保護者の務め
夕暮れが迫る頃、ティオは詰所の一室で途方に暮れていた。
目の前には、三人の幼児。ハルト、ユイ、レイア。彼らは床に座り込み、ティオを見上げている。
「おなかすいた」
ハルトが、またそう言った。さっきから三回目だ。
「ああ、分かってる。今、何か用意するから」
ティオは頭を抱えた。子供の世話など、したことがない。いや、自分にも弟がいたが、もう成人している。幼児の面倒を見るなど、十年以上ぶりだ。
「バルド隊長、本気でオレにやらせる気か......」
小声で呟いたが、仕方ない。隊長命令だ。それに——この子たちは、自分を頼ってくれている。放っておくわけにはいかない。
「よし、まずは食事だ」
ティオは立ち上がり、詰所の食堂へ向かった。三人はティオの後をついてくる。
「ティオにいちゃん、これなに?」
ハルトが、廊下に飾られた剣を指差した。
「ああ、それは訓練用の剣だ」
「かっこいい! ハル、けんすき!」
「そうか。でも、触っちゃダメだぞ」
「はーい」
ハルトは素直に頷いたが、その目は剣に釘付けだった。ティオは苦笑した。男の子は、やっぱり剣が好きなものだ。
食堂に着くと、当番の兵士が夕食の準備をしていた。
「ティオ、その子たちは?」
「保護した子供たちだ。食事を分けてもらえないか?」
「ああ、構わないぞ。......しかし、小さいな。何歳だ?」
「それが......まだ聞いてなかったな」
ティオは三人を見下ろした。
「君たち、何歳?」
「ごさい!」
ハルトが元気よく答えた。
「ユイも、ごさいです」
「......よんさい」
レイアが小さく答えた。
「四歳と五歳か......」
ティオは改めて、この子たちの幼さを実感した。こんな小さな子供が、異世界から召喚されて、魔物を倒すほどの力を持っている。信じがたいことだが、現実だ。
「よし、じゃあご飯食べよう」
兵士がシチューとパンを用意してくれた。ティオは三人を席に座らせ、食事を配った。
「いただきます!」
ハルトが元気よく言い、スプーンを手に取った。だが、まだ上手く使えないのか、シチューをこぼしてしまう。
「あ......」
「大丈夫だ。ゆっくり食べればいい」
ティオはナプキンでハルトの口元を拭いた。ユイも同じように、少しこぼしながら食べている。レイアだけは、静かに、丁寧に食べていた。
「......おいしい」
レイアが、ぼそりと呟いた。
「そうか。良かった」
ティオは少しほっとした。この子たちが笑顔でいられるなら、それでいい。
食事の後、ティオはさらに大きな問題に直面した。
お風呂だ。
「お風呂......か」
詰所には共同浴場がある。だが、幼児を一人で入浴させるわけにはいかない。かといって、自分が一緒に入るのも——女の子が二人いる。
「どうすれば......」
ティオが悩んでいると、レイアがティオの服の裾を引いた。
「......ティオにいちゃん、おふろはいりたい」
「ああ、分かってる。でも、その......」
「いっしょに、はいる?」
レイアが首を傾げた。
「え、いや、でも君たち女の子だし......」
「?」
レイアはきょとんとしている。ハルトとユイも、不思議そうにティオを見上げていた。
「......そうか、まだ小さいから、そういうの気にしないのか」
ティオは諦めた。仕方ない。ちゃんと目を逸らせば、何とかなるだろう。
「分かった。じゃあ、一緒に入ろう」
「やったー!」
ハルトが飛び跳ねた。
浴場に行き、ティオは三人を脱衣所に入れた。自分も服を脱ぎ、タオルを巻いて浴場に入る。
「うわー! おおきいー!」
ハルトが浴槽を見て、目を輝かせた。
「気をつけろよ。滑るからな」
ティオは三人の体を洗い、浴槽に入れた。ハルトは大はしゃぎで、ユイは気持ちよさそうに浸かっている。レイアは静かに、ぼんやりと湯に浸かっていた。
「......きもちいい」
「そうか。良かった」
ティオも浴槽に入り、ふと息を吐いた。こうしていると、戦争のことも、勇者のことも、少しだけ忘れられる気がした。
「ティオにいちゃん、やさしいね」
ユイが、ティオを見上げて言った。
「そうか?」
「うん。ママみたい」
「ママ......」
ティオはユイを見た。ユイの目には、少し寂しそうな色が浮かんでいた。
「ユイ、ママのこと覚えてるのか?」
「......ちょっとだけ。やさしくて、あったかくて......」
ユイの目から、涙が零れた。
「ママに、あいたい......」
「......ユイ」
ティオは、ユイの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。きっと、会えるから」
「......ほんと?」
「ああ。約束する」
ティオは、そう言った。この子たちを、元の世界に帰してやらなければならない。それが、自分の務めだと——そう思った。
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