ぼうけんのはじまり
お風呂の後、ティオは三人に寝間着を用意した。といっても、幼児用の服など詰所にあるはずもなく、古い布を適当に切って作った即席のものだ。
「ちょっと大きいけど、我慢してくれ」
「だいじょうぶ!」
ハルトが笑顔で答えた。
ティオは三人を寝かせるため、自分の部屋に布団を敷いた。三人は並んで布団に入り、ティオを見上げている。
「じゃあ、寝るぞ」
「ティオにいちゃんも、いっしょにねる?」
ハルトが尋ねた。
「ああ、そうだな。一緒に寝よう」
ティオも布団に入った。すると、三人がティオにくっついてくる。
「あったかい」
「ティオにいちゃん、だいすき」
「......」
ティオは、少し照れくさくなった。こんなふうに頼られるのは、久しぶりだ。
「ねえ、ティオにいちゃん」
ハルトが、眠そうな声で言った。
「なんだ?」
「ハルね、パパとね、とくさつばんぐみ、みたの」
「特撮番組?」
「うん。かめんライダーとか、せんたいものとか。かっこよかったの」
「そうか」
「パパ......いまどこにいるのかな」
ハルトの声が、少し震えた。
「......きっと、探してるよ。ハルのこと」
「......うん」
ハルトは、そのまま目を閉じた。ユイも、レイアも、静かに眠りについていく。
ティオは天井を見上げた。
この子たちは、親と離れ離れになって、異世界に来てしまった。きっと、不安で、寂しいはずだ。それでも、こうして笑顔を見せてくれる。
「......守ってやらないとな」
ティオは、小さく呟いた。
翌朝、ティオは三人の泣き声で目を覚ました。
「ママー! ママー!」
ユイが泣いている。ハルトも、目を擦りながら泣きそうになっている。レイアだけは、ぼんやりと起きていた。
「おはよう。どうした?」
「ママが......ゆめに、でてきて......」
ユイが涙を拭いながら言った。
「そうか......」
ティオは、ユイを抱き上げて、背中をトントンと叩いた。
「大丈夫だ。ティオにいちゃんがいるから」
「......うん」
ユイは、ティオにしがみついた。
その時、部屋の扉がノックされた。
「ティオ、起きているか?」
バルド隊長の声だ。
「はい、起きてます」
ティオは扉を開けた。バルドの隣には、見知らぬ男が立っていた。四十代くらいだろうか。髭を生やし、傷跡のある顔をしている。その体つきからして、歴戦の騎士だと分かった。
「こちらは、帝都から派遣されたダリウス殿だ」
「初めまして。ダリウスと申す」
男——ダリウスは、ティオに軽く頭を下げた。そして、三人の幼児を見た。
「......この子たちが、勇者か」
「はい。ハルト、ユイ、レイアと言います」
ティオが答えた。ダリウスは三人をじっと見つめ、それから小さく息を吐いた。
「......幼いな。まだ五歳にも満たないとは」
「ええ。ですが、この子たちは確かに力を持っています」
「そうらしいな。報告は読んだ。魔狼を一瞬で倒し、傷を完全に治癒する......常識では考えられん」
ダリウスは、それから視線をティオに向けた。
「君が、ティオ・ランベールか」
「はい」
「君がこの子たちを保護し、世話をしていると聞いた。若いのに、立派だ」
「いえ、そんな......」
ティオは照れくさそうに頭を掻いた。
「私は、この子たちを帝都まで護衛する任務を受けた。君にも、同行してもらう」
「え......オレもですか?」
「ああ。この子たちは、君に懐いている。君がいなければ、旅は困難だろう」
ダリウスは、ティオの肩に手を置いた。
「頼む。この子たちを——いや、この国を救うため、力を貸してくれ」
「......分かりました」
ティオは頷いた。
もう、引き返せない。この子たちを、守らなければならない。
出発の準備が進められる中、ティオは三人と一緒に街を歩いていた。旅に必要なものを買い揃えるためだ。
「ティオにいちゃん、これなに?」
ハルトが、露店の剣を指差した。
「それは、冒険者が使う剣だ」
「かっこいい! ハルも、ほしい!」
「ダメだ。危ないから」
「えー」
ハルトは不満そうだったが、すぐに別のものに興味を移した。
ユイは、パン屋の前で立ち止まった。
「ティオにいちゃん、あまいにおいがする」
「ああ、パン屋だからな」
「パン......すき」
ユイが、嬉しそうに笑った。
レイアは、ぼんやりと街の人々を見ていた。
「......みんな、かなしそう」
「え?」
「せんそうで、かなしいことが、いっぱいあったんだね」
レイアが、ティオを見上げた。
「......ああ、そうだな」
ティオは頷いた。この子は、人の心が見えるのかもしれない。
街の人々は、三人の幼児を見て、不思議そうな顔をしていた。だが、その目には優しさがあった。
「可愛らしいお子さんたちですね」
老婆が、ティオに話しかけてきた。
「ああ、はい......」
「大変な時代だけど、子供たちの笑顔を見ると、少し希望が持てますね」
「......そうですね」
ティオは、三人を見た。ハルトは元気に走り回り、ユイは笑顔でパンを見つめ、レイアは静かに街を眺めている。
この子たちが、この世界に希望をもたらすのだろうか。
ティオには、まだ分からなかった。
出発の日、街の人々が見送りに来ていた。
「ティオ、頼んだぞ」
バルド隊長が、ティオの肩を叩いた。
「はい」
「この子たちを、無事に帝都まで送り届けてくれ」
「分かりました」
ティオは頷いた。
ダリウスは馬に乗り、ティオは三人を連れて馬車に乗った。馬車には、旅の荷物が積まれている。
「じゃあ、行くぞ」
ダリウスが手綱を引き、馬車が動き出した。
「ティオにいちゃん、ぼうけんだね!」
ハルトが、興奮した様子で言った。
「ああ、冒険だ」
「わくわくする!」
ユイも笑顔だ。レイアは、静かに窓の外を見ていた。
ティオは、街が遠ざかっていくのを見つめた。
これから、どんな旅が待っているのだろう。この子たちは、本当に勇者なのだろうか。そして——自分は、ちゃんとこの子たちを守れるのだろうか。
不安は尽きなかった。
だが——
「ティオにいちゃん、だいじょうぶ?」
レイアが、ティオを見上げた。
「......ああ、大丈夫だ」
ティオは、笑顔を作った。
この子たちがいる限り、きっと——大丈夫だ。
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