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11.敵の敵は敵で友達

「うちの店のティーセットじゃないか。一番高いヤツだ」


「また大工を呼ばなきゃなぁ」


「二人とも、いいのかい? そろそろMPが尽きる」


「ニバス、テーブルをそっちに寄せて。割れてないのを回収するから」


「あーもう『麻痺』がきれる。」


「間に合わないな」


「あ、全部割れる」


 床に手と片膝をついて二人のエルフが対峙していた。ダークエルフのエステーともう一人、対称的に白い肌と金髪のハイエルフ。それぞれを拘束していたノーザの魔法が効果を失うと、睨みあったまま立ち上がる。すぐにエステーが前に出た。次の瞬間、僕の目には捉えられないほどのスピードで、エステーの杖の先端がハイエルフの胸を突き抜け、そのまま後ろの家具を破壊した。手元近くまで、胸のあいだに杖をめり込ませたハイエルフは何事もなかったかのように、わざとゆっくりと横に異動して構え直した。


 エステーを睨みながら、口元だけで微笑むペルディタエには余裕があった。エステーは戦闘中は何時も無表情で、何処を見ているかもよくわからない。表情まで対象的なこの二人は、何故かお互いを快く思っていない。


「こんばんはペルディタエ。お邪魔するよ」


 僕はニバスに続いて壁の穴から部屋の中に入る。杖を上段に構えるエステーと、それに対峙してレイピアを一度降るペルディタエの横を通りすぎて声をかけた。さりげなく確認してみても彼女の胸にはダメージの痕跡はない。エステーの攻撃は彼女に当たったはずなのに命中しなかった(・・・・・・・)のだ。


「ヘルマさん、こんばんは。申し訳ありません。いま少し手が離せませんの」


 僕の方を見て微笑むペルディタエには余裕と自信がある。兄のニバスも制止に入らないのは、エステーの攻撃が意味を為さないのを知っているからだ。ペルディタエは『不死身のペルディタエ』と呼ばれている。僕は情報提供に(かこ)つけて彼女の秘密を探りに来たのだ。


「すぐに終わるわ」


 エステーが、戦闘中に目を離す敵を睨み付ける。彼女が機嫌を損ねるとあとが厄介だな。もう遅いけど。


「兄さん、お茶を入れて差し上げて」


「全部割れたぞ。食器棚ごと」


「新しいのを出すよ」


「すまんな。幾らだ?」


「いいさ。壁の修理代に充てて」


「ノーザ、何処まで話したの?」


「まだほとんど、襲われた所まで。そのときエステーが来てね」


「俺もそこまで聞いてる。……さりげなく観察しても、妹はボロを出さんぞ」


「……じゃあ止めるよ。エステーもペルディタエも、それちょっと中断しない? 今日起きたことを話し合いたいんだけど」


「無駄だよヘルマ。さっきから止めてるんだ」


「じゃあスタミナが切れたら話に加わってくれ」


 別の部屋からニバスが人数分の椅子を持ってくると、僕達は適当に座った。ポチ2号にお茶を入れさせる。少し埃が気になるけど。


「それで……さっきの続きだけど、襲ってきた奴等は……はっきり云って雑魚だ。逃げた一人を除いてね」


「GBってヤツ知ってる? 砂糖いくつ?」


ファントムナイツ(うちのメンバー)も何人か殺られてる。ソロ専だって聞いたが……八個」


「じゃあ今日のパーティメンバーは、最初から囮のつもりかな?」


「どうも話が……引っ掛かる所があるねぇ」


 テーブルの上に両手で頬杖をついたまま、ノーザが呟く。目はエステーとペルディタエの攻防に向いている。様子をうかがうニバスの視線も気にしないらしい。僕も話を続けながら、横目で二人を見ていた。


 常に最前線で戦うエステーの《スキル値》は、常に部下に囲まれて大人数で戦うペルディタエを上回っている。ペルディタエの攻撃がエステーに通じるとは思わないが、エステーの攻撃もペルディタエには効果がない。ペルディタエの能力は謎だが、彼女は当たり判定が存在しないのだ。


「何がだ? ってゆーかお前ら話に集中してないな」


「やり方が『みんな』だの『我々』だの演説(のたま)う人物の印象と真逆だ。まあそうやって囮役を集めて使い捨てるなら、切れるヤツかも」


「まあ、そうだねぇ」


「そういえば《識別》の噂は聞いたか? まぁ、聞いたからあのダンジョンに行ったんだろう?」


「僕も今日聞いたんだ。スラムに《識別》の噂を撒いたヤツがいるみたいだね」


「エステーは何処で聞いたの?」


「ノーザからよ!」


 ニバスが腕を組む。ファントムナイツの頭脳労働担当はひとつひとつ確認するように喋っていく。


対人戦(pvp)をやってるヤツならステータスは隠したがる。ステータスが見える《識別》の噂を撒いて、対抗策になるアイテムの出るダンジョンで待ち伏せ。……よっぽど腕が立つか。さもなきゃ、もっと大人数で待ち伏せするだろうな。もしかしたら、偶然を装ってダンジョンで遭遇して別の細工をするか……危険が大きいし効果がわからん」


「その話が君から出るなら、話しても良いかな? 実は僕とエステーに《識別》の話を振って、一緒にダンジョンに行った人物がいるんだ。僕は君達のスパイの可能性()考えていたんだよ。」


「普通に考えたら……その『みんな教』のスパイじゃないのか?」


「彼()は僕の死者達を五体瞬殺して反ね除けた。『みんな教』の信者なら仲間が死ぬ前にそうするさ」


「まぁ、ウチも一枚岩じゃない。俺に黙ってそういう動きをする連中も……いや、《識別》の噂のタイミングと合わせて考えると不自然だ」


「ペルディタエは何か知らない?」


「知……らない……」


「邪魔しないで……ちょうだい」


 そろそろ二人ともスタミナが尽きる。鍛えてある分エステーに分があるようだけど、僅差だろう。


「やっぱり向こうのスパイじゃないのか?」


「……向こうも一枚岩じゃないのかも。もしかしたら、別の集団?」


「つまり……俺達PKに対して敵対する組織がある。GBや、何故か(・・・)お前さんが名前を云わないスパイ君には、別の目的がある。もしくは別の敵対組織のメンバー。スラムに《識別》の噂を撒いたタイミングから、この二つの組織には情報の繋がりが、少なくとも一方的にはある」


 そろそろ時間切れだ。ニバスが話をまとめだした。やはりペルディタエの『不死身』は完全じゃないのだろう。戦いが長時間になれば、ボロが出るのかも知れない。


「そしてスラムのPK達は、相変わらず内輪で争いが絶えない」


 ノーザが椅子にふんぞり返って笑う。ノーザだって『内輪』なんて思ってはいない。ただ話を引っ掻き回したいだけだ。あんまり引っ張るとエステーがへそを曲げるし……結局ペルディタエの秘密のヒントも掴めなかったが、潮時かも知れない。この辺りで別の話題に変えておいて、少し茶化して終わりにしよう。


「そもそも内輪じゃないしね」


「「そうよ! 誰がこんな女と!」」


 そう云いながら立ち上がると、スタミナ切れで休戦した二人の茶を入れる。エステーは、ポチ2号の入れたお茶は飲まないから、僕が自分でやる。


「気が合うじゃないか」


「ホントな」


「そう云えば……ペルディタエ、こんなの知ってる?」


 彼女が茶で一息入れたのを見て、タビーに貰った趣味装備を投げ渡す。お茶のカップに指をかけたままの手首に被さった革製品に目を止めて、彼女は目を見開いた。エステーは今朝それを見たときに防具と間違えた。彼女はどうだろう?


「これは……今評判の謎の裁縫職人のデビリッシュモデルの新作!!……こんな貴重な物を何処で……」


 ゑ? 需要有るの? つーか何で詳しいの?

 どんなリアクションが帰ってきても、大笑いして茶化すことが出来ると践んでいた。その自信は脆くも崩れ去って、質問してはいけない質問が幾つか脳裏に浮かぶ。僕は笑顔のまま、自分の失敗を覚って赤くなるペルディタエを見て絶句していた。一瞬で部屋を妙な空気が支配して、静寂が訪れた。ニバスとエステーは、どんな顔をしていいかわからずに困っている。そんな中、確信犯の空気読まない君が動いた。駄目だ、ノーザ。何でそんな風に微笑むんだ君は……


「凄く詳しいみたいだね」


 ハイエルフって凄く顔赤くなるんだな。










 妹の新しい側面を知ってしまった兄と、消えそうな声で呪文のように「……ぼーぎょりょくがあるのよ」と繰返し呟く妹に別れを告げて、僕達は家路についた。

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