23.作戦会議
名無しの賞金首について
姿と名前を偽る《スキル》、《変装術》を持つ。
アクティブモンスターが《プレイヤー》を追いかける習性を利用して、自身のPKカウントを増やさずにPK行為を行う。具体的には、モンスターの群れを連れて他の《プレイヤー》に急接近し、モンスターを擦り付ける。いわゆるMPKという手法をとる。
目撃情報及び生存者共に多いのは、上記の方法の大雑把さと《変装術》のために目撃されることを恐れないためと思われる。
「……といったところがGBからの情報だけど」
GBからの依頼を、エステーとノーザに説明し終ったところだった。ここはエステーの部屋で、今日はタビーも一緒に来ている。留守番はポチ3号と1号だけだ。
「狩り場はアクティブモンスターの生息圏周辺に限定される訳だね……ところでその頭の上のネコミミは……?」
「魔法かアイテムで移動速度をアップしてるかも知れないわね……ところでそのドレスは?」
「特徴が《レアスキル取得》で埋まってるなら、装備品でブーストかな?」
「いずれにしろタビーの《識別》で見えるんじゃないかな?……もしかしてそのドレス、ポチ達とお揃い?」
「《識別》無効のアクセサリーを着けてたら見えないわ。ドレスはねー、みんなお揃いにしたの」
「と、に、か、く!」
僕はテーブルを叩いて少し大きな声を出した。うつ向いて震えるエステーと耳まで赤くして耐えているノーザを一度睨み付けてから言葉を続ける。
「タビーの《識別》は使えるよ。ステータスを隠してたら疑ってみればいい」
「ブッ、怒るとネコミミが揺れて……じゃなくって……白昼に人の目があるところで戦うことになるわね。ターゲット以外に目撃者も全員殺すの?」
「……それはちょっと……マズいかも……」
「タビーは《識別》だけしてくれたらいいよ。あとは僕達が殺るから」
「そっかー……ってそーじゃなくて」
「タビーはPKになりたくない。ヘルマとエステーはPKであることを隠したい。ふむ……目撃者は厄介だねぇ……ところで尻尾はないのかい?」
あーあーあー聞こえない聞こえない。ノーザの云ってることなんて聞こえない聞こえない。僕は無駄と思いつつもノーザの顔を睨んだ。この男には、非難の眼差しなんて通用しない。むしろ大好物だろう。
「動くように作りたいんだけど……何かいい方法ないかしら?」
ぴこぴこと自前の尻尾を動かして、考え込むタビー。目撃者もろとも葬り去るプランに難色を示したことも、すでに念頭にないらしい。
タビーのことは気にせずに放っておいて、ターゲットと目撃者、最悪で狩り場にいる全員を殺すことも考えておく。実際に戦いになったら、嫌がったって止めようはない。
それでも確実性を期すために、誰が犯人かを突き止めておかなきゃならない。名前も顔もわからない相手だ。やはりMPKの現場を押さえる必要がある。
「アクティブモンスターを釣る瞬間を捕まえられたら一番楽なんだけど。ソイツだって他の《プレイヤー》達に見つからないように、モンスターを集めるはずだし」
「そうね、それが一番いいわ。犯人の証拠を掴めて、無関係の《プレイヤー》に見られる可能性も低い」
「つまり、見張るべきはアクティブモンスター達の生息圏で、普段は人気がない場所。他の《プレイヤー》達がいる狩り場からも、そう離れていない場所……いくつか心当たりがあるな……ところで……」
一度言葉を区切ったノーザの、顎を軽くつまんでいた右手が少し上にずれ、口を隠す。思わず出た失笑を隠したらしい。嫌な予感しかしない。
「動く尻尾について少々アイデアが……」
タビーはノーザに教えられた材料を捕まえるため、先に帰った。タビーの姿が充分に遠くなるのを窓から確認して、ノーザが口を開いた。エステーも思うところが有ったらしく、黙ってノーザを見ていた。
「今回みたいな仕事、また引き受けるつもりかい?」
「……さあ? 面白そうなら……でもPKじゃなきゃ出来ない仕事なんて、そんなにあるかな?」
「ヘルマ、君は気を付けた方がいい」
ノーザは珍しく笑っていない。窓辺から離れるとまっすぐ僕に近付く。
「自覚もあるだろうけど、君は間違いなく強い。たぶんこの街の《プレイヤー》全員で殺しあったとしても最後まで生き残る。弱点らしい弱点もない。――スラムに住んでる連中で、夜ぐっすり眠れるのは君ぐらいだよ。ペット達は攻撃も防御も完璧だ。……それに強いだけじゃない」
ノーザは僕の頭のネコミミにふれる。密かに気に入っているらしい。
「《ネクロマンシー》。僕が聞いたことがある範囲で唯一の生と死を司る《魔術スキル》だ。もしもこの世界に蘇生魔法が存在するなら、《ネクロマンシー》の系統の魔法だろう」
「そう云うのは『回復魔法』のある《神聖魔法》の系列じゃないの?」
「《神聖魔法》の方は僕も持ってる。死者を甦らせるような魔法は、《スキル》の説明を読む限り存在しない」
「確かに《ネクロマンシー》には『甦らせる』って説明の魔法が多いけどね……」
僕は連れてきたポチ2号の方を見た。僕ならこんな魔法をかけてもらっても、嬉しくはない。
「もう少しゲーム的に上級のアンデット……リッチとかヴァンパイアはどうだろう? 蘇生とは少し意味合いが違うが、『自我を維持したままでアンデット化』なんてことも出来るかも知れない。これは凄いことだよ」
「……『死んだらログアウト』って話はどうなるの?」
エステーが初めて口を開いた。彼女なら僕の蘇生を受けるより、ログアウトを選ぶだろう。
「そう、その話もある。『死んだらログアウト』を信じている人にとって、君の《ネクロマンシー》は驚異だろう。『ログアウト出来なくするぞ』って、そう脅すことが出来る」
いまの云い方からすると、ノーザ自身は死とログアウトを同じものだと考えていないらしい。彼はこの世界の中での『死』のあとで、僕達にどんなことが起こると考えているのだろう?
「誰も君の敵にはなりたくない。出来れば味方に引きずり込みたい。単純に戦力としても、駆け引きの切り札としても君は重要だ」
僕の目の前に立ったまま、ネコミミを軽く引っ張る。ネコミミにも注意しろと云うことらしい。
「きっとニバス達が行動を起こす。ファントムナイツが君を欲しがっているのは知っているだろう?……それに彼等はスラムのことに介入し始めた賞金稼ぎギルドのことも、面白く思っていないはずだ。君の行動は軋轢を産むきっかけになる。今君が賞金稼ぎ達と近い関係にあるのは、前から君を見ていたニバス達にとっては、ショッキングな出来事だよ」
話を終えて席に戻ったノーザも、一人考え込むエステーも恐ろしく真剣な顔をしていた。とてもVRMMOで遊んでいる風には見えない。『死』の話題が、僕達のあいだに落とし込む影の濃さが、僕達の表情から余裕を奪った。今きっと選択を誤れば『死』はぐっと近くなる。いつのまにか『死』は、ログアウトでもゲームオーバーでもなく、『死』そのもののように感じられている。それは三ヶ月もこの精巧な世界に閉じ込められて、すでに日常になっている毎日の生活と、そこに紛れ込んで同じように日常になった命の駆け引きのせいかも知れない。
「とてもゲーム中の作戦会議には思えないね」
重苦しくなった場の雰囲気を変えようと、冗談めかして云った言葉にエステーが答えた。目だけが笑っていない。
「ゲームじゃないのかもね」




