元恋人が「領収書が必要だから」と連絡してきた件について。捨てられた身としては、お断りさせていただきます
「ねえ、あの時のレシート、まだ持ってる?」
元恋人の誠司から送られてきたメッセージを見て、私は思わず鼻で笑ってしまった。
別れてから半年。
今さら何の用かと思えば、確定申告か何かの計算が合わなくて、同棲していた時期に私が立て替えた仕事用の機材の領収書が必要になったらしい。
相変わらずだ。
自分の都合が良い時だけ、私を「便利に保管された記録」だと思っている。
私はスマホの画面を見つめたまま、当時のことを思い出していた。
あの頃の私は、まさに彼の「レシート」だった。
彼が何かを買えば、私が家計簿に記録する。
彼が散らかせば、私が整理する。
彼はよく私に言っていた。
「お前は本当にしっかりしてるよな。俺の人生の管理表みたいだ」
それは褒め言葉の形をした、無意識の搾取だった。
彼にとって私は、使い終われば財布の隅に押し込まれ、月末になればシュレッダーにかけられる……
感情のない感熱紙と同じだったのだ。
決定的なのは、半年前のあの日。
新しい彼女ができたと告げた彼が、私の荷物をゴミ袋に詰め込みながら放った言葉。
「もう、こういう細かいやり取り、疲れちゃったんだよね。お前と一緒にいると、生活感ばっかりで、夢がないっていうか。もういらないんだ」
私はその時、自分が真っ白な紙くずになったような気がした。
必要なくなればポイと捨てられる、感熱紙の感傷。
彼は私の存在そのものを「不要な支出」として処理したのだ。
でも……
捨てられたレシートだって、インクが消えるわけじゃない。
道端に落ちて、雨に濡れて、泥にまみれて、それでもそこには「確かに支払った対価」の記憶が刻まれている。
私は一度深呼吸をして、震える指を止めてから、返信を打ち込んだ。
『ごめんね、誠司。あのレシートなら、もうとっくに捨てたよ。
あなたが言った通り、生活感があって邪魔だったから……
一度捨てられたものは、どんなに後悔しても元には戻らないんだよ。レシートも、私も』
送信ボタンを押すと、胸のつかえが少しだけ取れた気がした。
レシートは、取引が完了した証拠だ。
私と彼の取引は、あの日、彼が私を捨てた瞬間に「全額損失」として確定した。
今さら再発行なんて、受け付けるはずがない。
窓の外では、風に舞った紙くずが遠くへ飛んでいくのが見えた。
私は立ち上がり、お気に入りだったけれど、どこか彼に遠慮して着るのをやめていた明るい色のコートを羽織った。
これからは、誰かの支出の記録ではなく、私自身の新しい物語を書き留めていこう。
真っ白な、誰にも汚させない、新しいノートを買いに……
私は二度と振り返らずに、部屋のドアを閉めた。




