雨の夜に
仕事が深夜まで長引いた。
夕方から降り出した雨は夜が深まっても一向に弱まる気配がない。
会社にあったビニール傘を適当に選んできたのだが、いざ開いてみると傘には穴が空いていた。
穴から大きな雫が落ちて、僕の右肩を冷たく濡らす。
アパートの前までくると、部屋に灯りがついていないことに失望する。
ドアの前で鍵を探しながら、もしかしたら君は先に寝ているのかもしれないと自身を慰めた。
「ただいま」
僕の声は虚しく空を漂った。
開けっ放しのカーテン。冷え切った部屋。空っぽのベッド。
君の気配はそこになかった。
今頃君は別の誰かの腕の中でまどろんでいるのだろうか。
もういよいよ終わりなのかもしれない。
あの頃みたいにご飯を作って起きて待っててくれなくてもいい。
毎日同じ布団でくっついて眠る事ができたらそれで幸せだったのに。
いつもは鳴らない携帯が音を立てた。
ディスプレイが暗闇の中で君の名前を浮かべて光る。
瞳をとじ、長く息を吐く。
覚悟を決めて、僕は最後の電話にでた。