14.賞金首と賞金稼ぎ
『みんな教』の総本山の場所はスラムから少し離れた街の安全地帯にあった。スラムに近いこの辺りは粗末な木造の建物が多く、狩り場へのアクセスに便利な街の北側に比べて家賃も安い。僕達の探す建物はそのなかでも貧相な小さなもので、手配書に小さく描かれた地図がなければ気が付かないで通り過ぎてしまうところだった。
大型種族のためか、大きめの戸口をくぐると一応はカウンターらしい机が置かれて《NPC》の受付がぽつんと座っていた。《プレイヤー》を雇う余裕はないらしい。部屋の中には僕達の手配書が貼られている以外にほかには何もない。
「賞金稼ぎギルドにようこそ。ご用件をどうぞ」
まっすぐ前を向いていた《NPC》が急に振り向いて微笑む。会釈して、もとの姿勢に戻る。何百回やっても同じ動作になりそうな、スムーズに見えて逆にギクシャクとした感じのある動きで、僕達に反応を示す。なまじ美人なだけに気味が悪い。自立型のAI としては信じられないほど高性能でも、彼等は人形でしかない。
「やあ《NPC》のお姉さん。こんにちは」
「こんにちは、私はシェリルです」
「知らないよ。ここは『みんな教』の本部でしょ?」
「ここは賞金首ギルドです。ご用件をどうぞ」
「そんなことないさ。僕達この地図を見て来たんだから。ここは『みんな教』の本部で間違いないよ」
「ここは『みんな教』の本部ですか?」
「そうだよ。それから僕達は賞金首だ」
「わかりました。賞金首のみなさん、『みんな教』の本部にようこそ」
「良くできました」
拍手。
「貴様ら何しに来た? 《NPC》に変な言葉教えるな」
僕達が《NPC》で遊んでいると突然背後から声がして、いつの間にか覚えのある浅黒い顔がそばに立っていた。GBは街の中でも《隠密》を使っているらしい。《スキル》上げだろう。
「やぁGB、そんな声をしてたのか」
「……何の用だ」
「凄むなよ。安全地帯の中じゃお互い何も出来ないさ」
ノーザは杖で肩を叩きながらGBに声をかける。ぼんやりとした目付きは、彼の方を見さえしない。そんなわかりやすい挑発に、GBも何も返さない。
「これだよ。色々と訊きたいことがある」
僕はカウンターの上に四枚の手配書を並べて見せた。ノーザは何の企みが有るのか腕を組んで笑っている。エステーはGBを睨み付けて一言も喋らない。
「良く描けてるね、そっくりだ。君が描いたの?」
「……俺は美大に通ってる」
「そうなんだ。何かの《スキル》かと思ったよ」
「一枚描けば《書記スキル》で複製が作れる」
「それにしても、あの戦闘のあいだに良く観察してる。良く描け過ぎてる」
「……」
「でも色々とツッコミたいところがあるんだ……ノーザの賞金の一万ゴールドって云うのはわかる。これは置いといて、他三人の賞金がおかしい」
「……」
「六〇ゴールドってなに? 一番やっすいポーション三個分だぞ」
「……賞金は寄付で賄ってる。資金不足だ」
「ふーん、そーなんだ。お陰さまで最近露店の売り上げが良いよ。みんなこれを見て、僕が生活に困って盗みでもしたと思ってるんだ。何処にもPKなんて書いてないしね」
「……」
仏頂面で黙り混むGBに向かって、今まで黙って笑っていたノーザが口を開いた。何か思い付いたらしい。
「そういうことなら……そうだなぁ、僕が少し寄付しよう」
「なんだと……」
「そうだねぇタビーに十万ゴールド……いってみるか。手配書も作り直しておくよ。ヘルマ、エステー、知り合いに《書記スキル》を持ってるヤツ知らないか?」
「心当たりはあるよ。じゃあGB、似顔絵は使わせて貰うよ。ホントに良く描けてる……戦ってるあいだは彼女の顔も良く見えなかったはずなのに」
あの戦闘が始まってすぐに、タビーは僕の死者達に押さえ付けられて取り囲まれている。GBが彼女を良く観察出来たのは別のタイミングだろう。僕が笑って睨み付けるとGBも笑い返した。
「……わかった。降参だ」
「ふん、やっぱり仲間だったのね」
エステーが食って掛かるのをGBは笑ってかわす。あっさりと負けを認めてしまった彼も、この作戦が上手くいくと思っていなかったのかも知れない。
「そう云うこった。まぁちっと……詰めが甘い作戦だと思ったがね」
「面白いよ。でも目的がわからない」
僕達を倒すための作戦にしては、タビーの行動がおかしい。あの場でGB達に加勢しなかった理由がわからない。味方を見殺しにしてまで、GBとタビーは何をしたかったのだろう?
「目的は……まずスラムにスパイを送り込むことだ。それからファントムナイツ」
「私達のことは歯牙にもかけないってこと?」
「優先順位……目立つ順だ。それにな、俺達賞金稼ぎの集まりも色々と……説明が難しいな……ふむ……」
GBが何か云い淀んでいるのは、単に説明が難しいためらしい。彼は一度僕達の顔を見回してから、何かを諦めたようにため息をついてカウンターの奥のドアを顎で指した。
「ウチのボスに会え。奥にいる」