さっき見ていたパーティが、僕達に気が付いて移動を始めた。距離を取ってはいるがあまり離れず近寄らず、そしてやはりこっちを見ている。
「他にも何組か……全部で二十人」
「普通にモンスターと戦ってるパーティは?」
「いないね……驚いたな。ここ二三日で何度も見かけた連中ばっかりだ」
「盲点だったわね」
「そろそろ始めよう」
少し離れた場所にあるグレイウルフの発生場所を、ひたすら走らせていた黒犬獣を呼び戻す。恐らくその場に発生していたグレイウルフ達を、全部反応させて引き連れて戻って来たはずだ。黒犬獣を先頭にして五十匹近い獣の群れが、僕やタビーの胸まで生い茂った草の上に土煙を巻き上げて草原に走り込んでくる。僕の黒犬獣の方がグレイウルフより速いので、速度を調整して群れがばらばらにならないようにする。タイミングを見計らって、僕達の方を見ているパーティの中で、一番遠くにいるパーティに黒犬獣とグレイウルフの群れを向かわせて叫ぶ。
「MPKだ! 逃げろ!」
一番近くにいたパーティのメンバーは、僕が指差した方を見て驚いたらしい。それでも逃げようともしない。これで有罪確定だ。
黒犬獣に指示して、また別のパーティの方向にグレイウルフの群れを誘導し、また別のパーティを巻き込む。自分達に近付く獣の群れを見てから、ようやくモンスターの発生しない街道付近に移動しようとする一団を見つける。武器さえ手に取らないままの彼等は、戦って犠牲者を助けようと云う訳でもなく、危機が自分達の間近に迫るまで逃げようとしなかった。遅まきながら動き出した彼等の前を黒犬獣に通過させ、進路を塞ぐ。牧羊犬が羊の群れを誘導するように、徐々にその場の《プレイヤー》達を集めてまとめていく。少し黒犬獣の速度を上げたせいて、うしろのグレイウルフの群れが少し長く伸びる。
いつのまにか《プレイヤー》達を囲んで、グレイウルフ達が周囲を走る輪が出来上がっていた。
「ノーザ、誰か逃げ延びたヤツは?」
「いないな。《隠密》を使えるヤツがいたら僕が魔法を当ててあぶり出す」
僕は微笑んで頷いた。グレイウルフ達の前を走る黒犬獣の軌道を、少しずつ小さくして《プレイヤー》達を纏めていく。中にいる誰もが逃げ出す隙はないかと、自分の周りを走る獣の達を目で追っている。
「さて……処刑の前に、いくつか質問をしてみよう」
僕達はグレイウルフの反応範囲に入る手前まで近付いて、輪の中で怯える彼等に手を振ってみせた。




