旅支度は大事です
魔族潜入事件から三日後、ティオは再び皇帝の私室に呼び出された。
部屋には、皇帝レオンハルト三世、騎士団長ガルバドス、宮廷魔導師ゼフィラン、そしてダリウスが待っていた。
「ティオ殿、来てくれたか」
皇帝が、椅子から立ち上がった。
「はい。お呼びでしょうか?」
「ああ。君に——いや、勇者様方に、正式な任務を与えたい」
「任務......ですか」
ティオは、嫌な予感がした。
「そうだ。魔族討伐の旅に出てもらいたい」
「......え?」
ティオの声が、裏返った。
「魔族は、この戦争の裏で暗躍している。彼らの本拠地を突き止め、魔王を倒す。それが、この戦争を終わらせる唯一の方法だ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ティオは、慌てて声を上げた。
「あの子たちは、まだ幼児なんです! そんな危険な任務は——」
「分かっている」
皇帝は、穏やかに頷いた。
「だからこそ、君がいる。そして、ダリウス殿をはじめとする護衛も付ける」
「ですが——」
「ティオ殿」
ダリウスが、前に出た。
「この子たちは、すでに魔族と戦っている。難民キャンプでも、宮廷でも——その度に、勝利してきた」
「それは......」
「この子たちは、強い。そして——君がいれば、大丈夫だ」
ダリウスは、ティオの肩に手を置いた。
「君は、この子たちを守ることができる。私が保証する」
「......」
ティオは、言葉に詰まった。
皇帝が、ティオの前に立った。
「無理強いはしない。だが——この子たちは、世界を救う希望だ。君の力が、必要なのだ」
「......分かりました」
ティオは、深く息を吐いた。
「お受けします。ですが、一つだけ——」
「何だ?」
「この子たちの安全を、最優先にさせてください。無理な戦いはさせません」
「もちろんだ」
皇帝は、笑顔で頷いた。
「君の判断を、信頼している」
ティオは、胃を押さえた。また、痛くなってきた。
部屋を出ると、廊下で三人が待っていた。
「ティオにいちゃん!」
ハルトが、駆け寄ってきた。
「おそかったね!」
「ああ、ごめん。待たせたな」
ティオは、三人の頭を撫でた。
「ねえねえ、なにはなしてたの?」
「......それがな」
ティオは、三人にしゃがんで目線を合わせた。
「これから、旅に出ることになった」
「たび?」
ユイが、首を傾げた。
「ああ。魔族を倒すための、旅だ」
「まぞく......」
ハルトが、目を輝かせた。
「ぼうけん!?」
「まあ、そんなところだ」
「やったー! ぼうけんだ!」
ハルトが飛び跳ねた。ユイも、嬉しそうに笑っている。
レイアだけは、静かにティオを見つめていた。
「......ティオにいちゃん、いやなの?」
「......え?」
「たび、いきたくないんでしょ?」
レイアの言葉に、ティオは苦笑した。
「......バレてたか」
「うん。かおにかいてある」
「そうか」
ティオは、レイアの頭を撫でた。
「正直、不安だ。でも——君たちがいれば、大丈夫だ」
「......ほんと?」
「ああ、本当だ」
ティオは、三人を抱きしめた。
「一緒に、頑張ろうな」
「うん!」
三人は、元気よく頷いた。
翌日、出発の準備が始まった。
城の中庭には、馬車と馬が用意されている。荷物も、すでに積み込まれていた。
「おお、すごい!」
ハルトが、馬車を見て興奮している。
「これ、ぼくたちがのるの!?」
「ああ、そうだ」
ティオが答えると、ハルトはますます嬉しそうにした。
「ねえねえ、ティオにいちゃん! ハル、けんほしい!」
「剣?」
「うん! ゆうしゃだから、けんもたないと!」
「......」
ティオは、困った顔をした。
「ハル、君はまだ五歳だ。剣は危ないから——」
「でも、ゆうしゃでしょ?」
「それはそうだけど......」
ティオが悩んでいると、ダリウスが近づいてきた。
「ハル殿、これはどうだ?」
ダリウスが差し出したのは、木剣だった。子供用に作られた、小さなものだ。
「わあ! けん!」
ハルトが、目を輝かせて受け取った。
「ありがとう、ダリウスおじさん!」
「気をつけて使えよ。振り回したら、危ないからな」
「はーい!」
ハルトは、早速木剣を振り回し始めた。
「えい! やー!」
「ハル、人にぶつけるなよ!」
ティオが、慌てて止める。
ユイは、馬車の中を覗いていた。
「わあ、ふかふかのクッション!」
「ああ、長旅になるから、快適にしてくれたらしい」
「ティオにいちゃん、これ、ユイのおへや?」
「まあ、そんなところだ」
「やったあ!」
ユイは、馬車の中に入って、クッションの上で跳ねた。
レイアは、荷物を見ていた。
「......いっぱいある」
「ああ。食料や、毛布や、色々持っていくんだ」
「......ティオにいちゃんの、にもつもあるの?」
「ああ、あるよ」
「......よかった」
レイアは、安心したように笑った。
出発の時刻が近づき、中庭に人々が集まってきた。
皇帝、ガルバドス、ゼフィラン、そして城の兵士たち。さらに、街の人々も、城門の外で見送りに来ていた。
「勇者様、どうかご無事で!」
「魔族を倒してください!」
人々の声が、飛び交う。
ティオは、三人を馬車に乗せた。
「さあ、出発だ」
「うん!」
三人は、窓から顔を出して、手を振った。
「ばいばーい!」
「いってきまーす!」
人々が、拍手と歓声で応えた。
皇帝が、ティオの前に立った。
「ティオ殿、頼んだぞ」
「はい。必ず、成し遂げます」
「無理はするな。この子たちを——そして、君自身を守ってくれ」
「......はい」
ティオは、頷いた。
ダリウスが、馬に乗った。
「では、出発しよう」
「はい」
ティオは、御者台に座り、手綱を握った。
馬車が、ゆっくりと動き出す。
城門をくぐり、街道へ出る。人々の声が、遠ざかっていく。
「ティオにいちゃん、みんながみてる!」
ハルトが、興奮した様子で言った。
「ああ。みんな、応援してくれてるんだ」
「ハル、がんばる!」
「そうか。でも、無理はするなよ」
「はーい!」
ティオは、前方を見た。
長い旅が、始まる。
不安は尽きない。だが——この子たちがいれば、きっと大丈夫だ。
そう信じて、ティオは手綱を引いた。
街を出て数時間後、馬車は草原を進んでいた。
空は晴れ渡り、風が心地よい。戦争の影を感じさせない、穏やかな風景だった。
「ねえ、ティオにいちゃん!」
ハルトが、馬車の窓から身を乗り出した。
「あそこに、おっきなとりがいる!」
「ああ、鷹だな」
「かっこいい!」
ハルトは、鷹を見つめていた。
ユイは、馬車の中で絵本を読んでいた。いや——絵を眺めていた、と言うべきか。字は、まだ読めないのだろう。
「ティオにいちゃん、このえほん、だれがくれたの?」
「城の人が、用意してくれたんだ」
「やさしいね」
「ああ、優しいな」
レイアは、窓の外を静かに見つめていた。
「......ティオにいちゃん」
「ん?」
「このたび、どのくらいかかるの?」
「そうだな......数ヶ月はかかるだろう」
「......ながいね」
「ああ、長いな。でも——」
ティオは、レイアを見た。
「君たちがいれば、楽しい旅になると思う」
「......ほんと?」
「ああ、本当だ」
レイアは、小さく笑った。
その時、馬車が揺れた。
「うわっ!」
ハルトが、バランスを崩しかける。ティオが慌てて支えた。
「ハル、危ないから中にいろって言っただろ!」
「ごめんなさい......」
ハルトは、しゅんとした。
ティオは、ハルトの頭を撫でた。
「怒ってないよ。ただ、心配なんだ」
「......うん」
ハルトは、素直に馬車の中に入った。
ダリウスが、馬を並べてきた。
「ティオ、子供の世話は大変か?」
「......正直、大変です」
「フフ、そうだろうな」
ダリウスは、笑っていた。
「だが、君は良くやっている。自信を持て」
「......ありがとうございます」
ティオは、少しだけ気が楽になった。
夕方、一行は街道沿いの小さな村に立ち寄った。
宿を取り、三人を部屋に入れる。
「わあ、おおきなベッド!」
ハルトが、ベッドに飛び込んだ。
「ハル、靴を脱いでから!」
「あ、ごめん!」
ハルトは、慌てて靴を脱いだ。
ユイは、窓から外を見ていた。
「ティオにいちゃん、そとにおほしさまがいっぱい」
「ああ、きれいだな」
「ユイ、おほしさますき」
「そうか」
ティオは、ユイと一緒に星を眺めた。
レイアは、ベッドに座って、静かにしていた。
「レイア、疲れたか?」
「......ちょっとだけ」
「そうか。じゃあ、早めに寝よう」
「......うん」
ティオは、三人に夕食を食べさせ、寝かせた。
三人は、すぐに眠りについた。
ティオは、窓の外を見た。
星が、きれいに輝いている。
この旅が、どんな結末を迎えるのか——ティオには、まだ分からなかった。
だが——この子たちを守る。それだけは、揺るがない。
ティオは、小さく息を吐いた。
胃は、相変わらず痛かったが——それでも、前に進むしかない。
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